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選択の結果

 戦線は収束しつつある。明らかに運ばれる負傷者の数が減ってきている。幸いなことに砦の司令官(或いは実務担当)が優秀であったのだろう。魔獣は徐々に討ち取られ又は山岳地帯へと帰っていった。


 4日目にはずいぶん楽になっていることが実感できた。余裕ができた分、応急処置で済ませていた重症患者の治療を強化する方針に変わった。

「本当に君たちには驚かされるよ。」

 心身ともにボロボロのディロンドの休息を確保すべく、僕とデリラは協力していた。合間を縫って彼と会話し彼の薫陶を受け、僕とデリラは弟子になったような気持でいた。

 特にデリラがこんな気分になるのは久しぶりだと疲れていながらも喜んでいた。恐らく戦友というのはこういう物なのだろう。生死の関わる現場を共有するからこその絆があることを知った。

「目的が唯一つだってことは君に教わった。そのために必要なこともね。だから、これはディロンドの功績だよ。」

「君の妹の言葉を借りていいのなら、これは三人が共にあったからこその勝利なんだよ。まあ、戦いなら戦後処理が大事なんだけどね。」

 彼の皮肉気な言い回しに僕らは笑った。


「今更だが聞きたいことがあるんだ。」

 僕は真顔に戻して話を切り出す。

「だろうね。アレンが僕に会いに来たことは分かっている。」

 ディロンドにはどこか斜に構えた雰囲気を感じる。

「僕をただのアレンと呼んでくれる人が増えるとは思わなかった。とかく戦友と呼べる人間ができるなんてね。」

「僕に言わせればアレンも一人の人間だ。救う必要がある時もそうでない時も一人の人間さ。それと戦友は普通の友情とは別物だよ。特別な関係だ。そう、酷く特別な。」

 何故かディロンドはやけに感傷的になっていた。

「戦友に感じるものが、普通に育んだ友情と違うのは分かる気がします。普通より強くて、でも歪んでる。」

 デリラには、これまでいったい何人の戦友がいたんだろう。


「さあディロンド、質問だ。君は転生者かい?」

 彼は何でもないことのように答える。

「そうだ。僕の前世はイードベックで生まれ蛮族に侵略された土地で治療師をしていた。敵も味方もなく治療したよ。」

 僕は当初の目的など脇に退けて興味むき出しで聞き続ける。

「何が君を転生させるほどの執着を与えたんだ。」

「色々だな。平和な頃のイードベックで教育を受けて治療師になったが、蛮族によって住んでいた所は滅ぼされた。僕も特別な人間じゃない。当初は人並みに恨んだよ。

 しかし、ある切っ掛けで治療の技術を蛮族に披露することになった。有用な技術だと理解され扱いは変わった。

 付き合ってみれば分かるが、蛮族といっても普通の人間だ。ただの人なんだ。それからは治療でどちらを救うのも躊躇うことはなくなった。

 唯々、戦いが続くことだけが嫌だった。蛮族の妻を娶り、子を作ってからは余計に辛かった。どちらもより多くを救いたかった。

 当時そんなことを考えて行動するのは、崖っぷちで踊っているようなもんだった。そして、崖から落ちた。それだけだ。落ちてる間に諦めきれなかったんだ。」

 ディロンドは想像以上に饒舌に過去を語り、転生者の物語は続いてる。

「そうか。ありがとう。僕のことも・・・」

 誠意として自分のことを語るべきだと思ったが、ディロンドは手を上げて遮る。

「続きいらない。君は唯のアレン。一人の人間で戦友だ。」

「私も加えてもらっていいでしょうか。」

 デリラを加えて僕らは握手をして、笑い合った。


 それから2日でほぼあらかたの治療は終わった。傷に苦しんでいるものはまだ多数いるが、生きるか死ぬかの境界線にいるものはいなくなっていた。

 生きるものは生き残り、残念だが助からないものは死んだ。有限の能力で現実に挑んだ結果は、何時も望み通りとならないことを学んだ。特に過酷な脅威を前にした時には。

 7日目の朝に見張りの塔に登る。そこにはディロンドがいる。僕は彼が塔に登ったのを目にして追いかけた。僕たちは黙って塔から周りを見渡す。魔獣の爪痕はそこかしこに残っている。朝早く出立した一団を二人で見ながら声を掛ける。

「なぜ彼らは山岳に向かっているんだ。」

「僕と君の仲じゃないか。白々しい言い方をするなよ。」

「彼らは君の特別な治療を受けた。違うか。」

「まあ、そういうことになるな。」

「君が僕らに見せなかった治療とはなんだ。僕らでは救えない者が回復するのを何人かみた。不可能を可能にしている。

 そして、今まで治療を受けた者達は引き寄せられるように君を追いかけて治療団に加わった。蜘蛛の糸にかかった虫のようだ。」


「良い喩だ。ところで転生者ディロンドの話には続きがある。僕はどちらも嫌いじゃないが、前世の話と現世の話の二つだ。」

 揶揄するような言い回しで彼は語るが、僕はどちらも選べなかった。単に聞きたくなかったのか、考えられなかった。

「じゃあ順番に話そうじゃないか。前世の話だ。ディロンドの妻は族長の娘だった。ひいては、侯爵の第二夫人は私の子孫ということになる。私の代で出来なかった融和を彼女が成し遂げた。心底、嬉しかったよ。転生した甲斐があった。」

 驚くほど良い話だ。聞いて良かった。だから、続きを聞きたくない。


「現世の話だ。転生したディロンドは蛮族の子供として生まれた。

 少年時代に不幸なことに魔獣に襲われて危うく死ぬところだった。ところで知っているかな。魔獣の中には高度な知性を持っている者がいることを。僕は彼らに拾われた。ディロンドは現世でも異種族に拾われたわけだ。

 そう、付き合ってみれば分かるが、彼らも知性ある生物だ。一人の存在だ。彼らには特殊な能力があって、他の生物に共生して宿主の身体を再生することができる。しかも共生には瀕死の方が都合がいい。

 ただ、耐えられない人もいるが、どちらでも最低一人は助かる。僕も共生している。そうでなければ生き残れなかった。

 お陰で沢山の人を救うことができたのだから、僕は感謝している。彼らにも死んで欲しくない。山の外は生き難いからね。」

 僕は言いようのない感情が荒れ狂っているのを感じていた。何故、彼はこんなにも明け透けに全てを僕に話してしまうのか。

 彼は自分が既に半ば以上魔獣であり、その苗床のために治療しているだなんてことを何故そんなにもさらりと語ってしまうのだ。


「もう、イードベックは落ち着くだろう。やがてかつての平和を取り戻す。だから、僕の手が必要な時間もそう長くはない。

 つまり、どちらにせよ。僕の願いは全て叶ったんだよ。最後の心残りだった僕の経験を受け継ぐ者もできたしね。」

 なぜ、止めない。なぜ、満足できない。なぜ、終わりにする。

「大体考えそうなことは分かるよ。僕も考えたからね。

 けれど、僕はもうやってしまっているんだ。このまま進むことはできるが、自分の手で終わることはない。共生を始めるのに都合のいい瀕死の人間は少なくなるだろうね。

 今度からは作らなきゃいけない。もう、僕は選び終わっている。」

 僕は悲しいのか怒っているのかすら分からないが、何かを吐き出さないと破裂しそうだった。けれど、感情が高ぶり過ぎてまともに喋ることができずに呻き声みたいなものしか出ない。

「そんなに思いつめないでくれ、単に違う道を進むだけじゃないか。

 誰もが恵まれた生を謳歌できるわけじゃない。それでも僕は幸運だったと言い切れるよ。さあ、そろそろ君も選ぶんだ。」

 彼の言葉には魔力がある。初めて彼と言葉を交わした時から手遅れだったんだろう。

 一人の人間ともう一人の人間で天秤は釣り合っている。そうなんだろ。

 僕は彼を殺した。魔力のせいなんかではない。この選択は僕がしたものだ。


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