学園のまにまに六話2
次の日、曇天だった空はすっかり良くなり、秋の心地よい風がふくきれいな青空になった。
夕方頃に現地集合する予定で話がまとまっていたので俊也はローカル線に乗って海の見えるど田舎までやってきた。
メールで妹を誘った結果、妹は喜んでついてきた。
「星空なんてロマンチックじゃない!あ、待ってね、この夕日とゴボちゃん撮るから!」
電車から降りるなり妹はカバンからカエルのぬいぐるみを取り出すと枯れ葉がのるベンチの上に置いた。スマートフォンで写真を撮っている。
「ねぇ、サヨ……何してるの?」
俊也が不気味に思いながら妹のサヨを眺めた。サヨはクルクルカールしたボリュームのある髪を揺らしながら俊也に微笑み言った。
「何ってゴボさんを撮ってるんだよ。見ればわかるでしょ?」
「いや、だからなんでカエルのぬいぐるみの写真をここで撮ってるの?って話なんだけど」
「ぬい撮りだよー。おにぃはそんなことも知らないの?インスタにアップするの!」
サヨはゴボさんと呼んだカエルのぬいぐるみをカバンにしまうと呆れた声をあげた。
「はあ……」
俊也はよくわからず、てきとうに返した。
「ずいぶんとクセの強い妹さんだわね」
ふと時野アヤの声が聞こえた。振り向くとボロボロな改札口から時野アヤが顔を出していた。
「ああ、時野さん、もう来てたんだ。えっと、妹のサヨ」
俊也は時野アヤに動揺しながらもサヨを紹介した。
「サヨちゃんね。今日はよろしく。私はアヤよ」
時野アヤはサヨに丁寧に挨拶をした。
……サヨにもこれくらいの落ち着きがあったら……
俊也はため息をつくとサヨをちらりと横目で見た。
サヨは満面の笑みで頭を下げる。
「アヤ、今日はよろしく!夜空とゴボちゃんキレイに写真撮れるかなあ」
「そのゴボちゃんってカエルは暗くて写らないでしょうね」
時野アヤは冷静に言葉を返した。
「いやっほー!皆もういるのかい!」
時野アヤが返事をした刹那、気分上昇中の声が響いた。
日高サキだ。
日高サキはいつからこの駅にいるかわからないが一度改札を出て散歩をしていたようだ。改札を出た少しは離れた場所で手を振っていた。
「なんだ、僕達が最後か」
俊也は彼女達を待たせてしまった事を申し訳なく思いつつ、サヨを連れて改札を出た。
「こんちは!私はサヨ!たぶんほんとは砂夜!おにぃはたぶん俊夜!よろしく」
「え?」
サヨが突然意味不明な自己紹介をはじめたので日高サキと時野アヤは目が点になっていた。
「あ、えーと……変わってるって言ったよね……。こういうこと」
俊也はなんだか恥ずかしくなり苦笑いを浮かべた。
「確かに強烈……」
「うちの両親が言ってたの!代々夜がつく名前なんだけど、時代にそぐわないし夜は忍者を引き継いじゃってる感じがするから変えようってね!」
「は、はあ……」
サヨのどや顔に時野アヤはなんて言えばいいかわからなくなっているようだった。
「あ、うちは両親も変人だからさ……。忍者の末裔だとか言いはじめて夜を引き継ぐかどうかみたいな話をしてたらしいんだ。サヨはそれを真に受けてるだけだよ……はは」
俊也は口角を上げて無理やり笑みを向けた。
「へぇ……」
時野アヤと日高サキは返答に困りながら頷いた。
……うわー、絶対変な家族だと思われてる……妹よ……
俊也は半泣きでサヨを見つめた。
「ま、まあとにかく……海岸行くかい?そろそろ日が沈むし」
日高サキが冷えた空気を暖かくするべく半笑いでつぶやいた。




