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02.湖畔にて

 集合時間まで少し時間があったため、捺音たち4人は湖畔を歩くことにした。キャンプをしている大学生のような人たちや、他の高校の生徒たちの姿も見えた。


(この景色、やっぱり見たことある気がする)


 湖と樹海、富士山の見える景色に、捺音は懐かしさを覚える。もちろん、捺音としては初めて来る場所なので、もしかしたらフィーネだった頃に見ていたのかもしれない・・と、考えていた。


 ―――キーーーン・・


「何? この音」

 突然、高い金属音が聞こえ、捺音は思わず足を止め、声を出す。

「え? 音? どんな?」

 瑞希に問われ、梨加や菖の顔を見る

(あれ? 3人には聞こえてない?)

 捺音が足を止めたことで、3人も足を止め、梨加や菖も耳に手を当て、音を聞くような仕草をしている。

「耳鳴り・・かな?」

 耳元でまだ聞こえている音は、けっこう大きな音に思えるが、周囲を見渡しても聞こえている様子の人は見えないため、捺音は耳鳴りとは思えなかったが、そう答えた。

「大丈夫?」

「うん、別に痛みとかあるわけじゃないから・・」

 3人に心配そうに見られたため、たいしたことはないと、捺音は音を無視して再び歩き出すことにした。


 すると、耳鳴りのような音がフッと消え―――――


 ―――パァンッ


 今度は何か大きな風船が割れたような音がしたため、驚いて再び足を止め周囲をキョロキョロと見渡す。その様子に、

「捺音?」

 瑞希が不安な顔をしていた。3人にはまた聞こえていないようだが、捺音は遠目に見える他の学生の中に、周囲を窺っているような人の姿が見えた気がした。更にこちらへ歩いてきていた桐生と隆も顔を見合わせている。二人の姿が見え、少しホッとすると、


『ようやく見つけた』


 耳元で嬉しそうな声がして振り返った瞬間、捺音は視界がくらみ、その場にうずくまってしまった。

「えっ? 捺音? 捺音っ、ちょっと・・」

 突然しゃがみこんだ捺音の姿に、瑞希は焦りまくる。意識はあるので声は聞こえてはいるが、頭がクラクラして、気持ち悪くて声が出せない。胸元を押さえて、苦しそうな捺音の様子に、梨加が「大丈夫?」と心配そうに背中をさする。

「私、先生に連絡してみる」

 集合場所は今いる場所から近いので、連絡すればすぐ来てもらえそうだが、案内は必要だからと、菖はスマホを手にその場を離れる。それと入れ違うように、バタバタと捺音たちのほうへ足音が近づいてくる。誰だろうと捺音が思っていると、

「高倉、平気か?」

 桐生が捺音の横にしゃがみこんで様子を窺いながら聞いてきた。捺音の様子を見た桐生は、

「寄りかかっていいぞ」

 片膝をたてて捺音の横に座った。その声に、捺音は安心して地面に腰を下ろし、横に座る桐生に体を預けると、少し楽になった気がした。

「捺音~」

 梨加が泣きそうな声を出しながら、瑞希と一緒に捺音のリュックを背中から降ろしてくれる。周囲には、桐生と行動していた隆や他の男子もいる声がするが、今の捺音には気にしている余裕はなかった。


 しばらく呼吸を整えるようにしていると、

「捺音、水飲める?」

 捺音の前に両膝をついて、顔色を見ていた瑞希が聞いてきた。大分落ち着いてきたと判断してくれたみたいだ。頷くと、水筒の蓋に水を注いで渡してくれた。飲んでいると、

「先生きたよ」

 菖がクラス担任の河合先生が来たことを伝える。

「高倉さん、大丈夫? 熱中症かしら・・」

 河合先生は今年初めて担任を持つことになったという若い女性の先生だ。どうしたら良いか戸惑っている。

「動けそう? もうすぐ澤田先生が来るけれど・・」

 澤田先生は確か女性の保健医だったっけ・・と、捺音は思いながら、

「はい、大分楽になったので・・」

 桐生に寄りかかって、水も飲んだため、かなり回復していた。既に気持ち悪さは消えていたので、立ち上がろうとしたら、

「もう少し座ってろ」

 桐生に言われる。そして、周りを見渡せば、隆ら他のクラスメイトが、周囲の視線から捺音を隠すように囲ってくれていたことに気がついた。


 澤田先生が捺音たちの元に来て、状況を確認した。

「そろそろ集合時間だから、君たちは先に集合場所に行きなさい。高倉さんは、私とゆっくり行きましょう」

 ベテランの先生らしく、てきぱき指示を出す。瑞希や梨加と菖は、まだ心配そうに捺音を見たので、大丈夫だよと捺音は笑顔を向ける。男子たちは「はーい」と言って、のそのそ動きだそうとするが、桐生は捺音の横に座ったままだったので、澤田先生が、

「ほら、君も移動しなさい。彼女が心配なのは分かるけど・・」

「「彼女じゃありません!」」

 捺音と桐生が揃って否定の声を上げれば、

「あら、そうなの?」

 澤田先生は不思議そうに言った。河合先生も「そうなの?」という顔をしているのを見て、先生たちにまで二人が付き合っていると思われていたことに、捺音は気づいてうなだれた。


 ……本当に彼氏彼女の関係ではないんだけど、なんで皆そう思うんだろう? まぁ、正確に言えば、元彼ではあるけどさぁ


 とはいえ小学生の頃の話である。同じ学校の者はもちろん、瑞希や隆、互いの両親でさえ知らない。付き合っていたことも別れたことも知られていないはずだ。唯一、何故か捺音の兄である那音と桐生の姉の桜には気づかれたが、あの二人は恋人同士だからなのかもと思っていた。


 軽くため息を吐き、捺音は立ち上がろうとすると、桐生が二の腕を持って、引き上げてくれた。

「ありがと」

「あぁ、無理するなよ」


 その二人の様子に、捺音と桐生以外のその場に居た人たちは、二人の距離間に呆れる視線を送っていた。

(そういうことするから、付き合ってるように見えるんだって!)

 


 捺音と澤田先生以外の者は、集合場所へ足早に向かった。澤田先生は、捺音のリュックを持ち、二人はゆっくり宿泊場所へと向かう。お土産の袋は、瑞希が持っていってくれた。

 そして、捺音は歩きながら視界がくらんだ時のことを考える・・・


 “見つけた”と耳元で言われた声は、少し高めの男性の声で、聞き覚えがある気がした。

 しかし、耳元で言われたはずなのに、近くに全く気配がなかった。うずくまった時、周囲には瑞希、梨加、菖の3人の足しか見えなかったのだ。


(前世に関わることなんだろうけど、なんで今? この場所のせい?)


 先ほど聞こえた声は、前世の夢の中で聞いた声に似ていた。1年前に聞こえた声とは違う声だ。そもそも、あの1年前の声は、背後からだと思ったがどこか頭に響くようなかんじで、今となっては本当に聞こえていたかも今ではあやふやなのだが、先ほどの声はリアルに耳元で言われたと思ったのだ。もし仮に本当に彼の声だとしたら、彼は生きていたということなのだろうか・・・一緒に魔法の光に包まれた、かつての幼馴染の姿を思い浮かべる捺音だった。


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