蠢影
ギリギリ。
「では、自己紹介も終わったところで、これからの対策について話し合っていきたいと思います」
「話し合うって、具体的には何を話すんだよ?」
三鷹さんが手を挙げてそう言う。
「見張り番をつくるか否か、皆様のレベルに関しては、などについてです」
吉田さんはそう言うと、俺の方へと目を向けた。
「えー、この中で一番強いのは天上さん、貴方なので、何かわかっていることや、意見などありませんか?」
うーん、わかっていること……モンスターやスキルについてなら他の人よりは詳しいとは思うが……
ぶっちゃけ、この後も戦い続けられるビジョンが見えない。俺たちが強くなるとしても、その間に何人が死ぬ?どれくらいモンスターは強化される?
俺たち一部だけで戦っていてはいつか全員死ぬことになる。ならば、全員で戦ったほうがいい。しかし、戦いたくない人がいるのも事実だ。どうにか、納得してもらうしかないな。
「じゃあ……皆さんは昨日立川市のボスが討伐されたことは知っていますか?」
俺がそう言うと、皆頷いた。吉田さんや三鷹さんは『まさか』という表情になった。どうやら察したようだ。
「立川市のボスは、俺が倒しました」
その言葉に、皆、いや、昨日説明していた瑞姉と優姫以外の全員が驚いたような顔をした。まあ、それもそうだろう。
「俺自身、本当に死にかけのギリギリのところでした。〝総合〟は2900を超えていました」
吉田さんや三鷹さんなど、モンスターと戦ったことのある者達が絶句する。〝総合〟2900。サイクロプスの2倍近くである。俺自身、最初見た時は同じように驚愕したから理解できる。
「一部、というのがどの程度の範囲をさすかは現時点では分かりませんが、モンスター達がSPを使い始めれば、モンスター達は今より遥かに強くなります」
モンスターと戦ったことのある人、否……経験の無い人でも理解できる。見て、体験している人もいる。人智を超えた化け物を、人間とソレの圧倒的な差を。
それが、更に強化されるという現実。それに、絶望するのも無理はない。
「ですが、俺たちも何もできないわけではありません。俺たちには、スキルとステータスがあります。これを上手く駆使すれば、モンスターにも対抗できるはずです」
「そ……それはつまり、私たちにも戦えと、そういうことですか?」
血月さんが手を挙げ、震え声でそう言う。
確かに、その通りだ。一部の人たちだけで戦っていてはとても間に合わない。今は数が必要だ。強力な敵でも、強力すれば倒せるかもしれない。
「確かに……その通りです。また他のエリアのボスがこの町に来た時、戦いたくない人は戦わなくていい、なんて悠長なことを言っていたら、俺たち全員が死ぬことになります。俺も、なるべく努力はしますが……俺が勝てるかどうかの保証なんてないんです」
「だ、だが、モンスターと戦えば死ぬ可能性もあるのうだろう?」
浜野さんがそう言った。そうだ、モンスターと戦えば死ぬ可能性もある。
「その通りです。死ぬ可能性だってある……ですが、それは俺たちも同じです。ただ、可能性が低いだけ。いや、ボスの前ではそれも大して変わりません。俺たちが死ねば、貴方達は確実に死にます。俺たちの為じゃなくていい、自分たちのために、強くなってください」
「……しかし……」
浜野さんは、いや、大抵の人は渋っている。怖いのだ。死ぬことが、苦痛が。俺もそうだ。死ぬのは誰だって怖いのだ。瑞姉が、視線で諦めろと言ってくる。
仕方ない、と諦めかけた時、一人の人物が手を挙げた。
「……私は、やります。それが、皆さんのためになるのなら」
血月さんが、ゆっくりと、しかしはっきりとそう言った。
「……ありがとう、ございます、血月さん。皆さんはどうですか?」
「お、俺もやるぞ。どうせ死ぬかもしれないなら、強くなった方がいいに決まってる」
サラリーマンの20代後半と思われる男性がそう言う。すると、皆が手を挙げ始めた。
最初に誰かがやると他の人に追随するというのは本当らしい。
「ううむ……しかし……」
浜野さんは最後まで渋っていたが、BPのこと、上位スキルのことなどを話したら最終的には戦うと言ってくれた。全員で協力すれば、強化されたモンスター達にも対抗できる可能性があるかもしれない。
そのあとは、俺の知っていることを共有し、見張り番を当番制で行うことになった。
「優、貴方すごいわね。まさか全員に戦うことを了承させるなんて」
その日の夜、寝る前に保健室で瑞姉がそう言った。
「いや……本当は戦いたくない人は戦わないようにさせたいんだけど……そんなことを言ってる余裕がないんだ。まあ、全員が了承してくれたのはラッキーだった」
「優兄、なんかかっこよかった」
「はは、ありがと、優姫」
電気を無駄遣いできないので、電気を消して早めに就寝する。
暗くなった部屋のベッドの中で考える。
今はまだいいが、もし更にモンスターが強化されていったら、人類側の敗北は決定的になるだろう。
(ゲームマスター、か……もしゲームだったら、楽しめたか?)
そんなことを心の中で呟くと、自然と優は眠気に呑まれていった。
スーッスーッ
僅かに寝息を立て、ベッドで寝ている優を、見下ろす一つの影があった。
「ふーん……成る程。確かに綺麗だねぇ。まあ、あの人が欲しい理由はどうせこの子の力だと思うけど……」
影は優を値踏みするような眺めると、優の左頬に自身の右手を添える。
「……渡せばいいってことは……私が好きにしても渡せばそれで構わないってことだよねぇ?」
影は目を細め、優の白い前髪をに手を触れる。
「ふふっ、こんな上物久々だし、楽しめそうだなぁ……」
ブブッ
その時、影ポケットの中のスマホが鳴った。
「ああ、そういえばそろそろだっけ……」
影は保健室の扉を触れずに静かに開け、廊下へ出る。影が出ると、扉が勝手に静かに閉まる。
影は廊下を歩きながら、スマホを取り出し電話に出た。
「もしもし?」
『……出たか。てっきり契約を反故にされるかと思ったぞ?』
「えー、私そんなことしたことないけどなぁ?っていうか、電波戻したんだ」
『ああ、態々お前のところに行くのも面倒臭いし、癪だからな』
「酷ーい。ほむ姉そんなこと言うんだー?」
影が小馬鹿にしたようにそう言うと、通話相手の声色が変わった。
『貴様……貴様のような下衆が、その名で呼ぶな。』
「あはは、ごめんごめーん。それで、契約通り私は好きにしていいんだよね?」
『……ああ、殺さなければいい』
「ふふっ、了解」
『……期限は1ヶ月以内だぞ』
「わかってるよぉ。それと、アレの準備もよろしく♡」
『……チッ』
ブツッ
通話相手が電話を切り、通話が終了する。影はつまらなさそうに、それでいてどこか可笑しそうに言う。
「あーあ、切られちゃった……ふふっ、今回のゲームは……暇つぶしにしては、楽しくなりそうだなぁ……?」
ゲームであることを知っている人物。こういうの大好きです。




