学園のまにまに二話2
目を向けると時野アヤと一緒に下校していた猫のような愛嬌がある目をした黒髪の女生徒がこちらに来ていた。
「サキ……やっぱりこの嵐って天御柱神よね?」
時野アヤはサキと呼ばれた少女が階段を上り終えたところで尋ねた。
「うん。こりゃあ間違いなく『みー君』だね。何やってんだい。あの子は。まあ、みー君の事だからなんか理由があるんだろうけどね。」
サキと呼ばれた少女はうんざりした顔を時野アヤに向けていた。
「天御柱神って……あの超弩級の厄神の事かな?」
俊也が口を挟むとサキがいぶかしげに見てきた。
「君は誰だい?」
「あ、僕は俊也って名前。超常現象を研究中なんだ。」
「超常現象?ああ、人間からは超常現象に見えるのか……。ああ、あたし、感覚麻痺してきたみたいだよ。普通って思っちゃう所が……。」
「わかるわ。サキ。とりあえず、早くあなたのみー君を止めなさいよ。」
「あたしのみー君って……おっけー。」
時野アヤとサキは勝手に話を進めると屋上のドアを開けて出て行ってしまった。
話についていけない俊也は完全に置いてけぼりである。
風雨で躊躇った俊也もあまりにも気になるので頑張って外へ出て行った。
「何やってんだい。みー君……。」
屋上に出るなりサキが呆れた声を上げた。なぜか屋上が一番嵐が強い。
というよりも下から上に向かって吹く風が強い。下から上に向かって吹く暴風雨なんて見たことがない。
「ずいぶん必死な顔をしているわね?」
時野アヤは屋上の柵の部分を見ながら首を傾げた。
……また……何かいるのか?
俊也も時野アヤが見ている方向に目を向けてみたが何も見えなかった。
「そんな泣きそうな顔して……はあ?猫?」
サキという少女も時野アヤが見ている方向へ声をかけている。普通に会話をしている。
「あんた、猫が屋上から落ちそうになったから暴風を起こして助けようとしたのかい?ああ、そうだね。あんたは霊的なもの以外触れないんだったね。」
サキは呆れた顔をしながら屋上の柵へ近づいた。時野アヤも俊也もとりあえずサキについていく。
サキと時野アヤが足を止めた場所で何かがいる感覚が襲った。
……見えないけど……なんかいる……。
俊也が超常現象に目を輝かせた時、屋上の柵下から「にゃあ……」と小さな鳴き声が聞こえた。
柵下を覗いてみると一匹の猫が壁に張り付いていた。
謎の暴風でなんとか落ちずに済んでいるようだがいつ落ちてもおかしくない状態だ。
「ああ、そうだ、あんた。」
サキは俊也を見て何か閃いたのか声を上げた。
「ん?」
俊也は猫を気にかけながらサキを仰いだ。
「あんた、男だし、腕長いから猫ちゃんに手が届くね?」
「ああ、いいよ。」
ここは二人に男アピールをしたい。俊也はすぐに返事をした。
猫に近づいた時、俊也のまわりの風と雨が一気になくなった。まわりを眺めてみても非常に奇妙だった。自分のまわりだけ風も雨もない。
何かが俊也を守っているみたいだ。強い風と雨で俊也が落ちないように……。
この不思議な光景についてぼんやりと考えていたらサキに怒られた。
「何やってんだい!はやく猫ちゃんを拾ってあげな!みー君が泣きそうな顔をしているじゃないかい!」
「……みー君?」
俊也はサキの言葉に首を傾げたがサキの威圧が怖かったのでとりあえず手を伸ばして猫を抱きかかえた。
刹那、辺りを覆っていた暴風雨が嘘のように消えた。
「なっ……。」
俊也は自分の目を疑った。いままでの事がまるで夢みたいに空が晴れている。青い空、暑いくらいに照らす太陽……。
「なんで……。」
俊也が目を見開いていると抱きかかえていた猫が華麗に俊也から離れた。そしてそのまま開けっ放しだった校舎内へのドアへとさっさと消えていった。
「……な、なんだこれ……ゆ、夢か?」
俊也はもう乾いてしまっている制服をペタペタと触りながら空と地面を交互に見ていた。