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道案内の少女  作者: 小睦 博
第20章 

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684 イベントの準備は進み

 サソリゴーレムを運用しているだけあって、カリューア伯爵家の王都別邸には整備するためのガレージとクセーラさん専用の作業小屋が併設されていた。大型の加工機こそないものの、ゴーレム腕程度のものを作るには充分だ。ロゥリングアクティブサーチでスパイに盗み聞きされていないことを確認した後、クセーラさんに今回の演出方針を説明する。大急ぎで演出用ゴーレムを揃えなければならない。


「こんな感じで、空中を浮遊するゴーレムが欲しいんだ。できればいっぱい」

「さっすが伯爵っ。こんな演出は誰も見たことがないよっ」


 レースをさせるわけじゃないからスピードはそんなに速くなくてもいい。灯りと霧を噴き出す魔導器を搭載して編隊飛行をさせる。数は同時にコントロールできる範囲でと概要を紙に描いて渡せば、ロミーオさんが腰を抜かすようなステージを見せてやるとクセーラさんはやる気になってくれた。さっそく試作機の設計に取りかかる。


「暗い中で飛ばすから外見に気を遣う必要はないよ。見失わないよう左右の端っこに灯りをつけておくといい。左側が白で、もう片方を別の色にしておくと向きも判別できると思う」

「伯爵ってほんと細かいけど重要なポイントを押さえてるよね」


 ディティールを確認できるほどの明るさはないだろうから不格好でも構わないと伝え、位置を見失わないよう翼端灯を提案する。初めての試みにもかかわらず、どうしてそんなところにまで気が回るのだとクセーラさんが首を傾げていた。異世界知識ですとは言えないので、真っ暗なドワーフの洞窟で生活する知恵だとごまかしておく。


 とりあえず思いついたアイデアは全部伝えたので作業小屋を後にし、僕は祝詞を仕上げに魔導楽器の置いてある部屋へ向かう。曲を完成させた後は人族向けの歌詞に振り付けも考えなければならないし、ピーネちゃんたちの練習時間も必要だ。仮縫いの日には披露したいので、はっきり言って時間に余裕があるわけではない。だけど、こういう時に限ってままならないのが世の常である。


「アーレイ君。お肉の時間ですよ」


 そう、この館には肉を持ったドクロ神様が徘徊しているのである。コロリがやらかしたせいで、無理やり肉を食べさせないとロゥリング族はお菓子ばかり食べて餓死するという認識が固まってしまったらしい。栄養を摂取しなければ作業も手につかないだろうと胃袋がパンパンになるまで肉を詰め込まれ、立っていることもできなくなった僕は力なく長椅子に横たわった。






 衣装の仮縫いを明後日に控えた日、クセーラさんが演出用ゴーレムの試作機を完成させた。さっそく庭で稼働試験を実施する。


「ミツバチミタイ……」

「じゃあ、ミツバチゴーレムって呼ぶことにしよう」


 試作機はゴーレム核を積んだ胴体の左右に乙女マキシマムの仕込まれた推進翅が4枚取り付けられ、後方に霧を噴き出す魔導器と色を変えられる灯りの魔導器が尻尾のように搭載されている。発芽の精霊がミツバチみたいだと言ったので、ミツバチゴーレムと呼ぶことにした。霧を噴き出すノズルを毒針に見立てたのだろう。スズメバチほどスマートでなく丸っこいから、こいつは確かにミツバチだ。


 浮遊の術式を起動させるとミツバチゴーレムがフワリと宙に浮く。翅は2枚が後方へ風を噴き出す推進用で、残りの2枚は横移動や旋回時に左右へ噴射するためのものらしい。最高速度は一般人の全力ダッシュといったところ。まぁ、演出用としては充分だろう。フムフムこれならと眺めていたところ、お尻の毒針を僕の方へ向けたミツバチが霧を噴射してきやがった。


「なんてことすんの? 負け組弱小種族をイジメるのがそんなに楽しいの?」

「いいんだよっ。伯爵は生まれついての勝ち組なんだからっ」


 ぶっかけられる霧からトットコ走って逃げたものの、クソビッチに操られたミツバチゴーレムは執拗に僕を追いかけてくる。弱い者イジメはやめるよう懇願しても、強者へ抗う権利は誰にだってあると言い張ってやめない。だけど、しばらく経ったところでミツバチゴーレムは動きを止めて地面に落っこちてしまった。魔力結晶に蓄えられていた魔力を使い切ってしまったようで、駆け寄ってきたベコーンたんに鼻先でツンツンされている。


「う~ん。やっぱり安物の魔力結晶じゃ長持ちしないかぁ」

「稼働時間が問題だね」


 ミツバチゴーレムに使われているのは魔導院の購買でも扱っていた最低クラスの魔力結晶なのだけど、浮遊の術式と乙女マキシマム、霧を噴き出す術式に加え灯りの術式までフル稼働させると150秒くらいで魔力を使い尽くしてしまうそうだ。こいつは困った。稼働時間が演奏時間より短いのでは舞台演出に使えない。


「魔力結晶をランクアップさせる?」

「それはさすがにコストがね……」


 その昔、遠征実習で得られたイワオオカミ級の魔力結晶に換えれば5倍以上もつとクセーラさんは言うけれど、このミツバチゴーレムはある程度の数を揃えて使いたいのだ。一体あたりの製造コストを高くしたらこっちの財布がもたないし、金貨をぶつけ合うような勝負で決着なんて首席もロミーオさんも納得しないだろう。勝利条件はふたりの魂に一生消えない敗北感を刻みつけること。権力や財力でなく、これが実力の違いなのだと思い知らせることに意味がある。


「首席たちには認めざるを得ない完全な敗北をプレゼントしたい。かかってるお金が違うなんて言い逃れされたらつまらないぢゃないか」

「さっすが伯爵っ。ひとでなしなところも相変わらずだねっ」


 一分の隙もない完璧な勝利のために魔力の問題は工夫でどうにかしようと告げたところ、さすがはひとでなし様だとクセーラさんは拳を握り締めた。褒められてるのか、貶されているのかさっぱりわからない。


「ミツバチゴーレムを3グループに分けて、ステージ中でも順番に魔力を充填できるようにしたらどうかな。右側の翅の先端についてる灯りを赤、緑、黄色って色分けしてさ」


 同時に稼働させるのは2グループとし、おおよそ60秒に1回のタイミングで1グループずつ入れ換える。僕が舞台袖に待機して戻ってきたゴーレムに魔力を充填すればいいだろう。翼端灯の色でグループを識別できるようにしておけば、充填に戻すゴーレムを間違えることもないはずだ。


「ほ~んと伯爵って、次から次へとアイデアを出してくるよね。どういう頭の中身してんの?」

「頭の中身がおかしいのは……間違いなく蟲……じゃなくてクセーラの方……」

「妹を蟲とか言うんじゃないよっ」


 どうしていつもいつも解決策をあっさり思いつくのだとクセーラさんが首を傾げていたものの、説明されれば僕の発想は理解できる。ゴーレムを同時にいくつも操ってみせる妹の方が明らかに異常だと次席にツッコまれた。サソリゴーレムすら満足に扱いきれないのは本人の努力が足りないせいだとクセーラさんは言うけれど、あの本物そっくりなキモい動きはがんばってどうにかなるものじゃないと思う。


「それじゃ、このまま作っちゃっていいかな?」

「いいよ。後は使い方で対応しよう」


 地面に転がっていたミツバチゴーレムを拾い上げたクセーラさんが、この仕様のまま量産して大丈夫か尋ねてくる。右翅の翼端灯は色を差し替えられるようにしてもらって、後はそのまま同じ物を作ってもらうことにした。当日までに出来上がらないことにはどうしようもないので、今は時間優先だ。問題が生じた場合は演出の方を変えることにする。


「フヒヒヒ……爵位をいただいたからって調子こいてるロミーオに吠え面かかせてやるんだからっ」


 クセーラさん、ロミーオさん、イモクセイさんの同級生第3集団のうち、唯一爵位を得て貴族となったのがロミーオさんだ。それが面白くないのか、たまたま機会に恵まれただけで実力の差じゃないってことを思い知らせてやるとクセーラさんが鼻息を荒くする。かつて正義を愛した乙女も、爵位をもらえなかったことを気に病んで闇堕ちしてしまったようだ。


「これはきっと、勝てなかったら霧化燃料弾をぶっ放すよ。止めなくていいの?」

「しないよそんなことっ。だいたい、相手がいなくなれば自分が一番なんて負けを認めてるのと一緒じゃないっ」


 このままでは復讐の鬼と化した妹が王都で爆弾テロを起こすぞと次席に捕縛するよう勧めたところ、ライバルを消すという発想に至るのは実力じゃ勝てないと諦めた負け犬だけだとクセーラさんは怒りの咆哮をあげた。そんな恥知らずなマネができるかとドスドス足を踏み鳴らす。


「クセーラ……手段を選んでいるようでは……大事を為すなんて夢のまた夢よ……」

「この悪党どもっ。性根を叩き直してあげるからそこになおるんだよっ」


 だけど、次席は目的のためなら王都を火の海にすることも辞さないようだ。手段を選んでいるうちは甘いと言われたクセーラさんが、この薄汚いドブネズミどもめと激高する。用事を思い出したと次席はどこかへ行ってしまい、どうしてか僕ひとりがお説教されるハメになった。






 ミツバチゴーレムの仕様も決まり、量産に取りかかることになった。土木作業ゴーレムの開発や直噴型魔導推進器のチューニングに手を貸していたおかげで、クセーラさんは王国軍の開発部に顔が利くらしい。大型の加工機があるけど、忙しいのは遠征前の時期。今はどうせ稼働していないだろうからパーツ加工に使わせてもらおうとサソリゴーレムに乗って出かけて行った。今日は仮縫いの日なので、僕と33代目ちゃんはプッピーを伴ってオムツフリーナちゃんパークへ向かう。


「衣装にちょっと手を加えたいです。予定していた衣装の袖を取っ払いノースリーブにして、代わりに七分袖に裾が膝くらいまであるアウターを追加できませんか?」

「それくらいなら問題ありません」


 仮縫いの前にちょっとわがままを言わせてもらったものの、衣装担当さんは快く応じてくれる。僕が雑に描いたアウターのデザイン画を渡せば、これなら楽勝よと請け負ってくれた。ロミーオさんのもとには優秀なスタッフが揃っているようだ。


「ソナイーナ叔母様の出演は取り付けたわ。モロプロデューサーから言われたとおり伝えたら、それでは断れないって項垂れてたわよ」


 しばらくフィッティングルームで仮縫いをしているとディークライ王女殿下がやってきて、伝説の初代様の出演が決まったと教えてくれた。最初のうちは王室が自分を売ったのかとイヤイヤしていたものの、【竈の女神】様からのリクエストもいただいているのだからドクロ神様やヴィヴィアナ様だけでなく創世の神々も注目しているぞと伝えたところ、背後に僕がいる時点で逃げ道なんて残っているわけがなかったと絶望していたという。


「ご理解いただけたようでなによりです」


 今回のイベントは祭祀でもあるのだから、アキマヘン嬢には王国を代表するオムツフリーナちゃんとして会場を盛り上げていただかなくてはならない。これも高貴なる義務ってヤツのひとつ。逃げられると思ったら大間違いだ。


 仮縫いが終わったら魔導楽器を借りてレッスンルームに移り、ピーネちゃんと33代目ちゃんに祝詞を演奏して聴かせる。ずっと一緒にいるものと思っていたのに、気がつけば遠く離ればなれになってしまった。それでも、また逢えるって信じてる。この手があの頃のぬくもりを憶えていると歌うスローバラードだ。人族向けのタイトルは「遠い日のぬくもり」としておいた。


「我が甥にしては抒情的な曲ね。悪くないわ」

「これはいける気がしますよっ」


 どうやら気に入ってもらえたようで、聴いた人もそれぞれに浮かび上がってくる誰かがいるはず。共感を引き出せそうだとピーネちゃんからお褒めの言葉をいただいた。33代目ちゃんもきっと人気楽曲になるぞと喜んでいる。とはいえ、人族にしか意味のない歌詞はしょせんイベント用のおまけでしかない。最高司祭様にはわきまえておいてもらわないと困るので、神様に向けた祝詞の内容はこうだと最初の言語を直訳したメモを渡す。真のタイトルは「ポチャしゅきカーニバル」だ。


「あんたなんかを信じたあたしがバカだったわ……」

「ええっ。神様にはこう聞こえているってことですかっ?」


 メモに目を通したピーネちゃんが、なんだこの3歳児が考えたような内容はと表情をしかめさせる。33代目ちゃんまで、そんなバナナとガックリ項垂れてしまった。


「病気を治してくれる神様なんですから、ドクロ神様の売りは健康です。元気ハツラツなイメージがないと、誰も参拝してくれなくなりますよ」

「そりゃ、そうかもしんないけど……」


 病人に病気を治してもらおうと期待する奴なんていない。モリモリ食べて元気いっぱいと、病原体なんて鼻息ひとつで吹きとばすようなイメージが重要なのだと説いたものの、理屈はわかるけど心が納得しないとピーネちゃんはまだ不満そうだ。わざわざ真逆な内容にする必要があったのかと33代目ちゃんも頬を膨らませている。


「健康的で美しい女性の象徴にするというプロデュース方針に【竈の女神】様も賛同してくださいました。今さら変更はできません」

「まぁ、その方針に異存はないわよ。弟子にはピッタリだし」


 セールスポイントは健康美だとプロデュース方針を伝えれば、ドワーフらしく体力があって頑丈だったから健康的という点でドクロワルさんに勝る生徒はいなかった。その方針は間違っていないとピーネちゃんが太鼓判を押してくれる。一方、なんかとんでもない神様がバックについているのかとプルプル震えているのは33代目ちゃんだ。僕を背後で操っているのが【竈の女神】様であると勘違いされてしまったらしい。


「あたしらがブルってたら、神様は怖ろしいものだと観衆まで震え上がっちゃうでしょ。レッスンを始めるから、覚悟決めなさい」

「はひいぃぃぃ……」


 だけど、そこは巫女経験の長いピーネちゃんがフォローしてくれる。神様は喜ばしいものであると人々に伝えるのが自分たちの役目。ビビってる姿なんて見せるなとバシバシお尻を叩かれ33代目ちゃんも覚悟を決めたようだ。とりあえず歌ってみろとピーネちゃんが演奏を始め、ふたりは歌唱のレッスンに取りかかった。


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― 新着の感想 ―
正義の乙女クセーラさんの心にもドブネズミ因子が発現してしまっていたのか それが大人になるということならば、おぉなんと時の流れの無常なことよ… 正と邪が合わさって最強に見える乙女になったとも言えるが
年老いた伝説のアイドルなんて見たくないっ アイドルは歳取らないしトイレにも行かないんだ!!
そういえば魔導騎士に翼端灯ってついてるのかな…また一つ魔導騎士の備品業界にモロPの名前が刻まれてしまうかもしれない…
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