06.目撃 ~5月中旬~
林間学校から数週間後、1学期の中間考査前、部活動休止期間となる。そのため、普段部活に参加している瑞希と、帰宅部である捺音は一緒に帰ることになる。梨加と菖は自転車通学のため、昇降口で別れた。
駅までは少し距離はあるが、歩けない距離ではないので徒歩で移動する。駅前に着くと、
「あれ? 隆くん? 桐生くんもいるみたい」
瑞希が人垣の向こうに、誰かを待っている様子の二人に気づき指さす。良く気づいたなぁと思っていると、二人に近づく人の姿に気づく。
「えっ? あれって女子大付属の制服だよね、何? どういう事!?」
この近くにある女子大付属高校の制服を着た、肩にかかる薄い茶色い髪をした子と、栗色の長い髪がふんわりとしたかんじの二人組が、隆と桐生に話しかけていた。見たかんじ、初めましてのようだが、事前に待ち合わせをしていたかんじに見え、瑞希が困惑の声をあげた。もちろん、捺音にも目の前の状況は分からないため、首をひねるしかなかった。
「つける!・・あっ、いい?」
隆たちが4人で移動するのを見て、瑞希が後をつけると言い出し、捺音に確認してきた。
「いいよ」
瑞希の気持ちも分からなくはないため、こっそり4人の後ろを付いていくことにした。
隆たち4人は、親しげに話しながら駅前の商店街へと向かっていた。そこそこ活気のある商店街で、また、そこを通る学生も多くいるため、向こうがこちらに気が付く可能性は低いと思われた。その分、こちらも見失わないよう、つけていると、1件のレトロ風のカフェに4人は入っていった。
「あんなお店あったんだね」
捺音はそう言って、小さな個人経営風のカフェの外観を見ていた。さすがに入るとバレそうなので、遠目から窺う。どうやらそこで他の人と待ち合わせしていたような様子に、瑞希は、
「うーん・・Wデートってわけではないのかなー?」
「確かに。まあ、そもそもあの二人が、いきなりデートとか、考えにくいけどね」
隆は瑞希が好きなはずなので、他の誰かと付き合うというのは考えにくかった。まだ互いの気持ちに気づいていないので、瑞希が心配するのも仕方ないかもしれないとも思う。
「それもそうか。捺音、ごめんね。帰ろう」
瑞希もひとまず現状に納得し、帰ることにした。
(それにしても不思議なかんじ・・)
捺音はなんとなくカフェの中にいる人たちが気になりながら、瑞希と帰宅するのだった。
中間考査が終わった週末、捺音は部屋のソファーでゴロゴロしていると、桐生がやってきた。
「捺音、ちょっといいか?」
「珍しいね、どうしたの?」
桐生が捺音の部屋に来ることは最近なかったので、何事かと思う。捺音はソファーから体を起こすと、桐生は近くの床に座った。そして、桐生はどこか照れ臭そうに、話し始める。
「気になる子がいるんだ・・」
(ほぉーついに桐生にも好きな子ができたのか)
「その子とは、かなり前に知り合ってたんだけど、事情があって離れたんだ。最近再会してさ、あっ、捺音は会ったことない子なんだけど、なんというか、意気投合してね」
「へぇー」
(私の知らない子・・同じ学校の人じゃないってことね)
物心つく前からほとんど一緒に過ごしてきた二人なので、桐生に捺音の知らない人がいたことに驚きつつも、状況を判断していく。
「ただ、以前離れた事情が・・ちょっと特殊でさ、すぐに付き合うとか、難しいと思ってるんだ。だけど、二人でどこか出かけたりして、また関係を構築できればいいなと思ってさ」
「そっか・・」
昔の事情があっても、付き合いたいと決意している桐生に、捺音は理解したように返事をする。
(ん? 最近再会?)
ふと、桐生が最近会っていた女子高生二人の姿が思い浮かぶ。
「もしかして女子大付属の子?」
その二人以外の可能性もあるが、思わず口にしてしまった。すると、桐生はビクッとして、
「えっ? なんで?」
「この間、駅前で隆くんと4人でいるところ見たんだけど・・」
捺音に見られていたことに、桐生はかなり驚いていた。
「あれ、見られてたのか・・まぁ、そうだ」
頬を赤くし肯定した桐生の姿に、捺音も少し驚いた。
(こんな表情もするんだ・・)
「ふーん・・で、どっち?」
二人いたので、何気なく捺音は問う。聞かれると思っていなかった桐生は、一瞬口ごもるが、
「長い髪の子・・同学年だ」
「そうなんだ」
捺音が思わずにやけているのを見て、桐生は睨む。
「ねぇ、もう一人の子は・・まさか隆くんと関係あるとかじゃないよね?」
そんな桐生の視線を無視し、瑞希のために情報収集を試みる。
「4人共知り合いだけど、隆は平松のことが好きなんだし、何もないと思うぞ」
「なら良かった」
知らぬは当人たちだけ、桐生も隆の気持ちには気づいているようだった。
捺音の質問を終えると、桐生は、
「とにかくさ、その、これからはあまり捺音に気を配れなくなるって、それを言いに来ただけだから」
少し早口で言って、立ち上がり、部屋から出て行こうとドアに近づいたところで、捺音に視線を向けてきた。
「あー・・うん、分かった。もう、そんなに気にしなくていいのに」
「いや、あ、うん。じゃ・・」
捺音は視線を合わせて了承すると、桐生はホッとして、部屋から出て行った。
桐生は、二人の親から言われていたとはいえ、捺音の体調を気遣うことをほぼ義務のように行っていた。そして、小学生の頃、自分が近くに居る時に捺音が倒れたことから、責任を感じすぎているところがあった。捺音としては、桐生が悪いわけではないので、いい加減気にしないでほしいと思っていた。
(ってか、わざわざ言いに来るとか、相変わらず気にしすぎなんだから・・)
はぁ・・と、ため息をつき、再びソファーにゴロンとする。
……桐生に彼女ができたら、うちの学校の人たち、ショック受ける子多そうだなぁー
そんなことを考えながら、先ほど聞いた話を、隆の気持ちだけ言わずに、瑞希と共有する捺音だった。