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番外編 一年前の彼等の夏休み

過去話です。高校一年生の彼ら、弥高友里乃に出会う前の彼らの夏休みです。

2020年 8月

高校生最初の夏休みだった。


「ねー透~どっかいこうぜ~」

僕の家に来ていたユタは扇風機に向かって言い放った。

「有城は人生初のバイトするんだってはりきってるし、圭吾は音沙汰ないし。お前しか相手いないんだよ~」

「だからってうちにたかるなよ。課題おわったのか?」

僕はリビングで課題をしている。ユタはというと課題を一緒にしようぜとうちにきたのにこいつ、手ぶらできやがった。

「おわってると思うー? ていうか夏休みなんだから遊ぼうぜ~」

「遊ぶっていっても、どこに行くんだよ」

「有城を茶化しにいこうぜ」

「どこでバイトしてるか知ってんの?」

「んー、確かスーパーって言ってたような~。ラインしてみよ」

ユタはワクワクしながらポケットからスマホを取り出して有城にラインする。

僕は富井に「今、ひま?」とラインした。


「有城、今日バイトだって。スーパー小池っていう店」

「コイケ? まぢか」

「なんだよ、何かあんのかあのスーパー」

「……うちの姉が働いてるんだよ」

「結紘さん、あのスーパーだったのか!」

いやだな~友人とゆづ姉の職場に行くのは、なんか変な感じする。

「あ、富井から返事きた。暇だけど暇じゃないって」

「じゃ、圭吾も誘おうぜ」


というわけで、僕とユタはスーパーコイケで圭吾と合流することになった。


「で、なんでここ集合よ」

「てか、富井なんでそんな髪色なんだよ」

僕はびっくりした。初めて会った時も茶髪だったけど、今や金髪に近い色になっている。

「暇だったから染めた。穴もあけた」

髪を耳にかけてピアス穴を見せつけた。痛そう。なんかジャラジャラついている。

「僕はなんで君みたいな人間と友達なんだろうなって時々思うよ」

「圭吾は外見そうだけど、案外優しいよな~俺にノート見せてくれるし♪」

それはお前がずるをしているから優しく感じるんだよ。

「……お前がそういうなら髪は夏休み限定にする」

「自分の意思をもて、富井。大丈夫、僕は外見で友達になってるわけじゃないから」

僕は富井の肩をぽんっとたたいた。富井は首を傾げた。


店に入ると、果物の香りがふわっとした。夏の果物が入り口に並んでいる。

スイカもどどんと並んでいる。ああ、食べたいな。

「で、なんでここなんだよ」

「圭吾、聞いてくれ、あの、有城が、あの有城がここでバイトしてんだよ…くくくく」

思い出し笑いするユタ。確かに有城がバイトしているってイメージがない。

ホストならイメージできるんだけど。


店内を歩いてみるけど、なかなか見つけられない。

「有城ならすぐ見つけられそうなのにな」

「んー、たしかに。フロア担当じゃないんじゃね?」

「まさか、あいつのことだから………」

そう思ってレジのところへ向かうと、一人だけ頭が飛び出ているように見えた人がいた。


「ここの操作をするときはこのボタンを押してね。お客様にまず確認してから、うんそう」

「カードは返した方がいいんですか?」

「そうね、時と場合があるけど、この対応の時は先に返した方がいいよ」

「なるほど……」

その空間はイケメンと美女がレジに立っている光景だった。

すごい、こんな絵になるレジ係みたことないぞ…と僕らは見入ってしまっていた。


「透、これはシャッターチャンスだから、撮ろうぜ」

「やだよ、あとで倍返しにされる」

「あの店員さん、お前に似てるな」

「あの人僕の姉なんだよ」

そう、有城の指導をしているのは紛れもなく吉岡結紘だった。


「うわ…なんかいる」

有城さんは僕らに気付いて、驚いている。その言葉にゆづ姉もこちらを向く。

「あいつら茶化しにきたのかしら、仕事にならないじゃないの。ほんとに」

「ちーす。有城、どんな感じですか?」

ユタはゆづ姉に軽くお辞儀をして近寄る。そのレジは「研修中」の札を立てておりお客様がこないように塞いでいた。

「覚えが早くて助かるわ~まさかトーくんたちの友達だったとはね。だからって甘く指導はしないわよ」

ゆづ姉は有城の腰をバシッと叩いた。

「はい! ゆづるさん!」

「吉岡主任、でしょ?」

「はい!」

なんだか新鮮な姿をみた。


有城は兄貴が二人いる。とても優秀で父親の跡継ぎをするらしい。有城もその道に行くのかと思っていたらしいが、【女】だということで、父親からは継がなくていいと言われたそうだ。

中学からユタと仲は良かったが、高校には付属高校にはいかず、僕たちと同じ高校に行くことになった。

「こうなったら自由に生きることにするよ! 親が用意した人生じゃなかったから、なら自分の人生で楽しもうと思う」

そう言って長髪を切り、高校生になった。

髪を切ることで今度は女子らしさが消え、ほぼイケメンになってしまった。というのも有城は僕の身長とほぼ同じ170cmだからだ。バレー選手並みの身長なのだ。楽しんで生きる一つに「アルバイトをして稼いでみたい」という目的があったらしい。僕の学校は特に規則はないし、申請書を出していれば許可が下りる。有城はどれだけ稼げるのかワクワクしているそうだ。でもその前に覚えることが多くて大変そうだけど。

でも、そんな有城がイケメンというよりにやにやしている。真剣さがなさそうにみえる。


「こうしてみてるとカップルだな」

ボソっと富井がいう。

「いや、どうみても指導者と実習生でしょ」

「なんか、有城が…。そんなわけないか」

「圭吾も思った? 俺もなんか有城が…っておもった」

ゆづ姉たちの仕事の邪魔になると思い、イートインコーナーに場所を移した。

「なんだよ、有城がどうしたんだよ?」

「女だったよな。うん」

「女だったな」

「いや、女だろ」

なんだよ、このやり取り、何普通のこと言ってんだよ。

「透は気付いてねーの? デレッデレだったじゃん。結紘さんもまんざらじゃなさそうだったし」

「デレッデレだったな。犬のしっぽ見えてたな」

なんだよ、ユタと富井で意気投合しやがって。僕はそれより姉の仕事モードに少し鳥肌立ってたんだけど。

「つか、俺、お前の姉貴ににらまれてたんだけど」

「そりゃその身なりだからじゃね? チャラ男好きじゃないんだよゆづ姉」

「やっぱ黒に戻す…」

だから富井はアイデンティティってないんだろうか。それがおかしくて少し笑った。

「てかさ、てかさ、その流れで聞くんだけど、圭吾って彼女いんの?」

「どの流れだよ、ユタ」

「彼女は、いない」

「そういう豊はいないのか?」

「いねぇーなー。透は~~いらないんだよな」

「うん。恋はめんどい。こうやってダチとだべってる方が楽」

なんだよ、恋愛トークかよ。男三人がスーパーのイートインコーナーで座って恋愛トークってなんなんだよ。

「なんか進展あればいいんだけどな~合コンとか行く?」

「俺はパス。そういうの好きくない」

「僕も~。女子とは気軽に話せる人と話したい~」

「んもーノリが悪いな~。高校生活最初の夏休みなのにさ~」

ユタは机にへばりつくように上半身をくっつけた。

「来年は何かあればいいな。彼女もできたらいい~」

「豊ならできそうだけどな」

「そんないったら圭吾は遊んでそうだけどな」

「僕はそんな人と友達になった覚えはないぞ」

「…遊ばない、てか遊んでないし」

「とりあえず、その髪は新学期には戻しとけよ~富井」

「解った」

「なんだよお前ら付き合ってんのかよ~」

「「違うわ」」

「ハモるなよ」

僕はこういう空間がいい。恋愛なんてしなくたって楽しい。

ユタみたいに彼女ほしいなんて、思わない。

来年もその考えで夏を過ごすだろうなと思っていた。


でもユタに彼女ができたり、富井に彼女ができた時、僕はどうなるんだろう。


…ま、未来のことは解らないからその時に委ねよう。

あの時は思っていた。


2021年8月

僕たちは相変わらず彼女がいなくて、独り身の三人だった。

ただ、弥高さんというメンバーが加わり、去年の心境とは違っていた。

僕は弥高さんに告白され、ユタは遊ばなくなった。有城はあれから辞めずにバイトにいっている。

ケイは髪の毛を茶髪に戻してそれを維持している。そしてよく笑うようになった。


一年前と思えば変化していると思うことはある。

変わることを恐れていた僕は気付かない間に変化しているんだと気づく。

そして今年の夏は去年とは違うことが多い。


そんな予感がしていたんだ。


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