学園のまにまに四話5
やきそばを食べてからしばらく屋台巡りや海で遊ぶなどを繰り返し、また元の場所へと戻ってきた。
「俊也君、なんだかごめんなさい。変な事ばかり起きて……。」
戻って来るなり時野アヤがすまなそうに俊也を見ていた。先程からおかしなことばかり起きていた。
まるで人がいるかのようにあちらこちらで海の水が跳ね、屋台で買った食べ物は買った瞬間に消えるなど手品のようなおかしな現象がいくつも確認された。
「いや、この部は超常現象大好き部だからいいんだ。いっぱい起きてくれて構わないよ。」
俊也は時野アヤの困った顔にデレデレしながら上ずった声で言った。
「じゃ、超常現象好きのあんたのためにあたしが再び超常現象を起こすよ。」
日高サキがなんだか元気よく立ち上がった。
日が陰ってきている。そろそろ日高サキはおうちに帰りたいのかもしれない。
……よくわからないけど……どんな厳しいお宅なんだろ。お父さんとかが玄関先で仁王立ちしてて竹刀持ってて……「おそい!」みたいな家じゃまさかないよな……。
「サキ……霊的着物になるの俊也君の前でやったら怒るわよ。」
「それはさすがにやらないって。」
日高サキは鋭い視線の時野アヤに笑いかけると俊也をじっと見つめた。
「ど、どうしたの?」
「あんたは……心がものすごく明るい。だからあたしが道を照らさなくてもいいっぽいね。」
笑顔の日高サキに西日が当たる。なぜか瞳がオレンジ色に輝いて見え、なぜだか恐れ多く、手の届かないものを見ているような気持ちになった。一瞬だけ赤い羽衣のようなものを着て金の太陽を模した王冠を被っている日高サキが映った。一瞬だったので間違いなのかもしれない。
その神々しい彼女をどれだけ眺めていたかわからないが俊也はふと我に返った。
「あ、えっと僕は……。」
「じゃ、悪いけどあたしそろそろ帰るわ。また学校でね。今日は日帰りだったし短かったけど超常現象にあえて良かったね。」
「う、うん。日高さん、ひとりで帰れる?」
「大丈夫!じゃ。」
日高サキは俊也達に手を振ると足早に走り去った。
「じゃあね。サキ。もうあんまり騒ぎ大きくしないでよ。」
「あーい。」
時野アヤの呆れた声に日高サキは遠くでてきとうに返事をしていた。しばらく走り去る日高サキを眺めていたが突然、彼女は忍者のようにその場から姿を消した。
……今のは目で追えなくなったんじゃなくて……消えたよな……。
俊也は少し不気味に思ったが時野アヤが平然としているので俊也も気にするのをやめた。
「あ、あのね、イナが夜だけ出店のちらし寿司の屋台に行きたいって言っているんだけど……ちょっと行ってくるね。」
控えめに龍神ヤモリが時野アヤと俊也を交互に眺めながら言った。
「え?あ、ちらし寿司?僕ももうちょっとしたら見に行ってみようかな。」
俊也が返答した刹那、龍神ヤモリが何かを追って走り出した。
「あー!イナ!待ちなさーい!私そんなに持ち合わせないんだからねー!」
俊也には見えないが龍神ヤモリは稲荷神を追って行ったようだった。
屋台の海へと消えていく龍神ヤモリを眺めながら今現在、時野アヤと二人きりになっていることに気がついた。
……げっ。二人きりだ。そろそろ花火が始まる時間だし……これって……。
なんだか胸がドキドキしてきてしまった。
とりあえず、何か話そうと思い、俊也は口を開いた。
「あ、あのさ……ちらし寿司……買ってこようか?」
「……今はやめておいた方がいいと思うわ。また、変なものをみるかもしれない。……あの稲荷神をこそこそと付け回しているあの女神達……一体何なのよ。めんどくさい。」
後半の方は時野アヤの独り言のようだ。
「時野さん……?」
「あ、いえ。なんでもないわ。それよりもっと花火が見える所へ移動しない?あのヤモリって子は放っておいても問題ないから。どうせ、すぐに私達を見つけてこっち来るから。」
「う、うん。わかった。」
時野アヤには俊也が見えないものが沢山映っているようだ。時野アヤだけじゃない。他の子も見えないものが見える子がいるようだ。
……世の中は不思議だ……。
日高サキの謎、時野アヤの謎……ぼうっと考えながら歩いていると時野アヤがそっと背中を叩いた。
「大丈夫?私達……ちょっと気持ち悪いでしょ。」
「そ、そんな事ないよ!」
時野アヤの心配そうな顔に俊也ははっきりと伝わるように声を発した。
「僕はこういう不思議なものに憧れているんだ!だからいいんだ。いつも楽しいよ。」
思わず俊也は時野アヤの肩を掴んでしまった。
「あ、そ、そう……変わっているのね。」
「ご、ごめん。思わず掴んじゃった……。」
俊也は慌てて時野アヤから手を離した。時野アヤは若干ひいていた。顔が引きつっている。
肩を掴んで言うセリフはこんなセリフではなかったことに俊也は後二時間後くらいに後悔するのだった。
「ま、まあ、とりあえず、花火始まっちゃうから見に行こう!」
「そうね。」
時野アヤは女神のような優しい笑みを浮かべると砂浜を歩き始めた。
俊也は胸の高鳴りを抑えつつ、顔を真っ赤にしながらエスコートするべきか否かを混乱する頭で必死で考えるのだが……結局何もできなかった。
花火はとてもきれいだった。花火に反射する時野アヤはまるで花のようだとも思った。
いい思い出ができたと俊也は満足げに頷き、誘った日高サキに感謝をすることにした。
結局のところ、龍神ヤモリと目に見えない稲荷神はなんだったのかいまいちわからなかったがそれを考えるのも今更な気もした。




