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道案内の少女  作者: 小睦 博
第20章 

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673 エフデナイトの決断

 オムツフリーナちゃんパークを堪能してカリューア伯爵家の別邸へと戻れば、ほどなくして杯を抱えた女性の紋章を掲げた馬車が到着した。杯とヴィヴィアナ様はアキマヘン公爵としてのお招きであることの証だ。国王名義の場合は剣を抱えたヴィヴィアナ様の紋章が使われる。


「モロニダスは王家の晩餐か……いいよな」

「エフデナイト陛下はもう70歳を超えてるんだから、どうせ老人食だよ」


 お招きを受けているのは次席とクセーラさんに僕の3名だけだ。迎えの馬車に乗り込む僕たちを眺めながら、自分たちだけご馳走かとヘルネストが不満をこぼしていた。おっぱい国王の年齢からして期待しているような食事は出されないぞと告げておく。


「ロミーオに会ったそうね……依代のことを漏らしては……」

「いないよ。新しい祝詞を発表するから協力するよう伝えておいた」

「きっと、ヴィヴィアナ様の祝詞だと勘違いしてるねっ」


 王城へ向かう馬車の中で、ロミーオさんにどこまで明かしたと次席から尋ねられる。依代のことには触れず、新しい祝詞の準備を進めていることだけ話しておいた。全面的に協力してくれそうだと伝えれば、ドクロ神様の祝詞だと知ったらきっとビックリするぞとクセーラさんが人の悪そうな笑みを浮かべる。


「オムツ機構の総裁は……ディークライ王女殿下よ……そちらから伝わるでしょう……」


 ロミーオさんの上司は数年前にオーマイハニー王女殿下から総裁の地位を引き継いだおっぱい国王の娘だそうな。そっちから伝えてくれるだろう。今日の晩餐の席にもいらっしゃるかもしれないと次席が口にする。クセーラさんは不満なようで、仰天する様を楽しみたかったのにと唇を尖らせた。


 僕たちを乗せた馬車は王城に入ると裏手にある居住区画へ向かっていく。城内の区画や門の位置なんかは変わっていないけど、建築物はけっこう建て直されている模様。居住区画にある王様たちの住まいも、以前に訪れた時とは変わっていた。玄関先の車止めに着いたところでモチカさんが出迎えてくれる。


「アーレイ君。貴人への挨拶は憶えていますか?」

「…………オヒケーナスッテ――うげぇっ!」


 馬車から降りた僕に、ちゃんと礼儀作法は憶えているだろうなと痛いところを質問してくるモチカさん。咄嗟に出てこなかったから仕方なく最初の言語で挨拶してみたところ、問答無用で首に巻きつく精霊をかけられた。40年も流れ者をしているから忘れるのだとまなじりを吊り上げて、ロープの形状をした精霊をグイグイ引っ張ってくる。今のは「私の話を聞いてくれ」という意味で、自我に目覚めたばかりの精霊や言葉の通じない種族が相手でもけっこう通用するのだと説明しても許してくれない。


「クスリナ……わかる……?」

「モチロン。アーレイガナニカヲツタエタガッテイルト、セイレイタチモキガツイタ……」

「相変わらず伯爵はすごいんだか、すごくないんだかわかんないねっ」


 本当なのかと次席に尋ねられた発芽の精霊が、先ほどのひと言で周辺に存在する僕たちに興味のなかった精霊たちの注意を引き付けたと説明してくれる。抱っこされているベコーンたんにも感じ取れたようで、相槌を打つようにプゥプゥ鼻を鳴らす。知識では人族に並ぶ者がいないのに、どうしてまったく意味のない相手に使うのかとクセーラさんはすっかり呆れ顔だ。


「もしや、アーレイ君まで神様になろうと考えているのですか?」

「いえ、そんなことはこれっぽっちも……」

「ならば、人族の慣習に従ってください。ここは神々の住まう天上ではありません」


 僕の挨拶に精霊たちが反応したと聞いて、神々や精霊の世界に移り住んで戻ってこないつもりなのかとモチカさんが問い質してくる。そんなつもりはないと答えたところ、だったら人族社会のマナーを守るよう申し渡されてしまった。田西宿実の世界にも郷に入っては郷に従えという教えがあったし、これはモチカさんの言うとおりだろう。ルールは支配者が決めるもの。それが人族社会の理で、気に入らないなら自らが王様になるしかない。


 支配や統治なんて面倒な仕事お断りな僕は、首にかけられた巻きつく精霊で引っ張られるままにモチカさんの後をトボトボついていく。話の内容だけに広間で盛大な晩餐というわけにもいかないのだろう。豪華だけどこじんまりとした応接室のような部屋へ通されると、中では70歳くらいの爺さんと40歳ちょい手前くらいのおっさんが待っていた。


「よく来てくれたと歓迎したいところだけど、同志に合わせる顔がなくて困っているよ」


 かつてのおっぱい王太子。現国王であるエフデナイト・アキマヘン・アーカン陛下が悲しそうに顔を伏せる。ドクロワルさんを亡き者にされてしまったことを悔やんでいるのだろう。


「未来を完全に見通すことは神様にもできないんです。いくら王様だからって、あらゆる事象を漏れなく把握するなんてできるはずありませんよ」


 神様ですら予測不能なことが起こり得るのだ。人族の王様に限界があることくらい承知している。どんな些細なことも責任者なら把握してなきゃいけないなんて求めるほど僕は世間知らずではない。


「そう言ってくれたことに感謝するよ。私の記憶にある同志は思いどおりにならないことなんてないと言わんばかりの自信に溢れていたから、会うのは少々怖かった」


 いつだってすべてを掌握しており、不測の事態など生じる余地すらない。おっぱい王太子の目に僕の姿はそう映っていたそうで、カルハズミーナ公国の使節団にあのような暴挙を許したのは国王の怠慢であると糾弾されることを覚悟していたそうな。


「全力を尽くしたものの力及ばず、肝心なところで選択を誤った成れの果てが今の僕です。偉そうに他人を責める資格なんてございません」


 高校生活の3年間をかけた田西宿実の夢は本人もろとも儚く消え去り、あるかもしれないと告げられていた将来の滅亡リスクを甘く見積もってタルトを犠牲にしてしまった。その手になにもつかめなかった実績ゼロの無能。それが僕だ。我がことながら、もう乾いた笑いしか出てこない。結果のひとつも残せていない輩に絵空事の空論で他人を批判する資格はないと告げたところ、おっぱい国王は困ったような苦笑いを浮かべた。


「同志に実績がないなんて言われたら、それこそ私は国家に貢献することのなかった暗君と呼ばれてしまう。ヴィヴィアナ様を讃える祝詞が国民たちの間に広まったのも、破綻寸前だったアーレイ子爵領が持ち直してドワーフとの交易が拡大したのも、どちらも同志のひと言から始まったことだ」

「言うは易し、行うは難しと申します。それは実現するのに骨を折った方の功績でしょう」


 実績なら数えきれないくらいあるとエフデナイト陛下は言うけれど、僕はアイデアを出しただけ。実施段階では関わっていないことを功績に数えるのはおかしいと思う。功績と呼ぶに値するのはヴィヴィアナ様ブラヴォーを作曲したことくらいだ。アレだけは僕ひとりで作り上げたものと自信を持って言える。


「同志は相変わらずだと安心したよ。息子を紹介させてもらえるかな。王太子のジーハネイトだ」


 よくわからない行動規範に従っているところは変わらないと苦笑を浮かべたおっぱい国王が、40歳ちょい手前ってくらいのおっさんを紹介してくる。モチカさんとの間に産まれた長男だそうな。そう遠くない時期に王位を継がせるつもりだそうで、すでに上級官吏たちの多くを彼の一派に入れ替え済みだという。


「お会いできて光栄です。ロゥリング族の王族出身で神様に仕える流れ者と聞かされておりましたので、いったいどのような方かと楽しみにしておりました」


 僕のことは両親からきっちり伝えられていた模様。なんだこの7歳児は……なんて迂闊な疑問は口にせず、ジーハネイト王太子は丁寧な挨拶をしてきた。こちらも、お目通りが叶いましたこと恐悦至極に存じますと返しておく。


「カリューア伯爵とクセーラ博士も、急な招きに応じてくれたこと感謝している」

「こちらから申し入れたも同然の話……応じるのは義務と心得ております……」


 僕とジーハネイト王太子の挨拶が済んだところで、急に呼びつけてしまって申し訳ないとおっぱい国王がカリューア姉妹とその精霊たちに詫びをいれる。奥方を利用して呼び出させたのはこちらなのだから、応じないのは不義理というもの。感謝されるようなことではないと次席が返していた。クセーラさんは博士なんて呼ばれているようだ。きっと、非人道的な爆弾を発明したマッドサイエンティストと思われているのだろう。


「さっそくだけど、同志。ドクロワル準爵が天上の神々に迎え入れられ、君が依代を預かっていると聞いたのだが間違いはないかな?」

「こちらです」


 晩餐の前に本題を済ませようと、モチカさんの話に間違いはないかとおっぱい国王が問い質してきた。運んできた箱の中からクセーラさんが依代である貫頭衣エプロンを取り出せば、すぐに黄金色の光を発して【病魔を払う癒しの手】様が地上へ姿を現す。


「ご無沙汰しております、エフデナイト陛下。お身体に変わりはございませんか?」

「これはっ」


 魔導院の生徒であったころそのままに若干の幼さを残したドワッ娘の出現を受けて、国王陛下と王太子殿下が揃って目を見張る。だけど、すぐにこれは魔術による幻影などではない本物の神様だと悟ったのか、ふたり並んでドクロ神様の前に跪いた。


「御身をお守りすること叶わなかったのは、この身の不徳と致すところ。いかなる処断も受ける覚悟でございます」

「わたしが若き神となったのは役目があるからで、復讐を遂げるためではありません。どうか、お顔を上げてください」


 全部自分の責任だからどんな罰もどんとこい。覚悟はできているとおっぱい国王が首を差し出す。口にはしないものの、他に類を及ぼさないようにとのことだろう。大袈裟な申し出に、生前の恨みを引き摺っている神様なんていないとドクロワルさんは微笑んだ。


 それでは晩餐に致しましょうとエフデナイト陛下がドクロ神様の手を取って上座へエスコートする。僕はおっぱい国王と向かい合う席が指定されていたけど、ドクロワルさんの指示によって彼女の隣へと移された。ドクロ神様が片手を差し出せば、巻きつく精霊が契約者であるモチカさんのもとを離れて蛇のようにニョロニョロ這い寄ってくる。伸縮自在のロープ精霊を手にした女神様は、ニッコリ笑うとそれで僕を椅子へ縛り付けた。


「これじゃ、なにも食べられないんだけど……」

「アーレイ君にはわたしが食べさせてあげますから心配しなくていいですよ」


 両腕ごとグルグル巻きにされてしまったため、僕はもうテロリストに捕えられた人質のごとく身動きひとつできない状態だ。ご馳走をひとり占めするつもりかと問い質したものの、栄養にならないものでお腹いっぱいにしないよう僕が口にする物は自分が管理するとドクロワルさんは言い張った。肉しか食べさせないつもりだろう。


「同志のために牛をローストさせたのだけど……」

「素晴らしいですねっ。あ、切り分けるのはわたしがやります」


 モチカさんが部屋の外へ待機していた給仕へ何事か伝えると、ワゴンに乗せられて食事が運び込まれてきた。どうせ老人食だから脂身ゴッテリの肉料理はないだろうと考えていたものの、デキる同志エフデナイトは僕のためにじっくりと石窯で焼き上げた牛ロースの塊を用意していたそうな。ジュワジュワ湯気を上げる枝肉から切り離したロースの部分を丸ごと窯にぶち込んだとしか思えない塊肉を見て、素晴らしいと瞳を輝かせるドクロ神様。解剖は得意なのだとメイドさんからナイフを取り上げると、脂身のたっぷりついた辺りから500グラムほどを手際よく切り出す。


「神殿をモウヴィヴィアーナにというのは、なにか理由があるのでしょうか?」

「政治中枢とは離れている方が都合がよいものですから……」

「もしかして、【知の女神】様の神殿みたいにしたいの?」

「そうですけど、アーレイ君。まだお肉が残っていますよ」


 食事をセットしたところで給仕にあたっていたメイドさんたちを下がらせ、モグモグしながら今後の方針を話し合う。モウヴィヴィアーナにドクロ神殿が建てられるまで依代は精霊殿に安置すると告げられて、王都ではいけないのかとジーハネイト王太子が尋ねていた。政治中枢からは離れた場所が好ましいとドクロ神様がおっしゃられるのを耳にして、神聖マリジル帝国にある【知の女神】様の神殿が思い浮かんだ。政治権力を求める連中を遠ざけておくためど田舎に建てたいのかと問い質したところ、そのとおりだけど肉を喰えとローストした牛ロース肉を差し出された。お喋りしている暇があったら口を動かせとグイグイ押し込んでくる。


「この国をエウフォリア教国のような宗教国家にしたいわけではありません。たまたま依代が所在しているというだけで、【湖の貴腐人】様に取って代わるつもりもないのです」


 病に苦しむ人々と彼らを救おうとする者は出身国にかかわらず自分の信者。アーカン王国の守護神になるつもりはないから、政治中枢とは一定の距離を置いておきたいとドクロ神様が立場を説明する。国の守護者はヴィヴィアナ様のままにしておきたいそうだ。


「ですから、この国にわたしを祀る意思がないのであれば【虹の鉱脈】様の神殿へ居候することに……」

「お待ちをっ。女神様が生前、この国の貴族であったことは動かぬ事実です。国を出ていくなどとおっしゃらないでください」


 ちなみに、アーカン王国がドクロ神殿を建ててくれない時は自分のところへくるようにとマイン様から誘われているらしい。種族的にはドワーフなのだから、ドクロ神様がドワーフ国で祀られることはむしろ自然な流れだ。ここで手放したら他種族にかっさらわれると察したようで、我が国初の神様になった偉人を祀らないなんて恩知らずなマネはできないとおっぱい国王が拳を握り締めて力説する。


「モウヴィヴィアーナに【病魔を払う癒しの手】様の神殿を建立する。これは決定事項だ。異存はないな、ジーハネイト?」

「承知いたしました。陛下の代では終わらないでしょうから、私が引き継ぐことをお約束いたします」


 そして、なにがなんでもモウヴィヴィアーナにドクロ神殿を建てると国王陛下と王太子殿下によって決定が下された。


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― 新着の感想 ―
本人の意思はともかく、アーレイ君は精霊なりなんなりに召し上げられるに充分な功績を上げてる様な気がしますがどうなんですかね? それにしてもモチカさんよく息子の名前許したな……
Eが飛んだようだが。……ソナイーナがE担当だった?まさかあの細胞を? 男子が生まれるたび夢は膨らみ、女子が生まれるたび夢はしぼむのだろうか。
父よりも更にひとつ上を目指していそうな王太子だけど、はたしておっぱい国王と同じ志を持っているのか否か
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