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道案内の少女  作者: 小睦 博
第20章 

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685 決着の舞台へ

 レッスンは順調に進み衣装も出来上がったころ、ミツバチゴーレムが完成したとクセーラさんから報告があった。首席やロミーオさんにバレないよう、こっそりリハーサルをするため、クセーラさんの伝手で郊外にある王国軍の野戦演習場を手配してもらう。見返りはイベントの入場券だ。オムツフリーナちゃんスタジアムは2階のスタンド席をお貴族様専用にして、アリーナ席や3階、4階のスタンド席とは入場するための通路も含め分離できる構造になっている。貴賓席を含むステージ正面の一等地は領主たちに占められてしまうにしても、左右には士族向けのスペースが充分あるのでディークライ王女殿下にお願いして20枚ほどチケットを融通してもらった。


「我が甥はよくこんな演出を考えつくわね」

「すっ、すごいですっ。こんなの初めてですよっ」


 本番と同じ環境にするため、日が暮れるのを待ってからリハーサルに取りかかる。最初のリハーサルを終え、演習場にある観戦用スタンドの前に急ごしらえで用意された仮設ステージの上でピーネちゃんが呆れていた。初代様の水上ライブに並ぶ、歴史に残るステージになるぞと第33代目オムツフリーナちゃんも大興奮だ。


「それに、まさかアーレイ子爵様が演奏してくださるなんてっ」

「演奏教室はお母様がやっていたのであって、私は関わってないんだけどね」


 今回、演奏を担当するのはアンドレーアだ。ドクロワルさんを祀る祭祀でプロセルピーネ先生がステージに立つなら、元ドクロ研究室のメンバーとして何もしないわけにはいかないとイモクセイさん共々協力を申し出てくれたのである。オムツフリーナちゃんにとってアーレイ領は特別な場所なのだと33代目ちゃんが感激していた。というのも、最初のコンテストで2代目に選ばれたオムツフリーナちゃんを指導したのがアンドレーアの母親だからである。


 娘が魔導院を卒業してアーレイ子爵となった後、デロリ叔父さん夫妻は建て直された王都別邸へ移った。そして、オーマイハニー王女殿下が演奏指導者の養成所を立ち上げるとなった時、第1期生として手をあげたのがアンドレーアママだったらしい。最終的に2代目を含む計6名のオムツフリーナちゃんを育て上げた名伯楽として尊敬を集めたという。


「クセーラがいなきゃ実現できない演出だけど、見ごたえがあることは認めるわ」


 ステージに仕込まれている照明装置などの操作を担当するのはイモクセイさんである。あれだけのゴーレムをいっぺんに操れるのは脳みそが蟲なクセーラさんしかいない。代わりの効かない才能に依存し過ぎているのが問題だけど、息を呑むような演出だったと褒めてくれた。


「僕の役目は道を切り開くこと。均して舗装するのは、後に続いてくれる誰かに任せるよ」

「割り切ってるのならいいわ。なにもかもをこの手で完成させられるわけじゃないものね」


 こんなこともできるのだと可能性を示せればそれで充分。再現できるかどうかは次の時代を担う連中次第だと告げれば、それもそうだとイモクセイさんは納得してくれた。自分たちの世代が中心となって世の中を動かしていく時代は過ぎたのだから、後は若造どもにせいぜい難しい課題を残して舞台から去るまでだと笑う。


「おおよその目安はつかめたから、もっかいリハーサルいくよ~」


 イモクセイさんと話していると、もっかいやるぞと観戦用スタンドからクセーラさんが下りてくる。ミツバチゴーレムの飛行高度を客席からの視点で調整しておく必要があったため、最初の一回目は観戦用スタンドから操作していたのだ。だいたいわかったから、次は本番と同じく舞台袖からコントロールするという。たった一回でつかめるものなのかと皆は呆れているけど、本人はまったく気づいた様子がない。無自覚に才能をひけらかすのは罪なのだと、誰かこのクソ天才ビッチに思い知らせてくれないだろうか。


 テイク2では戻ってきたミツバチゴーレムへ魔力を充填する役をイモクセイさんに代わってもらい、僕が観戦用スタンドから眺めさせてもらう。悪くないのだけど、ミツバチの動きが直線的過ぎると感じた。見えないレールに沿って整然と進んでいるような印象だ。


「もうちょっとこう、左右にユラユラと蛇行させられないかな」

「伯爵はほんっと注文が多いねっ」

「今のが限界なら仕方ない。諦めよう」

「誰も限界なんて言ってないでしょっ。クセーラさんをなめるんじゃないよっ」


 動きに生き物らしいゆらぎが欲しいとリクエストしたところ、細けぇこと言いやがってとクセーラさんはまなじりを吊り上げた。天才様にも限界はあるだろう。無理なら仕方ないと諦めたら、今度はそれくらい楽勝だと訴え始める。相変わらず思考に一貫性がない。


 テイク3は休憩を兼ねて、ピーネちゃんと33代目ちゃんは振りをつけずに位置を移動するだけ。僕とクセーラさんが観戦用スタンドから見え方を確認する。僕的にはずっとよくなったと思う。


「なんか急にヴィヴィアナ様が現れそうな雰囲気が出てきたねっ」

「まぁ、神様や精霊が潜んでいても不思議じゃなさそうだよね」


 ゆらぎをくわえた途端、さっきまでの機械的な雰囲気がなくなって幻想的な演出となった。並べたミツバチゴーレムから噴射された霧もテイク2までは壁みたいに見えていたのに、カーテンというかオーロラのような美しさを醸し出している。ユラユラさせただけなのに大違いだとクセーラさんは大興奮だ。蟲の脳みそをフル活用して、一度のテイクでベストなゆらぎ量に調整してみせた。生まれつき才能に恵まれた勝ち組っていうのは、きっと彼女のことを指すに違いない。


「なんだか印象がガラッと変わったみたいね。ステージの上からでもわかったわよ」

「期待以上の効果が得られました。これでいきます」


 観戦スタンドから下りれば、ステージの上から眺めていただけで違いが感じられたとピーネちゃんに声をかけられる。見たことのない光景だったと33代目ちゃんは大はしゃぎだ。演出は完成した。後は個々の動きを洗練させていくのみと伝える。演習場が使えるのは今晩だけ。夜明けまでみっちり練習だと指示を出す。


「アーレイ君。お肉の時間ですよ」

「モロニダス。肉が焼けたぞ」


 だけど、演習場の隅っこで明るいうちは暇だからと狩ってきた獲物を焼いていたドクロ神様と脳筋ズに食事を摂るよう水を差されてしまった。






 リハーサルも終え満足のいくステージに仕上がった。後は首席たちの度肝を抜いてやるだけだ。イベントの当日を迎え、僕たちは意気揚々とオムツフリーナちゃんパークへ向かう。スタジアム周辺には「【病魔を払う癒しの手】様降臨記念歌合戦~オムツフリーナちゃん vs 帰ってきたロゥリングシスターズ~」と描かれた看板に加え、故ドクロワル準爵の偉業を紹介するパネルがそこかしこに立てられている。国民への周知もしっかりされているようで、魔法薬の価格を大幅に下げ、ドクロヘビを生み出した貴族様が神様となってお戻りになられたと喜ぶ人々の姿が散見された。


「ようやく、この日がやってまいりましたわね」


 スタジアムの裏方区画にある控室では、すでにディークライ王女殿下にアキマヘン嬢とロミーオさん。そして首席が僕たちの到着を持ち構えていた。積年の恨みに決着をつけてやると、まったく身に覚えのないことで鼻息を荒くしている。


「後悔、先に立たずというよ。完璧に仕上げるには時間が足りなかったとか予防線を張っておかなくていいの?」

「準備不足は本人の怠慢でございましょう。アーレイ君こそ言い訳しておいた方がよろしいですわよ」


 言い訳があるなら聞いておいてやると告げたところ、僕の方こそ言い訳することはないのかと尋ね返される。なら、遠慮なくさせてもらおう。


「まぁ、僕は祝詞さえ発表できれば充分だからね。勝敗に興味はない……」

「ふざけるんじゃございませんわよっ」

「うぎょえぇぇぇ……」


 首席との決着なんてどうでもよいのだと告げたところ、予防線を張るよう勧めてきた本人にネックハンギングツリーを決められた。いったい何が起きているのか、誰か僕に説明してくれないだろうか。


「先に言い訳しておけと勧めたのは首席でございまして……」

「本当にする人がありますかっ」


 期待されているようだから応えてあげただけなのに、どうして暴力を振るわれるのかと問い質したものの、煽り文句を素直に受け取るなとデカ女はドシドシ足を踏み鳴らす。彼女が何を求めていたのか、僕にはさっぱり理解できない。


「伯爵って他人の神経を逆なでするのが上手だよね」

「アーレイは……絶対にわかってやっている……イラッとさせられたら負けよ……」


 慈悲の心を捨ててしまったようで、かわいそうな弱小種族が目の前で虐げられているというのにカリューア姉妹は助けてくれようともしない。僕がわざとやっていると呑気に会話してやがる。


「アンドレーアとヘカテリーナはアーレイについたのね」

「先生がいるんだもの当然でしょ。研究室の絆は不滅なのよ」


 一方、僕なんかに味方したことを後悔させてやるとアンドレーアたちを威嚇しているのはロミーオさんだ。ドクロ研究室を敵に回して無事でいられるなんて思うなとイモクセイさんが言い返している。無事でいられないとは、つまり改造してやるという宣言だろうか。おそろしい。ドブネズミファミリーの方がよっぽど人道的だと思う。


「どっちも自信があるようでなによりだわ。陛下の名代として兄様もいらしてることだし、未完成なステージでお茶を濁されては機構の沽券に関わるもの」

「準備は万全です。これまでで最高のステージをご覧に入れてみせましょう」


 本日はジーハネイト王太子殿下がいらしている模様。時間が足りなかったなんて言い訳をしていたらオムツ機構の能力を疑われてしまうぞとディークライ王女殿下が口にすれば、今日のステージはこれまでで最高のものになるとロミーオさんが請け負った。放たれる魔力からもそれが虚勢でなく、結果を確信していることがうかがえる。


「期待してくださって結構ですよ。これまでにない至高のステージをお約束いたします」


 対抗して、これまでとは違うもんを見せてやるぜとディークライ王女殿下に返しておく。自信マンマンなロミーオさんに、見えている頂は山頂でなく中腹にある峰のひとつ。頂まで登りついたように思えても、その先にさらに高い頂がそびえ立っているのが世の常だと教えてあげよう。これまでで最高を超えた、さらにその先を目指すくらいでなければ流行の仕掛け人は務まらない。変化を求めることをやめたが最後、築き上げた権威の上に胡坐をかく老害の出来上がりだ。


「今日は私も管制室に入るわ。ふたりの手並みを拝見させてもらいましょう」


 ステージの裏側には仕込まれている照明装置の操作パネルや魔導楽器が設置された管制室がある。普段は演出を担当したスタッフが仕切るのだけど、今日はディークライ王女殿下が陣頭指揮を執るそうだ。オムツ機構としても絶対に失敗させたくないらしい。


 演奏担当のアンドレーアと舞台装置の操作を受け持つイモクセイさんはディークライ王女殿下に続いて管制室へ向かっていった。照明装置の操作はすでに説明を受けているし、曲の進行にあわせていくつかのパターンを切り換えるだけなので難しくはない。任せてしまって大丈夫だろう。観衆の視線はミツバチゴーレムが引き付けてくれるから、多少トチったところで気づく奴は少ないはずだ。


 ピーネちゃんと33代目ちゃんに伝説の初代様は衣装に着替えるため楽屋へ向かい、僕と首席にカリューア姉妹は舞台袖へ移動する。客席の様子をうかがってみれば、すでに入場が始まっていて熱心なファンたちが詰めかけていた。アリーナ席にいる連中は親衛隊なのか、ひとり残らずオムツフリーナちゃん応援ハッピに応援ハチマキを身に着けエンジェライザーを手にしている。


「なんでございますの、この大荷物は?」

「演出に使う小道具だよ」


 ミツバチゴーレムの納められた木箱を見つけて、なんだこれはと眉をひそめる首席。もう隠しておく必要もないので、演出用の小道具だと蓋を開けてひとつ取り出す。


「発芽の精霊がミツバチと言ったから、ミツバチゴーレムって呼んでる」


 こいつはミツバチなのだと耳にして、興味を引かれたのか蜜の精霊が寄ってきた。ステージが終わったら遊ばせてあげると伝えたところ、ピャーと喜んで僕の周りを踊るように飛び回る。もちろん、首席のご機嫌は一気に急降下だ。他人様の精霊に手を出すなと睨みつけてきた。


「おもちゃくらい作ってあげればいいのに……」

「ぐぎぎぎ……これでいったい何をするつもりでございますの?」

「そいつは見てのお楽しみだね。サプライズを台無しにするほど僕は無粋じゃない」


 大切な精霊におもちゃくらい作って差し上げろと告げれば、ギリギリと歯を鳴らしながらどう使うのだと首席が尋ねてくる。言葉で説明するより見てもらった方が早いだろう。楽しみに待っているよう伝えれば、またおかしなことを考えついたのかと探るように目を細めた。残念だけど、事ここに至ってはもう遅い。今さらこちらの演出を知ったところで、後はもう予定どおりに進めるしかないのだ。


「今から演出方針を変えるなんて無理なんだから、一緒にイベントを楽しもうぢゃないか」

「その余裕ぶった態度が鼻につくのでございます」

「どうにもならないことで悩むのは時間の無駄ってだけだよ」


 互いにやるべきことは全部こなしてこの場に立っている。後はもう成り行きを見守るしかないと、首席だってわかっているはずだ。お日様が傾いてくると客席が埋まってきて、2階スタンド席にお貴族様たちの姿も増えてきた。ジーハネイト王太子殿下も到着されたようで、貴賓席に人影が見える。


 備え付けられている魔導楽器がチャカポコと虚ろなる神の発生を防ぐための祝詞を奏で始め、進行役を務めるオムツフリーナちゃんがステージへと進み出ていく。40年前につけられなかった首席との勝負に決着をつける時だ。今日は集まってくれてありがと~という呑気な挨拶と共に戦いの幕が上がった。


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首席とロミーオさんも生き馬の目を抜く界隈でロイヤルを筆頭にノーブルドブネズミやエンタメドブネズミらとしのぎを削ってきた猛者 モロニダスにとっても因縁のラストバトルで勝利のおっぱい女神はどちらに微笑むの…
デュエル開始の宣言をしろ!モロP!
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