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学園のまにまに三話3

 昇降口近くのラウンジに三人はたどり着いた。広いラウンジにむせ返るほど沢山いる高校生達。その高校生達の目は皆すわっている。パン争奪戦争が起こる嵐の前の静けさである。

 皆相手方の出方を窺いつつ、青い顔をしている出張パン屋の女性パートさんを睨みつけていた。


 ……怖い。

 パートさんも高校生達の鋭い視線を浴びながら震える手で準備をしている。


 なんだかかわいそうだ。

 きっとなんで私は毎日こんな戦争に駆り出されなければならないのだろうと思っているのだろう。

 ここの一番人気はやはりエクレアだ。店舗のパン屋さんに行っても売っているが学校で買うと半額になっている。故に金のない高校生はここで何としてもエクレアをゲットしようと必死なのである。


 なぜ半額なのかというと、想像がつくと思うが失敗して不格好になったパンだからだ。エクレアならばクリームを入れすぎて少しはみ出してしまったなどの理由だろう。むしろ、クリームが他のエクレアよりも多いのならば半額で買えたらかなり得だ。


 ……まあ、そう考えている学生が多いのだろう。学生は常に損得を気にする。


 そうこうしている内に女性パートさんは準備を終え、決死の覚悟で「クローズ」の看板を「オープン」にひっくり返した。

 刹那、高校生の怒号が飛び交い、瞬時に戦争が開始された。


 「おわわわ!……ぐふっ……。」

 俊也は叫ばずにはいられなかった。誰かの肘が俊也のみぞおちをついた。

 ……これはたぶんわざとじゃない。わざとじゃないはず……。

 半分涙目で日高サキと時野アヤに目を向ける。二人は少し離れた所に立ち、俊也を見守っていた。時野アヤは頭を抱え、日高サキはとても楽しそうだった。


 「くそっ!行くしかない!」

 なんだかよくわからない使命感を出し、俊也は必死になっている高校生の渦の中へと入り込んでいった。


 中はまるで台風だ。涙目になっている女性パートさんがだいぶん遠い。しかもたどり着けない。

 「畜生……皆こええよ……。ひぃ……。」

 俊也は渦中にいながら弱音を吐いていた。


 「ねえ、エクレアまたいける?」

 ふと後ろから女の子の声が聞こえた。


 「……?」

 俊也は後ろを振り返った。振り返った瞬間に一人の少女と目が合った。

 少女は短い黒髪を花柄のピンでとめており、とてもかわいらしい感じだった。

 カラーコンタクトを入れているのか瞳はルビーの様に赤い。


 ……いや、あの感じはカラーコンタクトじゃない……。なんだか少し光っている気もする。

 俊也が少女にぼんやり見とれていると彼女は突然「ありがとう。」と言った。

 首を傾げた俊也は彼女の手に目線を動かしたときに驚いた。


 少女の手にはエクレアが収まっていた。


 「……え……?な、なんで……。さっきまで何も持ってなかったのに……。」

 俊也が震えていると自分の右手に違和感を覚えた。袋がかすれる音がした。俊也は恐る恐る右手に目を向ける。


 「ふあっ!?」

 俊也は驚いて声を上げた。なぜか俊也の右手にも包装されたエクレアが収まっていた。


 「ええっ?あ……エクレア?エクレアあああ!?」

 俊也は気が動転していたが「おちつけー。」と心に念じて、もう一度彼女に目を向けた。


 少女は軽くほほ笑んだ。


 「あなたはいつもいない顔だね?たまたま来ただけならここのエクレアを食べてみるといいよ。すっごいおいしいんだから!」

 少女は軽快に笑った。

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