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道案内の少女  作者: 小睦 博
第20章 

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658 砦を囲む城下町

 亡国跡地を発った僕たちは北西に向かって街道をひた走る。各国が遠征軍を出して魔物を間引いているおかげで、今の時期は魔物の領域を通過する王国怒りのロードも安全だ。わりと頻繁に荷馬車を連ねた隊商とすれ違う。一方、魔物の領域に向かうコケトリスを連れた傭兵も多い。途中、話に聞いていた積荷専用の鞍を乗せてテクテク歩いているおっさんを何人も追い抜いた。


 気持ちよくかっ飛ばしていった先で、街道を行く隊商や傭兵相手に食べ物なんかを提供している休憩所を発見。すぐ裏手にある農場が経営しているようだ。美味しそうなスイートコーンがいっぱい実っていることを確認し、害獣に困らされていませんかと訪問すれば、思ったとおりトウモロコシ畑の中にイノシシが潜んでいた。さくっと2頭ほど仕留めて報酬のスイートコーンをどっちゃりいただく。


「これは甘~いトウモロコシだよ。いっぱいお食べ」


 味気ない飼料用のトウモロコシとはひと味違うぞと飼い葉桶にスイートコーンをぶち込んでやれば、バナナンダーとオムレツプリンは夢中になってモッシャモッシャとご馳走を平らげ始めた。コケトリスが食事をしている間に僕は仕留めたイノシシの解体を済ませる。大喜びした農場主のおっさんはその場でイノシシバーベキューを始めて作業者たちに振舞い、僕も美味しいロースの部分をがっつり食べさせてもらった。


「むぐぅ~。私からオムレツプリンを奪うつもりですか」

「飼い主に似たんだと思いますけど……」


 スイートコーンをたらふく食べたオムレツプリンは、誰がご馳走を用意してくれるのか察した模様。急に僕へ愛想を振りまいてくるようになった。他人様のコケトリスに手を出すなとベコッタ司祭が怒りにおっぱいをプルプル震わせていたので、飼い主にそっくりなだけだと言い返しておく。俺様のメスを横取りしやがってとバナナンダーも不機嫌そうな魔力を漂わせていたものの、ヤツは賢いので行動には表さない。ご主人様に逆らえばご馳走にありつける機会が減るとあいつもわかっているのだ。


 ぜひ来年も訪れてくれと農場主さんからたっぷりお土産をいただいて農場を後にする。トコトコと街道へ戻る途中、ベコッタ司祭がオムレツプリンをバナナンダーの隣へ並ばせてきた。


「なんだか、手慣れた様子でしたね?」

「山のドングリが生るには早い時期、人族が栽培している穀物や果実は獣にとってこれ以上ないご馳走ですからね。旅をしている間は、よくこうして食いつないだもんです」


 さては慣れてるなと尋ねられたので、僕は40年も流離いのクマハンターを続けてきたのだと打ち明ける。獲物の方から寄ってくるので山奥まで出かけて探す手間が省けるうえ、成功報酬に農作物をいただけばコケトリスも喜ぶ。農場や果樹園は獣被害に頭を悩ませる必要がなくなり、僕は食料の肉が手に入るという関係者全員が得しかしない理想的なビジネスなのだと説明すれば、農場を囮として利用しているだけではないかとベコッタ司祭は疑いに満ちた視線を向けてきた。僕は需要のあるところへ営業をかけているだけと釈明しておく。


「今晩は粒々コーンの入ったイノシシ肉のピラフにする予定ですが、汚れた食べ物は口に合わないとおっしゃるなら……」

「だっ、誰もそんなこと言ってないじゃないですかっ」


 汚いビジネスで手に入れた黒い食べ物を聖職者様にお出しするのは心苦しい。無理強いするつもりはないからひとりでクッキーでも齧っていてねと伝えれば、メニューを予告したうえでひとり占めするなんて人の道を踏み外した鬼畜の所業だと食いしん坊司祭はおっぱいを逆立てた。オムレツプリンをバナナンダーへ押し付けるように幅寄せしてくると、とっ捕まえてお仕置きしてやると腕を伸ばしてくる。捕まって堪るかと脚で軽く合図を出せば、気心の知れた相棒はペースを上げて走り出す。


「こら~、止まりなさ~い」

「止まれと言われて止まるドブネズミはいません」


 逃げるなこの不届き者とオムレツプリンに拍車を入れてベコッタ司祭が追いかけてくる。イケナイ司祭長様の指導が行き届いていたのか指示の出し方もスムーズだし、コケトリスもしっかり訓練されているようだ。もちろんバナナンダーを本気で駆けさせたらぶっちぎってしまうけど、もっとペースを上げても大丈夫と判断し相棒に合図を出す。軽い駆けっこをする感じでズンズン街道を進むのが楽しくつい調子に乗り過ぎてしまい、街道の途中にいくつか整備されているキャンプ地を通り過ぎた先で夜を迎えてしまった。


「も~、森の中で野宿するしかないじゃないですかっ」

「約束したメニューに一品追加するから許してチョンマゲ」






 森の中で一夜を明かした僕たちは、アーカン王国軍がカルハズミーナ公国侵攻の拠点として建設した砦を目指し王国怒りのロードを進む。なお、昨晩のメニューは約束したコーン入りイノシシピラフに骨付きスペアリブとタマネギなどの野菜をクタクタになるまで煮込んだスープ。保存食や携帯食が当たり前な野宿で具沢山な汁物までつくなんてとベコッタ司祭は大喜びし、朝になってスープの残りにお米をぶち込んで煮たお粥を作ったところ、骨から出たダシがよい仕事をしているとひと粒も残さない勢いで平らげている。


「あ゛あぁぁぁ……モロニダスさんのせいで、もう礼拝殿の粗末な食事には戻れなくなってしまいました。責任取ってください」


 野宿した日ですらお肉や野菜などの具材たっぷりな料理をお腹いっぱい食べられるなんて、なんという罪深いことをしてくれたのだとベコッタ司祭が責任を追及してくる。曰く、他人に暴食の罪を犯させた罰として一生養うべきだそうな。


「聖職者様は普段からご馳走を食べてるんじゃないの?」

「ご馳走が用意されるのなんて、司教様がお客人をもてなす時くらいですよっ」


 司教や司祭の位階を与えられている者は毎日ご馳走三昧ではないのかと問い質したところ、ご馳走と呼べるのは賓客をもてなす際の食事くらい。毎食、贅沢な食事が用意されるはずもなく、下っ端司祭向けディナーにつく肉は腸詰肉2本が精々だと食いしん坊司祭様は頬を膨らませた。外国に赴任すると手当てもつくし、相手国関係者との会食なら経費で落ちると耳にしたから外務派に所属したのだと聖職者にあるまじきことを口にする。これで仕事を任せればケチのつけようがないくらいきっちりこなし、信徒たちからも慕われているというのだからヴィクトリウス司教も頭が痛いだろう。あさっての方向へ突き進んでいるにもかかわらず結果だけはしっかり残すなんて、人として許しがたい。


 魔導院にも魂の赴くままに行動しては余人の及ばない成果を叩きだすクソビッチがいたなぁと懐かしい時代を思い出す。案外、ふたりは似た者同士なのかもしれない。周囲には理解しがたい感性や論理で成功を収めていく、いわゆる天才と呼称されるけしからん連中である。


「僕はトンズラに定評のある男。どんな責任からも逃げきってみせます」

「偉そうに言うことですかっ。そんな無責任は許しませんよっ」


 才能に任せて苦労せず生きている不届き者の言いなりになって堪るものか。世の中には思いどおりにならないものもあるってことを思い知らせてやるとバナナンダーを駆けさせる。まてぇ~いとベコッタ司祭がオムレツプリンで追いかけてくるけど、こいつはそんじょそこらのコケトリスとは違うのだ。血統的スーパーエリートの実力を見せてやれとバシバシ拍車を入れて王国怒りのロードを突き進めば、なんか集落のような場所が見えてきた。どうやら、王国軍が出撃拠点とした砦に到着したらしい。


「もう、ひとつの街ですねぇ」


 集落のように見えたのは砦を囲うように形成された城下町みたいな街区だった。掘っ立て小屋がいくつも並んで、食べ物や装備品など雑多なものが店頭に並べられている。食事処にお酒を出しているお店も多いようだ。そんな中に魔法薬を取り扱っている店があると思ったら、翼のある女性を意匠した紋が掲げられていた。一瞬、オムツフリーナちゃんかと思ったものの、女性が手にしているのはランタン。エウフォリア教の紋章である。


「これは司祭様、本日はどのようなご用件でしょうか?」

「仕事でアーカン王国へ向かう途中です。街道で事件などは起きていませんか?」


 どうやら、教団が運営している魔法薬販売シンジケートの出張所だった模様。ひと目で司祭様とわかったらしく、店主のおっさんがすっ飛んできてベコッタ司祭と挨拶を交わす。


「今のところ通行に支障が出るような情報は伝わってきておりません。隊商も順調に到着しているようです」

「ありがとうございます。あなたに聖女様のご加護がありますように……」


 慣れた対応で交通情報を聞き出すベコッタ司祭。もしかして魔法薬販売シンジケートというのは隠れ蓑で、本当は教国の諜報機関なのではなかろうか。周辺各国に拠点を構え、魔法薬を流通させるため常に人が行き来しているから情報伝達も容易だ。とってもあやしい。


「教団の魔法薬販売網って、実はスパイ組織じゃないの?」

「情報収集は指示してますけど、誰でも入手できるものだけです。非合法な活動をさせているわけではないのですから、人聞きの悪いことを言わないでください」


 魔法薬を扱う商人に偽装したスパイを各国に潜ませているのだなと問い質したものの、シンジケートが収集しているのは政府の公式発表や市場における価格情報といった街の住民なら誰でも知っている情報のみ。非合法な手段で機密情報を探らせているわけではないのだから、誤解を生じさせるような呼び方をするなとベコッタ司祭は頬を膨らませた。それよりも美味しいものを食べに行こうとオムレツプリンを進ませる。なんて食い意地の張った司祭様だろうと呆れていたら、なんにも指示していないにもかかわらず勝手にバナナンダーの奴がついて行きやがった。僕の知らないうちに食いしん坊どもが同盟を結成していたようだ。


 あやしい電波でも受信しているのか、ご馳走の気配を感じるとズンズン進んでいく食いしん坊司祭様。しばらくして、でっかく「焼きオムツ」と描かれたのぼり旗を立てている一軒の屋台にたどり着く。オムツを焼いて食べるなんてタルトでも言い出さなかった。想像を超えるぶっ飛んだ発想にさすがの僕も眩暈を感じる。


「むむっ、これはお餅ですか? でも、甘い匂いがしますね」

「ああ、これは中に餡が入っているんだね」


 いったい何かと思ったら、なんのことはない焼きオムツ餅だった。一番肝心な部分を省略すんじゃねぇよと心の中でツッコミを入れつつ熱々のオムツ餅を購入する。店主のおっちゃん曰く、焦げ目の付いた表面はパリパリで中はモッチリというギャップが売りらしい。口にしてみれば焼き餅っぽい香ばしさが加わってなかなかグッドだ。3歳児が喜びそうだなとモグモグしていたところ、お前たちばかりいただくなとコケトリスどもが不満を表し始めた。自分たちにもおやつを寄越せとドシドシ足を踏み鳴らす。


 まったく仕方のない連中だと呆れながら近くの屋台で焼きトウモロコシを購入。粒々を芯から削ぎ落として食べさせてやる。僕がオムレツプリンにご馳走を与えている間、飼い主であるベコッタ司祭は夢中で焼きトウモロコシにかぶりついていやがった。そんなこったから大切なコケトリスが僕に懐いてしまうのだとオムツを穿かせてやりたい。


「ぬふふふ……経費でする食べ歩きは最高ですねぇ」


 もはや信仰心なんて欠片も残っていないのか、教団のお金でする買い食いほど楽しいことはないと食いしん坊司祭様が言い放つ。とんでもない生臭おっぱいがいたものだ。


「そんなこと言ってると、そのうち聖女様からクビを言い渡されますよ」

「私はちょっと食べることが好きなだけで、お仕事は真面目にこなしてますっ」


 不心得者は破門にされるぞと警告したものの、仕事をおろそかにしたことは一度もないとベコッタ司祭は言い張った。優秀なら教団のお金を私物化しても許されるのだろうか。がんばってますアピールだけが取り柄でロクに成果を上げられない輩に経費を使わせるよりはマシと言われたら、確かに反論は難しいのだけど……


「あのっ、お食事中のところ失礼します。もしや、エウフォリア教の司祭様ではございませんかっ?」


 この破戒僧めと睨み合っていたところ、20歳前後と思われる若造が割り込んできやがった。貧乏くさい装備を身に着けているあたり駆け出しの傭兵だろうか。


「確かに私は聖女様に仕える司祭ですけど、亡くなった方のお祓いならこの地区に派遣されている担当司祭へ依頼してください」


 自分はアーカン王国へ向かう使命を帯びて通りがかっただけ。お祓いをする担当司祭は別にいるからとベコッタ司祭が仕事は請け負わない旨を伝える。魔法薬を販売していた店主に頼めば仲介も引き受けてくれるはずと告げられた若造は口惜しそうに唇を噛みしめた。


 ――なんだか、妙に切羽詰まってる感じがするな……


 若造から感じる魔力に違和感を覚えた。ホトケ様にお経をあげてくれる坊さんを探しているというより、悪霊に憑りつかれたのでエクソシストを探していますって印象だ。仲間を失った悲しみや、お祓いを断られたことへの怒りではなく、急がなければという焦燥感が強く感じられる。


「もしかして、すでにゾンビになってしまったお仲間を匿っていませんか?」

「――――っ!」


 もしやと思って尋ねてみれば、若造は言葉を失って目を見開く。どうやら正解だった模様。求めていたのはゾンビが生じないようにするための予防措置ではなく、すでに発生したゾンビへの対処だった。焦っているのも納得だ。


「アンデッドになってしまった方がいらっしゃるなら担当司祭を待ってなどいられません。今すぐ案内してください」


 どうして肝心な部分を隠していたのだとおっぱいを怒らせるベコッタ司祭。苦しんでいる魂がいるなら教団内部のシマ争いなんて二の次だと、スイカの早食い芸人みたいな勢いで焼きトウモロコシをやっつけて立ち上がった。


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― 新着の感想 ―
オムツフリーナちゃんのアイドル性は巫女の血脈と羽精霊の演出の影響が強いと思うのですが、初代オムツフリーナちゃん以外にも精霊と契約したアイドルはいたのかなぁ。
流石に食べ物を粗末にはできなかったか、食いしん坊
>苦しんでいる魂がいるなら教団内部のシマ争いなんて二の次だと、スイカの早食い芸人みたいな勢いで焼きトウモロコシをやっつけて立ち上がった。 しっかり食い終わってからなんだ・・・
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