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第四話 推しの存在

私、弥高友里乃は高校に入ってクラスの女子たち中心にシカトされる状態になってしまった。


原因は男子たちと話をするのが理由らしい。女子特有の嫉妬というもの。その気持ちは私にもわかる。でも私から話しかけていくのはトミーだけなのに、何を勘違いしているのか、クラスの男子生徒全員にこびていると女子の中で噂になってしまっていた。


入学してすぐに友達はできなかった。

中学はトミーもいたし、変な噂がたてばトミーが助けてくれた。

そんなんじゃだめっておもって違う高校へ入学したのに、私弱いな……。


入学当初は

クラスの男子たちが心配してくれたから。

少し楽だった。女子からの嫉妬は続いていたけど、話してくれる相手がいたからまだ大丈夫だった。


でも、だんだんとクラスのみんなが私をシカトする。

男子たちも話かけようものならば

「お前と話すとへんな噂立つから…」

と避けられるようになった。

私、何もしていないし、人のモノに手をだしたわけでもない。

男が好きでこびているわけでもない。


教室に入ったらにらむように見られている感じがして、前髪を伸ばして目を覆い隠し、周りの視界を遮断した。

笑えばこびていると言われる。

話せば口説いていると言われる。

男子と話せば甘えていると言われる。

先生に助けを求めようとおもったら、今度は年上を口説いていると言われる。


私の出口はどこにもなかった。

この学校というかごの中では私は生きにくい人間になっていった。


行きたくない。

そう思うようになってゴールデンウイークが終わるころから私は学校に行かなくなった。

親は母親しかいなくて毎日忙しそうに、でもいつも元気に私を励ましてくれた。

「高校生活なんてね、たったの3年なんだから、行くのも行かないのも友里乃の自由よ!」

お母さんのその言葉に救われて、私は引きこもりを決意した。



でもこのままじゃだめだっていうのも解っていた。

この先、頑張れる理由を探さないといけない。

「恋」でもしようかな。でも髪の毛はぼさぼさ、いまだに前髪は目を覆っている。

笑顔も忘れたし、話し方も忘れた。人とのコミュニケーションの取り方が解らない。

そう思って日々過ごしていたとき布団の中でスマホをいじっていたら

とあるライブ配信を見つけた。


『私の推しはこの方です!! はーーー尊いですね!!』


その配信者は好きなキャラクターを「推し」ているという。

「推し? なにそれ」

『ここのみてください、体のラインとか最高じゃないですか?! ほんと、神です!』

楽しそうに嬉しそうに聞こえる声が少し羨ましかった。

そこに書かれているコメントには

「私もそこ最高だと思う!」

「わかりみがすごい」

共感する人がたくさんコメントしていた。時々「キモ」というアンチみたいなコメントもあったけど、その人はそんな言葉すら届いてないかのように語っている。


『最後に、私はこのキャラを愛しています! 出会ってなかったら私こうやって配信やってないし、共感してくれるリスナーに出会えなかった。推しに出会えたことに乾杯!』


すごいな、この子。架空のキャラクターなのに、そこまで思える気持ちがあるんだ。

そういう気持ちになってみたいな。

私だけが愛を注げる「推し」みたいな存在がほしいな。

誰にも否定されない、自分だけがもつ愛というものが、もし私にまだあるなら

見つけて、推したい。愛したい。私の一方通行でいいから、そういう気持ちになってみたい。


そう思った。

私はそれからその配信者の動画をあさり、推しという気持ちを勉強した。

尊いと思える存在が私にできるようにと。



気付いたら夏休みが終わっていた。

そろそろ学校へ行かないなとは思っていた。でもやっぱりまだ怖い。教室の扉を開けても誰も振り向かないのかもしれない。ヒソヒソと話し声が聞こえてくるかもしれない。そう考えると手が震えた。怖い。怖くて、勇気が踏み出せない。


そんな時だった。

「学校そろそろやばいんじゃね?」

様子を見に来てくれた幼馴染のトミーが私の部屋に来て言う。

トミーは私のことを異性としてみていないのは長い付き合いからわかる。私もそうだった。トミーを好きと思ったことはない。男性として魅力がないわけではない。モテるだろうなって思うこともある。こんな私のこと心配して様子見に来てくれる男だよ? きっと隠れファンがいるに違いない。

「解ってるよ…でもまだ教室に入る勇気がでない」

「じゃー、俺の通ってる学校に編入してみる? それだったら来れるだろ? 今からなら間に合うんじゃね?」

「でも、そうしたらまたトミーに迷惑かけるし、それが嫌で高校変えたのに…」

でもそう決断した結果がこれだ。私は何も変われていない。周りからの目が怖くて何も動き出せていない。

「そんなのどうでもよくね? 中学んときはさ、俺いなくても友里乃笑ってたじゃん? 楽しかった時間あっただろ?」

「そ、そりゃそうだけど」

「あと、その前髪、うっとおしいから、美容院いけ。黙ってても綺麗にしてもらえるんだし」

「う、うん。そう、だよね。動き出さなきゃ何も変わらないわけだし…」

トミーの一言で少し勇気がでた。高校生活をやり直せるかもしれない。

もしかしたら、その学校で何か起こるかもしれない。

ヨシッと気合をいれていると、トミーのスマホがなった。

「あーごめん、電話だ。…もしもし? どうした? あー、うん。はいはい。解った、明日持っていく。うん。はーい」

「誰?」

「高校で友達になった奴。こいつなんだけど」

トミーがスマホ画面を見せてくれた。


「…………かわいい」

「いや、こいつ男だから。確かにかわいいかもしれないけど」

「か、かわいいというか、尊い、、、この気持ち、、、」

モヤモヤしていた視界が風が吹いて澄み切る感じになった。

「どした? おーい、友里乃?」

「トミー! 私、決めた! トミーの学校に編入する! お母さんに相談して、私の学校にも掛け合ってみる!」

「お、おお。」

「そしてその人のお名前を教えてください!!!」

今までのテンションと真逆すぎたからなのか、トミーは凄くスットンキョンな顔をしていた。


「こ、こいつ?」

「はーーーー!! なんでそんなにかわいいの!! そう、その人の名前を!!」

私の心臓はいつも以上に跳ねていた。血も流れている感覚がする。


生きている感覚が体中で解る。


「吉岡 透。俺の親友」


名前を聞いただけで、幸せだと感じた。

「トミー! それお守りにしたいから写真送って!」

「お、おお。わかった。他もいる?」

「他?! うん!!」

トミーが持っている透くんの写真をラインで送ってもらった。

「トミー、ありがとうね。私と、透くんに出会えてよかったって言ってもらえるように頑張るね」

「…なんかわかんねーけど、お前が元気になるんなら協力する」

ふへへへ、と照れ笑いをしながらスマホに送られた透くんの写真を眺める。

癒される。活力になる。頑張ろうと思える。彼が笑っていてくれるならなんだってできる。


恋とは違う。でも好きという気持ち。愛をあげたい思うこの気持ち。


『最後に、私はこのキャラを愛しています! 出会ってなかったら私こうやって配信やってないし、共感してくれるリスナーに出会えなかった。推しに出会えたことに乾杯!』


あの時、たまたまみつけたライブ配信で言っていた配信者の言葉が脳裏によみがえる。


そういうことだったんだ。こういうことだったんだ。

「これが、推し、ってことなんだ…!」


私は、その日から、通っていた学校へ編入することを伝え、編集試験に受かるために勉強をして、約半年の時間を経て、高校二年の春、無事推しの学校へと編入することができた。


透くんに出会いたかったから。

透くんと同じ空気が吸いたかったから。

透くんの幸せを願いたかったから。


好きだけどでも違う。

透くんが幸せになってくれるなら私はなんでもいいの。

貴方が笑ってくれる人生を私は全力で応援したい。


帰りに寄った喫茶店でパフェを食べてた透君の横顔の写真を見ながら私は明日を楽しみに眠りについた。

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