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旧作(2016〜2024完結)「TOKIの神秘録」望月と闇の物語  作者: ごぼうかえる
本編「TOKIの神秘録」望月と闇の世界
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望月の世界5

サヨは不思議な青年トケイの背に乗りながら辺りを見回していた。


「ほぇー」

辺り一面ネガフィルムが巻き付いている。その中でひとつひとつ違う世界が二次元に動いていた。

そのネガフィルムの他は宇宙のように星が輝く夜の世界だ。


「そういやぁ、お前……」

ふと隣に逢夜が現れた。逢夜は空を舞うように飛んでいる。


「うわっ!いつの間に横に!?こっわ……」

「お前……ひょっとすると……」

「なーに?付き合うのはメンゴー。あたし、彼氏いるから」

サヨはいたずらっぽく笑った。


「違う……!Kなんじゃねーかと思っただけだ……。中身を見るとお前にはそれに近いデータがあるからな……」

「中身!?何?スリーサイズとかわかったりして?うちは体だけはい・い・の」

「……はあ……」

逢夜はあきらかなため息をついた。サヨを乗せているトケイはどきまぎしているのか頬を赤くして固まっている。


「あーらあらあら。彼を欲情させちった?」

「トケイ……無視だ。いいな……」

「う、うん……」

逢夜とトケイの会話にサヨは頬を膨らませた。


「ぶーっ!!つーめーたーいー!!」

「お前、そんなんで男が寄ってくるのかよ……」

「失礼ぶっこいたね。今!なーう!!なーう!なーうなーう!!」

「あー、あー、うるせー!うるせぇ!!黙れ!クソガキ!……こほん。お前、Kなら召喚ができるぞ。大切にしているものはあるか?」

逢夜は頭を抱えながら尋ねた。


「大切な……あ!!ごぼうちゃん!!ごぼうちゃんはね、いっぱいいるんだー!マジかわゆす!」

「じゃあ……なんでもいいがそいつを思い浮かべて呼んでみろ。お前がKならば呼べる」

「わけわかめだけとやってみるみるめがねー。ごぼうちゃーん!」

サヨは満面の笑みでごぼうちゃんとやらを呼んだ。

するとすぐにサヨの肩からかわいらしいカエルのぬいぐるみが顔を出した。


「げっ!!ごぼうちゃん、動いてね?なんで?本物だったの??」

「落ち着け!はあ、やっぱりそうだったか」

逢夜はなんだか納得しているようだったがサヨは首をかしげた。


「何?ああ、夢だから動くのか。ビックリしたあ……」

「サヨ、何か用ケロ?」

ふとカエルのぬいぐるみがしゃべった。


「うぇわっ!?しゃ、しゃべった!?びっくりくり!!」

「お前はKなんだ。そんでそのカエルはKの使い……」

「なんだかわかめなんだけどどゆこと??」

「そのカエルはお前の手足となり動くってわけだ。好きに使えばいいさ」

混乱中のサヨに逢夜は面倒くさそうにつぶやいた。


「ね、ねぇ……盛り上がってるとこ悪いんだけど……僕はどこを飛んだらいいの?」

トケイが不安げに逢夜に尋ねた。

「あ、ああ……こいつのせいで狂わされたぜ」

逢夜はサヨを睨み付けると気配を探した。

「ねぇ、私、なんとなくなんだけど、あっちな気がする。本当に。信じて」

サヨは突然に真面目になると何もない右側を指差した。


「……」

逢夜は目を細めた。


……こいつ……無意識に父か俊也の気配を読みやがった……。

……マジな顔をするとこいつの気配をしっかり感じる。お姉様に近いな。本当は学業の成績優秀者で心の強い女だ。

……わざと性格を作りやがったな。この娘……。


「聞いてるの?あっちだよ。わかるから」

「トケイ、従ってくれ」

「わかった」

逢夜の言葉にトケイは頷き、鳥のように優雅に進み始めた。


「サヨ、お前……誰の気を感じた?」

「……わからない。でもすごく怖い」

「……お父様だ……。お前は忍の俺達よりも早く気配を読み取ったんだ。父は気配を消せるんだぞ……。何者だ?お前……」

逢夜の言葉にサヨはうつむいた。


「わかんない。昔からそうなんだ。うちは。かくれんぼで鬼になったら全員一瞬でわかった。パパもそうなんだってさ」


「……そうか。……お父様は荒々しい気配を出している……慎重にな……」

逢夜はなるだけ優しくサヨに声をかけた。サヨは見たことのない威圧を感じている。落ち着かせた方がいい。


「うん……。確かに……これは逆らえない……かも……。こんな気配を生まれた時から……」

サヨはそこまでつぶやいて頭を振った。


「ううん。怖くない!あたしはおにぃを助けるんだから!!おにぃ!まちぽよ!!」

「無茶すんな。だいたいどこの位置にお父様がいるか確かめるだけでいい。あの人は女だろうが子供だろうが容赦はないから。お前が万が一連れ去られて酷い拷問を受けたら俺は耐えられない。お前の悲鳴なんて聞きたくねぇ」

逢夜に残る深い傷は全く癒えていないようだ。もうすでに逢夜は震えている。


「女や子供に対する拷問はもうたくさんだ……見たくねぇ……みたくねぇよ……うっ……」

「ちょっと!大丈夫!?」

逢夜はその場で吐いた。サヨは慌てて逢夜の背中をさする。


「逢夜がこんなんじゃサヨを連れてけないよ……。戻ろうか?」

トケイはその場で止まり、不安げにサヨを見上げた。


「……皆……こうなるの?更夜も逢夜も皆……」

サヨはトケイに尋ねた。

「……うん……何度も変動する弐の世界でお父さんの気配を見つけていたんだ。だけど……いつもダメなんだ。サヨを連れていけば守る感情が働くから大丈夫だって言ってたんだけどね……」

トケイは怯えた声で答えた。


「……こまたんだね……。じゃあ、うちひとりで……」

「やめろ!!」

「うわぁ!びっくりした!!」

逢夜は必死でサヨに叫んだ。


「お前……死ぬぞ!鞭で肉を切り裂かれて熱した鉄で何度も叩かれて刀の試し斬りにされて……死ぬんだぞ……」

逢夜は後半かすれた声でせつなげにそう言った。


「……それを何度もやられたり見たりしたんだね……。辛いね。悲しいね……」

サヨはとても悲しげな声で逢夜の頭を撫でていた。


「サヨ……すまない……俺は……」

「許せないね」

「え?」

サヨは恐ろしいほどの気を纏っていた。戦人が持つ荒々しい気だ。


「お前……」

「許せない……。皆の優しい心をズタズタにしたんだ……。絶対に許さない……。私は負けない。トケイ……向かうよ」

「まっ、待てよ!!」

逢夜が慌てて止めた。


「なに?誰もやんないならあたしがやるっつーてんの!一発文句言ってくる」

「お、お願いだ……やめてくれ……」

「うるさい!!久々に頭に来た……トケイ!」

サヨに怒鳴られトケイは肩をびくつかせながら先に進み始めた。


「待てよ!待ってくれ!!俺は動けなくなるんだ!誰がお前を守る!」

「うるさい!!動けないなら邪魔!」

サヨはイライラをなぜか逢夜に向けていた。逢夜を遠くに突き飛ばし、トケイを先に進ませた。

トケイはネガフィルムの中のある世界の前で止まった。


「こ、ここ?」

「間違いないよ。ここ!」

サヨに圧されてトケイは怯えた目を向けた。


「じ、じゃあ行く?って……ちょっと!!」

トケイが叫んだ時には遅く、サヨはさっさとその世界に入り込んでいた。

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