表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧作(2016〜2024完結)「TOKIの神秘録」望月と闇の物語  作者: ごぼうかえる
本編「TOKIの神秘録」望月と闇の世界
130/208

望月の世界6

サヨは大きな満月が不気味に輝く不思議な夜の世界にいた。

「……望月の親父はどこだ!!」

叫んでみたが特に反応はなかった。


「出てこい!文句言いに来た!」

サヨは再び叫んだ。

刹那、後ろから何か気配を感じた。振り向いた時には遅くサヨは鈍い衝撃とともに崩れ落ちていた。


「うっ……うう……」

「あ、主に何するケロ……!」

サヨが呻いているとカエルのぬいぐるみ、ごぼうが手を広げてサヨを庇っていた。

しかし、ごぼうは先ほどサヨに初めて呼ばれてKの使いとして魂を受け取ったため何もわからずに戸惑っていた。


「うるせーんだよ。何様だ?お前。ただのカエルがっ」

「ぎゃっ!」

ごぼうは何者かに蹴り飛ばされ無惨にも地面に打ち付けられた。


「ごぼうちゃん!……誰だ!!」

サヨはなんだか痛む後頭部付近を触りながら起き上がった。


「あーあ、ねーちゃん、丈夫だねぇ」

サヨの前に逢夜達にそっくりな銀の髪を持つ青年が現れた。

羽織に鳶職のようなつなぎを着ている。よく見ると逢夜達に似ている気もしたが実は少し違った。

鋭い目は変わらないが彼は細くはない目をしていた。


「女の子の頭を殴るとかどーゆーしんけーしてんわけ?さげたんだわ。てかあんた、誰」

「お前だってでっけー声で父を刺激しやがって」

青年は頭を抱えてため息をついた。


「……父……、あー!あんた!!望月の親族でしょ!!うちは知ってるんだからねっ!凍夜(とうや)を探してんの!早くティーチャー!セイセイ!!!」

「……」

サヨの発言に青年は突然サヨを殴った。

サヨは再び地面に勢いよく倒れた。


「……!?なにすんだ!!この暴力男!だからあんたね、女の子に……」

「うるせぇんだよ……。女だからなんだっつーんだよ。黙ってねーと死ぬぞ」

青年の頬には汗がつたっていた。


「……もしや……あんたも凍夜に怯えているの?」

「凍夜じゃねぇよ。俺からしたらお父様だ。お前からしたらご先祖様だ。ちゃんとご先祖様って言ってみろ。もしくは凍夜様だ」

「……はあ?……っぐ!」

青年は再びサヨを殴ってきた。


「ご先祖様だ、言え。…………ちゃんと言えねーならお仕置きだ。この木の枝で百叩きだ。いや、千回くらいぶっ叩いて血みどろにしてから熱々の鉄で止血してやろうか?」

「……こいつ……」

サヨは感情のこもらない青年の瞳を睨み付けるように見据えた。


「アニキ……やめとこうよ。そんなんで叩いたら怪我するぞ。女の拷問はやだよー……」

「ん!?」

サヨは青年の声ではない違う声を聞いた。


「……止めるな……。こいつは何もわかってねぇんだよ」

青年はなんと腰に差していた刀に話しかけていた。


「……たく、『剣王』様の方が優しさがあったよ……。これだから人間の霊は……」

「お前は黙ってな。触れちゃならない事に触れたこいつが悪いんだからな。(……ちー坊……見られてる……わかるな?)」

青年は後半、口パクで刀にそう伝えていた。刀は急に黙り込んだ。


「わかった!あんた、狼夜(ろうや)でしょ!四歳かなんかで死んだ逢夜達の異母兄弟!魂の年齢を変えられるって言ってたから何歳か増したんだ!」


「……俺は狼夜(ろうや)だが……お兄様は逢夜様だ」

青年、狼夜はサヨを無理やり押さえつけると手足をどこからか取り出した縄で縛り付けた。


「なにすんの!!このバカ男!暴行野郎!」

サヨが叫ぶ中、いつの間にか近くにあった木に括られ、吊るされていた。


「チクショウ!離せ!このゴミ野郎!」

「あーあー、口悪ぃし、元気だねぇ。……すぐに泣き叫ぶ事になるが」

狼夜は細くてよくしなる木の枝を振り上げサヨに打ち付けた。


「あぐぅ!!!」

サヨはあまりの激痛に悲鳴をあげた。鮮血が飛び散り地面に散らばった。


「はっ、はっ、ひっ……」

呼吸を整える事で精一杯のサヨの背に再び枝が飛ぶ。

「あうっ!!」

「どうだ?痛いだろ?お父様に対し、今ここで『ごめんなさい、許してください』と言えば俺は許してやる」

「……誰が言うか!あ、あんたも負け犬だ!!そうやっていまだに従ってバカじゃないの!バーカ!あたしはね、絶対に従わない!!どいつもこいつも腰抜けだ!!おにぃを返せ!どこだ!凍夜ァ!!」

サヨはさらにわめき始めた。


「……くそ……火に油だったな……。許しを大声で叫んでりゃあ終わったんだが……」

狼夜がそうつぶやいた刹那、底冷えする気配が辺りにただよった。


「今……私の目を欺こうとしたな……狼夜よ……。実にすばらしい『演技』だったぞ」

「……いっ……」

「……?」

狼夜は突然に震え出した。サヨは狼夜を不思議そうに見ていたが、やがて気がついた。


……凍夜だ!!


「しかし、ずいぶん聞き分けのない子のようだ。先程から見ていたぞ」

夜の闇から出てきたのは異様な気配を纏う銀髪の青年。表情はなく、刺すような視線でサヨは呼吸ができなくなりそうだった。


銀髪の青年、凍夜は怯えている狼夜を突然きつく殴った。

狼夜は勢いよく倒れ、体を震わせながらひたすらに「ごめんなさい、ごめんなさい」とあやまっていた。


「あんたが凍夜……」

「なめた口を聞くな……。私を欺こうとしたこいつに罰を与えてからお前には教育をしてやる……」

凍夜はうずくまる狼夜を踏みつけた。


「……そうか!狼夜!あたしを逃がしてくれようとしたんだ!!ずっとこいつに見られてたから……」

サヨは狼夜の行動がやっとわかった。


「ダメだ……娘……、凍夜様だ……。逆らうな……逆らっちゃいけないんだ!(……仕方ない……。ここは俺が犠牲になってやる……)」

「……!」

狼夜の言葉に刀は一瞬息を飲んだ。


「狼夜……お前は鉄打ちの刑から釘打ちの刑にしよう」

「ひっ……は……はい……」

まるで「あれを食べよう!」と明るく言ってるかのように平然と言い放つ凍夜に狼夜は震えながら弱々しく返事をした。


「教育不十分なそこの小娘は狼夜より厳しい罰になる。せいぜい死なんよう意識を保つのだな……」

「……くっ……」

サヨは凍夜を睨み付けた。


「狼夜……アニキ……すんません!!」

刀が突然に人型に変わり、すばやく縄を切り、サヨを連れ去っていった。

何者かはサヨを抱えて空を舞った。


「えっ……ちょっ……」

サヨは何者かに連れ去られながら暴行を受ける狼夜を見ていた。


……あたしは無力だった……。

見られていたことさえ気がついていなかったし近寄られてもわからなかった。

彼に守ってもらわないと何もできなかったじゃん……。

あの男の前では見栄を張るしかできてないじゃん!

……そんな簡単じゃなかったんだ……。

凍夜からおにぃを連れ戻すには……文句を言いに乗り込むだけではあたしは死ぬ……。

よく考えろ……。逢夜達もあいつには逆らえない。つまり、命令されればあたしを攻撃してくる可能性もあるんだ。だから彼らはすぐに乗り込まなかったんだ。


少し凍夜から離れた場所でサヨはそっと降ろされた。改めて自分を助けた者を見る。

サヨを助けた人物はライオンのたてがみのような髪をしている少年だった。瞳は大きくかわいらしい。そして作務衣のようなものを着ていた。


「ありがと……」


「……礼は早いよ。俺は現世である壱の世界にいる刀神で、悪霊になっている凍夜を抑えるように『剣王』様から言われてアニキ……狼夜の刀として派遣された。だから霊であるアニキの刀になって運ばれなければ弐の世界を自由に動けないんだ。つまり、この凍夜の世界から外に逃げられない。今だって凍夜から少し離れただけだ。凍夜はここから出られないのを知っていて俺を逃がしたんだよ。あの状態なら俺は凍夜から逃げられる自信はなかった」

刀だった少年はサヨに不安げな顔を向けていた。


「……あの人は……狼夜は本当に凍夜に逆らえないのかなー……」


「……逆らえるわけないだろ!四歳であの男に殺されているんだぞ。しかも普通の殺され方じゃない。狼夜アニキは魂年齢を変えているけど気質は四歳のままだ。アニキは死んでからこっちの世界で鍛練を積み、見聞を広げた。生前の記憶は変えられないけど強いはずなんだ。だってさっきまで得たいの知れない奴らを倒していたんだから。だけど凍夜の世界に入ってから消極的になった。生前の記憶が甦るとアニキは四歳に戻る。たぶん、怖かったんだ。親父が怖くて怖くてしかたなかったんだ。……静かに身を潜めていた時にあんたが来たんだよ。凍夜からはバレバレだった。お前、アニキが動かなかったら気がつく前に殺されてたんだぜ。……アニキが凍夜の世界で死んじまったらアニキは凍夜の世界に二度と入れなくなる。死んだら霊はすぐに元の魂に戻れるけど同じ世界にはもう戻れないんだ。そうしたら俺はどうすりゃあいいんだ」

少年は半泣きでサヨを見ていた。


「……四歳で虐殺された……か。じゃあ、なおさら彼を助けないとダメじゃん!!そういえばごぼうちゃんも回収できてないし、せっかく助けてもらったけど戻るわ」


「待てよ。あんたが凍夜に挑むって言うなら一瞬だけあんたの武器になる」

「……剣術やったことないんだけどー。仕方ないかー」

少年は返答を聞く前に刀に戻った。サヨは仕方なく落ちた刀を持ち上げてみた。


「おーもっ!……もー!ヤケクソだ!!おりゃー!!」

サヨは刀を両手で危なげに持つと自ら凍夜の場所まで走っていった。

先程まで考えて行動しようとしていたのだが……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ