表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/18

第12話 破壊と再生と師匠の災難

 キャシー・ブライトン少尉は、基地の化物騒動から逃れて研究所へ立て籠もっていた。

 肝心な時に、Dr.真柴はいない。キャシーは、Dr.真柴の研究室に踏み込んで、書類を掻き回し、例の細胞縮小の資料と、その怪しげな溶液の入った瓶を見つけ出した。


「これを使えば、何とかなるかも……」

 その怪しげな溶液をシリンダーに移し替え、噴霧器に接続する。

 その時、ガラスの割れる音がして、隣室に何かが侵入してきた音がした。ぴたん、ぴたん、というその音は、到底人間のものとは思えない。


 隣のオフィスを徘徊し、それはやがて、Dr.真柴の研究室のドアに近付いてきた。何かがドアを引っ掻いているのか、ドアの向こうで、かさかさという音がしている。


 キャシーは、噴霧器を持つ手の感覚を確かめる様に、これを軽く握り直す。

「……こんなんだったら、ハブが出てもいいから、沖縄にしておくんだったわね」

 ドアがみしっと音をあげ、内側に歪んだ。その途端、バズーカーでも打ち込まれた様に、ドアが吹き飛んだ。同時に、目のくらむ様な光が部屋を照らす。

 キャシーは意を決して目をつぶり、ドア口に突進すると、噴霧器を構え薬品を勢いよく噴射した。

「うわっ」

 人の叫び声。

「えっ」

 キャシーが目を開けると、妙な杖を持った学生服の少年達がそこに立っていた。その足元に、彼女の同僚が横たわっている。


 化物は、どこにも居なかった。キャシーは、恐る恐る自分の足元を見る。何か、黒いものがそこにいた。よくよく目を凝らしてみると学生服の少年、である。

「え……っとぉ……」

 キャシーが顔を強ばらせる。どうやら人間を縮めてしまったようだ。


――ええと……これ、元に戻す薬はない……わよねぇ……




「師匠……っすか?」

 一真はテーブルの上に引き揚げられた、体長数センチの雅をまじまじと見る。それから、目の前の金髪美人に向かって言う。

「これ、戻せますよね?」

 聞かれたキャシ−は、顔を引きつらせて笑う。即ち、否定の答え……である。

「これは、これで、面白いけど……おい、太郎丸、どうする?」

「杖を使えばよい」

「ああ、これね、再生の……」

「……が、お前一人では、出来ん」

「へ……?」

「力が足りん。雷麒は、麟輪の怪我の治癒に力を注いでおる」

「ああ……あれ、ね」

「あれには、もう少し、時間がかかる」

「だろうな。腕一本戻すんじゃ……」

「仕方ないの。後はお前達、三人でやってくるのじゃ」

「師匠の杖は?」

「こんな針の様になってしまっては、使えん」

「ちぇっ、仕方ないな。行くぞ、虎丈」

 虎丈が心配そうに雅を見ながら杖を振った。




「茗梨、後ろだっ」

 一真の声に、茗梨が叫ぶ。

「消滅の杖っ……え、あれ?」

 放出された光が、みるからに弱かった。化物は動きを緩慢にしているが、消えずにそこに残っている。

「消滅の杖っ」

 茗梨が再び叫ぶ。が、光は更に弱くなっている。

「どうして」

「再生の杖っ」

 一真が叫ぶ。金色の光が化物を飲み込んだ。人間の姿が現われたが、その体からは化物の触手が生え、一真達を見据えた目は、尋常な人間のそれではない。

「邪気が消えてない……」

 戻ったのは、姿だけ。中味は、化物のままということか。

「やばい、虎丈、逃げるぞっ。杖、振れ、杖」

 その化物がこちらに向かって来るのを見て、虎丈が慌てて杖を振った。



 安全な場所に転移。

 と思いきや、廊下の向こうに、その化物がいる。


――力が、弱いと、短い距離しか飛べない。


 一真は、太郎丸の言を思い出す。

「お前も、なのか、虎丈」

「一真、来る」

 茗梨の声にそちらを見ると、化物がこちらに向かってくる。

「どうするんですか、一真さんっ」

 虎丈が怯えた様な声をあげる。

「どうって……逃げるしかないだろ。走るぞ」

 一真は茗梨の手を掴み、廊下を走った。虎丈もその後に続く。

「虎丈っ、太郎丸、呼び出せっ」

 一真が走りながら言うと、

「やり方、分かんない、ですっ」

 と、虎丈の半泣きの声が返って来た。

「ちっ」

 肩越しに振り返る、化物の数が増えている。何か生き物を察知する能力でも持ち合わせているのか、そこここの廊下や階段から、わらわらと際限なく出て来る。

「一真、前っ」

 茗梨が不意に立ち止まって、一真を引き戻す。

 前からも化物がやってきていた。咄嗟に目に付いた部屋に飛び込んでドアを閉め、鍵を掛ける。


「だーーーーっ」

 ドアがいつまでもつのか分からない。だが、とりあえずの安堵に、一真は膝をついて肩で息をした。

「虎丈くん、虎丈くん……」

 茗梨が座り込んだ虎丈を揺さ振っている。

「気絶したのか?」

 聞くと、茗梨が頷いた。


 廊下をひたひたという音がやってくる。

 一真は部屋の中の机をドアの前に積み上げて、簡単なバリケードを作った。

 どん、と何かがぶつかる音がして、ドアがぎしぎしと頼りな気にきしむ。


――あまり、もちそうにないな……


 一真は部屋の奥に虎丈を引き摺っていき、壁に寄り掛からせた。戻ってくると、軋むドアを見据えた茗梨が泣きそうな顔をしていた。

「ごめんね……あたし……足引っ張っちゃって」

「恐かったら泣いてもいいぞ。あんまり、無理する事はない」

「いいよ。泣き顔、ブスだから……」

 茗梨が俯く。


 その顔を、一真はそっと上向かせた。

 刹那、涙が一粒落ちて、床で弾けた。


「お前が、フォワード……なんだもんな。一番大変なのに……ろくに援護できなくて……俺は……」

「そんな事……ないよ。一真いなかったら、あたし一人じゃ、恐くて、こんなのぜんぜんダメだもん……」

 茗梨が目を潤ませたまま、無理に笑おうとする。

 一真は茗梨を抱き寄せると、そっと唇を重ねた。

 唇を離すと、茗梨が少し驚いた様な顔をしていた。

「ごめん……」

 咄嗟に謝った一真に、茗梨が笑う。

「……何か、少し、元気が出た」

 その時、ドアが破れた音がした。その振動で、積み上げた机が派手な音を立てて崩れ落ちた。



 壊れたドアから化物がわらわらと部屋に入り込んで来る。何時の間にそんなに集まったのかという程、大挙して崩れた机の山を這い上がって来る。

 一真は茗梨を抱き寄せ、その腕に力を込めた。



「いつまで抱きついておるのじゃ」

 頭の上で声がした。

「え……」

 睡蓮が迷惑そうに、一真を見下ろしていた。

「うわっ」

 一真は、慌てて飛び退く。

「何ですか、いきなり……」

「なんじゃ、その態度は。せっかく、助けに出てきてやったものを。全く、この非常時にデレデレしおってからに」

「あのっ、ですねぇ」

「消滅の杖っ」

 睡蓮が杖を振った。現れた巨大な光球が、そこにいた化物をまとめて吹き飛ばす。


「自慢ではないが、寝起きが悪いのでな。力の制御には責任は持てぬぞ……消滅の杖っ」

 化物ごと壁が吹き飛んだ。

「ぼけっとするでない。光が消えるぞ」

「おっ、おお。再生の杖っ」

 一真が慌てて杖を振る。瓦礫の中に元の人間が現われた。

「次、行くぞ」

 睡蓮が杖を片手に崩れた壁を乗り越えて、すたすたと歩いていく。

 一真は言葉を失ったまま、あたふたとそれに従った。





 その日――

 正体不明の『モノ』によって、基地内は、その施設の約六割が破壊状態になり、しばらくその機能を麻痺させられた。瓦礫の中から目を覚ました人々は、何が起こったのか訳が分からなかった。

 幾つかのエイリアン目撃証言も、そのエイリアンが跡形もなく消えてしまっていた為に、不可思議な出来事として、記録にも残されなかった。


 唯一、事件の真相を目撃していたキャシー・ブライトン少尉は、何も語らず、本国への異動を申し出て、これを承諾された。


 数日後、彼女は機上の人となり、不思議の国、日本を後にした。


 触らぬ神に祟りなし。

 その言葉を彼女が知っていたかどうかは、定かではない――



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ