学園のまにまに九話1
四月。俊也は二年生になった。桜が舞い、過ごしやすい天気だ。
しかし、始業式の日に俊也は寝坊してしまった。
「ぎゃー!!」
真面目な俊也は目を覚まして時計を見ると真っ青になりながら叫んだ。
ちなみに父は仕事で母はたまたまパートで朝早く、起こしてくれる人はいなかった。
俊也は慌てて制服を掴むと急いで着こんだ。こういう時にかぎってボタンがずれたり、ズボンのホックがうまくあがらなかったりする。
「ああ!もー!」
冷や汗をかきながらなんとか制服を着こんで部屋のドアを開けた。そのまま走り去ろうとしたが隣にある妹の部屋から寝息が聞こえたため立ち止まった。
「あいつ、まだ寝てるのか!完璧遅刻だぞ!」
俊也は叩き起こすべく妹の部屋に入った。妹のサヨは気持ち良さそうによだれをたらして寝ている。
「コラ!起きなさい!学校だよ!」
と偉そうに言ってみたはいいがよく考えれば自分も遅刻しているのだ。人に注意をする資格はない。
「あ、おにぃ?なんでうちの部屋にいんのー?昨日色々遊んでてつかたんなんだけど」
俊也がサヨに怒鳴ったためサヨは眠たげな目をこすりながら起きてきた。
「いやいや、サヨ、今日は学校だよ!」
「始業式じゃん。部活には行くからー。じゃあ、りだーつ!」
「はあ?」
サヨはそれだけ言うと掛け布団にくるまった。
今のサヨの話を聞く限りだと元々学校に行く気はなさそうだ。
『始業式だから休んでもいい』が当たり前になっている奴の言い分だ。
「サヨー!学校に行くよ!」
俊也は再びサヨを起こした。
「あー、もー、うるさいんですけど。てか、おにぃ真面目過ぎでしょ。いつも何かがいても気がつかない鈍感なくせにー」
サヨは鬱陶しそうに俊也をシッシッと遠ざける。
サヨの言う『何か』とは目に映らない神とかそういうのの事らしい。
「サヨがおかしいんだよ。普通は見えないし」
俊也もサヨに対抗して声をあげる。
「おにぃ、おにぃは自分は見えないと思ってるのー?」
サヨはベッドにあぐらをかいて座り込むと俊也をまっすぐに見据えた。
そしてその後、俊也を激しく動かす言葉を発する。
「それって『見えない』じゃなくて『見ようとしてない』んじゃない?おにぃは時神と太陽神があんなに近くにいてしかも、ネタもあたしがばらしてやったのに『知らないふり』をしたじゃん」
これを言われた俊也は首を傾げたまま固まってしまった。
※※
「知らないふり……かあ」
今朝の事を思い出しながら……
教室の椅子に座り、頬杖をつき、窓から見える青空ばかり眺めていた。ちなみにあの後、サヨは再び眠りに入り俊也は仕方なくひとりで家を出た。
先生の話は見事に聞き流している。
「うーん……見ようとしてないか……ほんとに見えないんだけどなあ」
そうつぶやいた俊也はサヨに言われてから喉に魚の骨が刺さったような感覚が続いていた。
そしてしばらく考え決意した。
……僕は見る努力をして見えるようになろう!




