00.プロローグ
新連載!
とある施設の床も壁も真っ白な1室で、銀色に藍のメッシュの入った肩より少し長いストレートの髪の女性が、床に手をつき作業をしていた。
……良し、うまくいった。これでいけるはず。
この世界、日本に来て5年が経ち、彼女は25歳になっていた。
……あと、外かな。
そう思った途端、その場から消え、次の瞬間、施設の外に彼女は居た。深夜、人気のない、月明りに照らされた湖のほとりで、地面に模様を描き、何かを埋めると、この国で一番高い山-富士山という名の山の方向へ視線を向けた。
……これが役立つことがあればいいけれど、出来れば必要ないことを願いたい。
そして暗闇に溶けるように、彼女はその場から姿を消した―――――
・・・それから数十年の時が過ぎる・・・・・
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中学3年のある日、高倉捺音は、学校から一人で帰っていた。
突然、何故か胸騒ぎがして、ふと、空を見上げると、夕焼けに染まる遠くの空に、小さな光の点が見えた。星というよりは、人工的で自ら発光しているような、とても明るく小さな光の点を、不思議に思いながら見ていると、
『フィーネ、気をつけて……』
知らない男性の焦りを含んだような声が、背後から聞こえた気がして思わず振り返る。しかし、そこには誰の姿もなかった。そもそも私はフィーネではないから、話しかけられるわけがないのだが、何故か私が呼ばれた気がした。その声は、どこか懐かしく、そして頭の中に響くような声だった。
謎の声に反応したあと、再び空を見上げた時には、光の点は消えていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
……またあの夢か。
あの、謎の声が聞こえてから、約1年、私は高校生になった。あの声が聞こえた日の夜、私は高熱を出して数日寝込み、そして長い夢を見た。夢の中で私は、フィーネと呼ばれていた。フィーネは地球とは別の世界、いわゆる異世界の人間で、どうやら何かの事情で同じ年くらいの男女数人と日本に来ていたようで、目覚めた後も何度かその夢を見たが、まだ詳しいことは分かっていない。あの声の主も謎のままだ。今朝もまた同じ世界の夢を見たことで、またかと思いながら、意識が浮上してくる。
フィーネたちは何故か、元の世界に戻ることができなくなったみたいだった。その後、
「やめろっ! こんなことに力を使うなっ! お前も消えるぞっ!」
「構わない」
同じ世界の仲間とおぼしき金髪の若い男性と向かい合い、フィーネは床に描かれた魔法のサークルに魔法の力を流しながら、その男性の言葉に迷いなく答えていた。その後、サークルは輝きを増し、中にいる男性が光に包まれる。
……もし本当に生まれ変われたなら、またみんなと会えたらいい
フィーネは心の中でそう願うと、さらに、光は膨らみ、自身も光に飲み込まれたのを感じた。
きっと魔力が尽きて、あの男性の言ったように消えてしまったのだろうと、そして私は生まれ変わって、今ここにいるのではないかと思った。そう、あの夢の中の出来事は、私の前世であると、夢から目覚めた時に私はそう理解していた。
ただ、
――気をつけて
あれはいったい、誰がどういうつもりで言ったのだろう? これからのことなのか、過去の話なのか、私は何に気を付けたら良いのだろう……
そんなことを考えていると目覚ましが鳴り、私は、ベッドから起き上がることにした。
活動報告、書きました。