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学園のまにまに四話4

いつの間にか日高サキがいなくなっていた。

 彼女は自由人なのでもう先にどこかの屋台をみているかもしれない。


 ……ふぅ。今のけっこう良くなかったか?なんかけっこう良かったぞ。女の子を休ませてお昼をおごってあげる。モテ男テクニックって本を読んでおいて良かった。

 ……さて、ここからは僕が何を買うかでセンスが決まるぞ。デザートと飲み物もつければきっと喜んでくれる……。


 俊也は自分の財布を開き中身を確認した。

 そして一気に青ざめた。


 ……千円しかない……。千円じゃあやきそば四つ買うくらいしかできない……。


 俊也はため息交じりに肩を落とし、やきそばの屋台の列に並んだ。

 気がつくと俊也の前に日高サキが並んでいた。


 「あれ?日高さん。僕の前にいたんだ?」

 すぐ前に並んでいた日高サキは俊也の声を聞いて驚きながら振り向いた。


 「あー、見つかっちゃった?せっかくみんなの分をサプライズで買おうと思ってたのに。」

 「大丈夫だよ。今回は僕が払うから。」

 俊也は日高サキに軽くほほ笑んだ。これもさらりと言うと夏のモテ男テクニックだ。


 「やめた方がいいよー。ここには口がバキュームの腹がブラックホールの稲荷神がいるんだから。」

 日高サキは身長の低くそうな何かをポンポンと叩いている。

 俊也は口が掃除機で腹が真っ黒な女の子を想像し、顔色を青くした。


 「あたし、けっこう持っているし、これで買うから平気だよ。」

 日高サキは自分の財布を取り出し中身を確認した。いけないと思いながらも俊也がのぞき見すると彼女のお財布は福沢諭吉さんが何人もいた。


 ……やっぱりお金持ちのお嬢様だ……。彼女は。


 千円しか持っていなかった俊也は堂々と財布を見せられずに若干落ち込んだがせめていいところを見せようと日高サキが熱中症にならないように日陰を必死で作っていた。

 やがて日高サキの番になり、店員に注文を始めた。


 「やきそばを三十パックくださいな。」

 「三十!?」

 隣にいた俊也は驚いて目を丸くしてしまった。予想以上の多さだった。


 バキュームでブラックホールな稲荷神の女の子とは一体何者なのか……。


 日高サキは大量のやきそばのパックを店員さんから受け取るとそれを四つだけ残して跡形もなく消した。


 「き……消えた?え?消した?て、手品か!」

 とりあえず何か言わないとやっていけそうになかったので俊也はてきとうな突っ込みを入れた。


 「ああ、今、隣にいる稲荷神に全部あげたんだよ。」

 日高サキの言葉に俊也は心の中で「僕はうまくない。食べられませんように」と目の前にいるであろう稲荷神に必死でお願いしていた。俊也の中では稲荷神の少女は化け物化している。

 日高サキと俊也は時野アヤ達がいる場所まで戻ってきた。

 戻って来るなり時野アヤと龍神ヤモリが口をそろえて違う事を叫んだ。


 「イナ!やきそばそんなに持って!少しは遠慮しなさい。」

 「サキ!俊也君の前で渡したんじゃないでしょうね?彼女は人に見えないんだから持ったものまで見えなくなるわ!」


 「ま、まあまあ、そんなに怒らずに。食べようじゃないかい。」

 日高サキは汗をかきながら二人をなだめ、やきそばのパックをそれぞれの手の平に置いた。


 俊也もとりあえず座り、やきそばを食べ始めた。

 なんだか不思議だがこういう所で食べると気分的にうま味が増す。


 ……うまい。これも神秘的な現象なんだろうか。

 俊也はこれも超常現象の一つなのだろうとどうでもいいことを知識人風に思った。


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