SUV
佐々木咲羽。一話でSAWの話してたから、SAW=さわ=咲羽でいいかと思ってそうしました。
幸いにしてコインランドリーの店内はクーラーでキンキンだった。天井でもプロペラみたいなのが景気良さげにくるくると回っていた。インディージョーンズのあれのおかげで危機を乗り切ったみたいなプロペラだ。
「ああーああああ!」
死ぬ。死ぬかもしれない。私はそこに、コインランドリーに到着と同時に床に倒れ込んだ。賽の目柄の床。そこにボルトと同じくらいの、スタートと同時にもう走ってるみたいなのと同じような勢いでぶっ倒れた。あるいは127時間の主人公が最後の方でどうみても泥水にしか見えない水たまりに躊躇なく頭から突っ込むみたいな感じで。何の衒いもなかった。とにかくそうなることに躊躇はなかった。葛藤もなかった。建前などなかった。本音。今この場においては本音しかなかった。
「あらまーちょっとー西村さあーん」
膝から崩れ落ちてそうなった私の背後から佐々木女史の若干の叱責感のある声音が聞こえたが、でも、こればっかりはもうどうにもならない。佐々木さん無理ですよ私。もう無理。無理すぎ。無理ぽ。リーム―。
「んああああ!」
まとわりついたポンチョも無理やり脱ぎ捨ててその辺に放った。ローファーも足首をモーターのようにぶん回してその辺に飛ばした。靴下も脱いでカタパルトみたいに飛ばした。
それから、頬っぺを床に接着させた。
おおおおおおお!
「床最高」
もしかしたら50億人くらいの人間が踏んでるかもしれない床だけど、でもいい。かまわない。もう将来は床になりたい。生まれ変わったら道になりたい。
「神戸のニュースじゃん」
目を瞑って床とのシンクロ率を高めていると反対側の頬に冷たい何かを押し付けられた。おお!ってなって見ると、同じくポンチョを脱いで靴も脱いでた佐々木が大塚製薬のあの青い飲み物を持って隣に座っていた。センチメンタル・バスの曲が流れていたあれ。あとLOVE PSYCHEDELICOのFree Worldとかのやつ。
「どこにあったのこれ?」
床と頬のシンクロを続けたまま聞いた。いや、そんなんどうでもいいんだけど。なんか建前出ちゃった。
「なんか奥に小さい事務所みたいなところがあってそこに冷蔵庫があった。そこに入ってたよ」
「飲ませて」
「えー、西村さあん、ちょっとそれどうなの?」
お願い。お願い佐々木さん。もう少しの事で怒ったり叱責したりしないから。飲ませて。死んじゃう私。死んじゃうのよ私?それに手も何ももう一切動かせないし。エヴァに最初に乗った時みたいだし。もう全然動かせない。なんたって脱水されてるから。脱水機で脱水されたお洗濯ものよりも脱水されているから今の私。からっからだし。干し肉みたいだし。このままじゃこういう乾燥地帯で生活する人達の生活の知恵のごとき干し肉になっちゃう私。銀狼怪奇ファイルの最後の事件のミイラみたいになっちゃう私。
「ミイラかあ・・・」
腕を組んでミイラ見たいなあみたいなリアクションしてんじゃねえよ。お前の使ってるロッカーからミイラになって出てやろうか!それにほんとに見たいならハムナプトラとか観てよ!何で私がミイラになるかもしれないっていう時にそういう事で悩むの?
「もー」
すると、佐々木がおもむろに私の頭を持ち上げ体の向きも変えさせて自身の膝、ざーひーに乗せた。あれ?これ、あれじゃないですか?ざーひー枕っていう奴じゃないですか?ある種の信仰対象になってるあれじゃないですか?これからさらに耳かきとかしてもらうことで、位というか、ランクが上がるあれじゃないですか?
「まったく仕方ない子だねえ」
そんな混乱している私の口に佐々木は中村屋の湯切りみたいな勢いでペットボトルを突っ込んできた。500mmのペットボトルを。
「がぼぼぼぼぼお!」
なにこれ、え?溺れ?再度の溺れ?なにこれ?
「たーんとお飲み」
何どや顔で言ってんだお前!殺人鬼だったのかああ!サイコパスかお前えええ!
「西村、スポンジ、スポンジのイメージ!」
うるさいどけろ!ペットボトルをどけろ!500mmってすごいからね。ペットボトルだったらこれだけど、雨量で言ったらすごいからね。500mmって。記録的大雨だからね。
「スポンジボブ!スポンジボブのイメージ!」
出ちゃう!出ちゃうって!あふれちゃうよおお!こわれちゃうよおお!飲む点滴が口鼻から出る!なんだったら涙腺からもあふれる。出る。
で、結局こいつなんで今スポンジボブ!って言ってたんだろう?って思ってそれがなんか面白くなってきて噴射した。
「べぼおお!」
っていう下水みたいな音とともに派手に噴射した。ペットボトルロケットに空気入れすぎたみたいになった。
「あー、あとちょっとだったのにい・・・」
殺!脳内にそういうのが浮かんだ。豪鬼で言ったら天!初号機で言ったら暴走っていうのか、覚醒っていうのか、よくわからないけど。
しかし水分を十分に入れたことで体も安心したのか、それによって心のカラータイマーも点滅を止めて、体内でさっきまで鳴ってた危険水域みたいなアラートも止まって、それで、それから、
「おお・・・」
その代わりに今度は耐えがたいほどの、抗い難いほどの眠気が・・・急に、目をあけてられないほどのそれ。シャトゥーンが襲い掛かって来たみたいなそれ。北風じゃ無理だ。じゃあ今度はオレだ太陽だ。
「北風、と太陽みたいな・・・」
「何?西村?キタカゼット?何?西村、水木一郎?ゼーット!」
佐々木の側に人差し指を一本立てた。アメリカ人がドラマとか映画とかでちょっと待って、あるいはシーってやる時のイメージで。
私はそのまま床でボブ・サップVS曙の曙みたいな状態で、重い、重たすぎる5Gとかかかってるんじゃないかと思えるほど重たい瞼を落として目を瞑った。目を瞑った世界は暗くて、外の事なんてもう関係なかった。もう外がいくら明るかろうが関係なかった。ゴ●ラがいようが、この世界がどこなのかわからなかろうが、全然全く何もわからながろうが、とにかく関係なかった。今だけは。その時だけは。色即是空。
とにかく私はそのまま寝た。床に沈み込んでいくような眠気。こんなもの無理だ。抗う方が無理ってもんだ。寿命が来たら死ぬみたいなもんだ。こんなの。
佐々木が何か言ったような気がする。おやすみとかって言ってるのか。あるいは・・・、
「・・・うお!」
目を覚ましたら、世界は変わっているかと、元に戻っているかと思ったが別に変っちゃいなかった。相変わらず外は中天の砂漠だった。ギンギラギンだ。コインランドリーの引き戸越しに見てもギンギラギンっていうのがわかった。銀だらよりもギンギラギン。ちょっと期待したんだけどな。そして今いる場所はコインランドリー。
「はあ!?」
ただ、世界は何も変わっちゃいなかったけど、でも代わりに、代わりってなんだ?私自身が変わっていた。なんか服装が。軽装。マジか?それでほんとに戦いに挑んでいくのか?正気か?っていう感じ。ビキニアーマーみたいな。着ていた上下セットアップの下着のみだぞおい!
「うえええ!」
何これええ!寝てる間にタトゥーとか彫られてない?イトキンとかみたいに。
全身を調べる。あと隣に着替えて寝てる佐々木がいた。
「ちょいと!あんた!」
何ですかいこれは!?
「うーん・・・乾燥機の中に服入ってたから・・・」
「なんで私は!?」
なんで私はこんな形なの。ねえ!
「途中で脱がすの面倒になって・・・」
ファックス!
この佐々木野郎!
それから私も急いで乾燥機の中の服を適当に物色して着替えた。とりあえず着替えた。その後相変わらず床に横たわっていた佐々木をちょっと軽く転がしてそれで飲む点滴事件の復讐を行い、それから喉乾いたから佐々木の言ってた事務所に行った。
「おおう!」
狭。もしかしたら事務所でも何でもない、ただのここを掃除する人とかの休憩所なんじゃないかと思うほど狭いその事務所には、
「起きて半畳寝て一畳だなこら」
佐々木の言う通り小型の冷蔵庫があって、中には飲む点滴が入っていた。
その際ちょっと冷蔵庫の扉を勢いよく開けすぎて、扉がその上の空間を使って展開してたテーブルの脚にあたった。
そしたらその衝撃でテーブルからひらひらと何かが地面に落ちた。紙きれ。
拾い上げてみてみると、
「邪」
と書かれていた。
こっわ!
その瞬間外からぱー!って音がして、うひい!ってなった。オカマ掘られたみたいにもう少しで首がくんってなる所だった。
事務所から出て外見ると、コインランドリーの真正面に一台のSVUが停まっていた。
「佐々木、佐々木!」
私はなんか怖くて半身を事務所に隠したまま佐々木を呼んだ。しかし佐々木は、
「・・・うふーん・・・」
とか言って起きない。全然起きない!
うふーんとかいいんだよ!セクシーかお前!セクシーパロディウスかお前は!ひかるかお前は!ちなみに私はマンボが好きだった。追尾レーザーが好きだったなあ。