学園のまにまに九話2
俊也の動きはわずかだったが隣にいた時野アヤにははっきりわかった。
……なにか閃いたようね……。
何を考えていたかはわからないけど。
ちらりと俊也を見た後、先生が校内模試などの話をしていたのでスケジュール帳の日付にマルを書き、『も』と書いた。
……この学校、予定も毎年同じね。
校内模試の問題も三年前と同じかしら。また楽勝だわ。
時野アヤは特に表情を見せず机にスケジュール帳を閉まった。校内模試の問題は持ち帰ることはできないので毎年同じでもわからないと言えばわからない。
だが、十年近くこの学校に居続けている時野アヤと日高サキはこの模試はあきらかにつまらないものであった。
……ま、言わないけど、この学校は色々おかしな現象が起きる。神が集まってきたり『見える人間』が出てきたり……。『見える人間』というのはデータ上おかしいのだ。人間が神を『見えないなにか』と位置づけているため、神々は世界のシステムが働いてデータ上見えないはず。私みたいに人間に見える神はだいたい『人間に混じって見守ってくれる』という信じ方をされているのでデータ上見えるようになっている。
でも他の神は見えないはずなのだ。
望月俊也は『見える』ことに憧れは持っているもののサキなどが何かしても『見ないふり』をしている。もしかすると『見える』のに『見ていない』のかもしれない。
超常現象はなんだかわからないからそう呼ばれている。もし『見えた』のだとしたらそれは超常ではないのだ。
彼は日常になってしまうことを恐れているのかもしれない。
時野アヤはぼんやりそう思いながら俊也がクルクルまわしているシャーペンをなんとなく眺めた。
……校内模試かー。二年になってからやたらと模試多いなあ。三年じゃないんだし、そんなにやらなくてもいいじゃないか。
俊也は模試の日程が書いてあるプリントを眺めながらため息をついた。
サヨに教えてやらないと。
後、教科書か!
俊也がサヨに予定などを伝え教科書をデリバリーしているため、サヨが始業式、終業式は学校に来ないというのを俊也は気がついていない。
放課後になり俊也は大きな紙袋二つを抱えて部室までやってきた。
教科書は購買部で買うためわざわざ並んで二人分買ってきたのだ。
「お、重い……」
部室のドアを汗だくになりながら開けるとサヨが涼しい顔で手を振っていた。
「あ、おにぃ、おつ!」
「おつじゃない!自分でなんとかしてくれよ!中学からずっとそうじゃないか……!だいたい部活出るためだけに学校に来るとかおかしいんじゃないの!?」
俊也が文句をさらに言おうとしたが時野アヤと日高サキがいたのでやめた。
「サヨ、あまり俊也君に迷惑かけるのはやめなさいよ」
さらりと時野アヤがサヨをたしなめた。俊也は時野アヤが味方をしてくれたので心では舞い上がっていた。
……そうだ!時野さんの言った通りだ!
俊也は大きく頷いた。
この日の活動は特に無くて「二年になったから模試が多くなった。嫌になる」をテーマに愚痴を言って終わった。
「じゃ、また明日ー!」
日高サキは校門前で手を振ると夕焼けを背に足早に去っていった。
「私も買い物があるから帰るわね」
いつもはサヨと俊也と時野アヤでカフェに入っておしゃべりの続きをしたりするが今日の時野アヤはスーパーの激安セールで忙しいようだ。
「うん。じゃあね」
「ばいばーい!夜グルチャねー!個チャでもいいよ。恋の悩みとかあるなら聞くよん」
サヨは相変わらずわけわからない事を言うと手でオッケーマークを作った。
「何バカなこと言ってるの。じゃあね」
時野アヤは軽く流すとサヨと俊也に手を振ってゆっくり帰っていった。
「じゃ、帰ろっと」
サヨが帰ろうとした時、俊也がサヨのかばんを引っ張った。
「あわっ!?」
「待って!付き合ってほしいんだ!」
「はあ?おにぃと付き合うとか寒いんですけど。そんなに相手いないわけ?きもっ」
サヨが明らかな嫌悪を向けてきた。俊也は慌てて手を振る。
「ち、違う!付き合うってそっちじゃなくて一緒に行ってほしいとこがあるみたいな!僕もお前と付き合うなんてごめんだ!」
俊也が叫んだ時、サヨのため息が長く吐かれた。
「で?どこ?仕方ないから行くー」
サヨの言葉に俊也は息を吐くと頷いた。




