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ネメシアの少年  作者: ヨシ猫
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1.チョコレートコスモスを探して

「三崎 優作」

「ハイっ」


 担任の先生に名前を呼ばれ、ステージの上に登っていく、そう。何を隠そう今日は中学校の卒業式、そして三崎優作みさき ゆうさくの3年に渡る長い長い片想いの卒業式であった。。。



**********



「はぁー、もう卒業か、長いような短いような、とにかく濃い三年間だったなぁ。。」


 隣で背中を丸めながら覇気のない声を出すこいつは神部皓太かんべ こうた

 小学校からの付き合いで一番共に過ごした時間が長いのも彼かもしれない。


 「そうだな。色々あったけど楽しい三年間だったな。」


 俺たちは卒業式後の思い出作りのための校庭で写真撮影タイムを終え、二人で最後の下校で思い出話に花を咲かせていたのだった。


 「それにしても結局優くんは三年間彼女なしの万年童貞隠キャくんだったねぇ、、笑」

 「っるせぇ!」

 「でもでも、三年間同じ人に片想いを貫いたことは誇れると思うなぁ、、」

 「ま、まぁな。それだけは自分で自分を褒めてやりたいよ。」

 「でも結局付き合えずに終わっちゃったけどねぇ、、笑」

 「やかましいわい!」


 といっても俺の三年間の恋はこの一言に尽きる内容だったのだ。

 そう。それは遡ること三年前の4月、俺は一人の少女に一目惚れをした。

 彼女の名前は菊池菜乃きくち なの。身長は低く、丸っこい体で可愛い系の女の子である。バレー部に所属していて、低身長ながらも頑張ってバレーをしていた印象だ。ちなみに、彼女に身長いじりをすると本気で嫌がるからなるべくしないように気を付けている。


 「ほんとに優くんは彼女の事になると面白いくらい何もうまくいかなくなるよねぇ、、」

 「ま、まぁそうだったな。」

 「彼女の背中を追ってバレー部に入ったと思ったら、課題が間に合わず一年冬に無念のリタイア、同じ高校に入るとか言い出したと思ったらそもそも内申点が足りなくてスタートラインにも立てなかったよねぇ」

 「お、お前はほんとに痛いとこついてくるな…」

 「えへへ…」


 こいつは本当のことをストレートにぶつけてくるが、そのほのぼのした雰囲気のおかげで俺の怒りも湧かずに今まで大きな喧嘩もなく過ごせてきたのだろう。

 しかもこいつはその雰囲気と今時の可愛らしい顔立ちから女子から絶大な人気を得ている。正直羨ましい限りである。


 「しっかし、まさか優くんではなく僕が彼女と同じ高校に行くことになるとは…なんか申し訳ないねぇ」

 「な、なんだテメェ煽ってるのか」

 「へへへぇ、ごめんねぇ、今まで優くん僕に怒ってこなかったからさ、最後に一発キレさせたかったけど、やっぱり優くんは優しいねぇ」

 「な、やっぱりお前といるとなんか調子狂うんだよな…」


 こんな会話も学校が離れちゃうともう遠分できなくなるんだな、と思うと少し寂しいような気がした。

 そんな俺の横を歩く皓太の目はどこか希望に満ち溢れているように見えた。きっとこの先にある出逢いに今から胸をときめかせているのだろう。

 そんなこんなで家に着き、皓太と別れ、机の上に置いてあるスマホを開く。

 いつもなら通知なしのただの時計代わりのようなものだったのだが、今日は違った。

 なんとスマホの画面には『菜乃からメッセージが来ています。』という文字が表示されていた。

 一瞬自分の目を疑ったが、どこからどう見てもそれは『菜乃』と書いてある。

 なんだなんだ、なんの要件なんだろうか、何かしてしまったか、信じられないくらい脳をフル稼働させて今までの行動を思い出していた。だが、わからない。

 これは見てみる他に選択肢はない、そう思いまるでホームスチールを決めにいく三塁ランナーのような眼差しでスマホを開く。

 パスワードを打ち込み、いざLINNを開くと一件のメッセージが届いていた。

 当然それは菊池菜乃からのものだった。

 トークを開き内容を確認するとそこには一言。


 『今から会える???』


 




 へ?

 


 びっくりするくらい間抜けな声を出してしまった。

 しかし、それも仕方がない。ここ一年全く話してもいないのになぜLINNが来るのか、驚きを隠さずにはいられなかった。

 


 LINNを返すと、『とにかく、今すぐ丘の上野公園に来てほしい』とのことだった。

 まぁ行かないことには始まらないので、すぐ行く、とだけメッセージを送り、光の速さで着替えて家を飛び出した。



****************



 5分ほど走ったら約束の公園が見えてきた。

 ちょうど街の景色が見渡せるようになっていて、今くらいの夕暮れ時になると、俗に言うエモい光景が広がるハイパー青春スポットと化すのである。

 少し周りを見渡すと、展望台のような柵の前に一人、菜乃さんがいた。

 優作が話しかけようか迷っていたら、菜乃が優作の存在に気付き、ゆっくりと右後ろを振り向いた。


 「やぁ。優作くん、待ってたよ。」


 その声は少し震えていて、どこか寂しいように聞こえた。

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