学園のまにまに二話1
春か夏かよくわからない気候の中、放課後、俊也は部室棟の空き部屋でのんびりしていた。もちろん、いつもすぐに帰ってしまう時野アヤも一緒だ。
まだ部活の認可は降りていないがなんとなく活動を開始している。
三階の空き部屋という事で鍵もかかっていないので入り込むのは容易である。
部室の中には何一つなかった。故に鍵もかける必要がなかったのだろう。
ゆるい学校である。
本当になにもないので俊也と時野アヤは空き教室から勝手に椅子と机を持ち出していた。
現在、時野アヤは読書に夢中だ。
俊也は何か話しかけたかったが話題を見つけることができなかった。ヘタレである。
……このままじゃ……読書部になってしまう……。なんとかしないと……。
俊也は焦っていたが時野アヤは全く気がついていない。今度は本を閉じ、宿題をやりはじめている。
「とっ……時野さん!」
俊也は勇気を出して時野アヤを呼んだ。
「……何?」
時野アヤは不機嫌そうでもなく単純に用を訊ねてきた。
「え……えっと……。」
話しかけた後の事を考えていなかった俊也は言葉をつぐみ、咄嗟に考えもなく外を仰いだ。
「うおっ……!」
いつの間にか外は暗くなっており太陽は雲に隠れ、暴風が吹いていた。雨音も徐々に強くなっていき、すぐに台風のような状態になってしまった。さっきまでは晴れていたのに不思議な事もあるものだ。
この時期に頻繁に起こるゲリラ豪雨だろうか。
「あ……外がいつの間にか……。」
これが突然来る春の嵐……なのかと俊也は驚いたがよく見ると部室棟から見えるグラウンドから先は太陽が出ている。
奇妙な天気だ。よく見るとこの学校だけしか暴風雨に遭っていない。
「へ、変な天気だ……。時野さん……外がすごいね……なんか。」
俊也はこんな事しか言えない事にがっくりとうなだれた。
……もっと気の利く言葉を……。こんな雨風が強いんだ。えーと……怖くないかい?僕が守ってあげるよ……。僕の胸に……。
……うわっ……気持ち悪い。我ながら何考えてんだ。何のセリフだよ。これ。
俊也がひとり悶えていると時野アヤは窓の外を眺めながら目を細めていた。
「あ、あの……時野さん?」
「これから屋上に行ってくるわ。」
「えっ!?屋上!?屋上?な、なんで?危ないよ!」
時野アヤはさも当たり前のように部室から外へと出て行った。俊也はなんだかわからずにとりあえず慌ててついていった。
……実はこういう天気の時にはっちゃけたいタイプなのかな……。時野さんって……。
……ああ、やべぇ。はしゃいでる時野さんきっとかわいい……。
……雨だあ!風だあ!楽しいね。俊也君。あ……制服濡れちゃった。
変な妄想で俊也は勝手に鼻の下が伸びていた。男は一日に一回は必ずエッチな事を考えるという……悲しい生き物である。
シャツが張り付き下着が見えている……おっぱいはたぶんこんくらい……そんな想像までしてしまった後、時野アヤが屋上に続くドアの前でこちらを見ていた。
知らぬ間に階段を上っていたらしい。無意識は怖い。
「何変な顔をしているの?ここから先は危険よ?部室に戻ってて。すぐに私も戻るから。」
時野アヤは優しく俊也を諭していた。
その優しさにほんわかしていたが俊也はすぐに首を振った。
「時野さんこそ危ないよ!こんな天気なのに屋上に行くとか。」
俊也も時野アヤのやさしさに負けないようとりあえず必死で止めた。
時野アヤが複雑な顔をした時、「おーい。」と間延びした声が聞こえた。