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黄泉へ7

 一方、逢夜、ルルは世界から離脱しようとしていたサヨを慌てて捕まえた。幸い、ツクヨミの宮から出る辺りで捕まえられた。

 ツクヨミの宮は海の下にあるため、サヨが一瞬止まったのだ。

 「待て待て待て!」

 「ん?」

 「いや、ん? じゃなくてだな。どうやって黄泉に入るつもりだ!」

 「あー……」

 逢夜に言われ、サヨは目を泳がせた。

 その時、ツクヨミの声が海全体から聞こえてきた。

 ……海の中に社があるから、そこから入って。

 「海の中に社?」

 サヨが訝しげに、とりあえず天を仰ぐ。

 ……マガツミが来る前に早く……。

 ツクヨミが声を被せてきたので、慌ててサヨは天井にある海から社を探した。

 「……わっかんない! ねぇ、なんか、見える?」

 サヨは逢夜に尋ねた。

 「わからねぇ」

 逢夜も探すが社は見えない。

 「私はわかったよ。サヨ、行こう!」

 なぜか、ルルだけは社を見つけていた。

 「え? どこにあんの? マジわかんないんだけどー」

 「目の前にあるけど。Kと霊には見えない?」

「まあ、いいや! じゃあ、行こ!」

 ルルの言葉を聞き流したサヨは高く飛び、天井にある海に飛び込んで行った。

 「サヨ! ひとりで行かないで!」

 ルルもサヨを追い、飛び上がる。

 「ああ! 待て!」

 残された逢夜も慌てて、海へ入っていった。

 ルルについて行き、海へ入ると、黒い塵のようなものが沢山集まってきていた。

 「マガツミっ! 皆、急いで!」

 ルルが鋭く言ったので、逢夜とサヨは社が見えぬまま、慌ててルルを追いかける。海中は夜の闇のように暗くなっていた。

 「どこ?」

 「目の前。ついてきて」

 戸惑うサヨと逢夜の手を引き、ルルは目の前に見える金色(こんじき)の社に入り込んだ。

 世界がぐるりとまわり、気がつくとサヨ達は不思議な浮島の上にいた。

 「ん~……なんか世界がぐるぐるしてる~」

 「なんだ? ここは」

 サヨが呻き、逢夜が頭を抱えながら立ち上がった。

 「……黄泉? なんか、負が沢山渦巻いているように感じる」

 「……負?」

 ルルの言葉に逢夜が首を傾げていると、白布を着こんだ、恐ろしい気配を纏わせる女が突然現れた。

 「……また来たのか。黄泉のものは渡さない」

 「まさか、イザナミ様ですか?」

 ルルが尋ねると、イザナミは頷いた。

 「私はイザナミ、黄泉に何の用?」

 「マガツミを黄泉に帰したいんです。弐の世界で暴れ、世界を壊しています」

 ルルは静夜が言っていた事をそのまま伝えてみた。

 「……おやおや、外に出たのかい。いいのではなくて? そのまま壊してしまえば」

 イザナミは嘲笑にも似た不快な笑みを浮かべ、こちらを見ていた。

 「あと、イツノオハバリもちょーだいよ!」

 サヨが勝ち気な表情でイザナミを睨み付けるが、イザナミはコロコロと笑っただけだった。

 「ほしいなら奪いなさい。ただし、時間制限があるわ。こちら側に対応できていない者は消滅するの」

 イザナミはまたも不気味な笑みを向けた。

 「時間制限?」

 「そう、そこのあなた、『K』、データの解析をやってみなさい」

 イザナミはサヨを指差し、そう言った。

 「データの解析……って……?」

 サヨは「Kの使い」でもある逢夜と、とりあえず、あてずっぽうで「同調」をしてみた。以前、千夜とごぼうにやったものだ。

 「それじゃない。あなた、以前に華夜とかいう人間の魂を理解していたじゃない。それですわ」

 「あれは勝手に……」

 サヨが最後まで言い終わる前に、逢夜のデータが流れてきた。

 ……望月 逢夜。「K」の使い。

 現在厄除けの神……○✕※……

 「……っ」

 サヨは驚いてまばたきをした。その瞬間に、逢夜のデータは消えていった。

 「サヨ、どうした? 大丈夫か!?」

 「……なんか、ヤバいこと起こっちゃってるかもー……。あんたのデータが消えてってる……」

 「は?」

 逢夜が聞き返した刹那、イザナミが襲いかかってきた。

 「黄泉のものは取らせない」

 「あの神は何を言ってるわけ?」

 サヨはルルを仰いだ。

 「わ、わからないけど、ちょっと逃げよう!」

 「どうやって? 浮島だよ? ここ」

 サヨが焦っていると、イザナミが炎を纏わせて、こちらに放ってきた。

 「うわっ……えーと……ごぼうちゃん! 弾け!」

 サヨはダメもとでカエルのぬいぐるみ、ごぼうに指示を出し、灼熱の炎の回避を試みた。

 しかし……。

 ごぼうが弾こうと結界を張ったが、炎は針のように結界を貫通してきた。

 「あうっ……」

 サヨが呻き、逢夜が咄嗟にサヨとルルを庇う。

 「サヨっ! 『排除』だ! 『排除』を使えっ!」

 「あ……っ、弐の世界のっ、管理者権限システムに……アクセス……『排除』……」

 サヨが動揺しながら、なんとか言葉を紡ぎ、炎は世界から『排除』された。

 「と、とりあえず、なけなしの結界を張ったけど……逢夜……」

 ルルが小さくつぶやき、逢夜を仰ぐ。

 「……っ。大丈夫だ。また来るぞ……」

 「逢夜……」

 逢夜は炎に貫かれて、髪紐は燃えてなくなり、背中を焼かれていた。火の粉が舞う。

 「そんな酷いキズじゃねーから、早くっ!」

 「弐の世界、管理者権限システムにアクセス! 『排除』!」

 サヨは飛んでくる炎を睨みながら、再び叫び、炎を排除させた。

 「弐の世界の管理者権限システムにアクセスっ! 『排除』!」

 サヨは何度も叫び、終わらぬ攻撃を弾いていく。

 「ゲホッ……弐の世界……管理者権限システムにアクセス『排除』っ! 弐の世界の管理者権限システムにアクセスっ! 『排除』! 弐の……」

 「……これじゃあ動けねぇ……」

 逢夜は考える。

 「イツノオハバリどころじゃないよ……逢夜……」

 ルルが不安になり、逢夜にそう言った。

 「……ああ。サヨが辛そうだ。いっそのこと……浮島から落ちるか?」

 「弐の世界っ……ゴホゴホ……」

 サヨの言葉が切れた時、槍のように尖った幻想の炎が勢いよくサヨに飛んだ。

 「ちっ!」

 逢夜はサヨを引っ張り、ルルを引き寄せると、浮島から飛び降りた。

 浮島から落ちたが、なぜか体が浮いている。

 「……浮いてるっ!」

 「あたしの力が働いてるみたい」

 サヨがつぶやき、この空間でも『K』は飛べるということを逢夜は知った。

 「サヨの力で飛べる……! 攻撃は俺が頑張って防ぐ! お前は俺達を連れて逃げることを考えろ!」

 「え? 炎を避けらんないんじゃ?」

 サヨが尋ねると、逢夜は飛んでくる炎に手をかざし、叫んだ。

 「俺はKの使いだ。……弐の世界の管理者権限システムにアクセス『排除』!」

 逢夜はサヨよりも小さな範囲で炎を消した。

 「……ちょっ、まって! また、できるの忘れてたの!? ありえないんですけどー」

 「お前だって忘れてただろうが! いいから、逃げろ!」

 「へーい」

 サヨは逢夜に悪態をつきながら、浮島から離れる。

 イザナミは浮島を離れてもまだ追ってきた。

 「うーん、この島ってマジで浮いてるんだー。島が空に浮いてる……びっくりぽん」

 サヨは軽く島の全体像を見てから、先へ進む。青空がどこまでも続いていた。

 「てゆーか、どこに逃げんの?」

 「隠れられる場所はなさそうだね」

 ルルも辺りを見回すが、あの浮島以外に何にもない。

 「何にもない。マジで!」

 サヨはどこに逃げればいいのかわからず、とりあえず飛ぶ。

 「あ! サヨ、浮島!」

 ルルが叫ぶように言い、サヨは目を丸くした。

 「嘘……さっきの島じゃん! ループしてんの? ここ!?」

 「まいったね……。真っ直ぐじゃなくて、下に降りてみる?」

 ルルは青い空が続く下方を指差し尋ねた。

 「……なんもない気がするけど、いかないよりかはマシっしょ!」

 サヨは急激に下降した。ルルと逢夜も共についてくる。逢夜は炎を弾こうと術を発動させる瞬間だったので、サヨに怒っていた。

 「急に落ちるな! 舌を噛むとこだったじゃねーかよ!」

 「逢夜サン、上から炎の槍、降ってきてますよぉー、弾いて弾いて!」

 サヨは上から降ってくる多数の炎の槍を指差しおどけるように言った。

 「ちっ! 弐の世界の管理者権限システムにアクセス『排除』」

 逢夜は再び炎を弾き始めた。

 「もしかすると……、『排除』だけでも炎を『排除』できるんじゃね?」

 再び炎の槍が多数降ってくる。イザナミは止まらない。

 「やってみよ。『排除』」

 サヨが下降しながらつぶやくと、炎の槍は次々と消滅していった。

 「なんだ、略式でも発動するじゃん」

 「……すげぇな、あんた」

 「とりあえず、どうすんの?」

 驚く逢夜にサヨは鋭く尋ねた。

 「イザナミってやつはどこまでも追ってくるな……」

 逢夜がつぶやくと、下に浮島が見えた。

 「浮島……。下に行っても、上に行ってもループ!?」

 「まいったな……」

 「抜け出せないどころか、元の世界にすら戻れないね」

 三人は炎の槍を避けながら、どうすればいいか、必死に考えた。

 「……サヨ、さっきイザナミ様が……黄泉のものは渡さないって言っていたよね?」

 ルルは眉を寄せながらサヨに確認をする。

 「うん。だね、なんかわけわかぽよだった」

 「黄泉のものってなに? 取られたらマズイ何か?」

 逢夜が『排除』を使うのを眺めながらルルは考えた。

 「逢夜のデータが消えてて、持っていっちゃダメなものがある。あやしい……。だけど、なんにもないじゃん」

 サヨは再び真っ直ぐに動きながら見落としがないか探るが、何もなかった。

 「サヨ、世界はデータなんだよ。もしかすると……サヨがこの世界をデータとして見たら……世界が変わったりするかも。パソコンのデータの中には、隠しファイルだってある」

 ルルの言葉にサヨは首を傾げた。

 「どゆことー?」

 「この世界全体を、さっき逢夜にしたみたいにデータとして見たら、綻びがあるかもしれない! もしかすると、ループのデータが書き込まれているのが見えるかも」

 「……なるほど。とりあえず、やってみる。さっきみたいな感覚でー」

 サヨは真っ直ぐに進みながら、集中力を上げて世界を見始めた。

 空と浮島の世界は一転して黒い背景に緑の電子数字が流れるの世界へと変わった。

 「ちょ、ちょっとこれ、全くわからないんだけどー! とりあえず、何にもなかったから、真っ直ぐ行く!」

 サヨは電子数字が流れる中、真っ直ぐに進み始めるが、見落としがないか、常に左右どちらかを交互に見ていた。

 しばらく進むと、なぜかデータの波の中に桃の木が見えた。

 桃の木はデータになっておらず、桃の木のまま、サヨの目に映る。

 「……?」

 サヨは目を細めた。

 まわりに何もない。ただ、桃だけが鮮やかに実っている。

 「一個、とっちゃえ!」

 サヨは逢夜に防御を任せ、飛び去りながら、桃を二個取った。

 「あ、二個掴んじゃった!」

 サヨが桃を掴んだ刹那、イザナミが狂ったように叫び、炎を撒き散らしてきた。

 「カグヅチー! 奴らは黄泉のものを盗んだ! コロセェ!」

 「弐の世界の管理者権限システムにアクセス『排除』! ……ちっ!」

 イザナミの攻撃は今度、逢夜では防ぎきれなかった。先程より火力が強い。

 「まずい! 桃は取ってはダメなものだったみたい!」

 ルルが叫び、サヨは焦った。

 「ど、どうしよ……いや、取ったら向こう側がまずくなるんだ。あたしらじゃないじゃん! もしかしたら、倒せたりして」

 サヨは桃をイザナミに投げつけようとしてやめた。

 「桃で大人しくできるわけないよねー……」

 「おい! もう、俺じゃあ防ぎきれねぇ! なんとかしろ!」

 逢夜は長年の勘で一番当たるとまずい部分に重点的に、『排除』を使い始めていた。

 「ちっ、他に……」

 サヨが再び、データを読みながら進み始める。

 「ん?」

 先程の浮島部分はデータの塊となったが、浮島のすぐ上に謎の剣が見えた。

 「……さっきまで……なかったのに」

 サヨがぼんやり考えていたら、炎がかすってきた。

 「いっ!」

 「サヨっ! わりぃ! 防ぎきれねぇ……」

 逢夜の必死な声を聞き、サヨは剣を取ることを決意した。

 時間がない……。

 「あれを……使ってイザナミを倒そう……」

 

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