表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/18

閑話 眼下の愛弟子

今回は、プロローグの師匠(雅)視点です。

 雅は黒板消しを両の手に手袋の様にはめこんで、窓辺へと立った。ほうきを手にしていた隆也が、それを認めて近寄って来る。

「お前のそういう姿、つくづく似あわねぇよな」

「そうかな」

 雅が、パンっと手を合わせる。黒板消しから白煙が立ち上った。

「一真の奴、午後まるごとフケやがって、また、屋上で昼寝でもしてんじゃないか、あいつ」

 言いながら隆也は女子生徒の視線に気付いて、お座なりにほうきを動かした。

「茗梨さんと虎丈くんも、いませんでしたよ」

「そうだよなぁ……三人仲よく昼寝ってことはないもんなぁ」

 事実はそうなのであるが、それを知らない隆也はすぐにそれを否定した。


「ああ……あんな所にいますよ」

 雅が、窓から下を見ていた。

「あん?」

 隆也も窓辺に寄って下を見る。校舎裏の用具置場の横で、十人程の男子生徒が、一人の生徒を取り巻いている。その一人が、一真だった。

「何だ、あいつ。袋になってるのか」

「とも限りませんよ」

 雅が面白そうな顔をしている。二人が見ている間に、一人、一真に殴り掛かったが、あっけなく逆に殴り飛ばされた。

「ほへー。こりゃ、いけるわ」

 隆也は窓から首を引っ込めると、ほうきを放りだして、慌てて自分の座席に飛んでいって、スマホを手にまた駆け戻って来た。

「仕事熱心ですねぇ、新聞部員。乱闘の記事でも書くんですか?」

 雅が言う横で、隆也は続け様にシャッターを切った。


「これは、小遣い稼ぎ。一真の奴、あれで結構ファンが多いからな。女どもに売り付ける」

「ははあ……」

 雅が呆れと感心とを交ぜ合わせた様な相槌を打つ。それすらも、隆也はすでに聞いていない。すでに、下の見世物に入り込んでしまっていた。


 雅には下の結果が容易に想像出来ていた。あの一真が負けるはずなどない。何しろ、自分が鍛え上げた弟子なのだから。雅はそう考えて含み笑いをすると、窓辺から離れようとした。

「お……い」

 スマホの画面を覗いたままの隆也が、その雅の上着の裾を掴んで窓辺に引き戻した。

「何だあいつ……」

 隆也は真下の乱闘騒ぎではなく、少し離れた場所を見ていた。


 雅がその視線の方を見ると、女がいた。

 色白で腰に届きそうな程、髪が長い。制服のセーラーを着ている所を見ると、うちの生徒なのだろうが、あまり見かけない顔である。

「えれえ、美人だな。おおっ、すげぇ……ナイスバディ」

 スマホの画面の中で拡大された姿に、隆也が嬉しそうな声をあげた。


 その女を遠目に見て、雅は何か違和感の様なものを感じた。何だろう。少し考えて、服がやけに小さいのだと気付く。

 スカートは膝丈よりかなり短い。それに、上着もこれまた短く、その下からチラチラと白い肌が見え隠れしている。サイズも見るからに合っていない。胸元がきつそうで、隆也が喜んでいたのもそのせいらしい。


 女は、乱闘の現場へ近付いていく。それに気付いたのか、乱闘の動きが止まった。


 女がくるくると舞いでも舞う様に優雅な動きをすると、そこにいた数人がなぎ倒され、残りは怯えた体でボスである伊敷を置き去りにして逃げていく。


「やっぱり、私の弟子は強いなぁ」

 雅が満足げな笑みを浮かべる。その横で、隆也がげんなりした顔をしていたのには気付いていない。


 一真は女と何か言葉を交わし、女に誘われるままその後を付いて行く。

「……くーっ。茗梨ちゃんていう彼女がいながら、あいつばかりがなぜモテる」

 隆也の戯言を聞きながら、あの不肖の弟子は、また何か厄介事に巻き込まれたのだなと思う。


「何?何か楽しそうじゃん?」

 隆也が雅の妙に緩み切った顔に、不審な目を向けて来る。

「いや~下手したら、軽く修羅場かな~と思ってさ。ワクワク?」

「……お前。性格悪いよな?」

「え、そうかな?そういいつつ、二人のツーショット撮ってるキミも大概だよね?ふふっ」

「いや~これはもう、条件反射みたいなもんで。スクープになるかも知れないと思ったらね、体が勝手にね、反応してしまうだけでね」

「だけ、ね。ふふ、まあ、いいけど」


 呑気に高みの見物をしていた二人だが、後に自分たちもその厄介ごとに巻き込まれることになろうとは、夢にも思っていないのだった。

 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ