琵琶湖ノ上デ
Youtubeへ投稿しているMinecraft軍事部茶番、瑞穂ノ国 第2話の前日譚となっています。
2話では欧州統合軍が撤退してきたところから始まりますが、その直前の戦闘を描いた短編になります。
●初見の方へ
初めまして三沢みれんと申します。
普段はマイクラ関連の動画をYoutubeへ投稿しています。
詳細は作品あらすじをご確認お願いします。
『α2、10時の方向』
「了解」
セレクターが砲撃になっていることを確認しトリガーを引く。
-ザッ
画面に一瞬ノイズが走る。
「α2、目標を撃破、引き続き前進します」
『了解』
通信を切り機体を前へ進める。
「さっきのノイズは荷電粒子砲のパルスが原因か」
教本に記載されていた内容を思い出す。考えてみれば本国では一度もノイズが走ったことはない。管理された格納庫、管理された整備間隔、極東のこの地にそんなものはなかった。
あったのは荒廃した街とその中に佇む基地だけだった。
「チッ、だからメカニックぐらいは連れていくべきと進言したんだ」
前線と呼ばれる国はどこも人が足りない、欧州でも極東でもそれは変わらない。人が足りなければ整備もおざなりになってしまう。
『各機停止、見えてきたな』
匍匐飛行での進行を続け、山間を抜けると今回の制圧地域、琵琶湖が見えてきた。
『瑞穂海軍、統合軍の艦砲射撃もあってかスムーズに進めましたね、感謝しなきゃ』
α3が言う通り、確かに艦砲射撃の効果は大きく道中の戦闘は片手に収まるだけ、射撃したのもさっきの1度のみだ。
『ああ、だがここからは艦砲射撃も当てにできない、気を引き締めてい進めるぞ』
瑞穂共和国軍が今回の作戦で艦砲射撃を行うことが出来、制海権を保持しているのは伊勢湾のみ、さらに山々の影響で砲撃支援を期待できるのはここらあたりまでとのことらしい。
「とはいえ瑞穂は航空機の退避を優先したおかげで飛行型寄生体はいないんでしょう?それなら欧州戦線よりかはまだ楽ですね」
飛行型がいるかいないかでの戦場は雲泥の差だ、特にクルスは高速飛行に対応していないから戦闘機と対峙すると面倒くさいことになる。
『ブリーフィングでも伝えた通り、未確認だが飛行型のようなものも観測されている、気を抜くなよα2』
「わかってますよ」
『本当にわかってるんだか…』
-ザッ
『こちらCP、ユーロα隊、作戦状況を報告せよ』
山間な地形のせいかノイズ混じりな連絡が届く。
『こちらユーロα、フェイズ1までは完了、現在ポイント米原にて周囲警戒中』
『了解、ユーロβ隊、瑞穂統合軍もフェイズ1完了、これよりフェイズ2へ移行、ユーロα隊は大津方面へ前進せよ』
『ユーロα了解、琵琶湖の遊覧飛行を楽しむよう瑞穂の連中に伝えておいてくれ』
『了解』
通信を終え一瞬の静寂が訪れる。
『奥さん、元気そうでしたね』
α4が静寂を破り冗談めかして言う、うちのチームのムードメーカ的な存在だ。
『α4、戻ったら覚えておけ、瑞穂には正座という罰があるらしい』
勘弁してくださいよとうなだれるα4を置いて隊長は続ける。
『聞いた通りこれよりフェイズ2並行する。先ほども述べたがここからは艦砲射撃による援護は見込めない、だがわれらは欧州のエースチームだ、後続の瑞穂の連中に戦火を譲らないように、以上だ』
『『了解!』』
「了解」
フェイズ2ではうちのチームが先行し、突破口を開く、そこに後続の瑞穂統合軍が侵攻する手はずになっている、が。
「艦砲射撃のおかげで残弾は十分だ、一体も瑞穂の連中には譲らない」
『α隊、行く-』
-ピー
隊長が言うと同時にアラート、重力子反応だ。
「α2、重力子反応を検知」
『α4、同じく』
『α3、わたしも』
『α1、こちらでも確認した、位置は…琵琶湖湖底?』
反応は確かに琵琶湖湖底で反応していた、
『接近して確認する、α2はついてこい、3,4は後方からの援護』
「了解」
緊張感が跳ね上がる、重力子反応、通常はクルスに搭載されている飛行ユニットからしか検出しない反応だ。
『こちらユーロα、CP、聞こえるか』
-ザッ
『こちらCP、聞こえています』
『琵琶湖湖底から重力子反応を検出した、こちらで波紋を検索したが一致する期待がない、瑞穂統合軍のデータベースに該当する機体がないか検索してくれ、データを送る』
『了解』
ノイズ混じりな通信をしながらも期待を進める。
-ピー.ピー
近づくにつれて反応が強まる、向こうも湖底から上がってきているようだった。
『α2、嫌な予感がする、いつでも戦えるよう準備しておけ』
「了解」
心臓が痛いほどに鼓動する、訓練でクルスと戦闘したことはあるが実戦経験はない、人間同士で争っていられない情勢だから当たり前ではあるが。
-ピー.ピー
「上昇が止まった」
『そのようだな』
水面から少し出たあたりで未確認機は上昇をやめた、光学で視認しようとするが霧で確認が出来ない。
「昼間だというの霧…確かにいたな感じですね」
『ああ、近づいて確認する』
「了解」
機体を湖面近くまで降下させ近づく。
近づくにつれ少しずつ霧の影響が少なくなり、うっすらと機体の影が見えてくる。
『4脚機、瑞穂の機体か?』
「4脚ですね、瑞穂が他国の機体を使ったというデータはないのでおそらく瑞穂の機体でしょう」
友軍機であることがわかり少し安心し、心臓の鼓動が少し落ち着く。
『こちらは欧州統合軍のアラバスター大佐だ、貴機の所属を述べよ』
『…ル…』
ノイズにまみれてうまく聞き取れない。
「もう少し近づいてみます」
『あまりむやみに近づくな、霧が晴れるまで持ったほうがいい』
「無線の故障かもしれない、それに瑞穂の機体相手であれば何かあっても負けませんよ」
警告を受け流し少しずつ近寄る。
「こちらは欧州統合軍のロードナイト中佐だ、貴機の所属を述べよ」
『ク……ル…』
少しノイズは晴れたが聞き取れるレベルではない。
「もう少しだけ近づいて-」
-ザッ
『こちらHQ、ユーロ隊!作戦中止!その機体に近づくな!そいつは-』
急に聞こえてきた声は叫び声のような声だった、聞き取るために音量を上げていたせいで耳が痛み一瞬動揺する。その一瞬が命とりだった。
『α2回避しろ!』
先ほどまである程度の距離を取っていた不明機が目の前まで迫っていた。
「…え」
反応できなかった、音量に対する動揺、機体性能に対する驕り、それらを差し引いても考えられない速度で不明機は接近していた。
-ガン!
機体に衝撃が走る。
死んだ、そう思ったがアラーム音、エアバッグの衝撃はあった。
まだ生きてる。
『α2!、大丈夫か!』
目の前に不明機とつばぜり合いをする隊長がいた。
自動制御で機体が立ち直るとアラーム音が消える。
「は、はい、大丈夫です」
そう返事するので精いっぱいだった。
『ならいい、無線を聞いただろ、撤退だ』
不明機をはじき牽制射撃を行う、教本通りの対クルス戦闘の動きだった。
牽制射撃を行いながら後ろに下がる、不明機は牽制を回避しながら近づいてくる。
「隊長、あの機体は」
『詳しくはわからんがもとは瑞穂の機体だったらしい、それに-、クソ、足が速いな』
『……ザザ……Q……ザザ』
長距離無線はノイズにまみれ使い物にならず通信ができない。
不明機は依然として近づいてくる、2機からの弾幕をものともせず。
『さっきつばぜり合いした時だが少し機体が見えた、あいつ稲穂に寄生されてたよ』
「なっ、瑞穂の連中機体喪失を隠してたんですか」
機体の喪失はすべての重力子制御ブロックを製造している欧州統合体へ報告の義務がある。瑞穂はそれを無視したことになる。
『さぁな、まずは生きて帰るのが目標だ、クソ、来るぞ!』
弾幕を回避し突っ込んできた不明機はこちらに切りかかってくる。
-ドン
刀身がぶつかり衝撃を食らう、回避行動で速度が落ちているにもかかわらずその攻撃は重かった。
「くっ…」
想像よりも重い攻撃にうまくはじき返すことが出来ない。
『動くなよ』
-ザッ
画面にノイズが走る、隊長が撃った荷電粒子砲の影響だ、不明機はそれを回避するため俺に機体から離れる。
「すみません」
大丈夫だ、と言いすかさず牽制、再度撤退に移る。
『厳しいがα3,4とは何とか合流できそうだな』
「そうすれば一旦は何とかなるでしょう」
2機いれば何とか退けることが出来る、4機そろえば撃墜は難しくとも撤退させることはできるだろう。
「あいつどうしたんだ」
その時、不明機が足を止めた。
こちらの攻撃は当たっていない。
『何をしてくるかわからん、気をつ-』
-ドン
機体がブラックアウト、刹那すさまじい衝撃に襲われる。
「クソ、なんだよ!」
ピッと音を立て補助バッテリーから再起動、機体を立てなす。
OSが再起動するとピーッピーッとけたたましいアラートが鳴っている。
「何が起きた」
機体情報を確認する、そこには左脚部大破と記載されていた。
『α2!損害は!』
無線はまだ生きていた、頭を回転させ状況を確認、報告する。
「左脚部のユニットをやられました、それと」
衝撃かブラックアウトが原因かは不明だが、射撃が出来なくなっている。
「射撃ができません、ライフルの復旧は試しましたがそもそも認識しない状態です」
『そうか…』
隊長のライフルは問題なく引き続き牽制しつつ撤退していく。
『α2、命令だ、先行してα3,4と合流、そのまま瑞穂軍の基地まで帰還しろ。』
「隊長?何を言って…」
『損害を受け、射撃もできない機体を抱えて戦える相手じゃない、それぐらいわかるだろ』
「であれば被弾している私が残りあいつの相手をします、その間に隊長が!」
『お前の技量は評価している、だがお前が叶う相手じゃない、時間稼ぎにもならん、お前が死んで、その後に俺が死ぬだけだ』
反論できなかった、撤退中の戦闘だけで俺ではかなわないことはわかっていた。
「隊長…すみません」
『お前の責任じゃない、わかったらいけ』
「隊長…お世話になりました…」
敵機が見える背面飛行から速度重視の姿勢に切り替える。
『いいか、戻ったら今回の戦闘データを報告しろ、不明機の…体が瑞穂の……だという証拠に……だ』
距離が開くにつれノイズが強くなる。
『最後につ……愛し…ると……』
ノイズで声が完全に聞こえなくなる。
「はい、絶対に伝えます……」
その後HQからの命令で先行して撤退していたα3,4と合流し、隊長を助けに行こうというα3をなだめ瑞穂統合軍の前線補給基地、伊吹山補給基地まで撤退した。
瑞穂ノ国 第2話へ続く
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射撃を行いつつ敵の斬撃を回避、いなしつつ時間を稼ぐ。
「愛してる…か…」
敵の動きが一瞬止まる、そのタイミングを逃さず正面から敵機に接近する。先ほどα2が撃たれたものと同じ砲撃、ロールで回避、回避が間に合わないと判断した左脚部は腰部盾で防ぐ。左腰部の盾はえぐれ使い物にならないと判断しパージ、身軽になった機体で速度を上げ銃剣で切りかかる。敵機は荷電粒子砲を手放し帯刀、斬撃を受け止めた。
受け止められると同時に脚部ユニットで蹴り上げ、重力子の開放により加速され蹴りは敵機の脚部に命中する。
よろけたタイミングを見逃さずはじき返し、先ほど敵機が手放した荷電粒子砲を撃つ。
が、刀を投擲され盾でガード、軌道をずらされてしまう。
「最後に伝えたのはいつだったか…」
上を取った敵機が2本目の刀を帯刀し切りかかってくる。銃剣は下部を向いており間に合わないと判断し腰部の短刀を取り受け止めた、しかし高度差のある斬撃は重く機体を押し弾かれる。
その間に敵機は荷電粒子砲を取り戻し、再び砲撃体制。
機体を立て直し再度正面から接近、敵機の砲撃前に先ほど帯刀した短剣を投擲する。敵機はそれを回避、荷電粒子砲の射線がずれる。それを逃さず今度は銃剣で突く。敵機は荷電粒子砲を再度手放し帯刀、突きをそらすが左腕部へ突き刺さった。
ようやく与えた敵機への損害、にもかかわらず敵機が笑ったような気がした。
次の瞬間敵の荷電粒子砲による砲撃。腰部にあるサイドアームを介しての砲撃だった。
「クソ、そんなの聞いてねえよ…」
被弾個所が悪かったのかシステムが反応せず操縦を受け付けない。
「こんなことになるならまめに言っておけばよかったな」
-ドンドン
外部からコックピットを無理やり開かれる音がする。
被弾時に頭を打ったのか血が目に入り目を開けられない。
-バキ
衝撃と音とともにコックピットが外れ風が吹き込んでくる。
かろうじて目を開けるとそこには稲穂、触手のような植物が迫っていた。
「ああ、ごめんな、愛してるよ、ササ―」
すべてを言い終える前に、意識を闇に飲み込まれた。