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テント

五代弥、コインランドリーの回で、手を庇のようにしてって書いて、それでいいやって決めました。

燃料の補給、フロントガラスなどの清掃を終え、ガソリンスタンドでそれぞれトイレを借りてから隣同士には違和感を、いや違和感しかない豆腐屋に行った。ガソスタの隣に豆腐屋ってよ。ガソリンのにおいとか大丈夫なの?

「あ、むぐ、食べる?」

豆腐屋では丸椅子に座って薫さんが豆腐とかがんもとか厚揚げとかを食べていた。スイーツ女子的に。ケーキバイキングみたいに。はらぺこあおむしみたいに。

「ご相伴に預かりまー」

す。までちゃんと言いなよ佐々木。とはいえ空腹には耐え難い。私も佐々木のいうところのご相伴に預かる形になった。

「しかし、むぐ、どうしてこんな事になったもんかねー」

「そうですねえー」

「ねー」

私達三人はそれぞれ丸椅子に座ってそういう話をした。豆腐やら、がんもやら、厚揚げやら、そういうのをむしゃむしゃと食べつつ、

「不思議だねー」

っていう感じで。ケーキバイキングに三人で行ったみたいな感じで。そこには春の陽気にあてられたかのような限りなく頭の悪い能天気な雰囲気があったが、でももしかしたら、そういうのを求めていたのかもしれない。わかんないけど。だって、私に限って言えば佐々木なんていつもそんなんなんだし。


「おーい」

そうして三人で大豆製品をむさぼっていると、車の方から五代さんの声が聞こえた。

「あ、むぐ、はーい。じゃあ、むぐ、そろそろキャンプ場に向かう?」

薫さんはそういって立ち上がると、お尻の所のポケットからビニール袋を出して、ばふっ!てやって広げてから、それに豆腐とかがんもとか厚揚げとかを詰めれるだけ詰め始めた。その光景はまるでイオンの火曜市みたいだった。

「キャンプ場とかあるんですか!」

その光景に多少動揺したものの、勢いで聞いてみる。

「あるんです!」

佐々木がそう言った。なんでお前が言うんだ!お前じゃねえ座ってろ!ハトヨメをやめろ。誰もわかんねえからそのネタ。

「あるんです!むぐ、あとその近くにスーパーもあるんです!」

「スーパー?」

スーパーってスーパーマーケット?あのなんでも売ってる場所?スーパーマーケット?ミスチルのアルバムの?ファンタジーのやつ?

「そうなんです!不思議でしょー!ファンタジーでしょ!」

佐々木が言った。叩いた。


聞くと、薫さんと五代さんはここにきてからずっとその辺りを拠点としていたらしい。あと当然というか、そこのスーパーマーケットも無人らしい。『28日後...』みたいな感じだという。

「だからホント、むぐ、砂漠に出て二人の生体反応を感じた時はびっくりしたよ。まあ、こうなった原因はわからなかったけど、でも、むぐ、よかった」

いやいや、こっちこそですそれ。ホントこっちこそですよそれ。もう砂漠なんて一歩も歩きたくなかったから。もう嫌でたまらなかったから。

「キャンプかー!」

佐々木のテンションが上がったみたいだった。ガチのキャンプか?テントか?コテージとか無いのかな?私はそれが心配だけど。


「むぐ、コテージ?」

「そうです。コテージのある無しが重要で・・・」

「だって、西村がテントってなるともう完全にバイきんぐだもんね」

私達はそんな話をしながら、豆腐屋を出て五代さんの待っているSUVの元に歩いていた。


「今日はお客さんもいるしキャンプファイヤーでもしようか?」

五代さんはSUVのボンネットに寄りかかりながらそんなことを言ってた。キャンプファイヤーとかちょっと柄でもないんだけど、でも、こんな状況だからかな?なんか。ちょっと。

「西村、みんなでV6やろう」

何?何だ?どういう事?

「WAになっておどろう!」

嫌だよ!馬鹿かよ。そこまでテンションは上がってねえよ。あと四人しかいねえよ。それからブイロクっていうなよ。キレられるぞファン層から。ガチ勢から。

「じゃあ、way of life?」

まあ、あれだったらまあ、あれならまだ・・・いや馬鹿言うな。あれ手つないでんじゃん。恥ずいよ。あんたと手。雨の中。っていうかあれ雨降ってんじゃん!キャンプファイヤーだって言ってんだろ!


「あ、そういえば忘れてたんですけど!」

佐々木がそう言った時、

「ストップ!」

と、五代さんが大きな声を上げて私達の方に両手を出した。伸ばした両手。手のひら。それは文字通りストップという意思表示だった。


突然の事でびっくりした。あとその後すぐに、

「あ、ゴ●ラの事忘れてた、確かに!」

って、佐々木が何を言いたかったのか、忘れていたのか理解した。確かに忘れてたわ、すっかり忘れてたわ。あんな一大トピック!確かに!確かにな!やるな佐々木!


そういう気持ちで顔だけ向けて佐々木を見ると、

「・・・」

佐々木はピタッとしていた。ガチで止まっていた。佐々木。ガチ。ガチすぎ。佐々木ガチ。ガチすぎる。パントマイムしてる人みたいにとにかく何があっても少しも動かさねえみたいな。そういう止まり方。だるまさんが転んだすらガチでやる人みたいにピタッと。


そういうんじゃないのよ佐々木!多分これは。五代さんそういうつもりで言ったんじゃないよ多分。そこまで止まれとは言ってないと思うよ。それなのになんでそんな止まってるの?ねえ?時間停止ものの大人のビデオじゃないのよ今は。ピクシブのタグじゃないのよ今。


「もしかして、出ましたか?」

そんな心の葛藤を抱えた私とガチ勢の佐々木の隣で、薫さんだけが険しい顔をしてそんで全身から険しい空気を放っていた。


もしかしたらそういうのをオーラとか闘気とか、気っていうのかもしれない。でも私わからないしな。全然わからんし、そういうの。ジャンプのキャラクターじゃないし。


「出たね」

五代さんも両手を挙げたままうなずいた。うなずいた拍子に顎の先から汗が落ちたのが見えた。


で、意図せずその場がジュラワーのヴェロキラプトルのシーンみたいになってると、

「これ、持っててください」

薫さんが、豆腐とか厚揚げとかがんもとかがギチギチに詰まっているビニール袋を私に寄こしてきた。ギチギチだな。しかしギチギチだなホントに。


そんで、おもむろに深呼吸を2、3回した後、

「変身!」

って言った。返信?メール?え?


するとパァーって薫さんのあたりの空間がすごい光量でもって光り輝いて、パチンコ屋さんのビームライトみたいにすごい光り輝いて、近くに居たもんだからうわーってなった。あと佐々木はその段になってもなおも止まっていた。


で、


それから変身した薫さんはずっと戦ってる。


敵と。


私と佐々木、五代さんはそれをSUVの所で見ていた。


んで、何だろう?なんて表現したらいいんだろう。ああいう敵のビジュアルとか。どうやって言ったらいいのかわからないけど、でもとにかくまあニチアサを全部足して、それを3で割って、サイレントヒル感とかを多少ブレンドして、バイオ感も入れたみたいなそういう感じ。


そういうのとずっと戦っている。敵は一体だけ。でもホントそれとずっと戦ってる。


薫さんのパンチとかキックとか、ひゅぼ!って言ってる。

「ふぁぼみたい」

それを聞いて佐々木が言った。うん。でも今、佐々木になんか言ってる空気感じゃないから。


そうしているうちに、五代さんに、

「二人は先、キャンプ地に行ってる?」

って聞かれた。

「え?」

「いや、これ三日続くからさ」

「え?」

何?三日?何が三日?

「あれ」

え?この戦いが?

「びっくりするでしょ?でも、そうなんだ」

「マジかすげーな!」

佐々木もなんか言ってるけどさ、いやいやちょっと待って、私そういうのに詳しくもないし明るくもないけど、でもそんなに続くんですか戦いって。ニチアサだったら30分ですよ?

「CMとか、オープニングとかエンディングとか、日常も入るからそんなにないよ」

るうせえな今!

「そうなんだよ」

いつもの事なんだよと、五代さんははははと笑った。


という訳で、そこでそのまま三日とか無いという事で私達は二人だけでキャンプ地に向かうことになった。

「ほかの敵とか大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫、あれだけだから」

五代さんはそう言いながら車のトランクを開け、そこから畳まれたテントと寝袋を二つ出して、それを二つのリュックに入れて私達に持たせた。


「道なりに行けばわかるから。すぐだから。スーパーもそのちょっと先にあるし」

「コールマンじゃん!」

佐々木は感動したらしくそんなことを言ってる。でもいいんですかこれ?お高いんじゃないですか?


「気にしないでいいよ。いっぱいあるから」

こっちもいつも三日とか待ってるから、こういうのはたくさん準備してるんだ。五代さんは苦笑いしながらそんなことを述べた。そうですか。じゃあすいません。ありがたく。

「内さまで見たコールマンだ!」

うるせえな!


「あ、これ豆腐」

ギチギチの豆腐の群れ。

「それも持っていっていいよ」

戦いが終わったらまた勝手にとって食べるでしょ。


そうして私と佐々木は、

「がんばってー!」

って薫さんにエールを送ってからまた二人だけで歩き出した。


その際、戦いの最中なのに薫さんはちょっとこっちに手を振ってくれた。


「竹山さんの回のやつの!」

まだ言ってんのか!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ♀同士の百合?! 今までに類を見ない全く新しい舞台設定で、何やら砂漠化しててオアシスで、トロピカルでポカリスウェットな真夏感がこれからの季節にぴったりです。 キーワードに胃下垂が入って…
2020/05/24 18:57 退会済み
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