神々の世界4
アヤはしばらくミノさんを見つめていたがさっさとベッドに入った。潔く寝る事にしたのだ。
なんだかすんなり眠れた。肝がすわったのかもしれない。
「……おい……アヤ……」
ミノさんはアヤの心変わりの早さに戸惑いつつ、寝ているアヤを見下ろした。
「アヤ……ほんとに寝ちまってる……。さっきまで揺れていた心もまっすぐ安定しやがった……。大丈夫だったのか?……アヤは危なっかしいから役に立たない俺がいなきゃダメだよな?……無防備なアヤが目の前に……。あ……いやいや……俺も寝よ……」
ミノさんはいそいそと床に敷かれた布団に入って眠った。
もちろん、変な気持ちなんて沸くわけがない。
……沸くわけが……。
ミノさんは妄想をしつつ夢へと旅立った。
※※
「はっ!」
ミノさんは突然に目覚めた。
……あれ?
目覚めるとアヤの部屋にはいなかった。ミノさんの神社に似ている建物が後ろに建っている。
「ん?……なんだ?どういうことだ……?」
ミノさんが記憶の整理をしようとした時、アヤの声が聞こえた。
「アヤ!」
ミノさんは声の聞こえた方を向いた。
「アヤぁ!?」
ミノさんはアヤを視界に入れた刹那、すっとんきょうな声を上げた。
アヤがほぼ裸で頭に猫耳がついている格好で立っていたからだ。
「うひゃあ!?」
「ミノ……恥ずかしいわ……。裸なんて……あなたの言うことを何でも聞くから許して……」
半分涙目のアヤが顔を真っ赤にしながらもじもじしている。
「ちょ、ちょっと待て……おかしい……こりゃ、さっき俺が『妄想』した……」
そこでミノさんは気がついた。
……ああ、夢か……良かった。
しかし、夢に気がついたところで現実世界には帰れない。
「あれ……普通、夢って気がついたら目が覚めるよな?」
ミノさんはアヤをちらちら見ながら考える。
「ねぇ、ミノ……」
ミノさんが考えているところでアヤが声を被せた。
「な、なんだよ……」
「恥ずかしい……もう許して……男性に裸を見せたことなんてないのよ……」
「ひぃ……かわいすぎる……。なんだよ、このアヤ……かわいすぎんだけど!もう一回言ってほしい……。男性に裸を……なんて俺を男性だなんてイイ!そこがイイ!……じゃなくて……こんな妄想、俺してない!してなーい!」
ミノさんは顔を真っ赤にしつつ首を振った。
あきらかなるミノさんの妄想であった。
「だ、ダメだ!ダメダメ!」
ミノさんが目線を逸らすと神社の鳥居付近で服を着ているアヤが映った。
「あ!アヤ!!」
なんとなくミノさんの中で服を着ている方が本物だと気がついた。
猫のアヤから逃げるように離れ、服を着ている方のアヤに近づいていくと自分もいた。
「あ、あれ?ちょっと待て……俺だ」
ミノさんは慌てて近くの木の影に隠れた。
ニセミノはアヤの肩を引き寄せて厚い胸板に触れさせていた。
……何してんだよ……俺は……
ミノさんは呆れた顔でニセミノを見据える。
「ね、ねぇ……腕も……腕も触っていいかしら?」
「腕か?いいぞ……。この腕でアヤを抱き上げる事も……」
ニセミノはアヤを両腕でお姫様抱っこし、続けた。
「アヤを守る事もできる……」
最後の台詞にアヤは顔を真っ赤にしてニセミノに体を預けた。
……ちょっと待てよ……。俺はあんなこっぱずかしい言葉は吐かない……。つまり、あいつはアヤの妄想の俺?
見ていたらなんだか笑えてきた。
ミノさんは声を上げて笑った後、アヤに声をかけた。
「おたく、俺でそんな妄想をしてたのかよ!」
「……なっ!ミノ!?え?妄想?」
ミノさんが二人現れ、アヤはわかりやすく動揺していた。このアヤは本物のようだ。
「じゃあ、ここは弐の世界?……おかしいわね……。ここまでわかって夢から覚めない……。ミノ……後ろの私はなんなのよ……」
アヤは顔を赤く染めながら裸に猫耳の自分を指差した。
「げ……。あ、あー……猫のようにかわいいアヤを想像して……」
アヤはわかりやすく戸惑うミノさんにため息をついた。
「違うわね……。裸の私に猫耳つけたんでしょう?」
「ま、まあ……お互い様でいいじゃねぇか!……な!」
ミノさんは慌ててごまかした。
「しかし……眠る時にはこっち(弐)にある自分の世界に魂が行くはずなのに、なんで私はミノの世界にいるのかしら?」
恥ずかしさをごまかすようにアヤは小さく疑問を口にした。
「……し、知らねーけど、リンクしたんじゃね?俺達、お互いを妄想したわけだろ?」
「まあ、それが一番わかりやすい回答ね。……ミノ、その私を消してくれるかしら?」
「お、おたくだってその……キモい俺を消してくれよ」
お互いは激しく取り乱しながらも妄想を頭から消した。 妄想の自分達は煙のように消えていった。
「……さて……夢から覚めないってのはなかなか変だよな」
「……そ、そうね……。というか、ここは私の心の世界にも似てるのよ」
「俺の神社だけどな?」
まだ顔のほてりを沈められない二人は目線をそらしながらつぶやく。
「……で……」
二人は再び同時に声を上げる。
「これからどうする?」
ミノさんとアヤの目が合った。
「……おたくを抱き上げてみるか?」
ミノさんはいたずらっぽい笑みを浮かべながらアヤに尋ねる。
「……い……いいわよ……そんなことしなくても……やめてちょうだい……」
アヤは真っ赤な顔で再び下を向いた。
「うはぁ……そうしてんとかわいー……」
ミノさんは心の声がだだ漏れだった。
「私は……裸になんて……ならないわよ……」
「いや……ならなくていい!おたくは清楚のままでいてくれ!じゃないと俺の妄想が現実に……」
「……やっぱり……男は女を最初にそういう風に妄想するのね」
アヤは背を向けて歩き出した。
「ち、ちげーよ!!おたくが無防備で寝てたんだよ!だからだ!普段からそんな妄想するわけねーだろ!?俺だってな、女は心で選ぶよ!」
ミノさんも慌ててアヤについていく。
「……だといいのだけれど」
アヤは背中から冷たい空気を流していた。
「なんだよ?引きずってんのか?さっきの……。悪かったよ。俺がやりすぎたよ。女を力で押さえつけんなんて最低だよな。わかってるよ……」
「ミノ……うるさいわ」
「うるさいってなんだよ……。あやまってんのに……」
「ごめんなさい。それはもういいからあれを見てくれるかしら?」
アヤはいつもの冷静を取り戻し、鳥居下の石段を指差した。
「あ?」
ミノさんも石段から下を見下ろした。
「っんじゃ!?ありゃ??」
石段下より黒い砂漠が広がっていた。なんだか気持ち悪い雰囲気を纏っている。その砂漠はどんどん広がり、この神社に迫ってくる。
「こっちに来るわ……」
「……くっ……」
ミノさんは黒い砂漠の存在に気がついた刹那、苦しみ始めた。
「ミノ……!?」
「……っ。これはやべぇ!!体が焼けるっ!!これは……厄だ!!」
「厄!?ミノには反対の力……。まずいわね……。夢から覚めないし……」
「ぐ……うぐ……」
アヤが話している間にミノさんの体から黒い煙が上がり始めた。
「ミノっ!どうしたら……」
「いでぇ……もえちまう……」
ミノさんが呻いた刹那、魔女帽子を被った人形が唐突に現れ、無言で手を差しのべてきた。
アヤはなんの考えもなしに魔女帽子の少女人形の手を握った。




