星空
前書きに書くことが無くなりました。
「ティンカーベルだ!ティンカーベルだ!」
森の中で、妖精を見たという佐々木を追いかけてた。
ティンカーベルティンカーベルって言ってるあの人。仮に妖精を見つけたとしてそんな事言いながら追う奴いる?いや、妖精を見つけるっていうシーン自体がレアでアレだからあれなんだけど。比較対象が無いんだけど。でもとりあえず聖剣伝説3ではこんな風には追いかけてなかったと思う。多分。それに佐々木あんたって、妖精を見つけたらテンションが上がるようなタイプだったっけ?そんなファンタジーお前?ファンタジスタお前?ファンシーかお前?
「小さい羽根の人だ!小さい羽根の人!」
ションテンぶち上ってるじゃんよ。どういう回路でそうなったの?
「コビトカバよりもチャイチー!」
楽しいそうだな。なんか知らないけど。
んで、それはそれとして私は私で不安を抱いていた。だって、その時その状況に対して零の紅い蝶の事を思い出していたから。
紅い蝶の足悪い姉が蝶追いかけていくところ。
「ティンカー!ティンカー!」
それがティンカーティンカー言ってる馬鹿みたいな佐々木とダブった。いや全然違うし、足悪くないし、全力疾走してるし、あんな控え目じゃないし、お上品でもないし、清楚な感じでもないし、全力だし、佐々木全力だし、だから全然違うんだけど、でもダブった。
「これ、まくられたら最悪」
「座敷牢みたいなところに閉じ込められて最悪」
「苦労して鍵見つけて戻ってもいなくて最悪」
つまり総合すると最悪。最悪中の最悪。こんなどこかもわからない世界のどこかもわからない森の中でそんなことになったらもうホント最悪。これがアニメだったら間違いなくそこのシーンで同人誌作られる。最悪。最の悪。最低。最も低い。こんなブレアウィッチプロジェクトみたいな森の中でさ。そんなことになってたまるかっていう話。ブレアウィッチだか、サンドイッチだかわからないけど、とにかく最悪。そんな事になったら困る。
でも、そういう想像が脳内plantでもりもりと生産されてベルトコンベアに乗ってガンガン流れてきた。だもんで脳内の私は工場見学ゾーンでもって、
「やめろー!流すなー!生産するなー!」
ってなってた。うおーって。身振り手振りで止まれーってやってたんだけどでも全然その生産ラインは止まらない。全然止まりやしねえの。ガンガン生産してガンガン流してくるわけ。何?ノルマあるの?タイムテーブル決まってるの?原料余ってるの?どうなってんの私の脳。っていうか私の脳でしょ?何してんだ。私の脳なのに。くそが。
だから想像を司る脳内plantでは最終的に私が佐々木の首を絞めるか、あるいは私の目がつぶれるけど佐々木は助かる。というところまで行った。至った。その極みまで。
いやいやいや、佐々木の首を絞めるとかさ、そんなのあまり考えたくないし、まあちょっとは考えるけど、そうしてやりたいって思う事はあるけど、例えば今とかだって、
「ティンティンティンティン!」
「止まれー!佐々木―!」
多少は思うけど。でも、違うんだよ。それは。そうしなきゃどうにもならないっていう状況でやりたいわけじゃないんだよ。そういう場面で必要に迫られてやりたいわけじゃないんだよ私は。
あと、佐々木を助けて自分の目がつぶれるとかは嫌です。
ただただ嫌です。
無い。
無いわー。
それは無い。
一個も無い。
皆無。
目が見えなくなっても最悪、オードリーヘップバーンとか田中麗奈さんとかみたいになるんだったらいいかもしれないけど。で、田中さんみたいに最後、未来に希望が持てるような人が側にいてくれて、
「また公園に行きましょう。一緒に行きましょう」
っていう様な事を言ってくれるんだったらいいけどさ。
でも、きみよわすれないでのピアノの調律師の人みたいになったら最後あれだし。
るろ剣の亀の甲羅の人みたいになったら、最後牙突で上半身持っていかれるし。
天河のネピス・イルラさんにはちょっとなりたいっていう感情はあるけどさ、でも今までどこ居たんだお前!っていう感じは否めないし。
とにかく無いよ。目が見えなくなりたくない。無いわー。目が見えなくなりたくない。あ、でも、ムスカにはなりたいな。自分を王とか言ってるあたりは嫌だけど。あそこ以外。三分間とか待ちてえー。その大砲で私と勝負するかねとかいいてえー。
まあ、でもとにかく佐々木を追いかけた。必死で。そう必死で。それはもう必死で。
「こらああ!佐々木―待てー!」
「ティガーティガーティガー!」
しかし、佐々木との距離は縮まらなかった。これっぽっちも縮まることなんてなかった。もともと私は走るのが得意じゃないけど、でもそれにしたって今は必死モードだからさ。目つぶれる想像中だから。しかしそれでも追いつけない。なんだあいつ。こんなところでも進化してんのか?秒単位で進化してるのか?戦いの中で新しい技覚えちゃうタイプのやつか?ジャンプか?あと戦車じゃねそれ?もう妖精じゃなくない?
っていうかさあ、私らテントとか寝袋とか持ってさあ。それ入ってるリュックしょってさあ。縦走みたいに走ってるけどさあ。なんでこれ?あと異世界だし。わけわかんねえ異世界だし。あと森だし。異世界の森だし。夜だし。いつの間にか夜になってるし。なんでこれ?なんで走ってるの?
「テンガ!テンガ!テンガ!テンガ!」
おい!やめとけ佐々木!それはまずいぞ!ティンカーベルからのその連想はダメじゃないか?その連想はまずくないか?それ怒られるんじゃないか?っていうかティンカーベル自体大丈夫なのか?今更だけど。すごい今更だけど。美容室とかあるから大丈夫か?わからない。わからないけど、でもとにかく夢の国チキンレース参加者案件抵触の可能性は大丈夫か?それだよそれ。大丈夫なの!今更だけど!
やがて佐々木は勢いはそのままに木々の乱立している、枝とか左右からガシガシ伸びて組み木細工みたいになってる場所に頭から、躊躇なく、ほんとにすごい勢いで突っ込んだ。ノーブレーキだった。トトロを見たと言ってきかないメイちゃんのような勢いだった。あるいは峠で相手を抜かす頭文字Dみたいな。
「うわあ・・・」
で、さすがに私はその部分はそろーっと抜けた。いやさすがに。急いではいるよ。目が無くなるかどうかっていうところだから。極限の状態だから。でも、あの勢いは無い。無いよ。絶対に。
「なんだここ?」
それを抜けた先は、森の只中にぽっかりと広がる広場だった。野球場みたいな。草野球場みたいな。あるいはUFOの着陸場所みたいな。
あとその時、空見たらもう完全に夜になっていた。すごい星空。まあ、今更どうでもいいけどさ。そんなの。
佐々木が広場の中央に立っていた。
「おいぃー」
なんだお前馬鹿野郎。でもまあ、よかった。これで無事かな私の目。
「佐々木!」
「なんだこの広場!」
あ、あと妖精は?見失ったの?見失ったんすか?佐々木さんでもさすがに?はぐれメタル?
「エルヒガンテでも出てきそうなこの広場、何?」
佐々木はそういって、半笑いでこちらを振り向いた。
「いや、怖い事・・・」
言うなよ。お前。さんざん走ってお前。さんざん走ってすっきりしたみたいな顔してお前。出てきたらどうするんだよ。あのデカブツが。異世界だからここ。出てきてもレオンいないよ?どっちもアシェリーだよ?どっちもアシェリーでもねえけど。
がさがさがさがさ・・・。
「うひい!」
反射的に音のする方を見た。首がグキっていった。痛っ!ってなった。で、私達が出た場所とは違う所にエルヒガンテではないけど、人が立っていた。
「なんだ君ら?」
いや、あんたが何よ。
いやいや、あなたの言う事もわかるけど、でも私達からしてみたらあんたがそうだよ。あんたが何よ。だよ。
「見て西村、空、凄い星空!」
佐々木、今それじゃねえよ!タイミング!考えて!今それじゃないでしょ!今あっちだよ。人だよ人。