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第11話 成長期の暴走の果て

「でね、他にも気になった写真とかいろいろあるんだけどね、これとか」

「………………!」


吉住さんのスマホには、あのYoutuberの家の窓に、僕がブロックを投げ込んでる姿がナイスアングルで映っていた。


「これも藤原君なのかな」


ヤバい、なんの言い訳もできない。

夢の記憶を言うの?

怖い夢を見たから他人の家にブロック投げ込みました?

無理無理、どう考えても異常者の行動です。

仮にもしあの夢の記憶がホントのことだったとしても、何の証拠もない。


「この動画とか…………」

「………………!!」


吉住さんが見せてくれた動画の中で、僕は笑いながら走って逃げていた。


さっきの写真の時点で、僕のHPは1だったのに、動画の連続攻撃で完全にゼロになりました。


「真鍋さんにね、その、藤原君のウルト◯マンに変身する動画欲しいって言ったら、なんだか他にもたくさんもらっちゃったの。その、LINEて便利だよね」


そっかー、LINEかー。

時代だなぁ、こんちくしょう。

そんなもん欲しがらんでくださいよー。


「あとこれとか……」

「…………………!!!」


吉住さんの連続攻撃はさらに続いた。

遠藤とその取り巻きが右手を挙げてる写真と、僕が遠藤の姿が見えなくなるまで見送ってる動画だった。


シュール過ぎて、もう涙も出ない。

僕のHPはすでにマイナスの領域に突入していた。


「真鍋さんヤバい子だーって思ったんだけどね、そしたら、私の知らない藤原君がたくさんいたから、その、なんでこんなことになったのかなーって、藤原君に聞けばわかるかなって」


すみません、僕にもわかりません。


「ひどいよ吉住さん!藤原君に見せるなんて!」

「あっ……」

「真鍋さん!?」


真鍋さんが怒ってるような、泣いてるようなどっちとも取れる表情で物陰から出てきた。


ああ、やっぱりさっきの人影って真鍋さんだったんだ。


吉住さんは両手を口に当てて、また私の年収低すぎのポーズでびっくりしていたけど、僕のほうは吉住さんの連続攻撃のおかげで、何の感情も涌いてなかった。


「私、見てるだけでよかったのに!」

「真鍋さん、その、これは……」

「私、ホントのホントに見てるだけで良かったの!」


これは……………


「私がね、藤原君の写真見てるとこ、木下さんに見られちゃって、そしたらクラスのみんなが協力してくれるって、話がどんどん大きくなっちゃって」

「真鍋さん…………」


「吉住さん違うって言ってたじゃん!でもこんなに仲良いなんて!」

「あの!真鍋さん聞いて!」


「お友達になってくれるって言ってたのも嘘なんだ……」

「違うの聞いて!」

「違わないじゃん!」


えーと………


こんなとき僕はどんな感情になればいいんだろう?

吉住さんの連続攻撃による僕の心のダメージは思ったより深かったらしい。


そんな折、


『オーナーの意思に従い、最適解を処理します』


唐突に玉の声が聞こえた。


「え?なに、これ…………」

「虹色の…………光?」


2人の声と姿がすーっと遠くなっていく。


「え!?あっ、ちょっ……まって………」


そして、いつか見た夢の記憶のように、

僕が見ている世界が虹色に包まれた。


「あ、あの、それでね、藤原君、私ね、藤原君に、その、すごく大事な話があるんだけどね……」


はっとして気が付くと、僕は真鍋さんと向かい合って立っていた。


何が起こったのかよくわからなかったけど、この場面には見覚えがあった。

でも、いつのことだったかイマイチ思い出せない。

それでも、


『私、見てるだけでよかったのに!』


「な、何かな?真鍋さん」


ついさっきまでの鬼気迫った真鍋さんの印象が強過ぎて、僕は思わず話の続きを促していた。


「えと、あの、その…………」


真鍋さんは、なかなか話を切り出さない。


思い出した。

僕はこのとき真鍋さんの話を最後まで聞かずに音楽室に行ったんだ。


でも今回僕は、


「こっちで話そう」


僕は真鍋さんにおいでおいでをして、教室の窓際まで移動した。

真鍋さんがおずおずとついてくる。


周り中から

おー とか これはー とか がんばえー とか

声が聞こえたような気がしたが、僕は聞こえないふりをした。


やっぱりだ。窓ガラスが割れてない。


窓から外を見てみたが、校庭のどこを探しても、あの鳥の怪獣が落とした吐瀉物としゃぶつもなかったし、校舎のどこにもヒビは入ってなかった。


校門にもKEEP OUTの垂れ幕はなかったし、自衛隊かどうかはわからないけどゴツい車の集団もなかった。


ここに来て僕はようやく実感できた。

…………アレはやっぱり夢じゃなかったんだ。


今何時だろう?


スマホを見れば 今がいつなのか すぐにでもわかるだろうけど、とりあえず僕はそれはせずに真鍋さんの言葉を待った。


まあ確認する時間は後でいくらでもあるだろうし、今は真鍋さんの言葉を待とう。そう思った。


どのくらい待っただろうか、真鍋さんが両手を胸に置いて静かな声で言った。


「私、藤原君のことが好き。ずっと好きだったの」


真鍋さんの言葉に反応して周り中から、


言ったー とか おー とか きゃー とか リアル告白キター! とか

声が聞こえたような気がしたが、

僕はやっぱり聞こえないふりを続けた。


僕はケンヤの『モテモテだな藤原』という言葉を思い出していだが、同時に吉住さんの連続攻撃もしっかり思い出していた。


モテモテと言っても、この子ストーカーなんですけど。


嬉しいか?と問われれば、嬉しかったかもしれないけど素直に喜べない。

せっかく生まれて初めて、女の子から告白されたというのに、なんなんでしょう。これは。


「あの、そ、それで、藤原君は…………」

「ありがとう、でもごめん。僕好きな人がいるんだ」


こんなことを考えるのは、真鍋さんにとって、すごく失礼だったかも知れないけど、吉住さんのあの連続攻撃は、小心な僕のチキンハートを深くえぐってすっかりトラウマになっており、今ではなにより優先するべき最重要課題になっていた。


アレに比べれば、こんな恥ずかしい言葉など造作もない。ははは。


「あ、…………そう…………なんだ…………」


真鍋さんが急に泣きそうになる。


周り中から

うゎダメじゃん! とか やっぱりかー! とか なん………だと……… とか そこはOKするとこでしょーバカー とか がんばった! とか

いろいろ声がしっかり聞こえたけど、僕は全力で聞こえないフリをした。


そんなことはおくびにも出さず、僕は言葉を続けた。


「でも、僕の好きな人は、僕のことあんまり好きじゃないみたいだから、僕の独り相撲なんだけどね」

「そ、そうなんだ」


光るビー玉!なぜ僕が今、彼女の前に玉をかざしたのか、僕自身理解できなかった!無意識だった!玉が手に吸い付くように勝手に動いたと感じた!

…………というような大仰なことは全くなくて


ちょっと思いついたことがあったので、上着のポケットから玉を取り出した。


もちろん無意識で生命の大車輪とか、そんなダイナミックな理由は全然ない。


「真鍋さんは、この玉のこと知ってるよね?」


玉は僕の手の平の上で、ゆっくりと虹色に光り始めた。

もう実行する内容は決めていた。

「あっ!………それ………は………」


「やっぱり知ってるんだ。じゃあいろいろ見てきた君ならわかるんじゃないかな?」

「……え?…あっ!……あのっ、そのっ、………!!」


「ごめんね、悪いとは思ったんだけど、君には全部忘れてもらうことにするよ」

「!!!!」


「真鍋さん周りを見て?」

「!?」 


「クラスのみんなには眠ってもらったよ」

「あ…………」


はっとした真鍋さんが教室を見渡すと、今まで野次を飛ばしていた人たちがみんな立ったまま寝息を立てていた。

僕の仕業だった。まあ実際には玉がやってることだけど。


「君もみんなのように眠ってもらう。そして目が覚めたら、僕のこと嗅ぎ回ってたことは全部忘れるんだ。君が撮り集めた僕の写真や動画も全部処分させてもらうよ」


僕がそう言うと、真鍋さんは泣きながら後ずさる。

「うそ………全部知られてる?………そんな…………いや…………」

「真鍋さん?」

「やだ!私、藤原君のこと忘れたくない」


「真鍋さん、もう僕のこと隠し撮りなんてしちゃダメだよ。特に夜は冷えるし病気になったら大変だし」

「やだ………ごめんなさい…………ぐす………もうしません…………やっと言えた。言えたのに。この気持ちなくしたくないよう………」


「おやすみ真鍋さん」

「やだよう…………や……」


真鍋さんは眠りに落ちた。


僕は真鍋さんが眠ったのを確認したあと教室を出た。


玉には眠りの時間は3分と伝えてあったので

みんなちゃんと起きてるといいけど。


僕は他にやっておくべきことがあった。

やっておくというか確認しておきたいというか。


「ねえ君が《別の子》って呼んでる玉だけど、近くにいたりするかな?」


学校の玄関から校庭に出た僕は、さっき売店で買った豆乳を玉にかけながら聞いてみた。我ながら頭のおかしな姿だと思った。


少しして

『4時の方向40m先の地上に、別の子の反応を検知しました』

玉が答えた。


「校舎裏?」


玉が教えてくれた場所に行ってみると、

以前遠藤に連れてこられた校舎裏だった。


確信は全くなかった。

なんとなくではあったが、心のどこかで予想していた光景がそこにあった。


「ガー……ガー…………グぇ…………」


1羽のカラスが、地面でバタバタもがいていた。


『当該生命体の体内に、別の子を検知』


「こんな時分から苦しんでいたのか」


動物の誤飲。食べ物以外のものを誤って飲み込んでしまう事故がたくさんあることは僕も知っていた。


吉住さんちの病院でも何度か見た。


ペットは飼い主が異常に気付いてやれるからマシと言えばマシなのかもしれない。

だけど野生の動物はそうはいかない。


誤飲の原因はいろいろあると考えられてて、中にはストレスなんてものもあるらしい。


「お前、あの玉以外にも何か変なものを食っちゃってたりしてな。それともこれから更に食うのか?」

「ギャー、グぅ………ゲぇ………」


「まぁ食べるかもな、お腹もすくだろうし」

「ギー、ギー」


「ねえ、このカラス助けられないかな」


玉はいつもの台詞を言ってくれた。


『オーナーの意思に従い、最適解を処理します』


玉から細長いムチのようなものがしゅるしゅると伸び出てきたかと思ったら、あっという間にカラスのお腹をスパっと切り裂いてしまった。


「えっ?………えっーーー!?直接行くの!?しかもやたら鋭利!!」


僕が玉の所業にびっくりしていると、ムチはカラスのお腹にずいっと潜り込んで、あっという間にカラスのお腹に溜まっていた異物を絡めて掻き出し始めた。


「ギゃー、ギー、グぇ………」

カラスがうめき声を上げる。


出てきたものには、小枝や洋服のボタン、曲がった釘のようなものもあった。

どんどん出てくる。


「うげぇ、何食ってんだよお前」


そのうち、ころっと丸いものが出てきた。

あの玉だ。


『別の子及び異物の摘出に成功しました』


玉はそう言うと ブン と音を立てた。

見る間にカラスのお腹の傷が塞がっていく。

この間、最初の斬撃から30秒も経ってなかったと思う。


「早えーな、おい」


「ギャ……………ギャ…………クルクル……クー」


玉の処置が終わると、カラスは悶えるのをやめた。

少しすると何事もなかったかのように、どこかへ飛んでいってしまった。


「まあ野生だしそんなもんか。もう変なもん食うなよー」


僕は姿の見えなくなったカラスに文句を言いながら地面に転がってる玉を拾い上げた。ちょっとべっちょりしていた。

うう、さすがに気持ち悪い。水飲み場で洗おう。


水飲み場までの道すがら、


「あのカラスが大きくなったのって、ひょっとしてお通じを良くするためだったりして」


僕は誰に言うでもなく一人呟いた。


我ながらアホな想像だと思った。

あのカラスがなぜ大きくなったのか、

それはカラスにしか分からないことだった。


そして大事なことを忘れていることに気が付いた。


あっ、吉住さんと一緒に帰る約束忘れてた。

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