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壊された世界12

「ひでぇ……なんだ、この記憶は」

逢夜は眉を寄せた。

サヨは茫然と立ち尽くしている。

身に覚えのない記憶を無理やり見させられているのだ。いい気分ではない。


「戦争……」

サヨは小さくつぶやく。


「世界大戦だ……」

戦闘機が飛び、民家を焼いている。水で濡らした頭巾を被り、必死で逃げる人々。


「こ……こんなの見たくない!!」

サヨは頭を抱えた。

「たすけて……やだ……」

サヨは黒い渦の中でもがいていた。


「お兄様……」

憐夜も不安げに逢夜を仰ぐ。

「……サヨを助けにいきたいが、どうすればいい……」

逢夜が結論を出せずにいると、記憶が変わった。

今度は弐の世界のようだ。


「弐……」

宇宙空間に浮遊している魂が数えきれないほど(うごめ)いていた。

その魂達の間に青い髪のツインテールの少女。メグがいた。


「すごい数の人が死んだ……。この世界全体で……。Kが増えるはずだ……」

メグはせつなげに魂達を眺める。


「後悔ばかりだ……。後悔を消すのに時間がかかりそう」

メグは、それぞれの世界へ帰る魂達を送り出して目を伏せた。


その魂の中に國一(くにいち)と呼ばれていた人間の魂もあった。


彼はエネルギー体のまま、なぜか人の形をとっていた。


「俺は死んだのか……。俺はあの時、敵国軍艦に戦闘機で突っ込んだんだ。死んで当たり前さ……。死ぬ間際にあいつと夢の中で会話をした」

國一は軍服を脱ぐと宇宙空間に放った。


「もう俺は軍人じゃない」

國一は静かに目を閉じると、妻と子を思い、自分の世界へと落下していった。


彼が自分の世界に行くと、なぜか、妻と子が待っていた。


「おかえりなさい。あなた」

妻が微笑み、幼い息子が彼に抱きつく。


「君達は死んだのか?」

彼が問いかけると、ふたりは首を横に振った。


「あなたのお友達さんが助けてくれたのよ。彼はたまたま、足を悪くしていて戦闘機に乗れなかったのでしょう?」


「ああ、そう聞いている。君達が生きていて良かった。これは夢なのか?」

國一はなぜ生きている彼らに会えたのか疑問に思った。


「ええ。ここは私達の……生きている私達の夢の中です。あなたは私達の心に生き続けている。見守ってくださいね」

妻の言葉に國一は涙を流し、ふたりを強く抱きしめた。ふたりが目覚めた時に、自分がいなくてどう思うのかと苦しくなったからだ。


「すまない」

「……」

妻の肩も震えていた。


誰が悪いのではない。

誰も責められない。


「すまない……」

お父さんが、旦那が、許嫁が、戦争で死ぬ。

この時代は当たり前だったのだ。


掲げられていたアマテラス大神も、心を痛めながらこの現状を見据えていた。


そして、彼女は世界を分断する方向へ考えを持っていくのだが、それは「TOKIの世界書」に記述しているため、こちらでは省く。


國一は何年も、何十年もその場にいた。妻と息子が夢で遊びに来るのを待っていた。

そのうち、妻が國一の世界に夢ではなく、現れた。


「これから、一緒ですね。やっとこちらに来れた。息子は元気ですよ。孫もいます」

「……そうか。良かったよ。大変だっただろう?」

國一は申し訳なさそうに下を向く。


「まあ、そうですね。大変だったわよ。でも、大きくなる息子はどんどんあなたに似てきて、孫はさらにあなたに似ているわ。だから、大変よりも嬉しかった。孫はあなたを見たことがないので、あなたを思い出しはしないから、あなたが孫の夢に出ることはないと思うけれど」


「まあ、いいさ。元気で生きていてくれたら。俺は一応、子孫達の守護霊だ。俺を知らなくても守るさ」

妻が笑い、國一もやっと笑えた。


「息子は孫馬鹿よ。いいおじいちゃんになっているわ。そのうち、こちらに来るわよ」

「はは、楽しみだな」

國一と妻は結婚当初の若い姿に魂年齢を変えると、優しい涙を流しながら寄り添った。


「木暮家は続く……か」

「ええ……」

彼は木暮國一と言う。

以前も話に出た、小川家の妻の方の家系である。現在Kである健とその後、木暮の娘がくっつき、やがて、あやが産まれる。


木暮はずっと昔、武田を守る忍であり、凍夜望月家の更夜の隠し子、静夜を(めと)っている。

更夜がそう言っていたはずだ。


さらに時が経ち、息子がやってきた。息子は死ぬ間際、父と母がこちらの世界に手まねいていたと言っていた。


確かに少し、息子を呼んでしまったかもしれない。

三人で生活を始めていた時、静夜(せいや)と名乗る女が現れた。


望月家特有の苦労の証である、銀髪を揺らし、國一に一礼をした。


「……まさか、ご先祖でしょうか?」

國一は軽く震えながら静夜を見据えていた。


「こんにちは。お邪魔してすみません。わたしは木暮静夜。少しお話させていただいても?」

静夜は國一を見ていた。息子と妻は軽く微笑むと、瓦屋根の自分達の家へと帰っていった。


「はい、なんでしょう?」

「実は、私の実家の望月に関して、なんですけども」

「はい」

國一はなんだかわからず、とりあえず頷く。


「望月の子孫、望月深夜の二人目の子供が水子の運命なのです」

「……なんと……おかわいそうに」

水子、つまり望月深夜の「二人目の子」は流産してしまうということ。


「魂のエネルギーが足らないのです。奥様の方は体調に気を遣い、子供も現世に産まれたいと願っております。しかし、エネルギーの一部の欠如により、流れてしまいます」

「……」

國一は静かに目を伏せた。


「さらに言うと、その子は大きなものを背負わなくてはいけなくなるかもしれません。望月家が望月凍夜を倒すために。彼女は歴代の望月の血が色濃く残る遺伝子を持つようです。つまり……人間ではなくなる可能性が高い。今回の彼女は、DNAの転写の際にRNAがKの遺伝子を取り込み、遺伝子とは違う形になってしまったらしいのです」

静夜はどこか焦っていた。望月凍夜を倒せるかもしれない子種だ。


静夜は彼女を……サヨを失いたくなかった。


「つまり、私にどうしろと言うのですか?」

國一は話がわからず、首を傾げていた。


「……あなたの魂を……彼女に与えてやってはくれませんか? エネルギーの半分だけでもかまいません。望月は頼れないのです。術に縛られてはいけませんから」


「望月家は頼れないから、木暮をまわっているのですか?」

國一の言葉に静夜は頷いた。


「特にあなたは『K』のデータを持っているようなので、彼女に力を与えてやってくれませんか? とりあえず、 一度、彼女の元に行ってくれませんか? 彼女を見てほしいのです。エネルギーの受け渡しは強制ではありません」

静夜が國一に頭を下げる。


「そういう……ことでしたら、会ってみましょう」

國一は困惑しながらも頷いた。


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