04.記憶に残る夢
意識が浮上してくるのを感じ、捺音は少しずつ目を開らく。視界に室内が映ると、
(どこ? ここ)
知らない天井に一瞬戸惑うが、すぐ思い出す。
(あぁ、今は高倉捺音、こっちが現実か・・)
今は、林間学校中、夕飯を食べたあと、体調を心配されながらもバンガローでクラスメイトたちと寝ていたことを思い出す。
……うー・・まだ少し前世の記憶と混在してるかも。
1年前、謎の声聞いてから、時々見るあの夢は、自分の前世であると思っている。前世の私、フィーネは次期王女候補で、王女になりたくなくて色々画策している印象は、今までの夢でも感じていた。あの世界の王女はどうやら世襲ではなく、特別な力のある者がなる、役職名みたいなもののようで、当然王候補もいるわけだが会ったことはなかった。
そして、あの声・・1年前に聞こえた声の主は、多分ネイトだ。でも、今まで見てきた夢で、地球に来ていたメンバーの中に彼はいなかったはずだ。あの「気をつけて」と言われたことと何か関係があるのだろうか?
夢の記憶について考察をしていたが、うっすら外が明るい気がして、枕元に置いていたスマホで時間を確認すると、まだ5時をすぎたところだった。今更昔のことを考えても仕方ないと、目が冴えてしまった捺音は、少しモヤモヤした気分を切り替えようと、外の空気を吸いにバンガローから出ることにした。
なんとなく湖と富士山が見たいと思ったが、あまり動きまわりたくはないため、とりあえず富士山が見えそうな方向へ向かってみることにした。
「あっ、すみません」
「いえ、こちらこそ」
遠くのほうの景色を見ながら歩いていたら、手前からきた大学生くらいの女性とぶつかりそうになってしまう。頭を下げて、その場を離れたが、その女性は酔っているかのようにフラフラしながら、何やらブツブツつぶやいているようだった。
大丈夫かなと思いつつ、歩いていると、向かう先から話声が聞こえた。少しずつ近づくと、誰なのか分かる。
(桐生と隆くん?)
二人は場内所々にある、木のイスに座って、何やら深刻そうに話していた。捺音は足を止め、向かう方向を変えようとしたが、
「高倉?」
桐生に見つかった。
「何こんな時間にふらついてるんだ? トイレなら向こうだぞ」
(そっちこそ、こんなところで何してんのよ)
バンガローにトイレはないから、トイレだと思われたことは理解できるが、言い方に少しイラっとしつつ、
「ちょっとね・・なんか目が冴えちゃったのよ」
桐生への文句は飲み込んで、捺音は二人に近づきながら答えると、近くの木のイスに座った。
「体の調子は大丈夫?」
「なんとかね」
隆に少し心配そうに聞かれ、答えると、
「どうせ、はしゃぎすぎたんだろ」
桐生がトゲのある声で言うので、捺音はムッとして無視すれば、隆が苦笑いしながら、
「桐生だって心配してたくせにー」
と、つぶやいた。「うるせー」と桐生は言うが、捺音もそれは分かっていたので、二人のやり取りはスルーし、話題を変えることにした。
「二人こそ、こんな時間にどうしたの?」
「んー? お前と似たようなもんだ」
桐生は一瞬なんと言おうか考えた仕草をした後、ごまかすように答えたが、
「二人して同じ夢見ちゃってさ、なんか同時にガバッて起きて・・」
「おい、隆!」
「いーじゃん、別に」
隆が理由を言い出すと、桐生が制した。
「・・夢ねぇー」
捺音は先ほど見た夢が浮かんで、思わず口にしてしまう。
「何だよ、お前も見たのか?」
「夢くらい普通に見るでしょ?」
「そうだけど・・因みにどんなか覚えてたり?」
二人が「夢」について、どこか興奮気味に聞いてくる。しかし、捺音は自分の見た夢について語るつもりはない。
「どんなって、覚えてたら何だというの? 二人と同じ夢とでも思ったわけ?」
(あの夢と同じ夢を見る人がいるわけが・・)
若干イラついて答えると、
「あっ」
「いや・・」
興奮していた二人のテンションが急降下したのが分かり、
(やばっ)
「でも、二人して同時に同じ夢見るなんて不思議ね・・」
慌ててフォローしたが、沈黙が漂う。
少しして、沈黙に耐えかねた隆が、
「もしかしてさ、前世の夢とかだったりしてー・・ハハッなんてね」
“前世”と言われて、捺音は思わず体がビクッとしてしまったが、二人に気づいた様子はなく、
「ちょっと不思議な夢で、鮮明に覚えてたからさ、気になっちゃったんだ」
隆は軽いかんじで言ったが、捺音は混乱していた。桐生は「前世か・・」と何やら考えるようにつぶやく。
(同じ夢とは思えないけど、この二人も前世の夢っぽいのを見たというの?・・これは偶然?)
捺音がそんなことを考えていると、
「また続き見れるかな?」
「よし! 戻るか」
隆と桐生が立ち上がり、
「お前は?」
「うん、私も戻るよ」
桐生が聞くので答えると、手を差し出され、捺音はそれを支えに立ち上がった。
「ちゃんと休めよ」
「分かってるわよ」
言い合いながらも、それぞれバンガローへ戻って、再び布団に入るのだった。