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第九話 恋はめんどくさい?

「なんでうちにいるの?」

リビングで透を待っていると、透の一番上の姉、結紘(ゆづる)さんが俺に声を掛けた。

「なんでって、透と勉強するためっすよ」

「はぁ~あのね~そういうときはまず挨拶でしょ?」

「あ、ちーす」

「あ、ちーす、じゃないわよ。ほんと、かわいくないわね」

ゆづるさんは冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してグビグビ飲み始めた。


俺、富井圭吾は本日、期末テストの対策勉強として透の家にお邪魔している。

透の家に来たことあるのはテスト勉強するときやゲームをするときぐらいだ。なのに、結紘さんには顔を覚えられているし、なんかいつも喧嘩腰に話かけられる。


「あんた、また耳の穴増えてない? なんで開けるの? 痛いのに」

「…俺の勝手す」

「あーーもーーかわいくない! かわいくない! なんでトーくんはこんな奴と友達なのかしら!」

いつもこんな感じだ。俺、何かしたかな? ピアスの穴の数を覚えているなら嫌われていないとは思うし、そもそも嫌われる要素を出したことはない……といえば少し嘘になる。

「あれ、ゆづ姉仕事は? もう帰ってきたん?」

着替え終わった透が二階から降りてきた。

「今日はお休みよ! ちょっと出かけてて今帰ってきたところっ! お出迎えできなくてごめんねトーくん~~~♪」

今にも抱き締めようとする結紘さんを透は全力で避けた。

「今日は私が晩御飯当番だけど、どうする? 何食べたい?」

「オムライスかな~。ケイはどうする?」

「俺は…その前に帰るかな」

「えーー食べて帰んなよ~」

「………トーくん。今なんていった?」

何か暗黒のオーラを感じる。悪寒がする。これはやばい空気になる絶対。

「え、うちで食べて帰ればってケイにいったけど? ダメだった?」

「ち、ちがうわ! 今こいつのこと、【けい】って呼んでなかった??」

あーそうか、透から俺の名前呼びは結紘さんの前では初めてだったな。

「呼んだけど? え、だから何?」

「お姉ちゃんの知らない間に何二人で進展してるのよ!」

もっていたミネラルウォーターのペットボトルがぐにゃぐにゃと握力でへこんでいく。

「名前呼びなんて普通じゃないっすか。俺だって透って呼んでますし」

「そ、そうだよ、何変なこといってんだよゆづ姉! てか、晩御飯かってきなよ!」

透は少し赤面しているような恥ずかしそうな顔で結紘さんを玄関まで押し出す。

「あんた! わ、私のいないあいだに何か変なことしたら許さないからね!」

俺はぺこっとお辞儀をする。なんだよ、変なことって。

つうか、姉弟そろって俺の名前呼ばないよな~そういう家柄なのか?

透と結紘さんが玄関先でギャーギャー言っているのを聞きつけたのか、もう一人の姉、葵瑠(まもる)さんが二階から降りてきた。

「騒がしいとおもったらまた姉弟喧嘩…。仲良いわね、ほんと」

「お邪魔しています」

「あら、富井君、来てたのね。いらっしゃい。あらお茶も用意しないで喧嘩してるの? ごめんなさいね。今用意するから」

ほんっと真逆だよな~結紘さん葵瑠さんって。二人を足して二で割ったぐらいが透だよなといつも思う。

「はい、ちょっと癖があるかもしれないけど、チャイっていう紅茶よ」

「いただきます………ん、うまいかも」

「あら、解ってくれてありがとう。あの二人は苦いとかまずいとか言うから私の味覚が壊れたのかと思っていたけど、解ってくれる人がいてよかったわ。」

ふふふと葵瑠さんは笑った。お上品に。


「ふー、やっと買い物いきやがった。あ、まも姉降りてきてたんだ」

「貴方たちの喧嘩声がうるさくて降りてきたら富井君がいたからお茶用意したわよ。来客にお茶もださないなんて、あなたたち礼儀がなってないわ」

「すみません。そしてありがとう」

「今日は勉強しにきたの?」

「はい、期末テスト対策を」

「じゃお邪魔になるから、私は部屋に戻るね。ご飯できたら呼びに来て。透くん」

「解った」

姉たちがリビングからいなくなった途端物静かになった。

「お前んちってホント面白いよな」

「余計なお世話だ」

カバンから教科書とノート、課題のプリントを出す。二年の期末はほんとほぼ解らないから透に教えてほしいといったら家に呼ばれた。

「なんつーか、羨ましんだよ。俺、一人っ子だから」

「そういやーそうだったな」

「だから兄弟がほしかった。だから友里乃と仲がいいんだよ」

そういったとき何に対しての言い訳なんだこれと思った。

だからとはなんなのか、なぜ友里乃の名前を出したのか解らなかった。だけど、透はニコっと笑っていた。まるで俺の弱点を見つけたかのように見えた。

「そういう話、ケイから聞けるのほんと嬉しいからさ。もっと話せることあったら話してよ、な?」

ニヒヒと透は笑う。

でもな、透。お前に言えることといえないことがあるんだ。

お前だってそうだろ? 本当の気持ちなんて話せないことあるだろ? たとえ親友でも。


課題を終えたのは開始一時間後の19時だった。

結瑠さんはチクチク俺に攻撃しながらご飯を作っていた。

「なぁ、俺さ、結絃さんになんかしたか? なんであんな攻撃的なん?」

俺は本人に聞こえないように小声で透に聞く。

「お前がチャラいからじゃないか? またピアスの穴増やしただろ? いったそー」

透が俺の右耳をそっと触る。右耳には耳たぶに一つ、軟骨のところに一つ、ピアスを付けている。あと黒いイヤーカフを付けている。透の人差し指が耳たぶに当たる。くすぐったい。

「ちょ、やめろって」

「なぁなんで開けんの? ファッション?」

「まぁ。そんなもん」

というのは表向き。本当は時々むしゃくしゃする気持ちを自分に傷つけることで紛らわしているのだ。本当はやっちゃだめだって思うんだけど。

「は? ファッション? 親から与えられた体に傷つけて、ファッションですって?」

テーブルを片づけなさいと言いにきた結絃さんが両手を腰にあててぷんぷんと怒っている。

だから俺何かしたのかな?

「もっと自分の体、大事にしなさい! トーくん、まもちゃん呼んできて」

「はいよっ」

透が席をはずし、二階へと上がった。

「あの、ほんと、なんでそんなに怒ってるんすか? 俺何かしました?」

「……トーくんにふさわしくないと思っているからよ」

「でもあいつは俺のコト親友っていってくれてるっすよ」

「そうかもしれないけど! 私は許せないのっ。そんな髪も染めてピアスもチャラチャラつけて、不良みたいな子はトーくんにふさわしくないのっ!」

ぷんぷん怒っているわりには俺の分まで綺麗にオムライスを作ってくれている。嫌われているわけではないよな、これ。ま、いっか。話してくれるだけいいと思っておこう。

透と葵瑠さんがリビングにやってきて、みんなでご飯を食べる。

俺は黙々と食べるが、三人は今日の出来事を話しながら笑ったり怒ったり傍観したりしている。俺んちにはない空間だ。なんだろう、少し羨ましいと思ってしまった。


きっと、俺ん家の晩御飯はいつも俺一人だからかもしれない。


「もう遅いんで、皿洗って帰ります」

「いいって洗い物は僕の担当だから、そのままでいいって。ていうかもう帰るの?」

「これ以上結紘さんのご機嫌を損ねちゃいけないかと」

「なんですってーーーーーー?」

「美味しかったです。ごちそうさまです」

「な、なにそれ、豪雨がふるんじゃない……?」

凄い驚いた顔をして結紘さんは俺をみる。なんだよ、お礼言っちゃだめなのかよ。

「透くん。送ってあげなさい。洗い物は私がしておくから、私の担当の時に透くんお願いね」

「わーった。んじゃいくか」

俺は姉たちにお辞儀をして透と一緒に家を出た。


「ごめんな、ゆづ姉がいつもあんなんで」

「慣れてるつもりだけど、どうしても納得いかないから何が悪いのか治しようがない」

「僕からも聞いておくよ。まぁ一つはその見た目じゃね?」

「……なぁ」

「ん? なに?」

「透はさ、俺がこんな見た目でも、嫌いじゃないか?」

「……そうだな好きではない」

やっぱ姉弟は同じ考えなんだなと俺は少し落ち込んだ。もうピアスやめよう。

「でも、その黒いイヤーカフ? だっけ? 有城もやってるじゃん? かっこいいなとは思うよ。穴あけなくてもつけれるやつだろ?」

好きではないものに対して好奇心を持つこいつはなんなんだ?

「うん、簡単にとれるし簡単にはめられる。やってみる?」

俺は右耳につけていた黒いイヤーカフをとって透に渡した。

「ちょっち広げて、耳のここにはめ込むみたいにするんだよ」

俺の耳で位置の説明をする。透は不器用ながらもはめ込もうと四苦八苦している。

「ちょっと貸してみ」

俺はイヤーカフを透の右耳の軟骨あたりに挟もうとした。

「あ、あのさ、富井……」

「ん?」

「かおが、その、近い」

透の顔を見ようとしたら俺の鼻が透の右頬にツンっと当たった。

「あ、わりぃ。よく見えないから暗いし。もうちょいでつく」

だんだんと透の顔が赤くなっているように感じた。

「く、くすぐったい~。もうついた? できた?」

「ん。ついた。いいじゃね? かっこいいかも」

透は自分のスマホを取り出してカメラに設定し自撮りする。

「おおおおお!! なんか陽キャに一歩前進したみてぇ!」

「それ、やるよ。」

「え、いいよ、わりぃよ。自分で買えるし」

「いいからもらっとけ」

俺は透の頭をくしゃくしゃした。なんか素直で可愛らしかったから。

「てかさ、富井はよく人の頭ポンポンするよね、あれ癖なの?」

「透、苗字呼びに戻ってる」

「あ、ごめん」

「んー。癖なんかな。言われてみればよくしているかも。友里乃とか」

「………ふーん」

空気が変わったのが解った。さっきまで可愛らしそうな透がふてくされたように見えた。

「あのさ、ここだけの話していい?」

「な、なんだよ、こえぇな」

「とみ………ケイはさ、本当に弥高さんのこと好きじゃないの?」

透は俺の真正面に立ち、真面目な顔でそういった。

「だから言ったじゃん。妹みたいな存在だって」

「でも、好意をもつことだってあるだろ? 近すぎて解らないんじゃないの?」

「なんだそれ」

「離れたら実はすごく大切な存在だったって気付くんじゃないの?」

なんかすごくイライラしてきた。

「俺のコト信用できない? 友里乃はお前が好きだって言ってるし、俺は俺で違うやつ好きだし。だから好きじゃない。好きといっても家族のようなもんだし」

また透がふてくされたような顔をした。

「家族のようなもんだから、あんなにかばったり助けたりするんだ」

「まぁ…友里乃のおかんから頼まれているのもあるし。どうした? さっきから」

「じゃ、弥高さんがたとえば僕と付き合うってなってもケイはどうも思わないの?」

「おめでとうって思うよ。友里乃の思いはお前が幸せになることで、それは俺も思うことだから」

透は難しそうな顔をする。

「そ、そうなんだ。いやでも、なんだこれ、なんかモヤモヤする」

「それはお前が恋愛に免疫がないからだろ?」

「それはそうかもしれないけど、だから嫌なんだよ恋って」

透は自分の感情が解らなくなって頭をくしゃくしゃをかく。髪の毛がボサボサになっていた。

「…とりあえずシンプルに考えたら? 告られた人とキスできるかできないか。それで決まるんじゃね?」

どんな理屈だよ。と思ったけど、透はそれをきいてそうだよなって納得したように見えた。

「やっぱり恋愛はめんどくさいよ。友達といる方が楽」

透はそういう。確かにめんどくさいかもしれない。でもその人が誰かの特別になったらって考えた事ないんだろうか。今までの距離ではいらなれなくなったらとか、思わないんだろうか。

「ん、ここでいいよ。ありがとな、勉強付き合ってくれて」

「僕にできることならなんでもするよ。…今度はケイの家で勉強しようぜ。親大丈夫?」

「ん。いつもいないし、あ、でも友里乃がくるかもな」

「それって、僕の横で勉強になるんかな?」

確かにならないと思って二人で笑いあった。

透と別れて家に着く。



「ただいま……って、誰もいないわな」

玄関の電気をつける。リビングに向かう。結紘さんの残像が現れる。

時計の音しか聞こえない。カチカチカチカチ。時を刻んでいる。

俺はカバンを置いて、ピアスを外して、制服を脱ぐ。晩御飯は机に置いてある一万円札だった。

「今日は夜勤だったけ。洗濯、しとかないと」

溜まっている洗濯をまわして終わるまでの間にシャワーを浴びる。

さっきの会話で透が言ったことを思い出す。


『弥高さんがたとえば僕と付き合うってなってもケイはどうも思わないの?』


そんなの、どうも思わないわけがない。

俺のそばから透が離れていく、ほかの人と特別な関係になる。

考えただけで胸が締め付けられる感覚になる。

「ほんと、めんどくさいな」

この気持ちを言葉にしたくない。言いたくない。

言ってしまえば、本当にめんどくさくなって後戻りできなくなるから。


ほんと、マジで。

「恋愛ってめんどくさっ」



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