幼少期、ラヴィアンローズ!7
更新が遅くなりすみません。ストックを切らしてしまったので、これからは少しペースを落として更新したいと思います。ハッピーハロウィン!
六鹿基の話をしよう。
彼は明るくお調子者な同級生として原作に登場する。ムードメーカーかつトラブルメーカーで、ゲームのイベントを持ってくるのも大抵が彼だ。
そんな基は旧家である六鹿家の次男坊なのだが、実は彼は分家筋から引き取られた養子で、常に『自分は長男である兄のスペアとして存在している』という意識を抱えている。
その意識の反動として過剰に自己主張を繰り返しているところを、ヒロインに救われるのだ。
原作の私は、基のルートでは彼の幼馴染として登場する。幼稚園からの付き合いのために野菊に依存している基を、プライドの高い私は疎んで邪険に扱っていた。そして最終的に基は自立に成功し、私のこれまでの態度を婚約者である冬威に訴え婚約は破棄されることになるのだ。
つまり、私の基に対する態度、扱いがネックになってくる。前世の私がいくつで死んだのか、その歩んだ人生も人となりもよく知らないが、いつも構ってくれて子犬のようについてきてくれる基は正直可愛い。邪険に扱う気もないし今後そうなる予定も今のところないので、これから出会うであろう攻略対象者の中では、気兼ねなく付き合える相手となるにちがいない。
「のぎくちゃん、このコップの中の割りばしを一本引いて。生活発表会で劇をやるから、配役を決めるんだって」
「たしか、白雪姫をやるのだっけ。出来るだけ楽な役がいいわ」
「そんなこと言うの、のぎくちゃんだけだよ。みんなお姫様がやりたくてギラギラしてるんだもん」
噂をすればなんとやら。教室の隅で黄昏ていると、件の基がコップを片手にてこてこと寄ってきた。このコップの中から引け、ということだろう。私達の通う幼稚園は、通っている園児たちの家柄とは裏腹に平等を徹底している。おそらく、家柄が良い子が多い分あまり幼少期からわがままを通せると思い込まないようにだろうと思う。出来レースでも面白くないし、私は割とこの園の方針が嫌いではない。
「ところで基くんは何の役に、…なるほど」
教室の前方にあるホワイトボードに目を向けると、そこには
『おうじさまやく → もといくん』
と大きな字で書かれていた。なるほど、女の子たちがギラギラするわけだ。
かけっこが速く、人懐っこい基は既にイケメンの片鱗を見せ始めている。女の子たちは基を奪い合っているのだ。正直、ちょっと引いてしまう。おませが過ぎませんか…?
ますます面相臭そうなので、ぜひとも適度に楽しく適度に楽な役につきたい。
セリフ少なそうだし、狩人の役とかいいかもしれない。
そんなことを思いながらコップに手を伸ばすと、周囲からいくつもの視線を感じた。顔を上げると、教室中の女の子がこちらをじっと見ているのが分かる。みんな一様に緊張した様子であるので、なんだか私まで緊張してきてしまう。
深呼吸をひとつ。すう、はあ。
えいや、と割りばしを引き抜くと、そこにはでかでかと『しらゆきひめ』と書かれていた。
持っている女、上条野菊である。