失楽園 2
また間違えて他作に投稿してしまった……
「あ、がっ……」
右手で左肩を押さえる。思ったより深くはないが、血が止まらない。
「……驚いたな。左肩ごと胴体と切り離すつもりだったのに」
土村は少し目を見開いてそう言うと、少し長めのナイフについた血を拭い、再びナイフを構えた。
そして、土村が姿勢を低くして駆け出そうとした時。
「優っ!!!」
叫び声のような声が聞こえた。チラリと横目で見ると、瑞姉が前に出てきていた。周りの人々も、ザワザワと騒がしくなっている。
クソッ、早くなんとかしないと……ッ。
「んー?優?」
土村が驚いたような声を上げた。ふと、土村を見ると、構えを解き、タブレットを取り出し、眺めていた。
「土村さん、解析した結果、どうやらこの子供が回収対象みたいです」
木更津が土村へと近づき、そう告げる。
回収対象だと?どういうことだ?今の俺は、ただの一般人だというのに。
「マジ??全然別人じゃん。というか、性別も違うし。本当なのか?」
「ええ。解析結果にはそう表示されてました。まあ、髪の色が変わるケースがあるみたいですし、見た目や性別が変わることもあるのでは?」
「えぇ……はぁ、まあお前が言うんだからそうなんだろう。ってことは、そこのお嬢さんがもう一人の対象かな?」
土村が、瑞姉を指差して言う。
俺と、瑞姉を探していたのか?一体何のために?よくわからないが、取り敢えず助かった……のか?
「いやー、やっちまったなあ。えーと……中川、お前確か回復系の固有スキル持ってなかったっけ?」
「いや、自分のは厳密には回復系じゃないんですけど……あんまり期待はしないでくださいよ」
「いいから早く頼む。死なれたらヤバい」
「今度から事前に確認くらいしてくださいよ……」
中川と呼ばれた男はため息を吐きながら俺に近づくと、俺の左肩に手を翳した。
「【形状固定】」
中川がそう呟くと、先ほどまで止まらなかった血が急に止まった。
「おっ、血が止まったな。良かったよかった」
「……やったのは貴方じゃないですか」
「はは、すまんすまん。君が回収対象だとは思わなかったんだよ。写真とは別人だし」
俺の言葉に、土村は苦笑しながら答える。
「まあ、今はそれよりも……銃を下ろしてください」
「……すまないが、それはまだ出来ない」
「何故です?」
「……それも、今は言えない。俺たちについて来たら、教えよう」
はあ、ついて行くしかないのか?いや、待てよ。まず、何でこの人たちは俺と瑞姉を回収(もう少し言い方があったのではと思うが)しに来たんだ?そこを聞いてみるか。
「なら、もう一つ書いてもいいですか」
「質問が多いけど……まあいいか、言ってみな」
「何で俺と瑞姉を回収しに来たんですか?」
「それは……俺たちもよく知らされてない。ただ、任務内容と報酬を聞かされただけだ」
うーむ、余計理解できないな。危ないかもしれないが、ついて行った方がいいのだろうか。
この土村が実力を認める人が、自身より遥かに強いと言う人物に、ついて行けば会えるかもしれないなら、ついて行きたいところではある。
ただ、もしついて行った場合、残った人たちがどうなるのかは問題だな。
「残った人たちはどうなるんです?」
「ああ……実は、そこの警官の彼にも言ったんだが……ここから一度離れてもらって、ここを日米共同の臨時基地にしようという計画でね」
「離れるって、何処か別の避難所に移すってことですか?」
「いや。こっから出てもらうってことーーーー」
「ふざけてるんですか??」
普通の人間が、モンスターが闊歩する街中で生きていけるわけがない。
つまり、それはここにいる人達を見捨てるということだ。
「あー、話は最後まで聞け。俺もそう思ってたんだが……さっき連絡があってな、どうやら施設科とアメリカ工兵隊だけじゃなく、普通科や米軍まで来てくれるらしい。こんだけ人数が集まるなら、多分10人くらいなら問題ないんじゃないか?」
「……すみません。知らないのに勝手なこと言って」
ほんと、こういうところは直していかないといけないよな。昔からこうだ。
気になったことがあると、どうしてま突っかかってしまう。
「なに、謝ることじゃない。もしその連絡がなかったら、俺は見捨てていたかもしれん」
「そうですか……」
「それで……心配ごとはなくなったか?なくなったなら、ついて来てもらうが」
「そうですね……瑞姉はどう思う?」
もしかしたら瑞姉なら心当たりがあるかもしれないと思い、後ろにいた瑞姉に尋ねる。
瑞姉は、俺の問いに少し考え込む。
「……もしかして、あの人が」
瑞姉が何かを呟いたが、それを聞き取ることは出来なかった。
「?何か言った?」
「いえ、何でもないわ。そうね……優、貴方はどう思うの?」
「俺は……ついて行ってみてもいいと思う」
俺の言葉に、瑞姉は再び考え込んだ。迷っているのだろう。俺もそうだ。まだ、この人達を完全に信用はできないけれど……この人達について行けば、モンスターに対抗することが今までより用意になる。
「……仮にその人達について行くとして、優姫はどうなるかは気になるわ」
「ああ、確かに。土村さん、もう一人ついて行くことってできますか?」
「……君達とはどう言う関係だ?家族か?」
「妹、ですね」
土村は顎に手をあて少し考えた後、苦笑しながら言った。
「その子を連れて行けないと言ったら、君達は俺たちにはついて来るか?」
「それは……難しいですね」
「だろうな。はぁ……まあ、一人ぐらいいいか」
土村は頭を抱えて、そう言う。
どうやら、優姫も連れて行ってもらえるようだ。そういえば、優姫はどう思っているのだろうか。聞いてみるか。
「なあ、優姫はこの人達について行った方がいいと思うか?」
「うーん……ついて行ってみたいな」
「そうか、わかった」
土村に、優姫も了承しているし、恐らく瑞姉も大丈夫だろう。
ーーーなら。行く、しかないか。俺や土村と同じように、ボスを倒せる人間に会えるのだから。
「土村さん。俺は、俺たちは貴方について行きます」
「……そうか。それじゃ、このヘリに乗ってくれ」
俺の言葉に土村は頷くと、校庭に鎮座している30mほどの巨大なヘリーーー恐らくは輸送ヘリだろうかーーーを親指で指さした。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺たちも連れて行ってくれよ!」
「そ、そうだ!何でその人たちだけ自衛隊について行けるんだ!?」
すると、一部の人たちから、抗議の声があがった。
(まあ、それはそうか。自衛隊に守ってもらえるなら、多少は安心できるからな)
先程まで例え銃を向けられていたのだとしても、か。相変わらず、人というのはーーーーー
「えー、皆さん落ち着いて下さい。自衛隊の普通科や米軍が皆様を守ってくれる手筈になったいるので」
「……本当ですか?」
立ち上がった吉田が、疑うような目で土村を見る。
「あなたは……吉田さん、でしたっけ?安心して下さいくださいよ。国民を守りたいのは我々だって同じですから」
「それが信用ならない、という話です」
「じゃ、待ってみます?多分そろそろ来るはずですよ」
すると。連続した射撃音が聞こえてきた。その射撃音は、段々と近づいて来る。
ドガアアン!!!
鳴り響いた轟音と衝撃に、その場にいた自衛隊員以外の全員が驚愕する。
住宅街の塀を削りながら現れたのは、自衛隊の誇る10式戦車であった。
「まさか戦車まで送って来るとはな」
「まあ、それだけ上も本気ってことじゃないですか?」
土村と木更津の話を聞きながら、優は思考を巡らせる。
(戦車、ってことはさっきのは戦車砲か。加えて、連続した射撃音。戦車の機関銃だろうな。だが、何のために撃った?まさか、銃火器はモンスターにも通用するのか?)
ーーーしかし、もし仮に銃火器がモンスターに通用するのならば、世界がこれほどまで混乱するだろうか。ミサイルや大口径の砲などであれば、ボスにも十分通用するのではないだろうか。
特に、ゴブリンなどの相手には、MLRS(多連装ロケットシステム)であれば容易に多数を葬れるだろう。
しかし、それをしない……というより、できないのか。個体によって兵器が効くがどうか差があるのか?
などと考えていると、先頭の戦車が正門の前まで到達し、ハッチが開き、一人の自衛官が顔を出した。
「お疲れ様です、田村一佐。まさか機甲科までお越しいただけるとは」
土村が、戦車から出てきた自衛官にそう話しかける。一方田村と呼ばれた40代ほどであろう自衛官は、土村を冷たい目で見下ろす。
「ああ、俺も驚いたよ、土村一佐。北海道から東京まで殆ど休みなしで来たよ。もちろん、補給はしたが。それで?お前らに与えられた任務はしっかりとできたのか?」
「いや、これから運ぶ予定ですよ。というか、チヌークがまだある時点で察して下さいよ」
土村の言葉に、田村は眉に皺を寄せる。
「チッ、まあいい。邪魔だからさっさと行けっての」
「そう怒らないで、昔みたいに仲良くしましょうよ」
「……お前と仲良くした覚えなんて、俺には一度もないがな」
「そうでしたっけ?……まあいいですが。それじゃ、ここにいる人たちは任せますよ」
「お前に言われなくても、わかってるさ」
(もしかしてこの二人、仲悪いのかな……)
土村は会話を終えると、優たちのほうへと向く。
「田村一佐もこう言ってることだし、三人とも早くヘリに乗ってくれ」
「わかりました」
ヘリの後部から伸びているスロープを登っていく。
ヘリって、こんな感じなのか。人生で初めてヘリに乗ったな。そういえば、瑞姉は初めてじゃないんだっけ。
「広いな……」
中は、見た目通り広かった。荷物も複数積んであり、恐らく弾薬や武器が積んであるのだろう。
中には人がいない。先頭の方にある扉の向こうには、パイロットが乗っているのだろうか。
「えーと、これが椅子かな」
東京ドームの座席のように、誰も座っていない時は座る部分が背もたれとくっついているタイプの椅子だ。お世辞にも座り心地が良いとは言えない。
「ほら、本当だったじゃないですか」
「………すみません」
吉田が、不承不承といった様子で頭を下げる。
「いや、別に謝ることないんですよ?悪いのは俺たちですからね」
「……そうですか」
吉田はそう言うと、残る人たちを説得するために去って行った。
「土村一佐。何で民間人に銃を向けたんですか?少し面倒なことになったじゃないですか」
木更津は、土村に小声でそう尋ねる。
「ああ……あまり大きな声じゃ言えないが……実はな、奥多摩を出たあたりから、ずっと強大な気配を感じていたんだ。それが、ここに近づけば近づくほど濃くなっていた」
土村は額に冷や汗を浮かべながらも、話を続ける。
「そして、ここに来た時、確信した。ここに、気配の正体がいるとな」
「………勝てますか?」
「無理だな。紅雲さんなら……わからないが。俺じゃ、絶対に勝つことは無理だ」
「そうですか……」
「まあ、お前も早くチヌークに乗れ。ヘリに乗るのは、パイロットの二人を除けば俺たちだけなんだから」
「わかりました」
そう言って、木更津はヘリに乗り込んだ。
(さて……俺もヘリに乗るか。………それにしても、二人が妹と言っていたあのガキの背中、翼が生えていた。本当に人間か?まさか魔族側……じゃないよな)
そこまで考えて、土村は首を振った。
「いや……俺は、紅雲さんの判断を信じるだけだな」
そうつぶやいて、土村はヘリに乗り込んだ。
バババババババ…………
プロペラが回転し始め、周囲の風圧が強まる。
(死ぬなよ………田村)
ヘリは地面を離れ、空へと飛び立った。
東京 中央区 グランデヒル Aタワー 66階
グランデヒル。昨年に完成した65階建てのツインの超高層ビルであるが、建設計画時から『桐生グループ』の所有物となっている。
その最上階、66階は会長専用の階となっており、社長ですら滅多に近寄らない。
そんな場所で、窓から東京の景色を眺める人物が一人。
「会長。土村から連絡が」
身長175cmほどの美青年が、豪華な椅子に座る人物にそう告げる。
彼の名は紅雲。第一空挺団の団長だ。
「………何?」
そう返すのは、椅子に腰掛けた一人の女。腰近くまで伸ばした長い黒髪に、赤い眼。25歳とは思えぬ威圧感に、とても美しい顔立ちながらも冷たい鉄のような表情。しかし、その瞳はギラギラとしていて、野望に燃えている。
「目標を回収し、現在こちらに向かっているとのことです」
「そうか。思ったより遅かったな」
「どうやら、目標が暴れたようで」
「フン………まあいい」
(そんなことをするのは………優かアイツくらいだろう。ああ……そういえば、アイツを回収させるのを忘れていたな)
女はため息を吐くと、机の上に置かれた赤ワインの入ったグラスを手に取り、口につける。
その所作は美しく、王族貴族のようである。
「うん……やはり美味いな」
「何せ、80年モノですからね。ああ、後、義熙様が会長にお会いしたいと先程泉堂殿から連絡が」
「………チッ。いつまでも古臭い慣習に囚われる遺物が。性懲りも無く……」
女は目を細め、そう呟く。
「どう致しますか?」
「待たせておけ。………今は会う気がしない」
「承知いたしました。泉堂殿にはそのように伝えます」
紅雲は深く頭を下げると、退室した。
一人きりの部屋で、女は窓から崩壊した東京の景色を眺める。
「それにしても、思ったよりも進んでいないようだが。………新たな秩序のために、もう少し働いてもらわねば困る」
(確か、今日本に来ているのは………レティアか。アレは遊ばせておいた方が進みが早いか?だが、あまり早すぎても不味い。『黒炎』は2年前処理したが……もう片方は未だ行方が不明だ。何も起きないな越したことはないが……もし、目覚めた時のために、瑞樹の『雷の理』が必要だな)
女は、瞑目し呟く。
「今度は拒むなよ…………瑞樹」
やっとこの人を登場させられたっ!!




