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道案内の少女  作者: 小睦 博
第20章 

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663 大イベントの予感

 東方諸国の中で唯一依代を有していることから、他国に対しても宗教的指導者ヅラしてきたのがエウフォリア教国である。その立場が脅かされるとなれば、どうして防げなかったのかと聖議会で責任を追及しようとする司教が現れるに違いなく、その事実を報告した者が槍玉に挙げられるのは火を見るより明らかだそうな。つまり、このままでは自分が貧乏くじを引かされてしまうとベコッタ司祭は焦っているらしい。


「アーカン王国へ依代がもたらされることに教国は関係ないし、聖女様自身はむしろ積極的に後押ししているようにも思えるけど……」

「そんなことはど~でもいいんです。要は生贄の羊が欲しいだけなんですからっ」


 どうして外国で起きた教国とは無関係な出来事の責任を追及されるのかさっぱり理解できないものの、結局のところ誰が詰め腹を切らされるかって話のようだ。外国に赴任してご当地グルメを食べ歩くため懸命にキャリアを積み重ねてきたのに、運悪くこんなところへ居合わせたせいで全部パァになってしまうのかとベコッタ司祭がハラハラと涙を流す。


「わたしはゆかりの地という理由からモウヴィヴィアーナを選んだだけで、王国の神様になるわけではないのですけど……」


 ヴィヴィアナ様に取って代わるつもりはなく、たまたま依代がアーカン王国内に所在しているというだけ。外国人だろうが他種族だろうが、病に苦しむ人々の救済を願う者は等しく自分の信者であるとドクロワルさんが説明したものの、これは神様の思惑とは無関係な人族の問題なのだとベコッタ司祭は首を横に振った。


「自分たちだけが神様からお告げを授かれるという特権を失えば、聖議会はもう誰かに八つ当たりしなければ腹の虫が治まらなくなるでしょう。我々は特別という意識を拗らせた老人の集まりですから……」


 どうやら、神様をひとり占めできなくなった連中がサンドバッグを求めるというのが実情らしい。依代を引き渡すようアーカン王国に要求する覚悟なんてあるはずもないので、悪者を仕立て上げて全部そいつのせいってことにするのが関の山だという。


「事前に情報を察知することも……手を打つこともできなかった己の無能を棚に上げて……他人を責める輩はどこにでもいるものね……」

「そんなの、ただの弱いものイジメじゃないっ」


 知らなかったは、気づけなかったと同義。権益を維持するため常日頃から情勢に目を光らせておくのは当たり前のことなのに、自分が見落としたという事実から目を背けて他人のせいにする他責思考な無能は王国にも掃いて捨てたくなるほどいると次席が呆れたように鼻を鳴らす。なんのことはない。アーカン王国に手出しするのは怖いから、逆らえない司祭を相手に憂さ晴らしをするだけではないか。それが教国の唱える正義かとクセーラさんまでプンスカ怒りだした。


「ベコッタ司祭の役目は大使司教にオッツァン総大司教が崩御されたと伝えることなんだから、貧乏くじとわかってるのに余計な仕事まで引き受けることないんじゃない」

「どっ、どういうことですかっ?」

「ま~た伯爵が悪巧みを始めたよ……」


 エキサイトしたクセーラさんに聖議会を霧化燃料弾で焼き払うなどと言い出されては面倒なので、本来の役目をはたしたところで王都の食べ歩きに出かけてしまえばよいと入れ知恵する。それでなにが変わるのだと目を丸くするベコッタ司祭。優秀ではあるものの、先の展開を読むことにかけてはまだまだ経験不足といったところだろうか。一方、クセーラさんは悪の匂いを感じるとジト目になって僕を睨みつけてきた。善悪を嗅ぎ分ける感覚の鋭さは相変わらずなようだ。


「精霊殿に依代が納められるのは歴史的な出来事だから、僕が持ち込んで終わりってわけにはいかないと思う。王様か王太子様のどちらかは同行すると考えて間違いないし、各国の大使も全員招かれるんじゃないかな」


 若き神である【病魔を祓う癒しの手】様の役目は多くの人々から信仰を集めることなので、こっそり置いてきたのでは意味がないのだ。王国としてもモウヴィヴィアーナには神様がいらっしゃると、国内だけでなく外国にも広く知らしめたいだろう。証人は多い方がよいに決まっているから、貴族や大使といった信用があって証言力の高い方々を集めて盛大にお披露目するに違いない。司教大使や外交官の司祭様たちがモウヴィヴィアーナへ出かけている間、ベコッタ司祭は王都でお留守番をしていれば問題は解決である。


「それで、どうなるんですか?」

「大使司教や司祭様が現地を確認しているのに、その場にいなかった司祭のまた聞き証言なんて聖議会で取り上げてもらえるの?」

「そそっ、それはつまり……」


 そんなんで解決するのかとベコッタ司祭はまだ懐疑的だったものの、現場を目撃している証言者がいるのにまた聞きした内容しか知らない部外者を証言台に立たせるほど聖議会はマヌケなのかと問い返してやれば、優秀なだけあってすぐ瞳に理解の光が宿った。証言台に立ちたくないならば、自分より信用される証言者を作ってしまえばことは済む。どれほど真面目に取り組んだところで評価されることはないとわかっている仕事なんて、察しの悪い同僚に回してしまえばよいのだ。


「悪だよっ。何も知らない他人に貧乏くじを押し付けてるだけじゃないっ」


 正義の乙女から正義のオバチャンへとクラスチェンジしたクセーラさんが、ただの擦り付けだと抗議の声をあげる。こんな話は貧乏くじと気づかないまま安請け合いする方が迂闊なのだ。世に弱者を救済する慈悲はあっても、迂闊を助けてやる道理はないとキッパリ言い渡したところ、そのとおりだと次席が賛同してくれた。


「クセーラ……不勉強で警戒心の薄い輩が……不利益を被るのは当然のことよ……それは人が好いわけではなく……ただ怠惰なだけ……わかるわね」

「聖職者は教国の支配階級に属してるんだ。教えてくれないなんて言い分は甘えだよ」


 怠け者は救済するに値しないと言い切る次席。教団の司祭は価値観の狂った極一部を除き、司教の座を巡って互いに蹴落とし合うエリートなのだ。不注意で貧乏くじを引かされるのは本人の責任である。司祭同士の引っかけ合いも司教に相応しい資質を持った人材を選抜する仕組みのひとつと説明したところ、クセーラさんはぐぬぬ……と押し黙った。まだ納得はできないものの、競争の一側面ということは理解してくれたのだろう。


「さっすがモロニダスさんです。ケガネイ総大司教を口先ひとつで動かしたのは伊達じゃありませんね」

「伯爵はどれだけ悪行を重ねてきたのっ?」

「あれはケガネイ司教の判断です。人聞きの悪い言い方をしないでください」


 どうやら僕の提案を実行する気になったようで、司教様すら丸め込まれる人物は考えることが違うとベコッタ司祭は笑顔を取り戻した。自分の知らないところで、どれだけ他人を騙してきやがったとクセーラさんが正義の怒りを燃え上がらせる。騙したわけでも、唆したわけでもない。僕はひとつの可能性を示唆したにすぎないのだから、誤解を生じさせるような表現は慎むようベコッタ司祭に釘を刺しておく。


「やっぱり王都へ行くことになるのね……なら、私も同行するわ……クセーラ……ゴーレムの準備をしておいてちょうだい」

「いつだって整備は万全っ。明朝にだって出発できるよっ」

「話が話だけに……信頼できる筋に先ぶれしておきたいわ……ここを離れるのは3日後にしましょう」


 こんな大イベントから締め出されるわけにはいかないと、カリューア姉妹も王都までついてくるそうだ。情報が知れ渡れば大騒ぎになるだろうから、そうなる前に王様とこっそり面会できるよう手筈を整えてくれるという。道中、通過することになる領にもカリューア伯爵が王都に向かいますと報せておく必要があるらしい。領主になると王都へ出向くのもいちいち面倒だと次席がため息を吐き出す。


「領から出るだけでも、けっこう大変なんだね」

「思い立ったその日に出かけられたころが……今は懐かしいわ……まぁ、それはそれとして……アーレイとパナシャに……見てもらいたいものがあるの」


 魔導院の生徒でいたころは自由だったと昔を懐かしみながら、次席がテーブルの上にあったベルを手に取る。チリンチリンと鳴らせば扉が開いて、食事をしている間は外で待機していたメイドさんたちが入ってきた。食べ終わったお皿を下げて、お酒とデザートのメロンを出してくれる。そして、20歳を過ぎたかなって年頃の女性が僕たちの前へ進み出てきた。フリルがいっぱいのヒラヒラした衣装に身を包み、胸に抱えているのは魔導楽器だ。


「彼女は……オムツフリーナちゃんよ……第33代目の……」

「ほぅ……僕の前にオムツフリーナちゃんを出してくるなんて、これは挑戦と受け取るよ」


 どうやら、次席の育てたオムツフリーナちゃんであるらしい。彼女は一昨年のコンテストで最優秀に選ばれた娘で、カリューア領出身としては2人目のオムツフリーナちゃんにあたる。芸術分野に関しては魔物の領域と接しておらず豊かで余裕のある南部派領や東部派領が強く、最優秀を得ることはなかなかに困難だそうな。とはいえ、オムツフリーナちゃんの生みの親を名乗っても過言でないこのモロPは、どんな事情があろうとも忖度はしない。ひとつ、実力のほどを拝見させていただこう。


 まずはすべてのオムツフリーナちゃんに共通の基本楽曲「ヴィヴィアナ様ブラヴォー」からだ。祝詞を満足に奏でられないようではオムツフリーナちゃんと認めるわけにはいかない。さっそくリクエストしたところ、33代目ちゃんは魔導楽器で祝詞を奏でながら鈴を転がすようなソプラノで「澄みわたる湖へ思いを込めて」を歌い始めた。コンテストで最優秀に選ばれただけあって、ロゥリング娘の正式メンバーにも劣らない見事な歌唱だけど、ちょっと気になるところがある。神様となったドクロワルさんも「ヴィヴィアナ様ブラヴォー」を聴き取れるようで、訝し気に首を傾げていた。


「演奏にアレンジを加えましたね。演奏表現としてはアリなのかもしれませんけど、ヴィヴィアナ様はこの曲を言語として捉えているんです。意味が通じなくなってますよ」


 一曲、聴き終えたところでアレンジはNGだと告げる。サビの部分など何カ所か原曲と異なっているのだ。演奏として考えた場合、そうした方が聴いている人の情緒を揺さぶるという判断もあり得るだろう。でも、ヴィヴィアナ様ブラヴォーは言葉の羅列。最初の言語を理解したうえで、それでも意味が通じるよう上手くアレンジできるならよいのだけど、もちろんそこまで器用にはできていない。まったくでたらめな祝詞になってしまっている。


「ちょっと訛りがきついけど伝えたいことは汲み取れなくもないって感じでしょうか。【湖の貴腐人】様ならわかってくださるとは思うんですけど……」


 なお、神様にしてみれば訛りに聞こえるそうだ。んだっぺぇぇぇ……みたいな話し方をしているけど、おおよそのところは推察できるとドクロワルさんが苦笑いを浮かべていた。


「伯爵様、この方々はいったい……?」


 ご自慢の演奏を意味不明、訛りがきついとボロクソに叩かれて33代目ちゃんはカチンときた模様。アイドル様らしく魔力から感じ取れる不快感を顔に出すことなく、こいつらは何者なのだと次席に尋ねる。プロ意識が高いのは評価ポイントだ。


「こちらの彼は……こんななりでも私の同級生で……アキマヘン家のソナイーナ様を……オムツフリーナちゃんに仕立て上げた……張本人よ」

「まさか、影の仕掛け人っ? 根も葉もない噂じゃなかったんですかっ?」


 伝説の初代オムツフリーナちゃんを世に送り出した敏腕プロデューサーで、「澄みわたる湖へ想いを込めて」の作曲者。コンテストを開催して最優秀となった娘にオムツフリーナちゃんを襲名させようとオーマイハニー王女殿下に吹き込んだのもこいつだと次席が僕を指差す。影の仕掛け人はすっかり都市伝説となっていたようで、本当に存在していたなんてと33代目ちゃんがビックリしていた。


「すると編曲は全面禁止ですか?」

「祝詞でない曲なら好きにすればいいよ。ただ、澄みわたる湖に想いを込めてをアレンジしたいなら最初の言語を覚えることだね。もっとも、それができるなら新しい祝詞を作る方がヴィヴィアナ様には喜ばれると思うけど……」


 まだ諦めきれないようで、編曲は絶対ダメなのかと33代目ちゃんに尋ねられる。もちろん、そんなことはない。最初の言語で祝詞を構築できるなら好きにアレンジすればいいし、まったく新しい祝詞を作曲してしまっても構わないのだ。ただ、それができないなら祝詞以外の楽曲にとどめておく方がよいだろう。


 オムツフリーナちゃんの楽曲が祝詞だけなはずもないので、お酒をいただきながら聴かせていただく。西部派に伝わる軍歌アニソンのオンパレードで、かつて初代オムツフリーナちゃんやロゥリングシスターズが王都で披露した曲もあった。とっても懐かしい。


「あのころが懐かしいですねぇ。お姉さんは久しぶりにモロリーヌちゃんのステージが聴きたくなっちゃいましたよ」


 ドクロワルさんも同じように感じたのかおねだりするように僕の身体をユサユサしてくる。もちろん却下だ。アンドレーアが領主となった今、もう正体を偽る必要はない。他にやることがあるのでモロリーヌになっている暇はないとキッパリ断っておく。


「モウヴィヴィアーナに到着するまでに祝詞をひとつ完成させなきゃならないからね」

「そっ、それって?」


 【病魔を祓う癒しの手】様の祝詞は僕が作るのだ。依代が精霊殿に納められる時、同時にお披露目する計画だと告げれば、ドクロワルさんは大喜びして力いっぱいギュッしてくれた。


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― 新着の感想 ―
姉妹、性格が変わってなさすぎw モロリーヌと話して、一時的に若い頃に戻ってるだけなのかもしれんが 王国の報復について神様たちはどういうスタンスなのだろう? 人間たちがなんかやってるなー程度なのかな?
ドクロお姉さんのポッチャリ具合を讃える祝詞になりませんかね……?
クセイナーさんはあんまり変わってないみたいだから、 クセーラさんは美魔女と化してそう、なんなら昔よりはちゃめちゃしてそう
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