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08.帰路

 公園を出ると、すぐに二人の家に着いた。

「お邪魔します」

「親はまだ帰ってきてないから、ゆっくりしてね。千里、リビングに案内して、窓も開けて」

「はーい・・お姉さん、こっちだよ」

 ただてさえ初めての家に緊張するわけだが、二人の親が居たら、更に緊張してしまいそうだと思っていた。捺音は少しホッとしながら、千里に連れられリビングに入り、二人掛けソファーへ座るよう言われる。そして、窓を開けてきた千里が左隣に座ると、祐昌が冷たいお茶を入れて持ってきた。

「麦茶しかないけど・・」

「いえ、ありがとうございます」

 祐昌は、お茶を目の前のローテーブルに置くと、捺音の右手にある1人掛けのソファーに座った。冷たい麦茶を飲むと、ようやく捺音は落ち着いた。


「高倉さん、家はどこ? 車で送ってくよ」

 お茶を飲み終えると、祐昌が口をひらいた。

「そんな、あの、これ以上ご迷惑かけるわけには・・」

「おっ、少し元気になったかな? さっきより声に張りがでてきたな。別に迷惑じゃないから、気にしなくていいよ」

 確かに、来た時より体調はよくなっていた。ただ、気にしなくて良いと言われても、まだよく知らない年上の男性の車に乗るというのは戸惑われる。しかし、祐昌は、そんな捺音の戸惑いが分かったのか、自身の荷物から、学生証を取り出し、捺音に渡した。

「え?」

 捺音がどういうことか理解できずにいると、

「うんと、まぁ、急には信用できないかもだけど・・岩崎祐昌、4月3日生まれの十九歳、K大学理工学部の1年だ。家族は、両親と妹の千里で、この家に住んでる。車の免許は、大学決まってから取った」

 自己紹介というか、身分を証明するかのように、祐昌は言ってきた。

(そういえば千里ちゃんが、お兄さんはすごく優しいって言ってたっけ)

「ふふっ・・」

 あとなんだ?と、考えている様子の祐昌を見たら、思わず笑いがもれてしまった。

「おっ、やっと笑った」

 そう言って、祐昌も笑顔になった。


 ――ドキッ


 その笑顔に、捺音の心臓がはねた。

「あの、じゃあお言葉に甘えて・・お願いします」

 ドキドキしながら答えると、成り行きを見ていた千里が、両腕をあげて喜ぶ。

「わーい、わたしも一緒するー」

「うん、少しドライブだね」

 ここから電車で5駅、車だと20~30分だろうか・・往復1時間弱だから、千里には良いドライブかもしれないと捺音は思った。


 そして瑞希に、千里のことは前に話していたので、彼女のお兄さんに車で送ってもらえることになったと、詳しくはまた明日話すと、連絡を入れておいた。まだ部活中なので、その前に送ったメッセージも未読だった。あとでまとめて読むことになるだろう。

(混乱させちゃいそうだなー)

 読んだ時の瑞希の様子を思い浮かべて、口元が緩む捺音だった。



 しばらく岩崎宅で過ごしたあと、祐昌の運転する車で、捺音の家へ向かった。後ろの座席に千里と並んで座っていた。

「あっ、そこの角左曲がったところです」

 家の近くに着き、祐昌に伝える。家の前に着いたところで車を停めた。

「ありがとうございます。今日は本当に、お世話になりました」

 捺音は降りようと、車のドアに手をかけたところで、

「あっ、連絡先交換しないか?」

 祐昌がスマホを出しつつ聞いてきた。

「あっ、わたしもお姉さんと交換するー」

 それを聞いた千里も、ハッとして、自分のスマホを操作したので、

「いいよ」

 まず隣にいる千里と連絡先を交換した。その後、前に座る祐昌とも交換した。


「また何かあったら連絡して。今日みたいに千里から、ただヘルプじゃわかんないから」

 どうやら千里は“ヘルプ”とだけ送っていたみたいだ。それを聞き捺音は思わず笑ってしまう。

「今日は体育祭の準備で疲れてしまって、たまたまだったんです。学校で休んでから友達と帰れば良かったんですけど・・」

「そっか、でもそうしてたら今日会えてなかったから、ある意味良かったのかな」

 捺音が事情を話すと、祐昌が照れ臭そうに言った。

(それはどういう?)

 会えて良かったみたいなことを言われ、捺音もドギマギしてしまう。

「えと・・それじゃあ、帰ります。千里ちゃん、ありがとうね」

「うん、お姉さんまたねー」


 気を取り直して、車のドアをあけ、千里に手を振りながら降りた。祐昌に視線を向け、目が合ったところで会釈し、ドアをしめようとすると、

「高倉? 何してるんだ?」

 桐生が帰ってきたところと遭遇した。車の前方から怪訝な顔をして近づいてくる。

(げっ、やばい)

 捺音は、桐生には疲れて公園で休んでいたことを連絡していないし、瑞希にも桐生には言わないように連絡していた。桐生に言われたのに、学校で休まず帰ったので、まずいと思っていると、桐生は捺音の側に来て、顔を近づけジッと見てくる。

「顔色は大丈夫みたいだな」

「なんでもないし。友達と会って送ってもらっただけだから」

 あながち嘘ではない言い訳をする。

「ふーん・・」

 桐生はそう言って、車の中に視線を向ける。


「あれ? 祐昌さん?」

(え?)

 桐生の口から祐昌の名前が出て捺音は驚く。名前を呼ばれた祐昌は、声に反応しそちらに視線を向けた。

「あぁ、桐生くんか」

(えぇっ?)

「なんで? 二人共知り合いなの?」

 捺音が戸惑いの声をあげると、二人は何故か視線を合わせていた。

「ちょっと前に会ったんだ」

 桐生が答えた。

「そぅ・・あっ、すみません。送ってもらって、ありがとうございました。千里ちゃん、またね!」

 捺音はこのままここで話していると、桐生が余計なことを言いかねないと思い、車のドアを閉めて、挨拶をした。祐昌は頷いて、車を発進させた。千里は車の中で振り返り、手を振っていたので、捺音も小さく振り返した。


 車を見送る捺音を桐生は隣でジッと見ていた。それに気づき、

「何?」

「いや・・お前、学校で休まず帰ったんだろ?」

「う・・」

(バレてる)

「どうして祐昌さんに送ってもらうことになったのか分かんないけど、オレは、あの人なら良いと思うぞ」

「何がよ」

 桐生が良いという意味が分からず、問い詰める。

「ん? こっちのことだ」

 一人納得するかのように言って、桐生は自分の家へ帰っていった。


 ……にしても、桐生と岩崎さんが知り合いだったなんて、いったいどういうことなんだろう。

 なんだか桐生と祐昌の関係に、胸がざわつく捺音だった。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 その夜、捺音は自分の部屋で、祐昌に今日のお礼メッセージを送った。すると、


 ―――ピコピコ


 通知音だ。見ると祐昌からの返事だった。

『どういたしまして。こちらこそ、いつも千里と仲良くしてくれて、ありがとう』

『ところで、今度二人で会えないかな?』

「え?」

 思わず声が出てしまった。


(これって、デートのお誘い・・とか? ど、どうしよう・・)


 確かに、また会えたらと捺音は思っていた。千里から彼の話を色々聞いていたところに、今日接することで、更に彼のことが気になっていた。だからこそ、お礼も兼ねて連絡してみたのだった。


「はい、いいですよ」

 ドキドキしながら、OKの返事を送る。

『ありがとう。それじゃあ、週末どうかな?』

「今週末は体育祭なので、できれば次の週末が良いのですけど」

 体育祭のあとは、休養に充てたいため、早く会いたい気持ちもあったが、その次を要望してみた。

『分かった。なら再来週の土曜日でいいかな? 車で迎えに行くね』

「大丈夫です。はい、分かりました」

 そう送ったあと、捺音は「はぅ」と、ソファーに倒れこんだ。

(車で出かけるとか、なんか大人デートみたい)

 高鳴る心臓の鼓動を感じながら、スマホを抱えて、笑みをうかべる捺音だった。




 -翌朝―――――

「おはよう、捺音」

「おはよう」

 瑞希と会い、一緒に学校へ向かう。

「で? 昨日はいったい何がどうなったの?」

 予想通り問い詰められたため、昨日のことを話した。


「K大生って、すごい頭いいじゃん・・岩崎さんって、どんな人? カッコイイ?」

 質問攻めだ。

「うん・・背がね、隆くんより高くてビックリしたんだけどー」

 隆は桐生よりも背が高く、学年内でも高いほうだ。

「なんか、ホントお兄ちゃんってかんじで優しかった」

 捺音にも兄はいるが、基本彼女優先で、捺音自身あまり構ってもらった記憶がなかったため、同じ兄でも違う印象を受けていた。

「ふーん・・気になってるかんじ?」

「うん・・まぁ」

 捺音が頬を赤くして、答えると、

「そっかそっかー・・デート楽しみだね!」

 瑞希は捺音の様子を見て微笑むと、親友がデートに誘われたことを一緒に喜んでくれるのだった。


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