1・安西青江視点・Ⅰ
「こんにちは。無蔵野警察署刑事課の有働と申します。こちらは部下の伊藤です。安西青江さんですか?」
よくある刑事ドラマのワンシーン。それが我が家の玄関ドアを開けた目の前で再現される日が来るなんて、私は夢にも思わなかった。
……嘘。
こんな日が来ると、うすぼんやりではあるが夢で見たことがある。多分、予知夢だ。
私は予知夢の能力を持っているんじゃないかと小さい頃から時々思っていた。
今まで一度も行ったことのない筈の場所に立って「あれ、ここ、来たことがある」と感じたり、初めて話した筈の会話に既視感を感じたり、初対面の人が何故か懐かしく思えたり。
それは、いずれも夢で体験したことがあるからだ。
でも、いつも体験してから「あっ、これ夢で見たやつだ」って気づくから全然役に立たない。前もって予知夢だってわかってたら凄い能力なんだけど……。
小さい頃は「私これ知ってる! 夢で見た!」って無邪気に言ってたけど、大きくなるにつれ周りに変なやつ扱いをされるようになって言わないようになった。
今、私のこの能力を知っているのは数少ない人間だけ。
「先日起きた事件について、今皆さんにお話を伺ってましてね。ご協力をお願いします」
「はあ……」
伊藤さんという年若い刑事さんが手帳の間から写真を取り出して私に見せる。
「この女性を知っていますか?」
私は写真を受け取り、見てドキリとした。……似てる。
「い、いいえ」
「本当に? 会ったことはありませんか?」
「はい」
嘘はついていない。だって、私が似てると思った人は……。
「では、この間の日曜日の午後一時から二時の間、あなたはどこで何をされていましたか?」
「ええっと……」
確かあの日はアキラとランチに行って……その時に彼が私に話した事がすごくショックだった。だからその後私は放心状態で少ししか覚えていない。車に乗ったっけ?……その後は公園のベンチに座ってた。何故そこに行ったのかもわからないし、気がついたらその光景が目の前にあった。まるで誰かに連れていかれたかのように。
「……多分、近所の公園です。時計を見て一時二十五分くらいだったと覚えています」
「それを証明できる人はいますか?」
「えっと……」
あの時は独りだったと思う。私はうすぼんやりとした記憶を振り絞る。
「あ! 公園でサッカーをしていた子供達がいて、ボールがこちらに飛んで来たので投げ返してあげたんです。赤いTシャツを着ていた男の子に」
「その男の子の名前や住所は?」
「えっ? わ、わかりません……知らない子供ですし。でも本当です! すぐそこの、コンビニの前にある公園ですから!」
焦って言う私の言葉を信じたのか、それとも怪しんでいるのか。刑事さん二人はアイコンタクトを取ってからこう言った。
「……そうですか。ご協力ありがとうございました」
ドキドキしながらアパートのドアを閉める。と、すぐに私の耳にピーンポーンとインターフォンの音が聞こえた。え、隣にも聞くの!?
後から考えると、この時の私は胸の動悸がまだ収まっていなかった。冷静になれていなかったのだと思う。私は閉めたばかりのドアを開け、飛び出した。
「お隣は居ませんよ!」
刑事さんたちは眉間に皺を寄せた。
「居ないんですか?」
「は、はい。暫く留守にしているそうです」
「……お隣と親しいんですね。失礼ですが、どういったご関係で?」
しまった。私は藪をつついて蛇を出してしまったみたい。