第八話 友達の定義
昨日の放課後、弥高さんは粒浦さんに呼び出しを食らった。
それで彼女がどうしてひきこもるようになったのかがはっきり解った。
ケ、ケイは優しいし、幼馴染だから話きいてあげたんだろうな。
朝のクラスの空気がいつもと少し違っていた。
それは弥高さん自身が粒浦さんと話をしているからだ。
「なんだなんだ、修羅場か」
「近寄れない…あの空気…!」
クラスのみんながザワザワしている。
「おはよー。なに、この空気、どしたの?」
「ユタ、おはよう。あれ見て」
「わーお。友里乃ちゃん、結構度胸あるね。昨日あんな泣いてたのに」
「お前のおかげなんじゃね?」
「は?」
ユタと話しているとガタっと粒浦が立ち上がって腕組をした。
「で、話しとはなんです? ワタクシも暇ではないんですよ!」
「あ、あの! 私、吉岡透くんが好きなんです! 彼の幸せを願うほど、応援したくなるほど好きなんです!!」
「だからなんですの?」
「もしか、もしかしたら、粒浦さんも、トミーのこと、そう思っているのではないかと思って…!」
ザワザワとクラスのみんなが騒ぎだす。当の本人はいないのに修羅場が暗黒色になっているように見えた。僕とユタは何か起こってもいいように構えていた。
「そう思っているとは、どういうことですか?」
「トミーのすべてを知っていますか? 粒浦さんからみたトミーのこと、教えてください!」
「ワタクシからみた圭吾様をここで語れというの? そんなの………」
粒浦は両手で長い髪を後ろにバサッとかき分けて腰に両手を置いた。
「圭吾様のあの物静かな佇まい、かすかに見える右目と目があった瞬間、ワタクシの幸福度は爆上がりです! あと、笑ったときの顔、あの表情はレアなのです! これはワタクシが撮りましたわ!」
粒浦さんはスマホを水戸黄門の印籠のように弥高さんの目の前に出した。
「粒浦さん………解ります! これは私が大好きな笑顔の透くんです!!」
弥高さんも水戸黄門の印籠のように自分スマホの画面を粒浦さんに見せた。
「圭吾様のほうが、さわやかな笑顔ですわ! あと笑い方もかわいらしい、一生見ていたい……」
「くしゃっとした笑い方をしたときのえくぼができるところ、見逃してないですよね…」
「そう、あの笑顔だけはまだ盗撮できていなくて…」
「ならば粒浦さん、ラインを交換しましょう。私の持っているトミーの貴重写真送ります…!」
「え、ほんと! ………ごほん。そんな手には乗りませんわよ」
「小さいころの写真とかもあるのに…。いらないんですね、粒浦さん」
「そうやって脅したってワタクシは自分でゲットしますわ!」
拒否するくせに弥高さんのスマホをのぞき見しようとしている。
「粒浦さん。私とお友達になってくれませんか? トミーの情報いろいろ持っている私と友達になければ得するとおもいますが?」
弥高さんはスマホを口元において上目遣いで粒浦さんに問いかける。
女子って怖い。
「い、いいでしょう! ではライン交換いたしましょう!」
しぶしぶ粒浦さんがライン交換する。凄いぞ昨日の今日でここまで距離が縮まるものなのか。
「ほんと、女子ってわかんねーな」
「ほんまそれ」
僕とユタは少し安堵した。昨日のユタの策がこんなにもサクッとできるとは誰も思うまい。
「追加しましたわよ、さぁ、送ってちょうだい!」
「ふふふ、わかりました」
さっきまで修羅場だった空間が一気に花畑のような空間になっていった。
「はよー。ん? どした?」
「圭吾おはよー。友里乃ちゃん、粒浦とライン交換できたって」
「すげぇな。あいつ元々コミュ力は強いからな」
ケイは弥高さんと粒浦さんの近くまで寄って行った。
「粒浦、友里乃のことよろしくな」
ケイの癖、頭をぽんっとたたく行為を粒浦にもした。
ヤカンが沸騰するような音が聞こえるぐらい粒浦は赤面していた。
「け、けけけけけけけいごさま!! あああああそんな、そんな私の頭にぽんってそんなあああああああああああああああああああおおおおおそれおおおおおいいいいい」
さっきまでの威圧感はどこいったよ粒浦。
好きな奴の前ではそんなきょどるのかよ。
「お前ら似てるな」
「うんっだからすぐに友達になれたよ!」
「あ、でも、貴女だけ特別扱いされるのはワタクシが許してもほかの女子は許さないかもしれませんから、気をつけないさいね。ところでまだ画像が送られてきていないわよ友里乃さん」
「今から送るね、琴実ちゃん」
えーー、いつの間に名前呼びになってるんだーすげぇー女子すげー。
感心してると、ケイと目があった。
何か言いたそうだったけど、距離が教室の端と端だったので、スマホを取り出して何かしている。
「ん、ライン?」
【俺たちはあんなに名前呼びに苦戦してたのに、女子って凄いよな笑】
いや、ほんとにすごいけど、それラインで送ってくるかね。富井くん。
【うるせぇ、バカ】
僕はむず痒くなりながらケイに返事をした。