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道案内の少女  作者: 小睦 博
第17章 家督のゆくえ

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530 モウホンマーニへ入れない

 秋学期が終わり冬学期が始まった。魔導院の冬学期は赤点を取ってしまった生徒のための補習期間なので、落第した科目のない生徒は冬休みとなる。実習のせいで夏休みがない魔導院における唯一の長期休養期間とあって、冬学期には故郷に帰省する生徒も少なくない。かくいう僕もドワーフ国にある実家に戻る予定だ。準備万端整え、さぁ旅立とうとバナナンテを鶏舎から引っ張り出したものの、そうは問屋が卸さんと立ち塞がる者が現れた。


「わだじをっ、わだじをひどりにじないでぐださいっ」


 立場的に王都へ向かわざるを得ないアキマヘン嬢が行っちゃヤダとすがりついてくる。もちろん今年も公式ファンクラブ事務局とロミーオ演出総監督によって「コスプレエンジェル オムツフリーナちゃん王都公演」の企画が進められているのだ。ヴィヴィアナ様の祝詞を披露する舞台へのゲスト出演を含め、すでに20を超える公演スケジュールが組まれているとのこと。せめてロゥリングシスターズとの共演にしてくれと、出発直前の僕に泣きべそをかきながら食い下がってくる。


「プロセルピーネ先生も居残り組だし、どうにもなんないね」

「わだじを見捨でるんですがっ?」


 かわいい後輩を見捨てるつもりかと涙目で訴えてくるアキマヘン嬢。そんなこと言われても、ファンクラブのスポンサーはアキマヘン公爵で事務局長はオーマイハニー王女殿下だ。ど田舎に所在する私塾で学ぶ生徒のひとりにすぎない僕が意見できるような相手ではない。


「大丈夫だよ。アキマヘン嬢ならやりきれるって、僕は信じてる」

「イイこと言ったみたいな顔しても騙されませんよっ。ただの無責任発言じゃないですかっ」


 君なら大丈夫。自分を信じるんだと元気づけてあげたものの、察しのよいアキマヘン嬢には責任を他人に丸投げするための言い分だと見破られてしまった。ひとりにするなと肩をつかんでガクガク揺すぶってくる。


「あ~にやってんのよ。打ち合わせを始めるからさっさと来なさい」

「いや゛ぁぁぁ…………」


 だけど、打ち合わせに顔を出さないアイドル様を探して鬼の演出総監督が鶏舎までいらっしゃった。往生際が悪い。潔く観念せいとお縄を頂戴するアキマヘン嬢。僕に向かって助けを求めるように手を伸ばすものの、王都に着いた翌日にも公演が始まるから遊んでいる時間はないとロミーオさんにズリズリしょっ引かれていった。


「下僕、グズグズしてないでさっさとするのですよ」

「わかってる。急ぐよ」


 気を取り直してバナナンテに鞍をつけていたところ、ハリー、ハリーとタルトの奴にお尻を叩かれる。ドクロワルさんのイリーガルピッチと首席のヒポリエッタはもう準備が整って外で待っているそうだ。手早く手綱をつけてふたりが待っているところへバナナンテを曳いていけば、お出かけする僕たちが羨ましいのかヘルネストの奴が捨てられた子犬のような顔をしていた。もちろん、ウカツは迂闊にも赤点を取ってしまったので補習を受けなければならず、どんなに頼み込まれても連れて行くわけにはいかない。


「それじゃ、ヘルネスト。コケトリスたちの世話は頼んだよ」

「マイフレンド。友情を捨てたのか……」

「落第した人が何をおっしゃってございますのっ」


 コケトリスの面倒を見てくれる奴がいて助かったと後を託せば、ヘルネストは僕を薄情者だと糾弾してきた。もちろん、そんな言い分を許す首席ではない。落第点なんて取っている不心得者が寝言をほざくなと迂闊なる男を一喝する。


「今年はダエコさんも帰省するそうだから、黒スケの相手をしてやれるのが君とクニーケさんしかないんだ。陽気のいい日には、ちゃんと運動させてやるんだよ」

「わかってる。鳥小屋の掃除をサボったら命はないと次席からも言い渡されてるしな……」


 持ち主のプロセルピーネ先生が魔導院に残るので、もちろん黒スケも居残り組だ。鶏舎に入れっぱなしではストレスが溜まるので、こまめに散歩させてやるよう指示しておく。牧草地にある鳥小屋の管理も抜かりなく行うよう次席から命じられているそうで、今年の冬はニワトリの飼育係かとヘルネストが肩を落とした。その前に補習があることを忘れんなとパンチくれてやりたい。


 居残り組に後を託して飼育サークルを後にする。正門の前に行けばクレーンアームの上から防水布をかけて幌のようにしたサソリゴーレムが待機していた。冬季仕様でサソリのハサミを除雪用の排土板に換装しているので、今はオケラゴーレムだ。荷台には荷箱を兼ねた長椅子とタライに敷き藁を詰めて布をかけた干し草ベッドが設置してある。トコトコと荷台に上がっていった3歳児が、ここは自分の玉座だと言わんばかりに雄鶏を抱っこして干し草ベッドに寝転がった。お気に入りの乳母車でないのは、クマドンナに冬の越し方を教えるため今年はクマネストも居残り組なためだ。


「それではモチカ。くれぐれもモロリーヌさんがワイバーン狩りになど行かないよう見張っておいてくださいね」

「任せてください。メル」


 見送りにきてくれたリアリィ先生が、問題児から絶対に目を離すんじゃないぞと監視役に念を押す。僕の信用は地に落ちるを通り越して海の底まで沈んでしまったようだ。遠征実習の最中に魔物の領域で失踪したのだから仕方のないこととはいえ、そろそろ忘れてくれてもよい頃合いだと思う。


「あんた、またロゥツルペターンまで行こうなんて考えてないでしょうね?」

「そもそも、つながってる坑道がわかりませんよ。タルトはどうせコロリーヌから離れようとしないでしょうし……」


 ドクロワルさんに何事か言い含めていたプロセルピーネ先生が僕のところへやってきて、神様のところなんかに行くんじゃないぞと睨みつけてくる。ドルオタ神の手先となった僕が、ま~た余計な仕事を請け負ってくるのではないかと警戒しているようだ。地上を行くのと違って坑道では途中で向かう先を修正できないから、やみくもに進んだところでたどり着けないと安心させておく。


「それでは出発いたしますわよっ」


 妹の相手だけして予定外の行動は厳に慎むようリアリィ先生とプロセルピーネ先生からステレオで申し渡され辟易していたところで、ヒポリエッタに跨った首席が出発の合図をしてくれた。モチカさんと精霊たちを荷台に乗せたオケラゴーレムが動き出し、イリーガルピッチのドクロワルさんがそれに続く。ここは逃げの一手だ。アレをするな、コレをするなと禁止事項を増やす先生ふたりにヘイヘイと相槌を返しバナナンテに拍車を入れる。おかしなことをしたら今度こそ反省室に閉じ込めるぞとプンスカ怒る先生たちを残して、僕たちはドワーフ国へ向けて旅立った。






 モウヴィヴィアーナの街を後にし、モウホンマーニ目指して山肌に沿ってクネクネと曲がる道を進む。道の西側には尾根が走っていて、東側の谷にはヴィヴィアナ湖から流れ出したヴィヴィアナ川が流れている。夏場であれば魚釣りに精を出す人々の姿が見られるのだけど、さすがにこんな季節まで渓流釣りをしている剛の者はいないようだ。騎獣に比べれば足の遅いオケラゴーレムだけど、それでも荷車なんかは軽く置いてけぼりにする程度のスピードは出せる。途中、いっぱいに荷を積んでエッチラオッチラ進む荷車をいくつか追い抜けば、なんだあの鉄のバケモノはと御者のおっちゃんが目を丸くしていた。


「着いたな、イエロー。君たちはこっちだ」


 徒歩や竜車に合わせる必要がないため道中は結構なペースで進むことができ、陽が落ちる前にモウホンマーニへ到着する。ここは関所の街なので通過に際して必ず身元をチェックされるのだけど、いつも係の兵隊さんだけなところをなぜか騎士であるオムツブラックが張っていやがった。顔パスでお城へと連行される。


「リアリィ準爵から君たちが出発したと連絡があった。本日中に姿を現さなかったら行方をくらました証拠だから、街道を封鎖して山狩りをするよう指示されている」


 どうして今日に限って騎士様が門番のマネ事をしているのかと尋ねたところ、通信の魔導器でリアリィ先生から報せがあったという答えが返ってきた。どうやら、学長室に設置されている公爵様とのホットラインが使われたようだ。騎獣とオケラゴーレムだけなら今日中にモウホンマーニまで到達できる計算なので、姿を見せない時は関所破りを図ったものと判断してとっ捕まえるよう依頼されたとのこと。もう頭が痛い。


「どうして普通に通過できる関所をわざわざ破らなきゃいけないんです?」

「前線近くの集積所からひとりで脱走した輩が、何を企てるか知れたものではないからな」


 ホンマニ領軍と騎士団は遠征実習中に逃げ出した僕の捜索に動員されているから、オムツブラックはもちろん事の顛末を把握していた。関所破りなんかしてなんの得があるのかと言ってみたものの、僕の行動は常識で測れないと開き直ってふんぞり返る。


「どうして部隊から抜け出して魔物の領域を単独踏破しなきゃいけなかったのか、差し支えなければ教えてくれないか」

「もちろんバナナのためです」

「オーケィだ、イエロー。やっぱり、リアリィ準爵は正しかった」


 僕が魔物の領域を抜けて向かった先についても聞き及んでいるようだ。クッコロちゃんのことは話せないのでいただいた報酬を正直に白状したところ、リアリィ先生の危惧は実にもっともだとブラックは納得したように頷いた。逃げようとしたら魔導騎士を呼ぶぞと手にした信号弾を見せびらかされる。この人たちが何を警戒しているのか、僕にはさっぱり理解できない。


 地下牢じゃなくて、ちゃんと客間を用意してあるからと説得され、仕方なく公爵様のお城に逗留させていただくことに決めた。オムツブラックの案内でお城の中を進む。行政機関があるエリアや領軍がスタンバイしてるエリアといった感じで目的別に区画分けされていて、違うエリアへ移動するたびに通行許可があるかチェックされるのだけど、さすが騎士だけあってブラックは左手に刻まれた領紋を見せるだけで目的を尋ねられることもない。おそらく、所属だけの僕たちと違って身分などの情報まで含んだ領紋なのだろう。


「騎獣はここだ。ゴーレムは外に停めておいてくれ」


 向かっているのはお城の本館がある中枢エリアのようなものの、その手前にある騎士団エリアでコケトリスたちを獣舎に入れるよう指示される。これより奥には獣舎がないそうだ。どうやらヒッポグリフ用の獣舎らしく、ヒポリエッタのお仲間がたくさんいた。ちなみに、ワイバーン用の竜舎は別にあるらしい。


 騎獣たちを房に入れて、ロリオカンに譲る予定の雄鶏は母鶏であるイリーガルピッチと一緒にしておこうとオケラゴーレムの荷台に上がれば、タルトの奴は雄鶏を抱っこしたまま干し草ベッドでグースカ高いびきをかいていやがった。ほっぺをグニグニ引っ張って叩き起こす。


「わたくしの眠りを妨げるとはいかなる了見なのですか?」

「お城に着いたよ。シルビアさんがお茶とお菓子を出してくれると思うけど、このまま寝ていたい?」

「早く連れて行くのです」


 寝ているところを起こされると不機嫌になる3歳児が、羽根つきバナナに逃げられてしまったとまなじりを吊り上げる。このお城をテリトリーにしているシルキーのシルビアさんは、とっくにタルトが来ていることに気づいているだろう。おやつはいらないのかと尋ねれば、抱っこして連れて行けと両腕を差し出してきた。僕が回収にきたのはこっちだと雄鶏を抱き上げる。ブーブー頬を膨らます3歳児を無視してイリーガルピッチの房まで運んでやれば、すぐに雄鶏はあったかい母鶏の翼の下へもぐりこんだ。快適な場所でおとなしくしていてくれるだろう。


「げぼぐぅぅぅ――――っ。げぼぐぅぅぅ――――っ」


 意地でも自分の足で歩きたくないのか、オケラゴーレムの荷台から大声で僕を呼ぶタルト。見かねたモチカさんが抱き上げようとしたものの、僕でなきゃイヤだとバタバタ手足を暴れさせて拒否りやがった。まったく手のかかる3歳児だ。仕方なく抱っこ……はきついのでおんぶして運んでやる。


「下僕はわたくしの下僕なのです。いつだってわたくしを一番にするのです」


 ちゃんとご主人様を最優先するようにと、背中にしがみついた3歳児が両脚でゲシゲシ拍車を入れてくる。段々と甘えん坊がエスカレートしているような気がしてならない。やっぱり、こいつこそがクレクレの親分なのではなかろうか。


 タルトをおぶって中枢エリアへ通じる門をくぐり、本館へたどり着いたところで僕たちはリアリィ先生のパパさんへと引き渡された。オムツブラックの役目はここまでのようだ。薄布1枚をまとった肌色のお人形さんみたいな精霊が契約者であるリアリィパパの肩から離れ、ふわりと宙を舞って僕の頭の上へ着地する。タルトに挨拶してるのだろう。


「君たちが到着したことはすでに公爵様の耳に入っている」


 即刻、連れてくるようにとの指示を受けているのだとリアリィパパが僕たちをホンマニ公爵様の執務室へ案内してくれる。私事で街を通過するだけの生徒をひっ捕らえた挙句、わざわざ会ってくださるなんてどういう風の吹き回しなのか。僕には見当もつかないけど、もちろんタルトの奴は公爵様の思惑なんてどこ吹く風だ。お菓子の待っているところへ急げと背中をグイグイ押してくる。


「来たか。君に伝えておきたいことがあってな……」


 魔導院の学長室をそのまま広くしたような執務室に通されれば、伝達事項があるだけだから楽にするようにと公爵様に腰かけるよう勧められる。待ち構えていたシルビアさんがすぐにお茶とビスケットを出してくれた。ちょこんと置かれた空の器に蜜の精霊が甘い蜜を出してくれ、食いしん坊たちが瞳を輝かせる。


「今の状況で君たちを街へ入れるわけにはいかない」

「いったい何があるとおっしゃられるのでございましょう?」


 僕たちにモウホンマーニの街へ入られては困るのだと口にする公爵様。さっぱり状況がつかめない。やっぱり思い当たる節がないようで、どういうこっちゃと首席が詳しい説明を求める。モチカさんにカリューア姉妹、ドクロワルさんも首を傾げるばかりだ。


「モウホンマーニの宿泊施設は、君に発表の続きをさせろと騒いでいた連中でいっぱいだぞ。そんなところにノコノコ顔を出すつもりなのか?」

「うへぇ……」


 秋学期の終わりに魔導院を訪れていた人たちが、ちょうど帰路についているところらしい。おっぱい王太子みたいな仕事に追われている優秀な人たちは先を急ぐようにさっさと引き揚げていったから、今でもグズグズ残っているのは王都に戻ってもすることのない社交の場でデカい面するだけが取り柄の連中ばかり。よもや、街中にある宿屋を利用するつもりだったのではあるまいなと公爵様にギロギロ睨みつけられる。


「まさか……そんなことになっているとは……」

「メルクリアたちに同行してくれればよかったものを……。先に行くというのなら、モウペドロリアーネに続く街道は避けておけ。もちろん、コートヴィヴィアーナへ向かう魔導院の一行が着くまでここにいてくれても構わんよ」


 お披露目パーティーへ向かう卒業生たちと一緒の間は準爵位を持つリアリィ先生が目を光らせているので、信用ならない士族の連中は生徒に近づくことさえ許されない。僕たちだけで街中をウロウロするのはトラブルのもとだから禁止。客間を用意したから好きなだけ泊っていけと公爵様に言い渡される。そんな連中と顔を合わせるのは僕だって御免なので、とりあえずひと晩ご厄介にやることに決めた。


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― 新着の感想 ―
[一言] モロに言い聞かせるためには縛って罰を与えるのではなく、おっぱいという飴を用意すればいいのに  街に入れないなら迂回しないといけないし、たまたまそこにいるワイバーンを狩ることも致し方ないよね …
[一言] 上手に使えば貴族になる事も夢じゃないネタ(だと思われている)が目の前に転がっていれば、不埒な手段に出る者もいるでしょうしね 結果として貴族じゃなくてヒキガエルになるけど……
[一言] バナナの為に脱柵するなど正気ではないとお思いでしょうが。 生物を蛙に変えられる精霊と「バナナの入手に全力を尽くす」と誓約してしまったモロニダス君の事情もお含みおきください、と言えないのが辛い…
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