雪の成人式
生憎の雪。私の気持ちは灰色の空が映り込んだかのように重かった。成人式。友人はきらびやかな振袖に身を包んでいる。なのに私はどうだろう。
まるで就活中のようなリクルートスーツ。
なんで女性の衣装ってこんなにも高いのだろうか。この中で何人が自分のお金でこれを着ているのだろう。
――大人になった最初の日に親のお金でオメカシ? 頭おかしいんじゃないの?
来なきゃよかった。
今更ながら親の偉大さを知る。けど、もうお礼も言えない。私は馬鹿だ。
友人たちの憐れむような視線に耐えれなくなって早々と別れた。自然と溢れ出そうな涙をどうにか堪える。
帰る途中にコンビニで缶ビールを一本買った。これがせめてもの私へのお祝いだ。コンビニでビールを買うなんて最高の贅沢だ。スーパーの発泡酒じゃない。
自動ドアを出るやいなや、缶の栓をあけた。私の気持ちに反して思いの他、爽快な音が缶から溢れ出る。
それを一気に口に流し込む。
苦い。予想以上に。そしていつもよりも。
「よっ! 久々だな。お前あれか。うーん。サクラか?」
突然声を掛けられた。やはり成人式など来なきゃよかった。スーツ姿に身を包んだ男性、大方自分の同級生だろう。けど思い出せない。誰だっけ。
誰でもいい。
「誰だっけ?」
私はそっけなく言い放った。
「匿名希望」
予想外の返事。思わず目を見開き男性を上から下まで見る。ヨレヨレのスーツ。似合っているとは言いがたい。だがその悪戯っぽい笑顔を見ると何処なく記憶から呼び起こされる。
「北村君?」
「ブブー 両親離婚したから今は桜井だ」
彼の不幸にホッとする。醜い。
「そんなの私が知るわけないでしょう?」
「お前、成人式はどうしたよ?」
「北村君こそ」
「なんか、ああ言う場落ち着かなくてな。なんか皆変わっちゃったって言うか」
「そう……だね」
「ちょっと待っててくれよ。俺もビールかってくらぁ」
コンビニの前で地味な成人式の主役が二人、缶ビール一杯で乾杯。しかも私は飲みかけだ。
それから20分ぐらい話しただろうか。
彼が突然ポツリと言った。
「お前は変わらないな」
「あなたも……」
何故かお互い顔を見合わせクスリと笑った。
「俺、戻るよ。みんなの所に」
「そう……」
「お前もこいよ」
「いいよ。私は……」
「きっと変わった奴ばっかじゃないって。お前を見てそう思った。それにひょっとして変わらなきゃいけないのかも? ともな」
意味深な笑顔を浮かべながら手を差しだした彼、私はその手を何となく握った。
その瞬間彼は悪戯っぽい笑顔をさらに強調させた。
懐かしい笑顔。私は何故彼の事を忘れていたのだろうか。
勢いよく手を引かれ、来た道を戻る。酔いのせいか少しだけノボせたような感覚に包まれる中で、何かが始まろうとする予感を私は感じた。