壊された世界6
異様に硬い人形達の攻撃に、逢夜は苦笑した。三人組の人形はつまようじを片手に、かまいたちやら、居合い抜きやらをやってくる。
つまようじは刀のように鋭く、気を抜くと斬られてしまうくらいに硬い。
「一体どうなってんだよ……」
逢夜がため息をつくと、三人組の人形から黒い靄が出始めた。
黒い靄はやがて人型になると、四方八方から逢夜達に攻撃を仕掛けてきた。
「オイ! 増えたぞ! サヨ! 守れ!」
「えらそーに!! わかってるってば! えーと……『同調』!」
逢夜の声にサヨは悪態をつくと、ごぼうを危なげに動かし始めた。
サヨと繋がったごぼうは、視界が広がり、サヨの指示にうまく従うようになった。
「お! なんか上手くなってね?」
サヨが襲い来る人影を、ごぼうの格闘術で凪ぎ払いつつ、つぶやいた。
「……サヨって強いんだね。あんな速い攻撃を防いでる。あのカエルのぬいぐるみを操っているのもサヨでしょう?」
憐夜は小さい声でアヤに尋ねる。
「そうだわね。いつの間にあんなに動けるようになったのかしら……」
アヤはそんなことを言いつつ、自分のやるべきことを模索し始めた。逢夜は小刀一本で三人組の、強力な人形の相手をしている。手のひらサイズの人形達に力負けしそうになるくらい彼女達は強かった。
ドールのうち、ひとりが光の球体を飛ばしてきた。逢夜はなんだかわからずに、とりあえず避ける。
光の球体は弾丸のように飛び、黒い砂漠を深くえぐりながら爆発をした。
「……いっ……。なんだ、あれ……。サヨ! 妙な術を使ってくる。気を付けろ!」
「それならたぶん、ごぼうちゃんもできる! 真似しよう!」
サヨは冷や汗をかきながら、ごぼうに指示を飛ばした。
……大丈夫。やり方はわかってきた。ここは夢の世界。想像の世界でもあるんだ。だから、できると思えばできるんだ!
サヨは鋭い目を三人組の人形に向け、ごぼうを操る。ごぼうは同じような光の球体を出すと三人組の人形に飛ばした。
「あたしのはちょい違う! 追尾機能付き! どこまでも追え!」
サヨは弾幕ゲームなどによくある、自機を追尾する弾を思い浮かべた。
……できる。
さっきもできたんだ。
試しに反射神経が神がかってると思ったら、あの動きができた。
……あたし、気づいたよ。
あいつら、Kがどうやって人形を動かしているか。
なぜ、「子供」が多いのか。
夢を追っているやつらが多いからだ。
ごぼうが出した弾は三人組の人形を驚かせた。避けても追ってくる不思議な弾だ。司令塔の猫夜がいない今、彼女達はテンプレートな動きしかできない。視界が狭いからだ。弾が見えないのである。
「リンネィ! 斬って!」
三人組のドールのうち、フランス人形風な少女が、着物姿をした黒髪少女に叫ぶ。着物姿の少女リンネィは、フランス人形風な少女を追尾している光の弾をつまようじで切り捨てた。
「ムーン! 小刀が来る!」
フランス人形風な少女は、今度は茶色のパーマ髪の少女に叫ぶ。
ムーンと呼ばれた茶色のパーマ髪の少女は、空気を切り裂くように凪いできた小刀をつまようじで受けた。
「シャイン! 手助けするでござい!」
逢夜の刀をつまようじで弾いているムーンが、フランス人形風な少女、シャインに叫び返した。
現在、彼女達は司令塔の猫夜がいないため、代わりにお互いの危険を知らせあっているようだ。
「リンネィ、一発やって!」
シャインが着物姿の少女リンネィに一言言うと、シャインはつまようじよりも強力そうなファンタジーの武器を出して、逢夜に斬りかかっていた。
「ぐっ……」
逢夜が装飾品のついた剣を、小刀で受け流す。しかし、相手方の力が異常だったため、押し負けてしまい、肩を薄く斬られてしまった。
「私も、なんとかしないと……」
ひとり、戦況を見守るアヤは、逢夜が危険になったらすぐにでも時間を止める準備をした。
人形は疲れないのか、激戦にも関わらず、疲れを見せていない。
だが、なぜだろう。すごく辛そうに見える。
三人組の人形はまたも、黒い影を出現させた。それを見たサヨはごぼうを操り、黒い人影を切り裂いていった。
「アヤさん、お人形さん達、辛そうね」
アヤの影に隠れていた憐夜が、アヤに小さくつぶやく。アヤにもそう見えた。猫夜は「K」の理を外れている。もしかすると、外れた猫夜に従うのが辛いのではないか。
「……憐夜、ちょっと彼女達に話しかけてみる?」
アヤの突然の問いかけに、憐夜は驚いて目を見開いた。
「話しかけるって?」
「どう思っているのか聞いてみるってこと」
「……どう……思っているか……」
憐夜は拮抗して戦う両者をそっと見据えた。




