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道案内の少女  作者: 小睦 博
第20章 

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664 ピーチ小隊、出撃せよ

「見て、見て伯爵っ。これがウォールカリュアー自慢の発着場だよっ」


 次席の用意してくれた客間でぐっすりおやすみした翌日、僕とベコッタ司祭はクセーラさんに連れられてお城にあるカリューア領騎士団の詰め所を訪れていた。昨晩はダブルおっぱいに挟まれておやすみできるかと期待したものの、ドクロワルさんが天上へ戻ってしまいシングルおっぱいだったせいかいまいち疲れが抜けきっていない。だけど、クセーラさんの指差した発着場とやらを目にした瞬間、漲るロマンに疲れが吹っ飛んだ。


「なにこれ、秘密基地? マジで作ったの?」


 魔導甲冑の出撃準備などを行う整備室からお城の外へ向かって高架道路のような橋が伸びていて、先端は建設途中で放棄されたかのようにスッパリと切り落とされている。ロゥリングアクティブサーチで探ってみれば、思ったとおり煉瓦を敷き詰めた下にレールのように伸びる魔導器が3条ほど埋め込まれていた。こいつはカタパルトで間違いない。


「クセーラ……遅かったわね……」

「えっ、なんで姉さんがここに?」

「どうせ見せびらかすだろうと思って……先に仕事をひとつお願いしておいたのよ……」


 出撃待機状態の魔導甲冑が並ぶ整備室には次席と発芽の精霊が先にきて待っていた。クセーラさんの行動は読まれていたらしい。こっちの用事は済んだからと赤く塗装されたハンドベルを差し出してくる。赤ベルを受け取ったクセーラさんは、それを目いっぱい振り回してガンガン鳴らし始めた。


「くんれん~、くんれん~、敵襲だぁ~」


 どうやら、抜き打ちのスクランブル訓練を実施するつもりだった模様。次席から仕事を言いつけられた際に、どうせやるだろうからと事前告知を受けていたっぽいおっさんが、出待ちしていた魔導甲冑の影からわざとらしく飛び出してきた。即座にスクランブルが発令され、隠れていた整備班の人たちや待機中だった騎士たちがあっという間に湧いてきて出撃準備に取りかかる。


「ピーチ小隊、要撃装備で緊急出撃っ。伯爵様からお預かりした伝令筒を忘れるなよっ」


 出撃部隊に装備を指示するおっさん。今の季節、本職の騎士たちは夏の遠征に参加しているので、お城で待機しているのは予備役の騎士たちだそうな。その中でもピーチ小隊は女性ばかりの騎士小隊だと次席が解説してくれる。伝令筒を持たせていることから察するに、どうせ出撃するのならついでに指令書を届けてこいと指示したのだろう。


「お待たせしましたっ」

「早いよっ。姉さんから聞いて隠れていたねっ」


 緊急出撃でバタバタしている整備室に、なぜか第33代目オムツフリーナちゃんが駆けつけてきた。もしかして騎士なのかもと思ったけど、身に着けているのは昨日と同じフリフリの衣装だ。さすがにアレで出撃することはないと思いたい。なにか役目があるようで、こんなに早く到着するヤツがあるかとクセーラさんがドスドス足を踏み鳴らす。


 ここにいては邪魔になるからと、僕たちはカタパルトが敷設された発着場の脇に設けられた見学スペースへ移動する。右隣は騎士への指示を行う管制室のようだ。管制官と思われる女性が大急ぎで機能確認しているのは、おそらくカタパルトや信号機の制御パネルだろう。天井から吊り下げられている信号機に光が灯り、緑、黄、オレンジ、赤と色を変えていく。


 そして、左隣はなぜかミニステージのあるブースとなっていた。魔導院の演奏室にあった魔導オルガンの演奏盤みたいな装置まで設置されている。うっし始めるかとクセーラさんが演奏盤の席に着き、33代目ちゃんが拡声の魔導器を手にステージに立つ。


「――――♪」


 いったい何を始めるつもりなのかと訝しんでいる僕の前で、ふたりが西部派に伝わる軍歌のひとつを披露し始める。33代目ちゃんの開幕シャウトに続いて、クセーラさんが魔導オルガンの重厚な音色でイントロ部分を演奏し始めた。音楽にのって整備室につながるハッチから魔導騎士が姿を現す。


 ――何かと思ったら、セルフBGMかよっ!


 巨大な魔導オルガンは建設段階で仕込んでおく必要があったはずだ。それなりの費用がかかっただろうに、よくもまぁ次席が許したもんだと感心する。


『ピーチ01、1番カタパルトへ。ピーチ02、2番カタパルトへ進んでください』


 33代目ちゃんがAパートを歌い始めたところで信号機がオレンジから黄色に切り替わり、管制官の誘導に従って2騎の魔導騎士が3条あるうちの右端と左端のカタパルトへ向かっていく。オレンジは発着場への進入禁止。黄色は発進位置で待機。緑が発進許可で、赤色は今すぐ退避せよという意味だと次席が解説してくれた。そんなことより、なんでこんなアホなことを許したかのか教えてほしい。


『進路上に障害なし。加速術式起動しました。いつでもどうぞっ』

「ピーチ小隊、出撃っ。遅れずについてきなさいっ!」


 カタパルトの魔法陣が発動し、黄色だった信号機が緑色の光を灯す。小隊長さんと思われるピーチ01が加速を始め、直噴型を採用したらしい魔導推進器の排気ノズルがフルドライブに備えて開かれる。僕が採用していた上下ふたつに分かれる嘴型ではなく、ノズルが6分割されて花が咲くように開く花弁型だ。めっちゃカッコイイ。33代目ちゃんの歌う勇ましいサビの部分にあわせるように魔導推進器が炎を吐きだし、ピーチ01が勢いよく大空へと飛び立っていった。わずかに遅れてピーチ02が後を追うように発進していく。


『ピーチ01、ピーチ02発進完了。続いてピーチ03は1番カタパルトへ、ピーチ04は2番カタパルトへ進んでください』


 33代目ちゃんの歌声にのって次々と出撃していくピーチ小隊。騎士の魔力を消費せずに初速を与えられるカタパルトはともかく、セルフBGMはさすがに悪ノリが過ぎるのではなかろうか。


「よくこんなの許可したね?」

「あの歌は……作業が順調なのか遅れているのか……判断する目安になっているの……バカみたいだけど……他のやり方より効果があったわ……」


 場所をとる魔導オルガンを建物に仕込むなんてクセーラさんの独断であるはずがない。どうして許したのかと次席に尋ねてみたところ、無視できない効果があったからという答えが返ってきた。緊急出撃にかかる時間短縮を意識するよう、訓練の際に時間の経過を針で示す仕掛けを置いてみたのだけど、これは騎士が余計な物に気を取られて信号機が切り替わったのを見落とすという事態が増えてしまったそうな。見て確認するものはダメということで管制官に砂時計を読み上げさせてみたものの、管制指示との区別がつけ難いと不評だった。ところが、クセーラさんの趣味で曲を流してみたところ、大雑把だけど直感的に把握できるから意識を逸らされずに済むと好評を得たという。


「緊急発進の手際に関しては……王国でも随一の錬度だと自負しているわ……冬になると……王国魔導騎士団も合同訓練にくるのよ……」


 順調に進んでいるか遅れているのかなんとなくわかる。この「なんとなく」という按排がちょうどよいらしく、カリューア領の騎士たちは出撃完了までの時間を大幅に短縮することに成功した。今では王国でもトップクラスの錬度を誇るようになり、毎年のように王国魔導騎士団から合同訓練の申し入れがくるそうな。そいつらは勇ましい軍歌にのってカタパルトでカッチョよく発進したい頭14歳な連中ではないかと疑問に感じたものの、実際に効果が数字に表れていると言われては黙るしかない。


「ど~よ、伯爵? 王国から出ていったことを後悔したくなった?」

「はわわわ……教団が抱える聖堂騎士団とは勢いが全然違いますよっ」


 どんなもんだいと得意げにガハハ……と笑っているのはクセーラさんだ。一方、浮かび上がるように地上を離れていく教国の騎士とは雲泥の差だとベコッタ司祭が目を丸くしていた。あんなスピードでかっ飛んでいく騎士を見たのは初めてだという。


「タルトとの約束がまだ残ってるんだ。後悔なんて微塵もないね」


 こんなロマン溢れるおもちゃで遊んでいたなんてけしからん。ちょっぴり羨ましかったものの、僕の決意を揺るがすほどのものではないと答えておく。スクランブル訓練は魔導騎士が帰投するまで終わらないけど、次席がおつかいを命じたためしばらく戻ってこない。待っている間にクセーラさんが分解整備中の魔導甲冑で驚異のメカニズムを説明してくれるそうだ。ベコッタ司祭に機密を知られてしまってよいのか尋ねたところ、見ただけでマネできるもんならやってみろと自信マンマンにふんぞり返った。


「魔導甲冑の主推進器はほとんどが直噴型に置き換わってねっ。旧型はもうどの領も作っていないから、欲しければ自作するしかない状況だよっ」


 クセーラさんたちが魔導院を卒業した翌年くらいにシュセンドゥ領が製品版を発表して、直噴型魔導推進器は大ヒットしたそうな。その数年後にはもう、旧型の推進器を搭載した魔導甲冑は製品ラインナップから消されてしまったという。航続距離が段違いで騎士の活動範囲はそれまでの倍くらいにまで広がったし、魔力消費を気にせず作戦空域まで素早く到達できるとあって、採用しない理由を見つける方が大変だと好評を博したらしい。


「出初めのころは扱いに長けた工師が少なかったからっ。調整や修理を請け負ってすっごく儲かったんだっ」


 直噴型魔導推進器に関してなら誰よりも詳しいクソビッチは、その立場を利用してさんざん荒稼ぎした模様。モウシュセンドゥまで持ち込んで修理となれば半年近く稼働機から外れるけど、ウォールカリュアーであれば遠征期間中の復帰も可能だと夏がくるたびに整備場にいろんな領の魔導甲冑が並んでいたという。


「うわぁ……なんですか、この複雑な機構は?」

「可変式の排気ノズルを動かす仕組みだよっ。複雑そうに見えるけど、同じパーツを組み合わせてるから生産性や整備性は高いんだっ」


 ふたつの金属製リングがアームで連結され、片方を回すように動かすともう一方は前後にスライドする機構を見て、頭が痛くなりそうな仕組みだとベコッタ司祭が顔をしかめている。クセーラさんによれば、花弁型の排気ノズルを動かしているリンク機構だそうな。僕の設計した嘴型はすべてが専用パーツで構成されているから、パーツの総数は少ないものの種類は多かった。花弁型は総数こそ多いものの種類は少ないから在庫管理が容易で、いざって時の共食い整備で使い回しが効く。交換用のパーツを入手しやすいのは助かると、遠征に同行している工師たちからも好評だそうな。


「美食の国だと思っていたら、これほどの軍事大国だったなんて……」

「すべての戦力は……収穫を守るためにある……強くあるからこそ……豊かでご馳走に溢れた国でいられるのよ……」


 直噴型魔導推進器だけでなく、ハニカム構造を採用することで強度を保ったまま軽量化に成功した装甲板など、僕が王国を去ってからも様々な技術の進歩があったようだ。ひととおりの説明を受けて、美味しいものに溢れた夢の国ではなかったのかとベコッタ司祭が顔色を青褪めさせていた。騎士は食べ物を守るために存在する。力こそが美食の源なのだと力説しているのは次席だ。間違ってはいない。


 そうこうしているうちにピーチ03と04が帰投してきた。魔導甲冑がハンガーに固定され騎士が離れると、すぐに整備員たちが出撃後の点検に取りかかる。伯爵様の前だからか気合入ってんなぁと思いながら作業を眺めていたら、ピーチ01と02も戻ってきた。全員が無事帰還したところで、任務は滞りなく達成しましたと小隊長さんが次席へ報告する。


「用は済んだわ……庭でお茶でもいただきましょう……子供たちを紹介しておくわ……」


 任務完了の報告を受けた次席が、家族を呼んであるからと僕たちをお茶へ誘う。最初に通されたのとはまた別の庭へ案内されると、何組かの家族が談笑していた。魔導院に入学する前くらいの子供に赤ちゃんまでいる。きっと、次席たちの孫世代だろう。


「これが嫡子のクサンドロス……魔導院を首席で卒業した……いけ好かない息子よ……」

「母上、その紹介はいかがかと……」


 最初に紹介されたのは、お城を訪れた時に僕たちを案内してくれたおっさんだ。なんと次席の長子で次のカリューア伯爵だという。有力なライバルが不在だっただけなのに首席卒業生であることをひけらかすクソ息子だと苦々し気な表情を浮かべる次席。どうやら、最後まで首席には手が届かなかったらしい。クサンドロスのおっさんが奥さんと子供ふたりを紹介してくれる。男の子は次の春に魔導院へ入学する予定で、妹はふたつ下だそうな。次席にはもうひとり息子がいるのだけど、そっちは領主の代理人として王都にあるカリューア伯爵家の別邸を任せているとのこと。王都へ行けば会うことになるかもしれない。


 もうふた組の家族はクセーラさんの息子夫婦たちで、兄は都市計画なんかを担当している建築家。弟は裁判所の判事をしており、ふたりでクサンドロス氏の両腕と称される側近たちだという。お兄さんの方には7歳の娘と4歳になる息子がいて、弟さんの奥さんはまだ1歳になる前くらいの赤ちゃんを抱いていた。スヤスヤとご機嫌で眠っていたかと思いきや、唐突に目を覚まして大泣きを始める。


「オムツを交換する必要がありますね。すぐに用意を……」


 これは宿命が正しいオムツの着け方を指南するよう命じているに違いない。お尻を洗うお湯と清潔なタオルに新しいオムツを持って来るよう言いつける。こんなちっこい奴に任せて大丈夫なのかとお母さんは心配なようだけど、オムツ刑事を信頼していただきたい。


「アーレイはモロニヌレーテ連発砲にゲボーク砲……加えて直噴型魔導推進器の考案者で……『澄みわたる湖に想いを込めて』を作曲したのも彼だけど――」


 こいつが在学中に考えついた物は多いのだと僕を紹介する次席。どれもこれも実用化され、今に至っても重宝している物ばかりではないかとクサンドロス氏たちがこめかみを引きつらせた。その様子を見て、そんなものはおまけだとカリューア姉妹が意地悪そうな笑みを浮かべる。


「――他の何よりも赤ちゃんの世話が得意だったわ……よく見て学びなさい……」


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― 新着の感想 ―
いくつになっても隙あらば人は14歳へと立ち戻ってしまうもの… きゃっきゃしたりどやぁしながらかつての悪友モロに色々見せびらかしてる次席とクセーラさんも14歳マインドが顔を覗かせているのかな
「他の何よりも」 というところがすごくいいです~♪(笑)
旦那さんが出てこない… 誰や…?
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