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第11話 出来ませんとは言えない状況

「Dr.真柴っ」

 アンディがうわずった声を出し、手にしていた杖を構える。

「封印の杖っ」

 朱の光が、Dr.真柴を包む。その光の中で、Dr.真柴は笑う。

「何で」

 光の消えた後に、何事もなかった様に、Dr.真柴が立っていた。


『にわか仕込の素人にしては、中々ですが……』

 Dr.真柴の手が、自分に向けられたその杖先を掴み、呆然としているアンディから杖を奪った。

『火翼の力が衰えているのも、気付かない』

 Dr.真柴が杖を持ち直す。

『そういうのは、命取り、ですよ』

 言って笑い、杖を振った。

『封印の杖』

 光がアンディを包み込む。アンディの姿は一瞬にして消え、朱色の光球がそこに浮いていた。


「アンディさんっ」

 茗梨が叫ぶ。

 Dr.真柴は手を伸ばしてその球を掴み、それを口に運ぶ。

 光の球は、Dr.真柴の口から、その体内へと吸い込まれていった。

「食った……のか」

 あっけにとられている一真。そこに、太郎丸の声が飛ぶ。

「転移の杖を使うのじゃ」

「虎丈、伸びてますけど」

 雅が言う。


『聖獣の力……何と心地良いものか。おや、そこにも、いるんですねぇ……』

 Dr.真柴が、目を細めて茗梨を見据え、再び杖を構える。

『封印の杖』

 光が、今度は茗梨目掛けて飛ぶ。

「茗梨っ、杖だっ」

 一真が叫ぶ。

「え……やっ。消滅の杖っっ」

 茗梨が叫んで杖を振り回す。


 蒼と朱、二色の光がぶつかって絡み合う。が、朱色の光が少しずつ蒼い光を押し返して行く。Dr.真柴がまた笑った。

『ふふふ。邪獣との戦いで、力が弱まっているのが、分からないんですかねぇ』

 一真は、のびている虎丈の手から杖をもぎ取ると、力任せにこれを振った。

「転移の杖っ。消えろっ」

 白い光が空へ伸び、真っ直ぐにDr.真柴へ急降下する。その光と共に、Dr.真柴は、いずこかへ消えた。



「ばかめ。杖ごと飛ばしおって……」

 太郎丸が、溜め息混じりにぼやく。

「悪かったな」

 一真が猫の首筋を掴んで、持ち上げた。

「何するんじゃっ」

「それで?参謀殿、俺たちはこの先、どうすればいいんだ?」

 一真は、じたばたしている猫の顔に顔を寄せる。

「基地の化物退治じゃっ」

「基地?ああ、アンディの……あれっ?」

 じたばたする太郎丸を、両手で塀の上に戻した一真は、そこで、自分の手が空いている事に気付いた。杖が消えていた。


「杖が……」

「聖獣が眠ったのじゃ。内壁……つまり睡連たちも、聖獣を操った後では、しばらく眠らねば力が回復しない」

「しばらくって?」

「力の消耗程度によるな」

「というと、俺達だけで化物退治をしろ、と?しかも素手で?」

「杖は、数時間も待てば使える」

「ほほう……」

「時間が経てば経つほど、化物は、増えるぞ」

「アンディさんは、どうするの?」

 茗梨が聞く。

「どのみち、九嬢が起きねば行方は分らん」

「じゃ、化物退治が先ね」

「お前、行くつもりなのか?」

「杖はあるんだし……何とかなるよね?」

 茗梨が、一真を見上げて言う。

「逃げる訳にも、いかないじゃない。どうせ狙われてるんだもん。それにほら、先手必勝って、言うじゃない……?」

「だから、あまり無理すんなって、言ってんだろう」

 一真が茗梨を抱き寄せると、その肩は微かに震えていた。


「一真も一緒なんだし、大丈夫だよね?」

 一真の脳裏に、傷付いて姿を消した麟輪の姿が浮かぶ。危ないのは百も承知だ。だけど――

「ああ……きっと、大丈夫だ」

 きっと、大丈夫。一真は、自分自身に言い聞かせるように言った。

 あんな風に、茗梨を傷付ける訳にはいかないから。俺が絶対に守る。心の中でそう誓う。


「一真さん……」

 虎丈が小さな声で一真を呼んだ。その目が何か強い意思を秘めて、一真を見据えている。

「行くか?」

 問うた一真に、虎丈はコクリと頷いた。

「上等だ」

「僕も、ご一緒しますよ」

 雅がにこやかに言う。

「師匠?」

 雅が一真の耳元に顔を寄せ、小声で言う。

「虎丈が気絶したら、お前、一人で担いて来られるのか?」

「それは……そうですけど。師匠、素手でやるんですか?あのぐちゃぐちゃと……」

「まさか。戦う時は、後ろで見ているに決まってるだろう」

「ししょぉ……」


「お前さん」

 太郎丸が、猫手招きをして雅を呼んだ。

「せっかく来てくれるのなら、いいものをやろう。その綺麗な顔に、傷でも付いたらもったいないからの」

「お誉めいただきまして、どうも」

「屈め。右手を出すのじゃ」


 雅が屈んで掌を太郎丸に差し出す。

 太郎丸が、その上に猫手をかざす。


 ぽん、と、黒い玉石が雅の掌に現われた。

「これは?」

 雅が聞く間に、それは左右に伸びる。

「え……」

 手の上に現われたものを見て、雅が絶句する。

「静止の杖じゃ」

 太郎丸がしれっとして言った。

「役に立つ故、持って行くがよい」

「師匠、良かったですねぇ」

 一真がにやにやして言う。

「世の為、人の為、ささっ、参りましょう」

 一真に促されて、雅は溜め息をついて立ち上がった。




 基地のフェンスの向こうは静かだった。見たところ人の気配もない。

「ここをよじ上るのか?」

 一真が、自分の身長の倍はあるフェンスを見上げた。


 夜ならともかく、白昼堂々と乗り込むには、やや難がある様な気がする。

 いきなり射殺される、なんて事はないだろうが、この中は治外法権の場所である。何が起こるか、分からない。

「杖があるじゃろ」

 太郎丸が言う。

「ああ、転移の杖、ですね」

 雅が気付いて答える。

「転移の杖?それで、中にワ−プでも出来るっていうのか?」

「できるに決まっておる」

 一真の問いに、太郎丸が自慢げに言う。

「……だったら、わざわざ横浜から、電車乗り継いで来ることも、なかったんじゃぁ……??」

 至近距離から屈んだ一真に見下ろされて、太郎丸が首掴みを恐れて後ろに下がる。


「虎丈の今の力では、短い距離しか飛べんのじゃっ」

「あっそ。前足払いっ」

 一真が太郎丸の前足を、ひょいと手で払う。

 太郎丸は顎を付いて、無様に潰れた。その姿に、茗梨と虎丈が笑う。

「何をするんじゃっ」

「戦闘前のリラックス。さてと、行くか」


 一真が、右手を上げる。

「聖杖招来っ!」

 その手に、雷麒の杖が現われる。他の者も、それぞれに杖を呼び出した。

「円を描くのじゃ」

 太郎丸に言われて、虎丈が一同の回りを回りながら、杖の先で地面に大きな円を描き、自分もその円に入る。

「地面を杖で軽く三度突く。しかる後、杖の名を叫び、頭の上で杖を回せ」

 太郎丸の言葉を真剣に聞いて、虎丈が言われたままに、杖を突く。

「なるべく邪気の強い所に飛ぶのじゃ」

「はい……転移の杖っ」

 虎丈が頭上で杖を大きく振り回した。光が一同を覆い込む。そして、光が消えた時には、もう回りの景色は一変していた。



「きゃあっ」

 茗梨の叫び声――

 目の前に、もう化物がうごめいていた。

「いきなりかよっ」

 一真が舌打ちをする。

「静止の杖っ」

 雅が杖を振った。空気が揺れ、化物が一瞬歪んだ様に見えた。すると、凍り付いたかの様に化物がぴたっと動きを止めた。


「ほほう……これは、便利」

 雅が嬉しそうに言う。

「何だ?杖って、外壁じゃなくても、使えるのか?」

 一真が、不満げに太郎丸に言う。

 外壁になってしまったが為に、闇邪に『食べられる』というリスクを負っている身としては、不公平な気がする。

「こういうのを、人徳と言うのだよ」

 雅が自慢する。

「それって、冒涜の間違いじゃ……」

 一真が聞こえないように言う。


「こやつには、わしが力を送っておる。外壁と違って、間接的ゆえ大した力は使えぬがな。それでも、役には立つじゃろ」

 太郎丸が説明する。

「今のでも、大した力じゃないの?」

 茗梨が聞く。

「静止の杖は、あらゆるものを静止させる。時間さえもな。それをまともに生き物に向ければ、全ての器官が停止する」

「死んじゃうって事?」

「そうじゃ。じゃが、力が弱ければ、その外側しか止められぬ。モノは使い様、という訳じゃ。動かぬ的なら、狙いもつけ易かろう。ほれ……」

 太郎丸が茗梨を促す。茗梨が杖を構える。

「消滅の杖っ」

 化物が光に溶けて消えていく。それを見て、一真が杖を構える。

「再生の杖っ」

 光の中から人の形が現われた。軍服姿の男が床に転がっていた。

「いっちょ上がり。次、行くか。おい、虎丈、杖」

「あ、はい。転移の杖っ」

 虎丈が杖を回し、一同、再び飛ぶ。


「わわっ」

 現われたのは化物の眼前。巨大みみずを思わせる様な化物が、体をうねらせて、いきなり出現した一真をはたこうとする。

「お前な、もう少し、上手な場所に飛べよっ」

「済みません。邪気の強い所って思ったら……」

「茗梨っ」

 一真が叫ぶと、返事の代わりに、

「消滅の杖っ」

 という声が返ってきた。化物が光の中でのたうち回っている。

「大人しく、しやがれ……再生の杖っ」

 その姿がみるみる縮んで人間に戻っていく。一真は、大きく息を吐いた。



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