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北上

こまけぇこたぁ

    いいんだよ!!

  /)

 / /)

`///  __

|イ二つ/⌒⌒\

| 二⊃ (●)(●)\

/  ノ/⌒(_人_)⌒ \

\_/|  |┬|   |

 / \  `ー′  /


その人は自分の事を北上と名乗った。北上八三。変な名前。

「変な名前」

当然佐々木が、そう言うんだろうなと、言っちゃうんだろうなと、かましちゃうんだろうなと思っていると、佐々木は、

「ス☆ゴーイ!」

って言った。だから私は、え・・・ええええええー!ってなった。ハトヨメみたいに。

「逆から読んだら三八上北ですね!」

予想に反してそんなこというの佐々木さん?私、顔には出さないけど、今えーってなってるよ内心。漣がすごいです。寄せては返す波間がもう。もう漣どころじゃないよ。結構来るやつだよこれは。

「三八上北っていうのは青森の地域の名称でね、狭義の南部と言われることもあるんだけど・・・」

いい、いいいいいい。別に。いらんそんな情報。ああ、でも、

「南部ってあれ?南部鉄器?」

「そら岩手だよ、盛岡だよ西村」

あー、うるせえうるせえ。

「よく知ってるね」

北上という人は、そんな佐々木の態度に気を良くしたのか手に持っていたビニール袋からカップ麺を出して、

「今からお湯沸かすけど食べる?」

と言った。

もちろん食べる!

「いいんですか?」

とか、口では言ってるけど、絶対食べるこの野郎。腹減りまくりこの野郎。朝牛乳だけ飲んで昼は大豆製品しか食べてないこの野郎。

「私シーフードにするー」

あ、コラ佐々木この野郎!勝手にこの野郎!


だもんで、結局その日はそこでテントを張って野宿ということになった。野営。


んで、北上さんがお湯を沸かしている間に私達は二人でテントの設営を行うことにした。

「佐々木テントたてれるの?」

なんか派手にガチャガチャ出してるけど。

「内さまで見たからね」

ああ、そうなんだ・・・。

「竹山さんの回でな!」

いや、たてれるのかって!テント設営できるのかってお前!あ、あと、


「なんか出ますか?」

この辺って。妖精とか、獣とか、エルヒガンテとか、お化けの類とか、危ないモノ。なんか。佐々木がテントの何かをがちゃがちゃしてうるさいけど、構わす北上さんに聞いた。

「いや・・・」

特に何も見たことは無いなあ。北上さんは自立するバーナーみたいなのの上に小さな鍋をおいて、それでお湯を沸かしていた。

「すごいなあ」

ああいうのがあるんだ。へー。ちょっとした風とか来ても消えないんだな、ああいうのって。すごいもんだ。しかしこんなことになるんだったらゆるキャンとかちょっとは観てたらよかったな。でもこんなことになるっていう様な想像とかしてなかったからなあ。一つも。毛ほどもしてなかったからそんな想像なあ。

「西村、ゆるキャン△ね?」

うるさいな!△とか。うるさいな。こまけぇこたぁいいんだよ今!!


それから二人でテントを吊る用だと思われるハリガネみたいなのを、

「これどうするの?」

「ピピッ!しゃべっちゃダメ!」

「お前もやれよ!何がピピッ!だよ」

「文句ポイント!」

「そんなのいいから!」

とか、やってるうちに、

「お湯湧いたよ」

と、北上さんに声をかけられた。


「わー!」

佐々木はその瞬間、ホントに、マジで、わー!ってなって持ってるものとか全部放って、お湯の元に行ってしまった。何だあいつ。なんでそんな瞬獄殺みたいになれるの急に?どうなってるの構造。どうしてわーってなれるの?瞬獄殺みたいにさあ。そこに残された私は不安に駆られた。だってテントがよ。これはよ?たてれるこれ?私達雑魚二人でこれ。ゆるキャン△も見たことない二人がさあ。いや、佐々木はわからないけど。


んで、たてれなかったら最悪今日この野っ原で寝るわけでしょ?大丈夫それ?上原港だったらいいけどさ。ここが。上原港一泊!だったらいいけど。でも、ここが上原港っていう保証はないからね。異世界のぽっかり開けた不思議なこの空間が上原港だって誰がそんな風に思う?誰がそんな楽観的になれるの?上原港か上原港じゃないかって言ったら断然上原港じゃない可能性の方が高いんだから。上原港っていう保証なんてどこにもないんだから。


「西村ー!お湯二人分あるよー!」

佐々木能天気この野郎!能天気の子かお前は!いいのかお前。大地に直接行けるのか?寝袋で直でお前。大地の子か。天気の子ならぬ大地の子か?お前大地の子か?新海誠監督に撮ってくれって頼むのか?前前前世の人達に歌頼むのか?

「とりあえず食べたら?コーヒーのお湯も沸かしたいし」

しかし、北上さんにそういわれてしまったらもうどうにもならない。テント・・・大地の子・・・。後ろ髪ひかれまくり、顔が全体的にちょっと吊り上がるくらい後ろ髪ひかれまくり。しかし先んじてカップ麺を食べることになった。

「謎肉と海老交換しよ」

でもその間もテントの事が気になりすぎて、佐々木がエビをこっちにぽとってやって代わりに謎肉を強奪していくのにも碌なリアクションが出来なかった。それどころじゃないんだ。テントだ。テントだろ今。正気だったらビンタしてるよ。ぱぱぱぱぱんって、往復ビンタ。胸倉掴んでさ。ピッピかプリンみたいに。あるいはピクシーかプクリンみたいにだ!


しかしカップ麺を食べ終えて、

「テント!」

今度こそ!ってそういう気持ちで向かうと、そこにすでにテントは出来上がっていた。


「ごめん私やっちゃった」

隣に居た佐々木がどや顔で言った。そんな訳あるかお前一緒にカップ麺啜ってたろ!膝蹴りした。

「これ、簡単だよ」

テントの側に立っていた北上さんが言った。

「・・・」

あざーす!マジで。あざーす!


それから北上さんの監修の元、私と佐々木はテント設営とテント撤収を学んだ。

「おー!」

何回か設営撤収って連続でやってみると、まあ次からは最悪一人でもできるだろうっていう位には上達した。

「まあ、西村はちょっと心配だねー、どん臭い感がある」

じゃあ手伝えよ馬鹿野郎。なんで次はガチで一人みたいな感じで言ってんだよお前。


「ありがとうございました」

二人そろって北上さんに頭を下げた。これは下げた方がいい案件だ。下げるべきだ。

「いやいや、なんか不安そうな顔してたから」

あ、私だ。え?出てました?そういうの。マジすか?

「すごい出てたよ西村」

いや教えろよお前。え?じゃあ、何?何でわーってカップ麺の方に行けたのお前さっき。っていうか何海老と謎肉交換してたのさっき。あ、っていうか往復ビンタじゃない?お前。おいお前。佐々木おい。こっち見ろ佐々木おい。どこ見てんだおい。


「コーヒー飲む?」

その間に北上さんはバーナーの所に戻っており、コーヒーの準備をしていた。

「いや、ほんとにありがとうございました」

命が救われました。マジで。私達の風前の灯火が何とか。で、代わりと言ってはなんですがこれを。


テントのお礼にどうかお納めください。


私達はそこで豆腐やら厚揚げやらがんもやらがギチギチに詰まったビニール袋を北上さんに上納した。


「すごいねそれ」

そうでしょう?大豆製品がギチギチですからね。

「すごいでしょう?」

横から佐々木がまるでこれは自分の手柄ですと言わんばかりに出てきてのたまったのには当然違和感を感じた。何だこいつってなった。でもまあ、黙ってることにした。さっきの今だし。往復ビンタしたし。頬が若干赤くなってるし。っていうかどんなメンタルよ。あんた。佐々木さあ。


その後、私と佐々木はカップ麺の空き容器に、北上さんはマグカップにそれぞれコーヒーを注いでそれを飲みながら、ギチギチに詰まったビニール袋からそれぞれ大豆製品を食べた。


朝、朝っていうか、あれが朝なのか。今はもう完全に夜だけど、でもこれが何なのか、私達には正確にはわからない。時間の感覚がわからないから。


ただまあ、とにかく豆腐は少し水気を失っていた。キッチンペーパーでくるんで上に重しを載せた後の豆腐みたいになってしまっていた。

「これで今から西村が美味しい麻婆豆腐を作りますので」

佐々木がそう言ってこちらを見た。作らないし!材料も何も無いし!勝手言ってんじゃねえお前。

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