表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/15

第13話 土砂降りの日再び

12月18日 水曜日

今日は目覚まし時計が鳴る前に目が覚めた。

カーテンの隙間から外を見ると、土砂降りの雨だった。


「うーむむむ」


この雨を見ていると思い出したくなくても、どうしても思い出してしまう。


「だ、大丈夫のはず、だよね。原因はここにあるし、うん」


あんな恥ずかしいことは、もう二度とごめんだった。


僕は両手のひらに置いた玉を見比べてみた。

色が違う以外大きさは同じ。重さも多分同じ。

どこからどう見てもフツーのビー玉。


「えーと、こっちがおとといカラスのお腹から取り出した玉で、こっちが僕が持ってた玉ですよね」


玉は依然2個のままだった。


「近付けるとくっつくのかな?」


あ、そうだ試しに録画してみるか。


朝っぱらから僕は何をやってるんだろう、

と思わなくはない。


僕が机の上に玉を2つ並べて置いて、

スマホのカメラを向けようとしたとき


「美咲ー、綾人ー、そろそろ起きなさーい」


母さんの呼ぶ声が聞こえた。


「はーい」


僕が返事をし終わる頃には、玉は ブン と音を立てて一体化が終わったようだった。


なんなのこいつ。

結局今回も録画できなかった。


2回目の12月18日は、こんな感じで始まった。


僕が教室に入ると、教室の雰囲気が

いつもと違っていた。


ヒソヒソ声は聞こえるものの、

なんというか活気が全くない。


ぼそぼそと断片的に物騒な単語が

デタラメに混ざって聞こえる。


飛び降り 自殺 他殺 殺人 即死 怨恨

事故 リストカット バラバラ死体


…………え?なにこれ。


「おはよ吉住さん、雨ひどかったよね」

「あ、藤原君………」


吉住さんの顔が真っ青だ。

何か知っているのだろうか。


「おい藤原、お前聞いたか?」

「なにケンヤ」


ケンヤも変だった。


「それがな…………」


ケンヤの言葉を遮るようにチャイムが鳴った。


「お前ら席に付け、ホームルームを始めるぞ」


昨日より更に疲れた顔の担任が教室に入ってくると、出席も取らずに話を始めた。


「俺はこういうことはあまり隠したくないタチだから話すが、お前ら、憶測をバラ撒くのだけはやめてくれ。俺も分かることだけを正直に話す」


担任は何を言おうとしているんだろう。


「すでに知ってる奴はいるかもしれんが、昨晩、うちのクラスの真鍋が死んだ」


「は?」


昨日の遠藤が逃げた話のときより、クラスがどよめいた。


え?なに………死?

理解がまるで追いつかない。

真鍋って、あの真鍋さん?


見ると真鍋さんの席に真鍋さんがいない。


「先生、それって自殺?事故じゃないんだよね」


木下さんだった。

テレビの刑事ドラマでしか聞かないような言葉を口にしていた。


「死因はまだわかってない。が、あれは事故死じゃない。俺が警察から聞いた話では調査中とのことだった」


わかってない?事故死じゃない?


担任の事故死じゃないという言葉にクラスが更にどよめく。


「今日の1限目の授業はない。このあと校長から全校に向けて話があるから、ホームルームが終わったらお前ら体育館に集まってくれ」


「私が……………温泉の話なんてしちゃったのがいけなかったのかな……………えぐ………ぐす………」


吉住さんが声を殺して泣いている。


何だこれ?


前回の朝、こんなことは起きていない。

真鍋さんの死因がなんであれ、僕が起こした行動のせいで未来が変わってしまったのだ。


僕はただトラウマの原因をなくしたかっただけだった。

吉住さんは関係ない。


これは僕のせいだ。


「吉住さん…………」

「……………ぐす…」

「大丈夫、僕が絶対なんとかするから」

「…………え?」


そうだよね。こんな気持ちのまま温泉なんて行けっこないよね。


それに真鍋さんのこと放っとけないし。


ホームルームはまだ終わってなかったけど、

僕は席から立ち上がった。


「先生」

「なんだ藤原」

「真鍋さんが見つかった場所と時刻。あと真鍋さんが亡くなった時刻ってわかりますか?」


「そんなこと知ってどうする?」

「先生、教えてくれますよね。………まあ先生が知らなかったら校長先生に聞くまでですが」


僕が手に持ってる玉が虹色に光り始める。


「藤原君………なにそれ?」


僕は吉住さんの言葉に答えず担任の答えを待った。


「……………発見場所は自宅……………遺体発見時刻は昨夜21時……………死亡推定時刻は19時頃………………」


虚ろな目の担任が、よだれを垂らしながら答えてくれた。

ごめん先生、ありがとう。


変わってしまった担任の挙動に、

クラスのどよめきがどんどんひどくなる。


「お、おい藤原!?」


僕はケンヤの声にも答えない。


「僕ちょっと行ってきます」


誰に言うでもなく僕がそう言うと、

クラスのみんなは首を傾げたり は?って感じでこっちを睨んでいた。

まあそうなるよな。


でもそんなの今は関係ない。

手に持った玉の輝きが強くなる。


「……………藤原君?」

「大丈夫まかせて」


吉住さんの声に短く返事をした僕は、

手のひらのビー玉に向かって呟いた。


「行こう」


『オーナーの意思に従い、最適解を処理します』


クラスのみんなが見ている中、

僕が見ている世界は虹色に包まれた。


気がつくと、

僕は左手に人参、右手に包丁を持っていた。

自宅の台所だった。

昨日の晩食べたはずのカレーが材料のままだ。


壁掛け時計を見る。

午後6時40分。


戻れた、のかな。


よかった。みんなの前であんな態度取って戻れなかったりしたら、恥ずかしいなんてもんじゃない。


どうやら家には僕だけのようだった。


そっか、この時間、美咲と母さんはまだ家に帰ってないんだ。


僕は作りかけのカレーをそのままにして、自室に置いてあった上着を取ってきて家を出ることにした。


玄関を出たところで美咲とバッタリ会った。


「あれ、お兄ちゃんこんな時間にどこ行くの?」

「買い忘れ!月桂樹!ちょっと行ってくるから!」

「あ、そう」


デタラメではない。昨日のカレーには入ってなかった。


駆け出した矢先、


そうだ、玉!真鍋さんの居場所!

行き先不明で走ってどうする。


上着のポケットに手を突っ込むと

玉が2個あることに気がついた。


こういうのも元に戻るんですね。

ともかく今はそんなことどうだっていい。


えーと、違う?こっちがカラスのだっけ。

暗くてわからんし!


そいやで2つの玉を合わせると ブン と音を立てて改めて一体化したようだ。


これなら。


落ち着け。

時間はまだある。

自転車のパンク直しておけば良かった。


頭の中がぐるぐるする。

っていうか、なんでこうギリギリなんですかね。

そもそも玉の言う最適解ってなんなの?


それでも君だけが頼りだ。


「頼ってばっかりでごめん。真鍋祐来さんの今いるところってわかるかな?」


少しして玉から返答があった。


『スキャン完了。北東方向およそ400m先に対象の生命反応を検知しました』


生命反応………よかった、まだ生きてる。

普段は物騒に感じていた玉の言葉だったけど、今は心強く感じる。


段取りはめちゃくちゃだったけど、

玉のナビに従って、僕は夜の街を走り続けた。


「こ、ここ?」

息も絶え絶えに玉に聞いてみた。


築何年だろうか。

かなり古いアパートだった。


僕は走ることに関してはまるで自信がない。

だいぶ遅くなってしまった。

せめて自転車があれば。


今何時だろうか

スマホで確認するのももどかしく………


『前方5m、対象の生命反応が小さくなりました』

「なんですと」


言ってから気付く。


「うぐ?ごほっ!? ぐはっ!うぇ!くっさ!」


強烈な異臭。

ものすごく臭い。


「なにこれ?ガス?」


よく回ってない頭が、

更に回らなくなってしまった。


「どこ?どの部屋?」

『1階、一番奥』

「ここ?」


表札はない。

ただ異臭はどんどん強くなっていく。


「真鍋さん、こんばんは!」


僕は呼び鈴を連打して

玄関のドアをはげしく叩く。

しかし部屋の中からはなんの反応もない。 


これじゃどっちがストーカーかわからないな。


「お願いできるかな」

「うるせーぞ!絞め殺されてーか!」


僕が玉に言ったのと、


お隣の玄関のドアが勢いよく開いて

強面のおじさんが文句垂れながら出てきたのは、


ほぼ同時だった。


『オーナーの意思に従い、最適解を処理します』


玉から伸びた細長いムチがヒュンヒュンと空中でしなる。

玄関のドアは、積み木を崩したみたいにあっという間にバラバラになってしまった。


強面のおじさんが、バラバラになったドアを見て悲鳴を上げた。


開いた玄関から、更なる猛烈な異臭が流れ出てくる。


「う、げほっ、くっさ!」

「うげぇ!なんじゃこの臭いは!?」


僕も強面のおじさんも堪らずむせていた。


「おじさん!ガスだ逃げたほうがいい!」


僕はおじさんの返事を待たずに

異臭が充満した部屋に突入した。


「真鍋さん、どこ!?」


返事はない。とにかく臭い。

頭がおかしくなりそう。息ができない。


真鍋さんの部屋は何もない部屋だった。

ベッドもタンスも机もテレビもなんにもない。

こんなので人は暮らせるのだろうか?


『浴室に生命反応…………』

「遅いよ!でもありがとう!」


臭くてたまらない。臭いの元を

止めようという考えに到達しないくらい臭い。


やばい!頭がぼんやりして視界が霞んてきた。


いた!真鍋さんだ。


真鍋さんは浴室で倒れていた。

素っ裸だった。


「大丈夫?真鍋さん!」

「………………」


真鍋さんの返事がない。

こんなときに恥ずかしいとか言ってられるか。

ともかくここを出よう。臭過ぎる。


真鍋さん重。

真鍋さんが浴槽の中じゃなかったのが

救いと言えば救いだった。

あそこから引きずり出す自信は今の僕にはない。


それにしても重い。

人はこんなにも重いものなのか。


「誰かいるのか!」


さっきのおじさんが

口にタオルを巻いて駆け付けてくれた。


「そっち持て坊主」

「あり………がと…………」

「いっせーので行くぞ」


僕とおじさんは、なんとか真鍋さんを

部屋の外に連れ出すことができた。


依然あたりはすごい臭いだった。

まだ目眩がする。


「ふー、あー死ぬかと思った」

「………ぜーぜー、…あー……臭かったー」


安心したのも束の間、すぐ背後でドカンと大きな音がして、開いた玄関から大きな火柱が吹き出してきた。


「え?」


ダイハードはこりごりなんですけど。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ