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第1話 たまを拾った日

どうしてこんなことになってしまったのか。

責任感とか後悔とかそんなものは抜きにして、今はただただやべーって感じで、僕は2週間前のことを思い出していた。



12月4日 水曜日

その日、2学期期末テストの最終日は、朝から雨だった。

うんざりするようなテストのことは今は置いといて、あの日起こった問題は2つ。


最初の問題は学校の帰り道で起こった。


そもそもアレを問題と呼ぶべきかちょっとよくわからないけど、とにかくいつもの帰り道、僕は水たまりの中に光るものを見つけた。

人工的な虹色の光。そう虹色だった。


虹色の光は煌々とウニョウニョしてて、正直ビビった。


「ぬわ!?」


僕は思わず口走ってしまっていた。

恥ずかしい、1人でよかった。


無視できない光。気になって仕方ない。

雨であることも忘れて傘の先で水たまりを突っついてみた。


「!?」


急に光がなくなった。

かわりに水たまりから出てきたものがあった。

小さくてまんまるで多分透明な何か。


「なにこれ?」


原因はこれだったのだろうか?もう光はない。

スマホで録画しとけばよかったと思いつつ、もう一度傘の先で突っついてみた。感触は硬い。


水たまりには他には何もなさそうだった。僕は思い切って問題のソレを拾い上げてみた。


「ビー玉?」


ラムネを飲んだことがある人には分かるかもだけど、ソレはまさしくビー玉だった。


「あなた光ってませんでした?」


ビー玉は何も答えない。そりゃそうだ。


このことを誰に話そうとなんの証拠もない。

もやもやしたけど、雨もひどくなってきたし、僕は急いで家に帰ることにした。



「あ、お兄ちゃんお帰りーって、うわ、どしたの?びしゃびしゃじゃん!」


何を隠そうあのあと盛大にすっ転んでしまったのだった。傘もボロボロでバラバラ。マジ最悪。もう泣きそう。


美咲みさきすまん、タオルか何か持ってきてくれんか」

「うわ、だっさ」


玄関先でずぶ濡れで佇んてる僕に、妹の美咲がタオルを持ってきてくれた。

あの日、期末テスト最終日はだいたいこんな感じだったと思う。


「なにそれ?」


僕がずぶ濡れのズボンのポケットから出したソレを 

美咲がめざとく見つけて聞いてきた。


「?」


さっき水たまりで見つけたビー玉は、黒くなっていた。……黒く?

……あれおかしいな、どう見ても黒いんだけど。こんなだったっけ?

ポケットの中には他には何もないし、どう考えてもおかしい。


「あなた、さっきのビー玉ですよね?」

「お兄ちゃん?」


最初見つけた時は虹色で、

拾い上げた時は透明で、今は黒色だった。 


「うーん」

「どしたのお兄ちゃん」

「………あ、いや、なんでもない。そいえば母さんは?」


ビー玉が光っていたからなんだというのか。説明するのもバカバカしいし第一恥ずかしい。僕は半ば無理やり話を変えた。


「母さん遅くなるって」


美咲が答える。


僕んちに父さんはいない。

僕と美咲がまだ小さい頃に亡くなったと母さんからは聞いてる。

そんなわけでうちは、僕と妹の美咲と母さんの3人暮らし。


僕の名前は藤原綾人ふじわらあやと高校1年生。


ぶっちゃけ名前負けしてる自覚はあるので、特に僕の名前は覚えてもらわなくていいかも。



「あ、それでねお兄ちゃん、あの、話っていうか相談があるんだけど」


以前からこういう感じで始まる美咲の相談事はだいたいろくなことがない。


「あとでいい?先にお風呂に入りたいんだけど」


下着までずぶ濡れになってるのを早くなんとかしたい。


「あの、それがかなりヤバい内容なので」

「ヤバいのか?」

「はい、非常にヤバいです」

「ほほう、どうヤバい?」


僕は頭をタオルで拭きながら答えた。我ながらアホな会話だと思った。


「あのこんな感じでマジヤバなのです」


美咲はおもむろにティッシュペーパーくらいの箱を差し出してきた。


「なん……だと……」

「ね、ヤバいでしょ?」


いなり寿司?ねずみ?……いや子猫?

箱の中には、知らない小さい子猫が寝息を立てており、あの日起こった2つ目の問題がコレだった。


「どしたのこれ?」

「わかんない。すぐそこのゴミ捨て場にいたの」

「これは……確かに非常にヤバいですね」

「雨だったし寒かったし鳴いてたし」

「1匹だけ?」

「1匹だけ」


「いつの話?」

「お兄ちゃんが帰って来る5分くらい前の話」

「…………」

「ね、どうしたらいいかな、お兄ちゃん」


こっちが聞きたい。予想以上に地味でヤバい話に巻き込まれてしまった。

 


「この子猫まだ目が開いてないじゃないか!」

「ね、ね、すっごいちっちゃいよねこの子」


子猫というには小さ過ぎる。

手のひらサイズで多分乳飲み子だ。


「ていうかコレ生まれたばっかのやつだろ」

「そうなのかな?……そうかも」


寝ているというよりはぐったりしてるように見えた。

確かにヤバい。


「美咲、台所にホッカイロがあったはずだから持ってきてくれる?下に敷いてあげよう」

「わかった」


せっかくテストが終わって、スカッと爽やかな気分になれると思ってたのに何この修羅場。

子猫もヤバいが僕自身もかなりヤバい。

お尻が冷たくてたまらない。


「美咲、僕お風呂に入ってくるから子猫お願いできる?」

「そうだお兄ちゃん、この子もお風呂に入れてあげようよ」


猫の乳飲み子ってお風呂に入れてもよかったんだっけ?


「うーんやめとこう。たしかダメだったはず」

「そうなの?」


僕もホントはよくわかってないけど、こんなに弱ってるのにお風呂は刺激が強すぎな気がした。


「台所で待ってて、後で僕も行くから」

「わかった!そうだ、牛乳あったっけ」

「美咲、……猫に牛乳はNGだよ」

「えー」


僕も詳しいほうではないが、美咲にまかしといたらいろいろダメな気がしてきた。


あの日はこんな感じでバタバタだった。

っていうか子猫の一件で光るビー玉のことは完全に忘れてしまっていた。



「ねえお兄ちゃん猫って豆乳もダメなのかな?」


僕がお風呂から出て台所に行くと、美咲が豆乳を入れた小皿を子猫の前に置くのがみえた。

さすが中学2年生。やることが雑でチャレンジャー。いや関係ないか。


「美咲」

「なによ」

「僕も詳しいほうじゃないけど、なんも知らんやつがギリギリを攻めるのはやめよう」

「えー」


「少し待ってて。ドラッグストアで子猫用のやつ買ってくるから」

「わかった」


猫に豆乳って良かったんだっけ?ていうかこんなの母さんに見つかったら間違いなく大目玉案件ですよ。

あとがものすごく怖い。


でもぐったり動かない子猫を

なんとかしてあげたいと思うのも事実。

小遣い足りるかな?

僕は雨の降る中ドラッグストアに急いだ。


歩いて5分のところにある近所のドラッグストアは意外と大きい。

キャッチフレーズはちょっと気になるとかなんとか。

今まで知らなかったけど

ペット用哺乳瓶ってこんなにあるんだな。


ペット用品コーナーでうんうん唸ってたら店員さんが通りかかってくれたので、聞いてみたら乳飲み子用のミルクと哺乳器をいろいろ紹介してくれた。



うちに帰る頃にはあたりは真っ暗になっていた。

思った以上に時間がかかってしまった。

玄関に入ったら台所のほうからニーニー鳴き声が聞こえてきた。

おお、鳴いとる。まだ生きてたらしい。

おかげで小遣いが無駄にならずに済んだ。


「ごめん美咲遅くなった」

「お兄ちゃん遅い!」


美咲が子猫のそばに座ったまま、こっちを向いて悪態をついた。


「今用意するし」


店員さんに教えてもらった通り、あんまり熱々にしない感じで哺乳瓶にミルクを用意した。僕の知識じゃない。説明書にもそう書いてある。

どうか哺乳瓶を受け付けてくれますように…。


子猫はまんまと哺乳瓶を受け付けてくれた。ありがたいことこの上ない。

おー、飲んどる飲んどる。


「ねぇみて、この子哺乳瓶に抱きついてちゅーちゅー飲んでる。なにこれかわいー」

「ふー」


僕も思わず台所に座り込んでしまった。

子猫はひとまず生き延びてくれたようだった。

いや、今は良いよ。今は。

どうすんのこれ?


「どうすんのこれ?」


僕は、思ったけど喋ってない。美咲も喋ってない。

はっとして僕と美咲がおそるおそる振り返ると、母さんが鬼の形相で立っていた。


「ぎにゃー!」

「か!かか、母さんお帰り、遅くなるって聞いてたけど、わりと早かったね」

「ただいま」



「……でね、この子ね、そこのゴミ捨て場にいたの。雨だったし寒かったし鳴いてたし……それで、あのその……」

「んー……」


美咲のしどろもどろの言い訳に、

母さんがおでこに人差し指をついて唸っている。


「で?」

「で……」


美咲がササッと僕の後ろに隠れる。

あの隠れられても困るんですけど。


「これ買ってきたの綾人?子猫用ミルク」

「ごめん母さん、死なれても寝覚めが悪いと思って」

「徳用大瓶……やるわね」

「いやあ」

「褒めてない」


母さんが子猫を見ると、哺乳瓶のミルクを飲み干していた。


「子猫はね、こうやってゲップさせるの」


母さんはそう言うと、子猫を持ち上げてお腹のあたりを人差し指でさわさわさするとけふっと小さいゲップが聞こえた。猫もゲップするんだな。

満足したのか子猫は大人しくしている。


「で、どうすんのこれ?」


改めて僕が気にしてることを母さんが聞いてきた。


「僕も困ってるんだ。どうしたらいいかな母さん」


母さんが子猫を抱いたまま諦めたような面持ちで呟くように言った。


「母さんね、明日はお仕事が在宅になるの。だから明日は母さんが見るけど……」


うちの母さんはソフトウェアの会社に勤めており、何日かに1回はこんな感じだった。時代だなぁと思った。


「……じゃ、じゃあ!」

「まって!明日だけよ。明日中にこの子をどうするか決めましょう」

「やっぱり飼うのは無理かな?」

「ごめんね綾人、美咲。悪いけど無理。母さんもお仕事あるし。あなたたちも学校があるでしょ?もっとこの子が大きかったら考えたところだけど、こんな生まれたばっかりの子だと3時間……いや2時間おきくらいにはお世話が必要になると思うし」

「えー……そんなー!」


美咲が無理を言う。


「無理言うなって美咲」


わかっていたことだった。


例の流行り病による在宅缶詰めも下火になっちゃったし、もうちょっと早ければと思わなくもない。


「明日中に里親を探しましょ?でなければ保健所かな……」


母さんの出した答えは寂しい現実だった。

(1/6)物語内の曜日設定が曖昧になっていたので訂正して加筆致します。大変失礼致しました。

(1/15)改行を訂正しました。

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