表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/117

06.目撃 ~5月中旬~

 林間学校から数週間後、1学期の中間考査前、部活動休止期間となる。そのため、普段部活に参加している瑞希と、帰宅部である捺音は一緒に帰ることになる。梨加と菖は自転車通学のため、昇降口で別れた。


 駅までは少し距離はあるが、歩けない距離ではないので徒歩で移動する。駅前に着くと、

「あれ? 隆くん? 桐生くんもいるみたい」

 瑞希が人垣の向こうに、誰かを待っている様子の二人に気づき指さす。良く気づいたなぁと思っていると、二人に近づく人の姿に気づく。

「えっ? あれって女子大付属の制服だよね、何? どういう事!?」

 この近くにある女子大付属高校の制服を着た、肩にかかる薄い茶色い髪をした子と、栗色の長い髪がふんわりとしたかんじの二人組が、隆と桐生に話しかけていた。見たかんじ、初めましてのようだが、事前に待ち合わせをしていたかんじに見え、瑞希が困惑の声をあげた。もちろん、捺音にも目の前の状況は分からないため、首をひねるしかなかった。


「つける!・・あっ、いい?」

 隆たちが4人で移動するのを見て、瑞希が後をつけると言い出し、捺音に確認してきた。

「いいよ」

 瑞希の気持ちも分からなくはないため、こっそり4人の後ろを付いていくことにした。


 隆たち4人は、親しげに話しながら駅前の商店街へと向かっていた。そこそこ活気のある商店街で、また、そこを通る学生も多くいるため、向こうがこちらに気が付く可能性は低いと思われた。その分、こちらも見失わないよう、つけていると、1件のレトロ風のカフェに4人は入っていった。

「あんなお店あったんだね」

 捺音はそう言って、小さな個人経営風のカフェの外観を見ていた。さすがに入るとバレそうなので、遠目から窺う。どうやらそこで他の人と待ち合わせしていたような様子に、瑞希は、

「うーん・・Wデートってわけではないのかなー?」

「確かに。まあ、そもそもあの二人が、いきなりデートとか、考えにくいけどね」

 隆は瑞希が好きなはずなので、他の誰かと付き合うというのは考えにくかった。まだ互いの気持ちに気づいていないので、瑞希が心配するのも仕方ないかもしれないとも思う。

「それもそうか。捺音、ごめんね。帰ろう」

 瑞希もひとまず現状に納得し、帰ることにした。


(それにしても不思議なかんじ・・)


 捺音はなんとなくカフェの中にいる人たちが気になりながら、瑞希と帰宅するのだった。




 中間考査が終わった週末、捺音は部屋のソファーでゴロゴロしていると、桐生がやってきた。

「捺音、ちょっといいか?」

「珍しいね、どうしたの?」

 桐生が捺音の部屋に来ることは最近なかったので、何事かと思う。捺音はソファーから体を起こすと、桐生は近くの床に座った。そして、桐生はどこか照れ臭そうに、話し始める。

「気になる子がいるんだ・・」

(ほぉーついに桐生にも好きな子ができたのか)

「その子とは、かなり前に知り合ってたんだけど、事情があって離れたんだ。最近再会してさ、あっ、捺音は会ったことない子なんだけど、なんというか、意気投合してね」

「へぇー」

(私の知らない子・・同じ学校の人じゃないってことね)

 物心つく前からほとんど一緒に過ごしてきた二人なので、桐生に捺音の知らない人がいたことに驚きつつも、状況を判断していく。

「ただ、以前離れた事情が・・ちょっと特殊でさ、すぐに付き合うとか、難しいと思ってるんだ。だけど、二人でどこか出かけたりして、また関係を構築できればいいなと思ってさ」

「そっか・・」

 昔の事情があっても、付き合いたいと決意している桐生に、捺音は理解したように返事をする。


(ん? 最近再会?)


 ふと、桐生が最近会っていた女子高生二人の姿が思い浮かぶ。

「もしかして女子大付属の子?」

 その二人以外の可能性もあるが、思わず口にしてしまった。すると、桐生はビクッとして、

「えっ? なんで?」

「この間、駅前で隆くんと4人でいるところ見たんだけど・・」

 捺音に見られていたことに、桐生はかなり驚いていた。

「あれ、見られてたのか・・まぁ、そうだ」

 頬を赤くし肯定した桐生の姿に、捺音も少し驚いた。

(こんな表情もするんだ・・)

「ふーん・・で、どっち?」

 二人いたので、何気なく捺音は問う。聞かれると思っていなかった桐生は、一瞬口ごもるが、

「長い髪の子・・同学年だ」

「そうなんだ」

 捺音が思わずにやけているのを見て、桐生は睨む。


「ねぇ、もう一人の子は・・まさか隆くんと関係あるとかじゃないよね?」

 そんな桐生の視線を無視し、瑞希のために情報収集を試みる。

「4人共知り合いだけど、隆は平松のことが好きなんだし、何もないと思うぞ」

「なら良かった」

 知らぬは当人たちだけ、桐生も隆の気持ちには気づいているようだった。


 捺音の質問を終えると、桐生は、

「とにかくさ、その、これからはあまり捺音に気を配れなくなるって、それを言いに来ただけだから」

 少し早口で言って、立ち上がり、部屋から出て行こうとドアに近づいたところで、捺音に視線を向けてきた。

「あー・・うん、分かった。もう、そんなに気にしなくていいのに」

「いや、あ、うん。じゃ・・」

 捺音は視線を合わせて了承すると、桐生はホッとして、部屋から出て行った。


 桐生は、二人の親から言われていたとはいえ、捺音の体調を気遣うことをほぼ義務のように行っていた。そして、小学生の頃、自分が近くに居る時に捺音が倒れたことから、責任を感じすぎているところがあった。捺音としては、桐生が悪いわけではないので、いい加減気にしないでほしいと思っていた。

(ってか、わざわざ言いに来るとか、相変わらず気にしすぎなんだから・・)

 はぁ・・と、ため息をつき、再びソファーにゴロンとする。


 ……桐生に彼女ができたら、うちの学校の人たち、ショック受ける子多そうだなぁー


 そんなことを考えながら、先ほど聞いた話を、隆の気持ちだけ言わずに、瑞希と共有する捺音だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ