6・安西青江視点・Ⅳ
* * *
「あっ……刑事さん」
自宅アパートの2階の廊下。ルミに付き添われてアパートの階段を上がった私は、そこにいたスーツ姿の二人を見て思わず声を出した。私を支えていたルミもそちらを見る。アキラの部屋の前にいるのは……確か年をとってる方がウドウさん、若い方がイトウさん、だったっけ?
「こんにちは、安西さん。お仕事からお帰りですか?」
「あ、はい……」
「お疲れのところすみませんが、少しお話を……」
「じゃあ青江、あたし帰るね」
「えっ、ルミあがってって。せめてお茶でも」
ルミは笑みを見せながら髪をかき上げ、その手をくるりと返した。
「いいよ、病人のくせに気を使わないで。早く寝てね」
彼女は綺麗な身のこなしでサッと行ってしまった。相変わらずスマートで憧れる。ウドウさんはルミの後ろ姿を見惚れるように眺めていた。しばらくしてからこちらに向き直る。
「今、病人と……体調がよくないのですか?」
「あ、はい。ちょっと。それで早退したんです。今の子は同じ会社で」
「そうですか。それでは手短に」
こちらの体調が悪いと言っているのにウドウさんは遠慮する気がないらしい。ちょっとイヤな感じだなと思った。そのまま家のドアの前で話す。
「昨日、山本亜紀良さんとは親しい友人だと仰ってましたよね」
「……はい」
「友人、ですか? 山本さんには以前から交際している女性が居るという話を聞いたんですが」
心臓がズクリと音を立てた気がした。
「はい……その、以前から交際しています」
「いつからですか?」
「1カ月……半くらい前です。彼から交際を申し込まれて」
刑事さんたちは何も言わないけれど、二人で何か目配せをし、手帳に書き込んだりスマホを見たりしている。私はその沈黙に耐えられず思わず訊いてしまった。
「あの、アキラが事件に何か関係あるんですか!?」
ウドウさんは真っすぐに私の目を見た。
「事件に関わることなので言えません。逆に質問をしたいんですが、あなたは山本さんと事件に関係があると思っているんですね? 何故ですか?」
「……っ」
「あなたはまだこちらに言っていないことがあるんじゃないですか?」
私の指先から肩までが震える。だめだ。こんなの私が怪しいと言っているも同然なのに。震えを止めようとしても止まらない。
ピリリリリリ
呼び出し音が突然鳴り、私はビクッとした。イトウさんが「失礼」と言って電話に出る。
「はい……はい、そうですか! わかりました。では」
電話を終えたイトウさんがウドウさんに耳打ちをする。ウドウさんの顔つきが変わった。そして。
「……安西さん、ここではなんですから署でお話を伺えませんか」
よくある刑事ドラマのワンシーンの言葉が有働さんの口から放たれた。