チート分類『外れスキル』・問題行動『ハーレム系・極』危険度Ｂ
俺はチコから届けられた資料に目を通す。
資料の概要にはこう書いてある。〔シオ地方に出現。チート分類は『外れスキル』。問題行動は『ハーレム系・極』。危険度Ｂ〕。
シオ地方。特別田舎でも都会でもない。まあ標準的な発展を遂げている地方だ。モンスターもそれなりにいるが超S級のモンスターはほぼおらず、これまた普通の強さのモンスターほとんどだ。モンスターは不思議なもので特別発展している町ほど強い物がでてくるのがお約束になっている。
もっとも、発生地方は参考程度に見る（発生地方によってチート化の傾向が多少異なるからだ）が、それよりもチート取締官にとって重要なのはチート分類だ。
今回の対象である『外れスキル』はマルチ（チート化対象者）の中でも比較的楽な相手ではある。
『外れスキル』と言われるだけあって初期の状態では弱小モンスターの定番である野良ハムスターにすらダメージを与えられないくらい戦闘では役に立たないスキルが多い。
ダメージを与えようと思ったらスキルを使わないで普通に素手で殴った方がいいくらいだ。
そんなものでイキって戦闘に参加しようものなら他の上位スキルに瞬殺されてしまうのがオチだが、なぜかふとしたきっかけ（なぜ今までそのスキルを持っていた他の者が気づかなかったのか不思議なくらい単純なきっかけ）で異常なほど優秀なスキル、つまりチートスキルとしての使用を可能にして誕生するのが『外れスキル・チート』だ。
この世界の一般的な良識を持った者なら『外れスキル』を手に入れたとしても、それなりに『外れスキル』をいかした普通の生活を望むものだが一部の妄想好きの変態は違う。
「他のやつらが戦闘で使ってないスキルって事は実はレアスキルってことじゃねえ？」とか考えて普通の人間なら試そうとは思わないような変態的な使用方法を試してみるのだ。まあ、特殊性癖と考えて差支えはないだろう。
具体的にはピーをピーしたり、ピーなところをピーしたりするわけだ。
あまりに変態すぎて自主規制がはいったが、実際これをやるヤツがいたんだよ。
あれはなかなか気合の入ったチートだったわ・・・。変態的な方向に。
話がそれたな。元に戻そう。
問題はこれが普通の悪人ならその地方の行政機関に連絡して事が大きくなる前に逮捕してもらってチート化しないようにしてもいいのだが、変態ではあっても彼らは犯罪者ではない場合が多いのだ。
最悪の場合は罪状をでっちあげてもでも逮捕させる事もチート取締官には認められているが、それはそのチートを野放しにしておくとその世界の大部分が滅ぶ時にのみ許される。
だが、所詮は『外れスキル』。きっかけとやらに目覚める前に対処すれば全く怖くないので『外れスキル』でそんな強硬手段をする事はまずない。
実際『外れスキル』を授かっても普通に暮らさないで「もしかしてこのスキルはうまく育てて使えば無双できるのでは・・・？」とか考えてしまって無謀な行動に出た変態の大部分は並みの戦闘用スキルに序盤で瞬殺されるケースが実に９割を超えている。
不幸な事故とはいえるがこれに関しては自己責任なので俺たちチート取締官は関与しない。
あくまで俺たちチート取締官が取り締まるのは将来的にチート化する恐れのある者だけだ。
薄情なんて言うなよ？
俺たちはボランティアじゃないのだ。一人一人の人生まで面倒見ることなどできない。
チート化する奴をほっておいたらそれこそ何百万、何千万人以上の人生に影響を与えてしまう。
まあ、チート化に失敗してどん底に陥った変態を救うボランティア機関も存在しているからな。だから彼らに任せておこう。
あいつらも変な奴らだよ。変態を救ってやろうって言うんだから。無償で。
無償でやっているのは俺たちも同じだが、考え方はだいぶ違うね。
あのボランティアたちと違って俺たちチトリが対応するのは『外れスキル』で勘違いした行動をしたにも拘わらず他の者に殺されなかった幸運？な一割の者たちの中でもさらに絞られて１％しかいない『覚醒チート』になる可能性のある者たちだ。
さすがにこれだけの確率を生き抜いてきただけあってその変態度はなかなか侮れない。
並みの変態ではないのだ。スペシャルなド変態なのだ。
だが、変態ではあっても覚醒前は弱いのは変わらない。
変態であることに目をつぶれば何の能力もないただの一般人だ。
これが『外れスキル』がチートの中でも対処がしやすい理由だ。
勘違いしてもらっては困るぜ？
あくまで俺たちチート取締官は平和裏に解決することを目的に活動しているのだ。
たとえ相手が後に極悪非道のチートになるとしても何もしてないうちから武力に訴えるような事はしないのだ。
まあ、武力に訴えようにも今の俺では『覚醒チート』にはまず勝てないしな。覚醒する前に叩くのが一番だろうということなのだ。
